第21話 山の神
落とし穴の底は巨大な空洞になっていた。
さっきまでの神秘的で神々しい感じはここには無い。
がらんどうな空間はどこまでも広がり、永遠に続いているような錯覚すら感じさせる。
「どうして落とし穴の下にこんな広い空間が?」
「真意はわからないけど…きっと神様の仕業ね」
パイアオジサンは高い所から落ちたに関わらず傷一つない。
地面に叩きつけられる前に無重力の様に身体が軽くなったそうだ。
という事はあの落とし穴に殺意は感じられない。
「チャッピー姉さん…山の神様って悪戯好き?」
「さっき性格悪いって説明したけど原因の一つが悪戯好きだという理由よ」
これは神様に会うのに一筋縄ではいかないのではないだろうか?
きっとあんな仕掛けを、あちらこちらに仕掛けてこちらの反応を楽しんでるに違いない。
私はどこかで見てるであろう神様に向けて「お爺ちゃん、出てきて~」とぶりっ子して見せた。
すると何もない空間に突如、扉が出現した。
漏れた光と共に扉が開き、杖を持った老人が現れる。
そこに現れたのはダンディなチョイ悪系のお爺さんではなく、威厳を持った風格の気品が漂う爺さんだった。
私はチャッピー姉さんを軽蔑の眼差しで見つめた。
姉さんはバツが悪そうに手を合わせて懇願している。
爺さんは気難しそうな顔で私たちを一瞥するすると、天に向かって両手を大きく開き呪文の様な何かを唱え始めた。
嫌な予感を感じた私たちは辺りの警戒を余儀なくされた。
「きっと何かくるわよ。気を付けて!」
すると天井に空間がぽっかり開き何かが降ってくる。
危ないと思ったその時、落ちてきたのは見たことも無いお菓子の雨だった。
カラフルで甘い匂いの漂うそのお菓子は街などでは見かけた事も無い。
私はお菓子に飛びつきガムシャラにかぶり付いた。
「ほっほっほっ…」
神様は私の様子を見て微笑ましく笑っていた。
さっきまでの険しい顔つきは何処にもない。
それは孫娘でも見守るような温かさが感じられた。
「お菓子は美味しいかい?」
私が頷くと神様は高らかに笑った。
チャッピー姉さんはそんな私の行動を見て何故だか慌てている。
「何を食べさせたの!!」
姉さんの食って掛かる勢いに流石の神様も圧倒されていた。
その言葉に私はお菓子をかぶり付く手をピタリと止めた。
「もしかして…」
何だか悪い予感がした。いたずら心を持て余した神様だ。
お菓子に何か細工があっても不思議ではない。
「た、只のお菓子じゃよ。こんなかわいい子に何もせんわい…」
その言葉を聞いて安心した私は、またお菓子にかぶり付き始めた。
神様は私の元に来て頭を撫で始める。
少し気色悪かったが今後の展開も考え我慢した。
「今日は何の用かの?この娘に合わせる為に訪れた訳ではあるまい。チャッピーよ」
神様と姉さんは顔見知りの様だった。姉さんも山芋の精霊というだけあって神様とは面識があるのだろう。
「神の大地にドラゴンを住まわせたいの」
「何じゃと⁈」
チャッピー姉さんは今までの成り行きを話し始めた。
神様は険しい顔つきで話を聞いている。
事情を聞いてるうちに納得したのか神様の険しい顔が少し綻んでいった。
「しかし、チャッピーよ。それはわし一人の一存では決められんぞ」
「お爺ちゃ~ん、お願~い」
私はここぞとばかりに神様に甘えて見せた。
神様の顔がデレーっとして締まりのない笑顔に変わる。
その顔はかなり気持ちが悪かった。
「しょうがないのぉ~。じゃあ、わしの頼み事も聞いてくれんかのぉ~」
ニタニタと笑う神様の姿に私の身体は鳥肌が立っていた。
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