惰性で大人になってしまった。


 私は世間一般で言うところの就職活動というものをした事がほとんどない。スーツのマネキンのような大学生らが喧伝する辛さを、私は知らない。なんとなく入学した学校を金が無いからと中退し、仕方なく始めた派遣社員から、運良く正社員に成った。世の中の仕組みもそこそこに、あの頃の『ぼく』が憧れていた大人とは全く別のものになってしまった。

 

 自らプログラミングした通り定刻にデスクを立つ人々は、誰も彼も雲ひとつない快晴のような顔をしている。同じ顔をして同じエレベーターを待つ。やれ上司がなんだの、不貞がなんだのと、とても楽しそうにお喋りしている。きっととても楽しいのだろう。私もとても楽しんでいますよ、と伝わるような相槌を打つと、それを見計らったように扉が開いた。


 鏡の中の私が死んでいた。

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