第167話位 殲滅の魔人・命名編(上)

 迷宮ダンジョン警戒なんてのは退屈な任務だ。

 特に何も無い朝の時間なんてのは。

 退屈が過ぎると眠くもなる。


 確かに魔物が大量に出てくると大変だ。

 しかし普段は出てきても2~3匹。

 それも出てくる前に魔道士部隊の方から連絡が来る。


 だがあのパーティが出てきた後、魔物の気配すら無くなった。

 だからまあ、余計に退屈だ。

 平和なのはいい事だけれど。


 つまり朝の交代が来るまでの時間の最大の敵は魔物ではない。

 眠気だ。

 自然と眠気払いに立ち番しながら雑談、なんて事になる。


「昨日からこの迷宮ダンジョンを攻略している冒険者って、若い女の子達だって本当か?」


「そういえばトールは昨日の昼、立ち番だったんだよな。どんな子だった。若くて可愛いと噂だけれど」


 ああ、またその話か。昨日夕方にもしたのだが。


 しかしこいつらとはこの時間まで警戒場所と時間が別。だからまだ話していない。

 もう一度話すのは面倒なんだが。そう思いつつ俺は頷く。


「ああ、本当だ。確かに若くて可愛かった。3人ともだ。だが手を出そうと思うならやめておいた方がいい」


「何でだ。向こうだって直衛や前衛になる男性戦士はいた方がいいだろう。俺だって正規の国家騎士団員だ。一般的に見ても前衛のエリートだろ」


 ああ、こいつらもか。思わずため息が出てしまった。


「何だよ、何かおかしいのかよ」


 仕方ない。2度目の説明をするとしよう。

 俺はもう一度ため息をついて、そして口を開く。


「なら何故、あの時の当番員の誰もがそうしないと思う? 俺みたいな妻帯者だけじゃない。独身だって若いのからそれなりのベテランまでいたんだ」


「誰もそんな事思いつかなかったんだろ。そうでなきゃ顔が好みじゃなかったとかさ」


 思いつかなかったなんて事はない。それに3人とも若くて綺麗で可愛かった。

 だが面倒なのでその事は言わない。


「あのパーティがどれくらいの強さか、お前は知ってるのか」


「冒険者なんて騎士団に入れなかった連中だろ」


 間違ったエリート意識を持っているなと思う。 

 まあ、俺も実際にあの光景を見るまではそう思っていたのだが。


 ならばという事で、軽く質問をしてみる。


「お前は3人で、未知の迷宮ダンジョンに入って、数時間程度でコボルトなんかの魔物を百匹以上倒せるか?」


 勿論俺は出来ない。しかし……


「何冗談言っているんだ。そんなの無理に決まっているだろ。聖騎士級の連中だってそんなの出来る筈ない」


 だろうな。それが普通の認識だ。

 俺も前はそう思っていたのだ。あの光景を見るまでは。


「それが出来るんだよ、あの連中は」


「どういう事だ、それは?」


 俺はため息をひとつついて、話しはじめる。


「追加説明をするのが面倒だから、最初から時系列順で話すぞ。

 あのパーティが洞窟から出てきた時からだ。あのパーティは洞窟から馬車で出てきた。どうやら迷宮ダンジョン内を馬車で移動していたようだ」


「馬車なんて魔物に襲われたら一発じゃないのか」


 確かにあの馬車を見なければそう思うだろう。


「ああ。だが魔物たっぷりの迷宮ダンジョン内でも使っているくらいだ。普通の馬車じゃなかった。そもそも牽いているのが魔物としか思えない代物だった」


「魔物に馬車を牽かせる? 無理だろそれ。魔物は本能的に人間を襲うからな。常識だろ。馬車なんて牽ける訳ない」


 まったくその通りだ。

 だから俺は同意をしめすべく頷いて、そして先を続ける。


「ああ。実際魔物ではなかった。後ろについていた馬車から女の子が2人、こっちに挨拶に来た。彼女達によるとあれはゴーレムだそうだ。異国に伝わる伝説の生き物を模したゴーレムだと」


「ほら、やっぱり魔物じゃないじゃないか。ただゴーレム馬車となると相当な金持ちだな。俺も冒険者になれば……」


 甘いな。そう思いつつ俺は更に続ける。


「彼女達によると、朝、迷宮ダンジョンの洞窟をラクーラ側から入って抜けて来たそうだ。確かにここ数日、こちら側の迷宮ダンジョンから入った冒険者はいない。だからその言葉は正しいのだろう。


 迷宮ダンジョン内がまっすぐの洞窟だったとしても、向こう側からここまで5離10kmくらいはある筈だ。


 しかし彼女達のゴーレム馬車が出てきたのは11の鐘より前だった。つまりそれだけの時間で迷宮ダンジョンを走り抜けてきた訳だ」


「つまり魔物と遭わないよう、高速で突っ切って来た訳か。戦闘に自信が無いからそんな事をしたんだろ。無茶するな」


 いやそうじゃない。そう思いつつ先を続ける。


「さらに彼女達は、疲れたからこの広場で休憩していいかと俺たちに聞いた。あと倒したコボルトを処理したいけれどここで焼いていいかと。


 ただ、そこの広場は迷宮ダンジョンの出口、洞窟の真ん前だ。危険だからもう少し先まで行ってからの方がいいんじゃないか。俺はそう聞いてみた。


 そうしたら彼女達にこう言われた。『今日はもう魔物は出てこないと思います。だから心配ありません』と。

 何か魔法使い的な封鎖措置でもしたのだろう。そう思って俺はOKを出した訳だ」


「なるほど。そんな便利な魔法があるからこそ、迷宮ダンジョンを馬車で抜けるなんて事が出来た訳だ。便利だな、魔法って」


 俺以外の3人が頷く。

 ああ、あの時は俺もそう思ったさ。

 しかしこの話の核心部はこの先なのだ。


「OKしたら彼女達は馬車の方へ戻っていった。そうしてすぐに、今度はこっちへ来た2人とは別の、小柄な女の子が出てきた。

 またこっちに来るのだろうか、そう思ったのだが彼女は途中、広場の中央で立ち止まった。そして俺がまだ見たことがない形をした、自在袋らしい袋を出した。


 次の瞬間、魔物の山が積み上がった。山としか言えないくらいの量だ。臨時隊舎の大天幕よりは大きかったからな。

 200匹は超えていただろう。ほとんどはコボルトだが、中にはアークコボルトやエルダーコボルトなんてのもいた。勿論全部死骸だ」

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