第11話 おっさんの素性

 お姉さんの小間使いをさせられるおっさんの姿は奴隷というより下僕に近いものだった。

 顎で使うお姉さんの姿に慈悲は見られない。

 おっさんは生気を失った虚ろな目でお姉さんの言いつけに従っていた。


「大変ですね」


 哀れなおっさんに私は声を掛けずにはいられなかった。

 おっさんは返答に困った様に笑っていた。


「私は…いつ帰れるんでしょうか?」


 おっさんの質問に私は返答ができなかった。

 お姉さんの決定に私は口出ししても良いのだろうか?


「帰りたいの?」


 おっさんは声にならない様に「はい」と呟く。

 私はお姉さんにこのおっさんを連れてきた理由を尋ねてみた。


「何か役立つと思って…街に居ても碌な事してなかったみたいだし」


 お姉さんはおっさんの素性を把握してる様だった。

 どうして知ったのか尋ねると意外な返答が返ってきた。


「エナジーを吸い取った時にその人の情報まで入ってくるのよ」


 そういえばお姉さんはおっさんの精気を吸い取っていた。

 あの時に素性まで見えたという事だろうか?


「このおじさんどんな人なんですか?」


「バンパイアで名前はリチャード、年はもう217年も生きてるわ」


 お姉さんの言葉におっさんは唖然としていた。

 そして少し気まずそうに顔を歪める。


「エルフィンの町で暮らしていたけど、元は首都エスターバの出身よね」


 図星なのかおっさんは顔を背けた。

 しかし何て凄い能力なんだろう。

 ひげ根を巻き付けただけでその人間の全てが見えてしまうのだ。


「そして碌な事をしないと言ったのは人の血を吸っていた事では無くて…」


「あー!あー!あー!あーーーーーー!!!!」


 おっさんは話を遮る様に突然叫び始めた。

 都合の悪い話を聞かれたくないのだろうか?


「うるさいな!お黙りなさい!」


 ひげ根が巻き付いておっさんの口を塞いだ。


「夜な夜な町に繰り出しては女性の下着を盗んでいた事よ!」


 おっさんは目に涙を浮かべてボロボロ泣いていた。

 私はおっさんを少しでも哀れに思った事を後悔した。

 軽蔑の眼差しでおっさんを蔑む。


「そして家に帰って下着の匂いを嗅いでいたのよ。はぁはぁ言いながら!」


 私たちのおっさんを見つめる目には、もう感情は込められていなかった。

 おっさんの扱いがどうなろうと私の知った事ではない。

 帰りたいと言っていたが、もう帰る事はできないだろう。


「この汚らしいブタめ!」


 私はそう言いながらおっさんをポカポカ蹴り始めた。

 おっさんは何故だかうっとりしている。


「そういえば、あんたがこのオジサン帰したかったら何時でも言ってね。私はあんたの従者なんだから言いつけに従うわよ」


 私は天地がひっくり返った思いだった。

 力関係ではお姉さんが上だと思っていた。

 私がお姉さんの主という事なんだろうか?


「従者って…私が主って事⁈」


「そうだけど…?」


 私の今までの考えでは…1:お姉さん 2:私 3:おっさん

 実は…1:私 2:お姉さん 3:おっさん


 私はほんのちょっぴり有頂天になった。


「オジサンはこのまま下僕よ!」


 私は力強く宣言した。

 おっさんはいつまでもシクシクと泣いていた。

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