第15話
中に入り、明るい室内で遥の顔を見た僕は、驚きで声を失ってしまった。
「遥…!」
遥の瞼は赤く腫れて、いつもの形の良いアーモンドアイの面影は無くなっていた。キューティクルが輝くサラサラヘアーもボサボサになっており、放課後から今まで泣いていたであろうことがうかがえる。
「ははっ。こんな姿、可愛くないよね…。恥ずかしいね…。」
両手でサッサと髪を整える仕草をすると、幾分かマシにはなった。遥の目線は下を向き、表情は暗い。いつもの高飛車で自信に満ち溢れた遥とはまるで別人のようだ。
「そんなことないよ。…ねぇ、遥。真治と何かあったの?」
弱っている遥には申し訳ないが、単刀直入に話題をぶつける。
どんなに忙しい時でも、こんなに弱ることは有り得なかった。だとしたら、考えられるのはただ1つ。
恋人である真治と何かがあったということだ。
「別に…何も無いよ…。」
「でも…!」
「なんて…信じてもらえるわけないよね。」
そう寂しそうに笑う遥は、何かを諦めているようにも見える。
「ねぇ、真澄。今から聞く話、絶対誰にも言わないって約束してくれる?」
「もちろん!」
遥の力になれるならば、遥がまた元気になってくれるのならば、どんな事だって黙っていよう。
「真澄ならきっとそう言ってくれると思ってた。飲み物、入れるからソファーにでも座ってて。」
そう言うと備え付けのキッチンへと足を運び、マグカップを取り出した。
末っ子で甘えん坊の爽とは違い、遥は大抵の事は自分で行うことが出来る。初めて生徒会の顔合わせをした際、遥の可愛さから爽と同じタイプかと思い世話を焼いたら、自分で出来るからと怒られたものだ。
その後もついつい世話を焼いてしまったのだが、始めこそ子供扱いしないでと言われたが、段々と慣れていったのか僕からの行為を甘んじて受け入れてくれるようになった。
しかし、こうやって自室での遥を見ていると、彼も立派な高校三年生なのだなぁと感じ、これからは世話焼きも程々にしようと思った。
「はい。カフェオレでいい?」
「うん。ありがとう。」
出来たてのカフェオレを貰い、少し冷まして口へと運ぶ。うん、美味しい。
遥は自分のために入れたコーヒーを飲みながら、僕に何から話そうか考えているようだった。
「あのね…。」
「うん。」
「真ちゃんとね、喧嘩したわけじゃないんだよ。」
「うん。」
「ただね…、僕が我儘なだけなの。」
ぽつりぽつりと言葉を零す。
遥の視線は手元のコーヒーに注がれており、僕と合うことは無い。
「長くなるんだけど、聞いてくれる…?」
ようやく合った遥の瞳には、薄らと透明な膜が張っていた。
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