第14話

生徒会の仕事が終わって寮の自室に帰ってきた僕は、まだ遥のことが気になって仕方がなかった。

みんなは放っておけと言っていたけれど内緒で遥の部屋に行ってみることにした。


「と、言うわけでご飯食べたら遥の部屋に行くね。」


「うん?うん。分かったぁ。」

本当に分かっているのか不安になる返事だが、今はそれを気にしている場合ではない。

「良い?チャイムが鳴ったらちゃんと誰か確認して出ること。あと、あんまり夜更かししないんだよ?明日は土曜日だけど朝から模試があるんだからね。」


「もーぅ心配性だなぁ。大丈夫だよぅ。」

大丈夫だと言って大丈夫だった試しが無いから言っているのだ。

「本当に気をつけるんだよ?」


「はいはぁい。真澄ってば本当にお母さんみたぁい。」

「もう……。」

「真澄がお出かけする時、僕も途中まで一緒に行こうかなぁ。みぃに会いに行きたいし〜。」

「みぃ?野良猫でも居たの?」

時々ではあるが、学園には野良猫が住み着くことがある。見つけたら先生や寮長に報告しなければならないのだが、爽はその規則を覚えているのだろうか?

「う〜ん?みぃは野良猫じゃないよぉ?銀色でぇ、大きいの。」

野良猫でないのならば、誰かが飼ってでもいるのだろうか?

ぽやぽやと返事をする爽にまぁいいかと1人納得をし、晩ご飯で使ったお皿を片付ける。


「野良猫ならちゃんと先生か寮長に言うんだよ。それと、一緒に行くなら準備してね。僕、お皿洗ったら出るよ。」


「えっ、もう出るのぉ?待って待って〜。」

爽はガチャガチャとお皿を運び、外に出る準備に取り掛かる。


洗い終えたあとは、準備が終わったらしい爽の持ち物を確認していく。

「携帯は?」

「持った!」

「鍵は?」

「持った!」

「よし。最低限はあるね。」


戸締りをして、2人で寮の廊下を歩く。

まだ消灯まで時間はあるけれど、明日が模試ということもあり皆勉強をしているのだろう。廊下には人ひとり出てきておらず、シンと静まり返っている。

「静かだねぇ。」

「ね。まぁ、明日は模試だからね。」


廊下に響くのは僕と爽の靴音だけ。

まるでここだけ別の世界に切り取られたかのような錯覚を起こしてしまう。


寮の玄関まで辿り着くと、僕は左、爽は右の方向へと歩いていった。


遥が入寮しているのは向日葵寮で、僕の寮の比較的近くに建っている。訪ねたことはあまり無いが、部屋の番号くらいは知っているので迷うことなく目的地に到着することが出来た。

チャイムを押す。しかし、部屋の中から返事は聞こえてこなかった。

放課後にあんな事があったばかりだ。もしかしたら、僕たちとは顔を合わせにくいのかもしれない。

そういう気分の時もあるか…と思いながら、もう一度押してもダメだったら帰ろうと決め、再びチャイムを押す。


返事はなかったが扉がゆっくりと開き、中から小さな声が聞こえた。

「真澄…どうしたの…?」

「遥…ごめん。どうしても遥のことが気になって…。ちょっと話せない?」

しばらくの間、沈黙が2人を包む。


「どうしてもってわけじゃないんだけど、もし、今がダメならまた今度でも…」

「いいよ。入って。」

出直そうかと言葉を紡いだ時、扉は開かれ、僕を中へと招き入れてくれた。

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