第18話(遥視点)

不安も何も無く楽しく過ごしていたある日、事件は起こった。


いつものように真ちゃんが部活を終えるのを待っている時だった。

「わ!ここに来ると遥ちゃんに会えるって本当だったんだー!」

「マジ可愛い〜!」

「どうもー初めましてー。誰か待ってるの?」


上級生だということはひと目で分かった。学年集会でも見たことのない人達だったし、学年ごとに違うネクタイの色がそれを表していた。

一瞬、無視をしようかとも思ったが、自分1人に対して相手が3人、いる場所も人目に付きにくい所だったため、逆上させた方が危ないと判断し返事をした。

「先輩たちはどちら様ですか?」

決して怒らせないように、丁寧に言葉を返した。

「えぇ〜?俺らのこと知らないの?ショック〜。」

「ばーか俺らみたいな奴の名前なんか知らねぇって!」

「そうそう。だからさ、教えてあげないと。」

下卑た笑みでジリジリとこちらに近づいてくる奴らと、距離をとるように僕も少しずつ後退していく。


「遥ちゃん逃げないでよ。」

「ちょっとお話するだけじゃん?」

「ま、もう逃げれないと思うけど。」

その言葉にハッと後ろを振り返ると壁があった。しまったと思った時にはもう遅く、両脇と目の前に来られ退路は完全に絶たれてしまった。


「真っ…!!」

咄嗟に大声で助けを呼ぼうとしたが、口元を塞がれそれも叶わなかった。

「ダメだよ、人を呼んじゃあ。」

「そうそう、しーだよ。」

「うわ〜。まじ可愛い、女の子ですって言っても通じるんじゃない?」

両脇を掴まれ、身動きを取れなくなった状態で目の前の男がゆっくりと手を伸ばす。


「ん゛ー!!!」

「はいはい、暴れない暴れない。」

このまま好きにされて溜まるかと抵抗の意を示すが、僕よりも体格のいい上級生が2人がかりで掴んでいるためビクともしない。

「ん゛ん゛ー!!!」

「遥ちゃん、見た目によらず気が強いんだね〜。」

「えー!でもこっちのが断然燃える!」

「お前マゾかよ無いわ〜。」

ゲラゲラと下卑た笑いが体育館裏に響く。中ではバスケ部やバレー部といった面々が練習を行っているが、下校する生徒も多いこの時間に、彼らの笑い声だけで何かが起こっていると気づく人は居ないだろう。

それでもなんとか気づいて欲しくて、精一杯の抵抗をする。

「ん゛ー!!」

「あはっ。暴れないでよ〜。」

「怒ってても可愛い〜。」

しかし、そんな僕の抵抗なんてものともせず、3人は余裕そうに笑っていた。


逃げることも出来ない。助けを呼ぶことも出来ない。

僕はこのまま彼らの好きにされてしまうのかという絶望が溢れていく。

真ちゃんと一緒に帰るのだって、別に約束をしている訳ではなく、僕が一方的に待っているだけだ。居なくても先に帰ったと思われて気にしないかもしれない。


“助けて…真ちゃん…。”

どうにもならない現実に、知らず知らずのうちに涙が零れた。

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