第10話 モンスターとの戦い

 ひげ根に巻かれるおっさんは引きずられながらグウグウと熟睡していた。

 余りにも快適そうなおっさんの姿にお姉さんはイライラしている。


 険しい山道を超えてやってきたというのに、おっさんは苦労知らずでのんびりとここまで来たのだ。

 お姉さんの苛立ちは理解できるものだった。

 安眠のおっさんを私はポカっと蹴り飛ばす。


「イタ…着きましたか?…むにゃ、むにゃ…」


 なんて腹立たしいのだろう。私は山芋を指先から出しておっさんの口を塞いだ。


「うぐっ、うぐっ…」


 おっさんはえずいている。苦しそうなおっさんの姿に私はいい気味だと思った。

 しかしお姉さんは何故におっさんを連れてきたのだろうか?

 私はお姉さんの意図を読み解くことができなかった。


「お姉さん、私たちはどこに向かっているんですか?」


「首都のエスターバよ。美味しい料理が食べれるわ」


 お姉さんの口元からよだれが溢れている。

 口元を拭いながら頭ではご馳走を思い浮かべているのだろうか?

 そんなお姉さんを横目に私の口元もよだれが溢れていた。


『グルルルル…』


 そんな時、岩山の陰からゴブリンの集団が姿を現した。

 ゴブリンは個々にボロボロのこん棒や錆びた斧で武装している。

 身体には布切れを纏っているが殆ど裸に近かった。


 緑色の毒々しい肌は私たちとは違って気味の悪さを感じさせる。

 一匹のゴブリンが何かを話すと大勢のゴブリンが私たちに襲い掛かってきた。


「山芋よ!山芋を突き刺すようなイメージでゴブリンに放つの!」


 お姉さんの言葉通りに私の指から山芋が伸びていく。

 向かってきたゴブリンは山芋に次々と串刺しになっていった。

 血液なのか突き刺さったゴブリンから緑色の液体が辺りに飛び散る。

 その地獄の様な光景におっさんはあからさまにドン引きしていた。


 無数のゴブリンの屍が辺り一面に散乱し、騒がしかった気配が静寂に包まれていく。

 最後の一匹のゴブリンはお姉さんのに巻かれて粉微塵となった。


「山芋にこんな戦闘力があるの?突き刺さるなんて変じゃない?」


「突き刺すイメージで固くなってるからね。鋼鉄と同じくらい固いわよ」


 お姉さんはゴブリンに突き刺さった山芋を引き抜き、地面に叩きつけると『カラーン』と音を立てる。

 最初は馬鹿にしていた山芋の能力だったが私の評価は格段に上がった。


「凄い…凄いわ…山芋って…」


 驚愕する私を横目にお姉さんは誇らしげだった。

 おっさんは涙目になりながら私たちを上目遣いで伺っている。

 今にも泣きだしそうなその顔にはさっきまでの余裕は皆無だった。


「こ、殺さないで…」


 キョトンとする私たちを見上げる瞳には懇願が込められていた。

 その様子を見たお姉さんは不敵な笑みを浮かべて何かを企んでいる。


「じゃあ、私の奴隷になりなさい」


「は、はい…」


 蛇に睨まれた蛙のようなおっさんにはそれ以外の選択をする余地はなかった。

 から解かれたおっさんは力なくお姉さんの後を歩き始めた。

 お姉さんの後をトボトボ歩くその姿はどんよりと曇っていた。

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