第3話
「会議はこれで終わりだ。部活行くなり寮に帰るなり好きにしろよ。」
未だぶうぶうと文句を言う遥の事には触れず、颯は締めの言葉を言って会議はお開きとなった。
「あ、真澄は待てよ。今度の生徒総会に必要な書類を集めに行くから手伝え。」
筆箱にシャーペンを入れ、帰る準備をしていたが、名指しで言われてしまえば気づかなかった振りは出来ないだろう。全ての書類を集めるのにどれくらい時間がかかるだろうなぁとぼんやりと思いながらカバンの金具を閉じた。
まぁ、最初から何かあるだろうと思っていたので気づかない振りをして帰るつもりなど無かったのだが。
「えぇ〜真澄はまだ仕事あるの可哀想〜。」
頬杖を付いて遥が不満の意を表してくれたが、特に面倒だとは思っていなかったので、苦笑をしてしまう。
「新年度ですからね、忙しいものですよ。それに総会用の資料集めはそろそろだと思っていたので僕は全く気にしていませんよ。」
「真澄は良い子だねぇ〜。たまには会長に押し付けて遊びに行ったって良いんだよ?」
「真澄をどっかのちゃらんぽらんと一緒にしてくれるな。こいつはちゃんと責任感があるからお前みたいに適当にして遊びに行くなんてことしねーよ。」
「カッチーン。何それ〜!そんなこと言うんだったら僕部長会の資料作りなんて放ったらかして遊びに行っちゃうんだからね!!」
颯の言葉が癪に障ったのか、先程よりも大きく頬を膨らませてプイっとそっぽを向いてしまった。
部長会は来週にあるので、早急に資料を作って欲しいのだが、こうやって拗ねてしまった遥の決めたことは、機嫌が治るまで覆ることは無い。
困ったなぁと思っていると、今まで黙っていた会計の真治が静かに遥の元へと歩いていくのが分かった。
「遥、困ってる。」
「!!なぁに、真ちゃんも会長達の味方なの?」
じとりと睨め付けるような目で真治を見据えるが、元の顔の可愛さも相まってあまり恐怖は感じない。
「会長たちの味方、って訳じゃないけど…。」
「けど?」
「遥の仕事が終わらなくて、部活を見にきてくれないの、嫌、だから。」
そう言うとふわふわの髪の毛を優しく撫でる。撫でられている遥も尖らせた口はそのままに頬を赤らめ満更ではない様子だ。
良いぞ、真治!もう少しだ!!
「嫌?」
「嫌。」
「僕が見に行かないと頑張れない?」
「遥がいなくても、頑張る、けど、いつもより力は出ない、かも。」
「困る?」
「困る。」
短いけれどはっきりと、自分が必要という旨を伝えられ、遥の口元は嬉しそうに弧を描き始めた。
「んもう!真ちゃんったら僕がいなくちゃダメなんだから!こんな資料なんてパパっと終わらせて応援に行くからね!!」
「ありがと。」
真治からのエールでやる気に満ち溢れた遥は、早速ノートパソコンを開き、資料の作成に取り掛かっていた。
なんともあっさりとした幕引きに、やれやれと内心ため息を吐きながらも、お礼を言うために真治の方をチラリと見るが、真治は遥のことを見つめるばかりで視線は合いそうにもない。
このやり取りはもはやこの学園の生徒会の定番となっていた。颯と遥が喧嘩をし、遥が拗ねる。拗ねた遥を真治が諌めて機嫌を治す。傍から見たらバカップルだと言われる会話もこの二人はなんの躊躇いもなくするので、たまに聞いているこちらが恥ずかしくなるのだ。定番のやり取りにまたかと呆れつつも、臆することなく好きだと言い、相手からも同じ熱量の愛が返ってくるこの二人の関係性を羨ましくも思っていた。
光の速さで資料作りを終わらせた遥は、ニコニコとしながら真治の傍まで行くと恋人繋ぎをして足取り軽やかに体育館へと向かって行った。
嵐が去り、思わず2人の顔を見ると山田と視線があった。山田も似たような気持ちに違いない。
どちらからともなく笑い合うと、山田が鞄を持って立ち上がった。
「美作先輩も松井先輩も相変わらずですね。というか、宝条先輩に嫌味を言ったって絶対言い返されるだけなんですから、言わなければ良いのに。」
「まぁね。でもきっと言わずにはいられないんですよ。」
「…負けず嫌いというやつですか?」
「遥はね。」
そう言うと呆れたような表情に変わりため息を吐いた。
「宝条先輩に歯向かうなんて考えるのは美作先輩くらいのものですよ。」
「そう?」
「そうですよ。眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経だって抜群だしその上生徒会長ですよ?そんな凄い人に逆らおうなんて僕は思いません。」
山田の颯への印象は少々誇大だと思われるかもしれないが、ほとんど合っているので否定することは出来ず苦笑いを返しておいた。
「そんなに買い被らなくても…山田も大変な時とかは言っていいんですよ。」
「ありがとうございます。でも宝条先輩の仕事の振り分けはいつも的確でそんなこと思ったこともないですよ。」
「なら良いんですけど…。」
ちらりと颯を見ると、話をする僕たちには目もくれず自分の仕事をこなしていた。僕たちもそろそろ仕事に戻らなければ。
「さ、私たちも残りの仕事を片付けましょうか。」
「!そうですね。ついつい話しすぎちゃいました、すいません。」
「全然構わないませんよ。いい休憩になりました。」
「柳先輩は美作先輩と違ってしっかりしてて凄いです。本当、美作先輩にも見習って欲しいくらいですよ。」
今この場にいない遥に対して辛辣な意見を述べる後輩。日頃の行いのせいではあるのだが、友人を悪くは言えず、曖昧な表情をすることでなんとかその場をやり過ごす。
「…柳先輩は無さそうですよね、恋にかまけて仕事をうとかにするとか。」
後輩の一言に、ドキリと胸が鳴る。
「山田、変な事を言うんじゃねぇ。」
それまで黙って僕たちの会話を聞いていた颯が、徐に口を開いた。
颯に目を向けると先程まで書類に落としていた視線は、僕らを捕らえており、山田を射抜くように見ていた。
その迫力に、目の前の山田の体が硬直するのが分かった。幼馴染の僕でさえ緊張で身体が強ばってしまう。
「まあまあ、会長そんなに怒らないでください。」
「誰と誰が恋愛しようが自由だがな、俺と真澄を巻き込むんじゃねぇ。」
「迷惑だ。」
吐き捨てるように言われたその言葉に、胸の奥がズキンと痛んだ。
そう、僕は、この蒼明館学園の生徒会会長である宝条颯に長年片思いしている。
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