第12話

休憩時間になると颯との関係を問い詰める質問が飛び交ったが、なんとかのらりくらりとかわすことに成功した。

なんだかいつもの倍は疲れた気がする。


お昼になると、言われた通り生徒会室にやって来た。

「おう、来たか。」

ゆっくりと扉を開け、中を覗いてみると颯はもう椅子に座っており、何かの資料に目を通していた。

「早いね。」

「まぁ、さっき体育だったからな。」

着替えてそのままここに来たんだ、とのことだ。

なるほどと思い、副会長の席に座ると颯から非難の声が飛んできた。

「おい、なんでそこに座ってんだよ。」

「え?だっていつもここに座ってるし…。」

「恋人がそんな離れて飯を食うかよ。おら、ここに来い。」

そう言って指さしたのは、颯の隣だった。

確かに会長の机は他の役員の2倍の大きさがあり、椅子を持っていけば隣で食べることも余裕で出来る。

ただ一緒に食べるだけだと思っていた僕は、颯からの要求にすぐにうんとは言えなかった。

「えっ、一緒に食べるだけじゃないの?」

「あ?なんだよ嫌なのかよ。」

嫌だなんてそんなことは絶対ない!

むしろいつかは一緒に食べることを夢見ていたほどだ。

「い、嫌じゃない!」

咄嗟に否定をすると思っていたよりも大きな声が出てしまい、顔に熱が集まる。

それが面白かったのか喉でくつくつと笑うと

「じゃあ良いだろ。来いよ。」

と、手招きをする。


颯には朝からドキドキさせられてばかりだ。

寮に迎えに来て一緒に登校したり、こうしてお昼ご飯を食べたり。練習だとは分かっていても、心臓が足りない。

いつか慣れる日がくるのだろうか?


椅子を颯の隣に移動させ、お弁当の蓋を開く。こんなことならもっと彩り良く作っておくんだった。

昨日の晩御飯の残りだとか冷凍食品だとかを詰めたお弁当を、颯は興味深そうに覗いてくる。

「あの、そんなに見られると恥ずかしいんだけど…。」

「は?なんで恥ずかしいんだよ。」

「いや、あんまり彩りとか良くないし…。」

「そうか?弁当はみんなこんな感じじゃないのか?」

作んねぇから分かんねえな。と言い自分で買ってきたパンに口をつける。

そういえば、颯がお弁当を持ってきているのを見たことが無い。

「颯はお弁当とか作らないの?」

「作らねえな。料理も最低限しか出来ねえし。」

全く作れないわけでは無いことは知っている。昨日のように晩御飯を僕の部屋に食べに来ることは稀で、いつもは自分で作るかデリバリーをするかで済ましているそうだ。

もぐもぐと買ってきたパンを咀嚼する颯を見ていると、横目でチラとこちらを見た視線とぶつかってしまった。

「見すぎ。」

フッと笑うと右手で軽くデコピンをされる。

「痛。」

「くねぇだろ。」

手加減をしてくれたので痛くは全く無いのだが、なにか文句を言わないと割に合わない気がする。

そうだ。ドキドキさせられて、振り回されるこっちの気も知らないで。

大袈裟に痛がって、少し困らせようと思いたった僕は額に手を当てて痛がる振りをする。

「あぁ痛い。痛いなぁ。」

「演技下手くそかよ。」

あまりの棒読みに呆れたような視線を向けられたが、それには負けず演技を続ける。

「腫れたかもなぁ。冷やさないとなぁ。」

「…。」

黙り込んでしまった颯に、流石にやりすぎたか?と不安になり指の隙間から様子を伺う。

颯は真顔で食べ終えたパンの袋を机の上に置いた。

あ、ヤバいかも。

「なぁんて…」

冗談だよ、と言おうと手を外すと、真顔の颯が近づいてきて


額に、キスを落としてきた。


「!!?!?」


額に違う意味で手を当てると、してやったりとしたり顔の颯が見える。

「これで痛くなくなっただろ?」

子供のおまじないかよ!なんて声も出ず、ただ酸欠の金魚のようにぱくぱくと口を動かすことしか出来ない。


「こ、これも…練習…なの?」

なんとか絞り出すような声で言えたのは、そんな言葉だった。



「…練習だよ。」


少し寂しそうな表情をしたのは気のせいだったのか。

近づいてきた唇に、そんなことは考えられなくなった。

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