第20話(遥視点)

思わぬ展開に、これが棚からぼたもちかなんてくだらないことを考えた。


でもこれで名実ともに真ちゃんと恋人だ。一緒に登下校することも、手を繋ぐことにも何も引け目を感じなくて良いのだ。

「何か良いことあったの?」

「あ、優希!」


あの後、逃げようと暴れたために乱れてしまった制服を整えるために真ちゃんの部屋へお邪魔した。ネクタイなんかは結び直すだけで良かったが、弾け飛んだボタンは縫い直さなければならなかった。

真ちゃんの部屋へは、なんだかんだと理由をつけてお邪魔したことがあったので緊張することは無かったけれど、今回は格好が格好なので同室の宝条に見つからないようにしなければならないと細心の注意を払って入室をした。


まぁ結局、部屋に行くためにはリビングを通らなければならないため、ソファーでくつろいでいる宝条に見つかり『外で盛んなよ。』と品性の欠片もない言葉を貰った。こんな状態で無ければ平手打ちの一つや二つお見舞いしてやりたかった。


整えた後に部屋へ戻ったので、優希は僕に何があったのかは知らない。が、喜びが隠しきれていなかったのか、いつもと違う雰囲気の僕を不思議に思ったようだ。

「えへへ…なんとね、真ちゃんと恋人になったんだ!」

ピースサインを優希に向ける。

「松井君と…?」

「うん!」

「そっか、良かったね。」

てっきりもっと喜んでくれると思っていた僕は、優希のその反応の薄さに首を傾げた。

もしかしたら、優希も宝条と同じで男同士の恋愛には耐性が無いのかもしれない。

そうだったら悪い事をしたなと思い、それ以上は何も言わないようにした。



真ちゃんがボディガード兼恋人となり、順風満帆の日々を送っていた。

今日も真ちゃんと一緒にランチを食べようと中庭にやって来ると、そこには宝条の姿があった。珍しい人物の登場に何があったのかと真ちゃんに視線を向けると、僕が考えていることが分かったのであろう。宝条が先に理由を説明してくれた。

「美作を襲った奴らが分かった。」

その言葉にヒュッと背筋が凍るのを感じる。深くは言わなくても、あの3人組だということは分かった。名前も知らず、ヒントは上級生ということだけだ。

いや、それよりも宝条には僕が襲われたことは言っていないはずだ。


「松井は外では盛んねぇだろ。だから、お前は襲われたんじゃねぇのかって思っただけだ。」

僕が顔に出るタイプなのか、それともただ単に宝条が鋭いだけなのか。

疑問に思っていることに的確に答えていく。

「生徒会でこの前、風紀が乱れているという話になってな。被害にあった生徒たちに話を聞いていた時にある3人組にいきあたったんだ。」

類稀なる優秀さから、その時にはもう宝条は生徒会入りをしており庶務として働いていた。被害にあった生徒たちということは、僕以外にも多数の子が同じ目にあったということだ。

「場所は様々だったが、手口はどれも一緒で本人たちも認めてる。処分は追々学園側がくだすだろうよ。」

これは、言外に安心しろと言われているのだろうか?

分かりにくい宝条からの慰めに、思わず笑いがこぼれた。上から目線の物言いは気に入らないが、悪い奴でないことは知っている。

「良かった。捕まったんだね。清々するよ。まぁでも…僕には真ちゃんがついてるから大丈夫だけどね!ね!」

横に座る真ちゃんの腕に抱きつき、同意を求める。真ちゃんもうんと頷いて賛同してくれた、

「遥、良かった。」

抱きついた方とは反対の手で頭をぽんぽんと撫でてくれた。

「そいつらの話では“頼まれただけ”と言っていたが、誰に頼まれたとかは言わなかったからただ責任を逃れたかっただけだろ。」

「その場においてまだ言い訳してるの?呆れた。」

どこまでも図太い神経に最早呆れてしまう。


「捕まったからといってもう何も起きないとも言えねぇ。油断するんじゃねえぞ。」

「もう分かってるって!十分気をつけるよ!」

それよりもご飯食べよ!と本来の目的を促した。早く食べないと昼休憩が終わってしまう。心のどこかに引っかかっていたわだかまりが、ゆっくりとほぐれていく感じがした。



「ただいま〜。」

その後は何事もなく、無事に一日を終えて寮に戻る。

「おかえり。」

聞こえてきた声は優希のものでは無かった。

忌まわしい記憶とともに思い出されるその声は…。

「なん…で…。」


あの3人組のリーダーの男だった。

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