第11話
学校に近づくと繋いだ手をパッと離し、何事も無かったかのように2人並んで歩いた。離された瞬間、少し残念な顔をしてしまったのは秘密だ。
朝から僕と颯が一緒にいるのは珍しいらしく、下駄箱でもたくさんの生徒の注目の的となっていた。寮でのように大きな声で尋ねてくる者はいないものの、あちらこちらでひそひそと噂をする声が聞こえてくる。
「えっ、宝条様と柳様って付き合ってたの?」
「そんなこと聞いた事無いけど…」
「確かお二人共同性愛には興味がなかったはずだよね。」
「どういうこと?」
「えぇ〜俺真澄ちゃんのこと狙ってたのによぉ…」
「相手が会長じゃ勝ち目はねぇよ、諦めな。」
「でもお似合いだよなぁ。」
「あーぁ、俺もいい子がいねえかなぁ。」
何気なく上履きを履くふりをしながら、全神経を耳に集中させていた。
聞こえてくるのは僕らが付き合っているという内容ばかりで、この展開はどうすればいいんだと頭を悩ませる。
「どうするのさ…。」
誰に言うわけでもなくポツリと零した言葉であったが、近くにいた颯にはしっかりと聞こえていたようで
「どうもしねぇよ。」
と返されてしまった。
「変に慌てたり否定する方が怪しいだろうが。堂々としてりゃ直に噂も無くなるさ。」
フンと鼻を鳴らし両手をポケットに入れる颯は、まるで気にする方が可笑しいのでは?と勘違いしてしまいそうになるほど堂々としている。
「そういうものかなぁ…。」
「そういうもんだよ。」
これで話は終わりだと颯は教室へと歩いて行く。なんとなく腑に落ちない気もするが、あまり細かいことを言って恋人ごっこを終わりにされても困るので大人しくしておく。
颯はSクラス、僕はAクラスへと向かう。
蒼明館学園のクラス分けは完全実力制だ。Sクラスは、全国模試の上位に入っており、その上、定期テストで毎回全教科85点以上を取った者のみで構成される。この基準は絶対で、どれだけ該当する人数が少なくても変更されることは無い。
過去にはSクラスの人数が3人しかいなかったこともあると言われている。
Aクラスは模試上位+定期テスト75点以上、Bクラスは定期テスト75点以上と基準が変わっていく。
颯は全国模試の順位はいつも1桁で、定期テストも90点以下を取っているのを見たことが無いほどの秀才である。天は二物を与えずと言うが、類稀なる美貌を持っている上にこの頭脳とは、正直与えすぎだと思う。
僕は残念ながら定期テストで全教科毎回85点以上取るのは難しいため、Aクラスなのだ。
クラスは隣同士なので、直前まで一緒にいる形となった。
教室に入ると遥が興味津々といった感じでこちらに近寄ってくるのが分かった。
「えー!?なになに!?会長と真澄ってば遂にそんな関係になっちゃったの!?」
「違うよ。ただ一緒に来ただけだよ。」
堂々としてればいいんだという颯の言葉の通り変に言い訳をせず、でも暗に自分たちは深い仲ではないと答える。
「なぁんだ。あの堅物の会長も真澄の色気には勝てなかったのかと思ったのにー。ねー?」
同意を得るように隣に立つ真治に声をかけるが、真治はなんと返すのが正解か分からず、おろおろとしているのが雰囲気から分かる。
「真治が困ってるよ、遥。」
「えー?そんなことないよね、真治。」
まさに板挟みという状況で本格的に困った表情をした真治が何か言おうとした時、タイミング良くチャイムが鳴った。
「ほら、遥。チャイム鳴ったからクラスに戻んないと。」
これ幸いとクラスに帰ることを促すと、可愛い顔を歪めて“ちっ”と舌打ちをして、帰って行った。
これで一安心と自分の席に座ると、携帯が震えるのが分かった。サイレントにするためにこっそりと鞄の中に手を入れ操作をする。
メッセージもついでに確認すると、差出人は先程クラスの入口で別れた彼からのものだった。
『昼、生徒会室』
ごっこだとは思いながらも心が踊るのを止める術を僕は知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます