第12話 首都エスターバ

 首都のエスターバは華やかな街並みだった。

 城門を抜けると閑静だった風景は一変して活気あるものへと変貌する。

 お城までの広々とした通りには宿屋などの様々な店が立ち並び、道行く人々も活気が溢れ様々な種族がごった返していた。


 私は初めて見るその光景に物珍しさからキョロキョロと見回していた。

 心が弾むとはこの事なんだろうか?

 ウキウキした気持ちが収まる事を知らない。


「お姉さん、あれ食べたい…いや、あれが良いかな…」


 露店から立ち上る美味しそうな匂いが私を誘惑する。

 様々な店から漂ってくるその匂いは私の決断を鈍らせていた。


「おじさん…全部買って来て」


「お金は…?」


 お姉さんはおっさんを強く睨みつけた。

 おっさんは「トホホ…」といった感じで買い出しに走った。


美味うま…美味しい!!」


 初めて口にした串焼きの肉は私の舌をとろけさした。

 こんな物がこの世にあるなんてなんて幸せな事だろう。


 そんな感動に浸ってると通りの向こうが急に騒がしくなる。

 武装した騎馬隊を引き連れた豪勢な馬車がこちらに向かってやってくる。

 その馬車には王家の家紋が刻まれていた。


「なに?何の騒ぎ?」


「マズいわね。あんたを捕えていた貴族と関係があるかも」


 突然のカミングアウトに私は目を丸くする。

 私を捕えていたのは貴族だったのか?

 しかし何の為に?


「どういうこと?」


「あんたが居た牢獄はエルフィンの町の城主の屋敷だったのよ。そこに革命軍とかいうのが現れて屋敷を破壊したから抜け出したんだけどね」


「私は何で捕えられていたの?」


「詳しい事はわからないんだけどね…たぶん親御さんが関係してると思うわ…」


 ショッキングな話だった。私は自分が囚われていた事など忘れていた。

 そして捕えているものが何者だったかも知らないし理由もわからない。


「私、王家に会ってみるよ!」


「あんたには力があるから何とかなるとは思うけど、人を手を掛けたらおしまいだからね!」


 王家の馬車は私たちの前で止まった。

 扉が開き煌びやかな衣服を纏った老人が現れる。

 街ゆく人々は跪き老人に頭を垂れた。

 物々しい様子にその老人が国王である事は明確だった。


 周囲に便乗して私も跪いて頭を垂れる。

 どんな用があるかは定かではないが、今はこうすることが得策だと考えた。


「貴女が予言の女神様ですな…」


 国王は愛しむ様に私に声を掛けた。

 私は聞き違いをしてるのかと今の言葉を繰り返して思い起こす。

 しかし何度繰り返しても女神という言葉が私の頭にリピートしていた。


「へっ…?」


 ポカーンと国王に顔を向けると涙にくれた姿があった。

 お姉さんは跪きながら何かに耐える様にプルプル震えている。


「さあ、女神様。馬車にお乗りください。王宮へお連れします」


「えっ、あのぉ~」


 言葉の途中に関わらず招かれるように馬車に乗り込む私。

 何が何だかわからず混乱するしかなかった。


 馬車に乗せられて王宮に向かう私の頭にはドナドナの音楽が繰り返されていた。

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