第13話

一緒に登下校するようになって、始めの3日間ほどは注目の的となっていた僕らだけれど、1週間をすぎる頃にはみんなも慣れたのか気にする事はなくなっていた。

爽は噂を特に聞いていないのか、部屋に帰っても颯との関係を尋ねられることは無かった。


颯と登校して授業を受けて、生徒会の仕事をしたあと部屋に帰ると、お菓子を食べすぎてる爽を叱る。そんな日々が当たり前になっていった。


「あぁー!やだやだやだやだ!!」

春も終わりに近づいたある日、生徒会室では遥が備え付けのソファーにゴロンと寝転んで駄々を捏ねていた。

「そんなこと言ったってどうにもなりませんよ。諦めてください。」

山田はそんな遥を気にすることなく目の前の資料を黙々と片付けていく。

「どうにもならないのは知ってるの!でも!言わなきゃやってられないの!!」

ぷんすかと効果音が付きそうな表情をして、腕組みをして抗議の意を表す。しかし、ベイビーフェイスの遥が怒ってもいまいち迫力に欠けてしまう。

頭を撫でて棒付きキャンディを手渡す真治も同じ気持ちなのかもしれない。

「なーんで定期テストなんてものがあるのさぁ!3年生になってから模試模試テストテスト模試!!休みが休みじゃないの!!」

その気持ちは分からないでもない。

3年生になると受験生ということで週末には模試を行うようになった。

部活をしていない僕達でも羽根を休める暇がないと感じるくらいだ、部活をしている真治達はさらに忙しいのだろう。


遥は真治とデートする時間がなくなってストレスが溜まっているのだろう。今まで定期テストに対して文句なんか言ったことが無かったはずだ。

「真ちゃん。真ちゃんは寂しくないの?僕と一緒に居れなくて。」

「しょうがない、から。」

捨てられた子犬のような顔で真治を見つめる遥に、真治も困ったように眉を八の字に下げおろおろとしている。いつもの威厳のある真治はどこに行ってしまったのか。

「しょうがないから、寂しくないって?真ちゃんにとって僕ってそんな簡単に片付けられるものなの?」



今日は普段の遥と何かが違った。


これまでも多忙のストレスからキツく当たることはあったが、大体真治が慰めればすぐに機嫌を直して周りが引くほどのバカップルぶりを発揮していた。

しかし、今回は真治の言葉に対してもどこか刺のある返事だ。

「良いよ。もう。いっつも僕ばっかり好きなんでしょ。もう、やだ。」

どこか思い詰めた雰囲気の遥に、山田も悪態をつくことが出来ずにいた。

「遥…?何かあったんですか?」

出来るだけ優しい口調で遥に尋ねる。

「真澄…ごめん、なんか変な空気にしちゃったね…。気にしないで…。」

「あ、遥!」

遥は寝転がっていたソファーから起き上がると、僕らの方も見ずにカバンを手に取った。

慌てて呼び止めるが、遥は振り返らずにそのまま生徒会室を出ていってしまった。


「待って!」

追いかけようとした僕を呼び止める声がした。

「真澄、美作のことは放っておけ。」

颯である。

「会長…ですが!」


「今追いかけたってどうにもなんねぇよ。もう少しあいつが落ち着いてからにしろ。」

「そう…ですね。美作先輩も今は興奮状態かも知れませんから、心の整理が出来てから行った方が良いと俺も思います。」

颯だけでなく山田からもそう言われ、追いかけようとした足を止める。


「真治…。」

助けを求めるように真治の方を見るが、真治本人もどこか苦しそうな表情をしていた。


一体、2人に何があったというのか。

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