第7話

部屋で自炊をすれば、先に食べ終わっても同じ部屋にいるので爽が不安になることは無いし、さらに爽に栄養バランスよく食べさせることも可能であることが分かり、今では健康に育てるんだという使命感の元、楽しくキッチンに立っている。


2つ目の理由としては…。

「あ、LIME。」

携帯が僅かに震えたのが分かり、冷蔵庫を一旦閉めて内容を確認する。


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送信者:宝条 颯

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飯食いに行く。

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たったそれだけなのだが、僕の心を踊らせるのには十分であった。


2つ目の理由は、颯がご飯を食べに来るからであった。

毎日ではなく、たまにであるが、僕はこの時間が大好きであった。

颯が来るならと気合いを入れ直して、献立を考える。

3人分の材料が揃っているのは、鮭と野菜だけである。こんなことならもっとちゃんと買い置きをしておけば良かったと後悔してももう遅い。今から買い物に行っても、晩御飯の時間には間に合わない。

諦めて鮭のホイル焼きにしようと、アルミホイルを準備して作っていく。

アルミホイルには鮭がくっつかないようバターを塗って、輪切りにしたピーマン、細切りにした玉ねぎ、人参、しめじ、を彩り良く散らしていく。

こぼれないように両端を捻り、開いているところも捻ってドーム型にすると、フライパンに並べて弱火でじっくりと火を通していく。

その間にブロッコリーを茹で、別のフライパンでじゃがいも、ベーコンでジャーマンポテトを作っていく。何かスープでも有ればと思い、戸棚を探しているとポタージュの素が出てきたのでこれを使うとする。

お米は、お弁当を作った時にまだ残っていたので炊かなくても困らないだろう。


自分としては手際良く進められたように感じられたが、時計を見てみると夕飯まであと30分となっていた。

後は鮭の焼け具合を見ながら片付けをしていたら丁度いい時間になるだろう。

「ただいまぁ〜。も〜疲れた、お腹空いたぁ!」

ランニングをさせていた爽も帰ってきた。

「おかえり。もう少しでできるから、手を洗ってきて。」

「わーい!今日のメニュー何!?」

わーいわーいと歓声を上げながらキッチンにやってくる爽のお尻には、ぶんぶんとちぎれんばかりに尻尾が揺れているようだ。

「ホイル焼き?」

「ホイル焼き。」

「真澄のホイル焼き好き〜!」

自室で料理をしてから、メニューの名前や何故野菜を食べないといけないのかを説明すると徐々に覚え、今では家庭料理なら名前がスっと出てくるようになった。

苦手な野菜も少しずつ食べる量を増やしていき、たくさんとまではいかないが、それなりに食べられるようになったのである。

正に、教育の賜物である。

「付け合せもちゃんと食べるんだよ。」

「それはぁ、物によるかなぁ。」

「ブロッコリーとジャーマンポテトだよ。」

「なら大丈夫!」

好き嫌いは0になった訳では無いが、初めに比べると大分進歩した方だ。

「あれ?でもホイル焼き3つある。かいちょー来るの?」

ホイルの数で爽は来客があることに気づいた。ちょくちょく僕らの部屋にご飯を食べに来ていたので、料理を3人分用意した時には颯が来る時だと知っているのだ。

「そうだよ。だから早く準備しちゃいな。」

「わ〜!かいちょー遅いとカリカリするからたいへーん!急げ急げ〜!」

一度、颯が来た時に爽がお昼寝後だった時がある。寝起きでマイペースさに拍車がかかり、お昼寝をしていたソファから机に、座ってから食べるまでに時間がとてもかかったのである。

僕は慣れっこなのでまたかと呆れつつ見守っていたのだが、颯はあんまりの遅さに苛立ち、とうとう一喝してしまったのだ。

それからは爽は颯が来ると知るといつもの2倍の速さで動くようになった。テキパキと行動する爽は新鮮で楽しくもある。


ピンポーン


お皿に盛り付け終わった頃、タイミング良くチャイムが鳴る。はーいと返事をしながら出ると、そこに立っていたのはやはり颯であった。

「いらっしゃい。」

「おう。今日のメニューは?」

爽と同じことを尋ねる颯に思わず笑ってしまい、なんだ?と怪しげな顔をされる。

「鮭のホイル焼きだよ。」

答えると颯はとても嬉しそうに笑うのだ。

爽ともしたこのやり取りが、なんだか夫婦っぼいなぁと密かに喜んでいるのは内緒だ。

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