第4話
「ったく、美作と松井もだが、山田も山田だ。同性同士で惚れただのなんだの。」
あの後、萎縮してしまった山田は自分の仕事を終わらせると、逃げるようにそそくさと寮へ帰ってしまった。
颯とともに部屋に残されてしまった僕は、多少の気まずさを感じてしまう。
この気まずさは、僕がその嫌悪している同性同士の思慕の情を颯に対して持っているからか、それとも颯が怒っているのを肌で感じているからか…。
「山田もわざとじゃないから…。」
2人っきりになったため、仕事用の言葉遣いではなく友人に対するそれに変えて返事をする。
「ふん。少し仲が良かったり恋愛話をすると付き合ってるのかやら、好きな人がいるのかやら…。すぐにそう言った話題になるのはここの学園の生徒の悪い癖だ。」
眉間に皺を寄せ、腕を組んで背もたれに背中を預ける颯は心底不愉快だという表情をしている。
分かっている。この学園が少し特殊だということは。
普通の寮のように長期休暇には実家に戻ることがあるが、外の世界に触れる度にここでの常識は通用しないのだと痛いほどに感じる。
普通は、生徒が部活の予算を決めたり、行事の企画から運営まで行わない。
普通は、同性に対してファンクラブなんて出来ない。
普通は、男同士の恋愛なんて認められない。
颯は幼稚舎からこの学園に在籍しているにも関わらず、驚く程に外の世界の常識から外れない。羽目を外すこともなく、学園の特色に染まることも無い。
きっと、いずれ自分達は外の世界に戻ることを知っているからだろう。
「お前はあいつらみたいに惚れた腫れたと言わないから安心出来る。」
その貴方が安心しきっている僕は、遥と真治のように貴方と愛の言葉を交わしあったり、触れ合いたいと思っていると知ったらきっと軽蔑するだろう。
この学園にいる間は、特別な関係となる相手が作れないことに暗い喜びを感じていることも、貴方は知らない。
せめて、今だけは。
この学園にいる間は、貴方の隣にいれるのが、貴方の1番でいれるのが僕であって欲しい。
だから今日もまた、本音を隠して貴方の望む言葉を紡ぐ。
「僕も、颯は僕のことそういう目で見ないから安心だよ。」
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