第167話位 殲滅の魔人・命名編(下)
「……何だそれ。そんなに入る自在袋なんて無いだろ」
常識ではジムの言う通りだ。
自在袋は大きくとも
普通は、だけれども。
「俺もそう思った。でも本当だ。嘘だと思うならあの時の当番の他の連中に聞けばいい。全員で見たからな。
きっと魔法使い数人で使うような大型の自在袋なんだろう。うちの魔道士部隊が研究資料を運ぶときに使うような」
やっとこいつらも俺が何を見たのかわかったようだ。少しだけ表情が変わった。
しかしまだ、続きがある。
「この死骸の山だと焼くにも数時間かかるだろう。経験的に俺はそう判断した。
しかし次の瞬間、その判断は間違いだとわかった。俺にすらわかる強大な魔力の気配がした次の瞬間。死骸の山がボロボロと崩れるように消えていった。
真夏の太陽以上の熱量を感じた。でもそれはあっという間だった。僅かな灰と散らばった魔石、魔物が装備していたものの金属部分が半ば溶けた状態で残っているだけだった」
少しだけの間の後、ジムが口を開く。
「そんなのうちの魔道士部隊だって出来るだろう」
「攻撃魔法ならな。だが普通は自分の近くでそんな魔法は使わない。少しでも間違えたら自分が丸焦げだからな。
でも彼女は特に身構えたりなんて事はしていなかった。単なる日常の作業、そんな感じだった」
「見間違いじゃないのか。そうでなければ幻覚魔法とか」
俺もあの時の当番連中も当然それは疑った。
しかし、だ。
「証拠は残っている。広場の中央をよく見てみろ。ここからじゃなく実際に行って。
此処は俺が立っていればいいだろう。広場の中も警戒範囲だ。問題無い」
俺以外の4人が少し考え、そして広場の中程へ向かって歩いて行く。
さて、奴らにはわかるだろうか。
俺はこの場所から動かず奴らを観察する。
広場の中央部の土の一部が黒くつややかで固くなっているのに気づくだろうか。
土や砂、岩がとんでもない高熱に曝されるとそうなるのだ。
魔竜なんてのが暴れると似たような痕跡が残っていたりする。
もしそれがわからなくても明らかな証拠物がある。
奴らでも一目でわかるだろう。
半分ほど溶け、それでも残っている部分で剣だったとわかる代物。
溶けた部分が岩と一体化してしまったせいか、彼女達が回収しなかったのだ。
おっと、どうやらジムが見つけたようだ。
他の3人を呼び止め、集まって観察している。
「これか。どう見ても剣の柄が変形したように見えるのが」
「あと此処の土の黒光り、気のせいじゃない。確かチュネリベースの
どうやらしっかりと理解できたようだ。
俺は頷いて、追加説明をしてやる。
「ああ、そういう事だ。つまりあの連中、見た目通りの女の子達じゃない。魔法使いとしてもうちの魔導士部隊あたりより数段上だ。
強大な魔物が人の姿をしていると思った方がいい。魔人とでも言うような感じでさ」
「冗談だろ」
皆、そう言いつつ冗談と言い切れないと感じている、そんな感じだ。
おっと、ちょうどいい感じで馬車の音が近づいてきた。
こんなところに朝、やってくるような奴なんてまずいない。
しかもあの馬車、普通の馬車と走行音が明らかに違う。
だから間違いない。
「おい、お客さんが来たぞ。戻ってこい」
4人を呼び戻す。
「こんな朝から通行人か?」
そう言ったゼラに一言。
「ちょうど話していたパーティだ。実際に見てみればいい」
まだ姿は森に隠れて見えない。馬車の音しかわからない。でも近づいてくることはわかるので、全員検問場所に整列。
さて、まずはあのゴーレムを見て、どう思うだろうか。
俺はそう思いつつ、ようやく見え始めた馬車がやってくるのを待つ。
あの威圧感たっぷりの特徴的なゴーレムが見え始めた。
ゼラとジムの構える槍が一瞬動いたのを見て思わず口元が動いてしまう。
どうだ、実際に見ると確かに魔物に見えるだろう、あれは。
◇◇◇
数日後、俺達の魔物警戒任務は解除された。
理由は簡単、洞窟を含め
もちろんあのパーティが
生憎その時は俺は非番で宿舎内でぐっすり寝ていた。
だから状況を自分の目では見ていない。
話によると
あのパーティの女の子がここの責任者である中隊長に話したところによると、
○ 昨日、中でボス格とみられるキメラという大魔物を倒した
○ 更に本日、トロルやオークといった大物を含む500匹以上の魔物を倒したところ、
○ 危険を感じてこちらの出口を目指したが、途中でここの広場へ飛ばされた
との事だ。中隊長伝令に直接聞いたから間違いない。
なお女の子3人のうち2人が中隊長に説明している間、もう1人が魔物を積み上げて焼いていたそうだ。
今回は前回以上に多かったらしい。
『臨時隊舎の大天幕なんて大きさじゃねえ。天幕を5個並べたより大きい山だった』
そうゼラが言っていたから。
『トールの言った通りだ。あれはただの魔法使いじゃない。出会った魔物、それがオークだろうとトロルだろうと即座に殲滅するような、そんな化物、いや魔人だ』
そんな台詞も一緒に。
その後、俺達はあのパーティを『殲滅の魔人』と呼ぶようになった。
見た目は可愛い女の子にしか見えない。そこが余計に怖さを感じさせる。
逆にその後、魔物討伐で出動して、オークやアークゴブリンの姿を見ても怖いとは思わなくなった。
こういった魔物らしい魔物はむしろ怖くない。
そう感じるようになってしまった。
聞くとジムやゼラ、あの時隊務であの
本当に怖い存在というのは、こういった“いかにも”な姿をしていないのだろう。
そう思うようになったそうだ。
俺もそう思う。
本当に怖い存在はきっと、普段は見ただけでそうとは気がつかない姿をしているのだ。
積み上げた魔物の山を無表情に見上げ、あっさり焼き払った、あの小柄な女の子のように。
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