第16話 無慈悲な冒険者たち
首都に戻り色々調べてみるとドラゴンの討伐は国の指示ではなかった。
冒険者ギルドによるクエストの一端だった。
そのクエストの発注元も冒険者ギルドだ。
ドラゴンの討伐でギルドのランクが上がるのが目的だった。
「どうします?ギルド全員を縛り上げます?」
「もう少し調べましょう。首謀者と実行者がいる筈だから」
自分でもビックリしているが私の発言が堂に入っている。
何の力も無くビクビク怯えていたのは、ついこの前だった。
力の扱いも慣れてきて風格が出てきたのだろうか?
「わかりました。少し調べてみます」
私とおっさんはギルドに潜入することにした。
中は薄汚れていてタバコの煙が充満していた。
掲示板の周りにたむろする厳つい男達が私の姿を見るとニヤニヤと笑っていた。
「お嬢ちゃん、ここはお遊戯場じゃないよ」
誰かがそう言うと一斉に笑い声が響き渡る。
私は一人の厳つい男に狙いを定め、山芋で目玉を突き刺す素振りを見せた。
勿論、寸前で止めている。目玉を貫かれそうだった男は腰を抜かしている。
男たちの笑い声がヒソヒソ話に変わった。
何だあれは…」と言いながら見る目も変わっている。
私は受付の奇麗なお姉さんの所に向かった。
一部始終を見ていたのか口をあんぐりと開いて呆然としている。
私はドラゴンの討伐の事を聞いてみた。
「えっ、ドラゴン?あれはギルドマスターが発注を出したのよ」
「受けたのは何処のパーティーでした?」
「鋼の牙ね…今じゃ英雄扱いで滅多に会えないわよ」
「どんなパーティーなんですか?」
「ドラゴン討伐までは余り良い噂は聞かなかったわね。目的の為ならどんな汚い手段も使うって」
話を聞いて大体の事は把握できた。
首謀者がギルドマスターで実行者は鋼の牙だ。
汚い手段を使いドラゴンを討伐して今では英雄だ。
私はお姉さんの所に向い事情を説明した。
「わかりました。まずはギルドマスターから捕えましょう」
「オジサンはどうしますか?」
「オジサンには囮になって貰いましょう」
おっさんはその言葉に「え~っ…」という嫌そうな顔をしていた。
いつ見ても覇気がないその様子はいつも以上に腹立たしさを感じた。
「オジサン!仕事なんだからちゃんとして下さい!」
私の苛立ちに気付いたおっさんは渋々ギルドに入ってマスターを呼んでくる。
どんな話をしたのかはわからないが、おっさんとハゲたマスターは笑いながら肩を組んで私の元へとやってきた。
『ビチャビチャビチャ…』
ギルドマスターは私の放ったとろろに藻掻いていた。
隣のおっさんはその様子を「嫌だなぁー」と言いたげに眺めている。
「何だこれ!トリモチみたいにくっついて離れねぇ!わぁー助けてくれー!」
「少し黙らせて」
私は言われた通りにハゲたマスターの口に山芋を詰め込んだ。
お姉さんはマスターを縛り上げて動けなくしている。
「さあ、次は鋼の牙ね」
山芋を咥えながらウンウン唸るマスターの姿はちょっぴり面白かった。
クスクス笑う私の声が空しく響き渡った。
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