第22話 おつかい

 神様からの頼み事は、ある所に手紙を届けるという簡単なおつかいだった。

 私たちは来た道を引き返し首都エスターバを越えて農業の町ハイデルに到着した。

 手紙の届け先はこの町のどこかに居るメリーという名の人物だ。

 どこに居るのか、どんな人物か詳しくは教えて貰えなかった。


「どこに居るんでしょうね?」


「私もそんな人は聞いたことがないのよ。調べてみるわ」


 チャッピー姉さんの頭からがシュルシュルと伸びて大地に広がっていく。

 情報の塊なのかキラキラと光るものが姉さんの頭に吸い込まれていった。


「メリーって名前の人物はこの町に何人かいるわ。片っ端から当たってみるしかないわね」


 私たちはメリーという名の人物を一人ずつ当たってみる事にした。

 しかし誰に聞いても心当たりは無いという。

 途方に暮れていると、どこかから私たちを呼ぶ声が聞こえる。


「メリーを探しているんだって?」


「知ってるんですか?」


 声を掛けてきたのは農作業の格好をした泥まみれの爺さんだった。

 爺さんは物珍しそうに私たちを眺めると、付いて来いといった素振りで私たちの前を歩き始める。

 いかにも偏屈そうな爺さんの後を私たちは付いて行った。


「メリーさんって女の人なんですか?」


 私たちの質問に爺さんは答えようともしない。

 無言で私たちの前をゆっくりと歩いて進んでいた。

 そして柵に囲まれた広大な牧場の前で立ち止まり「メリー!」と叫ぶ。


「これがメリー⁈」


 目の前にのそっと現れたのはヤギだった。

 メリーは葉っぱをムシャムシャ食べながら私たちをジーっと見ている。

 ボケーっとしたその姿は頭が空っぽで何も考えていない事を物語っていた。


「これに手紙を渡したら良いの?」


「さすがにこれは無いんじゃない?」


 私とチャッピー姉さんは戸惑いながらも議論していたが話は纏まらない。

 すると次の瞬間とんでもない事が起こる。


「あっ!!!」


 私たちが目を離した隙にメリーは手にしていた手紙をムシャムシャ食べ始める。

 パイアオジサンが慌ててメリーの口を開こうとするが既に手遅れだった。

 手紙はメリーの腹の中へと瞬く間に消えていった。


「どうしよう…」


 私は起こった出来事を放心状態で眺める事しかできなかった。

 チャッピー姉さんはをメリーの口めがけて伸ばしていく。


「やめてよ!!」


 が口に届く寸前でメリーが叫んだ。

 メリーが口をきいた事に一同が唖然とする。

 飼い主の爺さんは驚きのあまり腰を抜かしていた。


「相変わらず野蛮な女ね!」


 メリーの口ぶりはチャッピー姉さんを知ってる風だった。

 姉さんはその言葉に目を凝らしてメリーを見つめる。


「あんた…スーザンね!」


 メリーの身体からモクモクと煙が立ち上った。

 立ち上った煙で辺りが見えなくなる。

 次第に煙は引いていき、そこに現れたのはケバケバしい格好の金髪の姉ちゃんだった。

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