漂
エレベーターを降りて横に捌け、買ったばかりのイヤフォンを捩じ込んだ。ノイズキャンセリング機能を搭載した、いわば高級な耳栓である。これがあれば、雑踏の中でさえ無敵だ。私には音楽など要らない。
人を抜け、改札を抜けると、環状線が口を開けて待っていた。私は呑み込まれ、卒塔婆のように生えているビル達を目で撫でながら、ドア近くの手摺にもたれていた。忍者の妄想は、もう長いことしていない。
春になると桜が綺麗に咲く駅で下車をした。理由はなかった。ただちょっと、いつもと違うことをしてみたかった。
循環しながら緩やかに減っていく消耗品のような人生を憂いたのかもしれない。深く考えたわけでは無かった。
小さなコンビニ。数え切れないほどの自転車。橋を渡ると、線路の匂いが遠くなる。小学校の角を曲がり、宛もなく住宅街を彷徨う。どこからともなくシャンプーが香る。心が沈んでいく。居場所がある人、ない私。天を仰ぐ。痛みが引いていく。
五段しかない石段を二歩で登ると、豪雨が止むかのように虫の音が凪いだ。
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