第16話(遥視点)
真ちゃんと出逢ったのは、ずっとずっと昔。
それこそ、僕の記憶が無い時からずっと一緒だった。
母親同士が仲良しで、父親達も同級生だったから産まれた病院も一緒、住む家も近かった。だから、僕の隣に真ちゃんがいるのは当たり前で、真ちゃんの傍に僕が立っているのも必然だった。
父親達が勧めてくれたこの学園だって、疑うことなく二人で通うものだと思っていた。
そうじゃないって気づいたのは、真ちゃんが幼稚舎の入試に落ちてからだった。
「なんで真ちゃんは一緒のとこに行かないの!?」
「遥、真治君はね他の幼稚園に行くんだよ。」
「やぁだ!なんで違うの!!真ちゃんが行かないなら僕も行かない!!」
幼い僕はなぜ一緒に通えないのか意味が分からず、毎朝幼稚舎に行く時に駄々を捏ねては両親たちを困らせていた。ほとほと困り果てた両親は、僕に幼稚舎を休ませて、家で面倒を見ることも多かった。おかげで幼稚舎の行事はほとんど参加しておらず、写真なども数える程しか残っていない。
僕は真ちゃんと共にいたかったし、真ちゃんがいない場所なんて行く意味が無いと思っていた。
しかし、真ちゃんは別だった。
蒼明館学園ほどでは無いが、良い幼稚園に入り真面目に毎日通っていた。時折、家族ぐるみで遊んでいる時、次はどんな行事で真治は何をするのかなどを真ちゃんの母親が楽しく話している声を聞いた。僕とは正反対に、真ちゃんは幼稚園を楽しんでいた。
その事に僕はショックを受けた。
僕は真ちゃんがいないとダメなのに、真ちゃんは僕がいなくても平気なのかと。
二人で一つなのだと思っていたのは自分ばかりで、真ちゃんはそんなことこれっぽっちも思っていなかったのかと。
なんだか悔しい気がして、そっちがその気なら僕だって!と謎の対抗心を燃やし、小等部では真ちゃんが羨むほど学校生活を満喫してやるんだと意気込んだ。
新品のランドセルと、ピカピカの制服に身を包んだ僕は、真っ先に真ちゃんに見せようと真ちゃんの家のチャイムを鳴らした。
この制服格好良いだろう!小等部が楽しみだ!
お前がいなくても平気なんだと知らしめてやろうと考えた言葉を脳内で反芻する。
僕がショックを受けた分、真ちゃんもショックを受ければいい!
そんな邪な思いを巡らせ、玄関のドアが開くのを待つ。
「おーい、真ちゃーん?」
呼び掛けに応じるようにしてドアが開く。
来た!
「遅い!なにしてた、の…。」
待ちきれず、ドアの隙間を覗いた僕の目に映ったのは、同じ制服を着た真ちゃんの姿だった。
「やっぱり遥君びっくりしてる!サプライズ成功ね!」
「本当!ね、遥びっくりしたでしょう?真治君も小学校からは同じ学校に通うのよ!」
母親達が、計画していたサプライズが成功し盛り上がっているのが分かる。
でもそれよりも僕は、同じ制服を着て居心地の悪そうに立っている真ちゃんから目が離せない。
真ちゃんが、同じ制服を着ている。
「真ちゃん、今年から、同じ学校なの……?」
確かめるように聞くと、真ちゃんはぎこちなく、でも優しく笑いながら頷いてくれた。
その時、僕は気づいてしまった。
僕は、真ちゃんのことが好きなのだと。
あんなにショックを受ければ良いだとか、真ちゃんがいなくても平気だとか言っていたが、いざ同じ学び舎に通うことが分かると、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
もう離れなくても良いのか、またずっと一緒にいれるのか。
その事実が、他の何にも変え難い喜びを僕に与えてくれた。
小等部からは再びべったりの日々が始まった。登下校は一緒だし、休み時間の度に真ちゃんのところに遊びに行った。特殊な学校なので、人気者の生徒に近づくと妬まれてやっかまれることもあるのだが、僕も真ちゃんも顔が良かったのでそういったトラブルに巻き込まれることは無かった。
むしろ、『二人が一緒にいるのは目の保養!』と周囲は歓迎ムードであった。
高学年にもなると惚れた腫れたの話が飛び交うようになり、僕もその輪に加わることもあった。
「遥君はやっぱり真治君が好きなの?」
「えっ!?」
周囲の人には真ちゃんのことが好きだなんて1度も口にしたことは無いが、僕のあからさまな態度でみんな気づいていたらしい。
その事実に顔から火が出るほど恥ずかしかったが、良い機会かもしれないと思い、牽制の意味も込めて僕の気持ちを明かすことにした。
「そう…だよ。」
「きゃあ!やっぱり!?みんなで話してたんだよ!二人が付き合ったらお似合いなのにねって!」
僕の発言に周囲は盛り上がり、僕自身も“お似合い”だなんて言われて悪い気はしなかった。
恋話をしてはしゃいでいた僕は、まさかあんなことが起こるなんて夢にも思っていなかった。
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