第五話 his youth -彼の青春-
スネイルが公王制を宣言してから七年の月日が流れた。
新たに公王制を宣言したスネイルは他の権力者と話し合い、新たな公王を決めるために国民からの投票を募り権力者たちは一斉に国民の票を集めるためにそれぞれ新たな政策、もしくは国民の支援などに全力を尽くし、フォルンは目まぐるしい速度で荒廃していた町が修復されていった。
そして公王制発表から一年という長い間投票を続け、票数が最も多かったスネイルが新たに公王となり国はスネイルを中心に復興作業を進める。
かつては瓦礫の山や朽ちた車、ブラックマーケットなどの不穏分子が復興の妨げになっていたがブラックマーケットの解体により外部からの妨げは少なくなり、町の防衛に当たっていた軍人を町の復興に回すことで人手もより増えたことにより見違える速度で国は綺麗になって行った。
そんな中スネイルは一人官邸の執務室で椅子に座っているとドアがノックされ、スネイルはノックした人物に入るように促す。
「入りたまえ」
「失礼します」
丁寧にドアを開け中に入って来たのは十五歳になった安部雅人であり、黒い髪をオールバックにし軍学校の制服を身に着け学校帰りなのか学生カバンを手に持って居た。
「すまないな急に呼び出して」
「いえ、貴方様の呼び出しならば何処に居ようと最速で駆けつけるおつもりです」
「……随分この老いぼれを買いかぶってるようだな……まあいい、今日は少し話があってな……お前は今軍学校に通っているようだな?」
「ええ、貴方様が与えてくださった名と生きる意味……そしてこの国を守れる軍人になるため、日々邁進しております」
雅人は胸に手を当て深々と頭を下げる。
「そうか……所でお前、経営に興味は無いか?」
「経営……ですか?」
煙草をふかしながらスネイルは雅人に尋ねると雅人は驚いた表情を見せ、あっけに取られているのが一目でわかり、スネイルは椅子を回し後ろを向き背を見せた。
「いや、何でもない……今のは忘れてくれ」
「……興味あります、この国の為になるのならば」
雅人がそう言うとスネイルは振り返り、机の中から一つの鍵を取り出すと机の上に置く。
「実は少し前に酒の席である小さな町工場を譲り受ける形になってな……しかし私は別に工場が欲しい訳では無いんだ……良かったらと頼みたかったんだ」
「工場を……一体なんの工場なのでしょうか?」
「元は機械加工の工場だったようなんだがな、私の支援者の下請けにそこの工場長が居て……その、なんというか最近軍事製品を作る機会が減ったとかで閉鎖する様で……土地ごと貰ったんだが潰すのも勿体なくてな」
バツが悪そうに話すスネイルだが、この状況を起こしたのはスネイルの政策が原因でもあるためあまり喜ばしい状態ではない。
だがそれを聞いた雅人は机に置いてあった鍵を拝借し、ポケットに仕舞い込むとにこりと笑う。
「確かにそれは勿体ないですね! なので私がこの国の利益になるよう活用致しましょう!」
「まあ、使うのなら私は止めはせん……しかし、私が言うのもなんだが軍の道は良いのか?」
「この工場で私は新たな物やテクノロジーを作り軍やこの国を発展させる予定が出来ました、故に私は軍に拘らずとも国の為になる道を歩むのみです」
雅人は敬礼をしながら声高らかにその事を宣言するとスネイルは嬉しそうに笑い、一枚の紙を取り出し雅人に渡した。
「それが工場までの地図だ、君の学校からそう遠くはない……君が卒業した年の四月から動かせるよう手配はしておこう、従業員も募集してな」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「ふふふ、では今日の要件はそれだけだ……頑張り給え」
「では、失礼します!」
再び敬礼を見せ雅人は部屋を後にし、すぐに自宅へと戻って行く。
「お帰り」
「ただいま、少し遅れてしまって申し訳ない」
雅人は施設に戻ると出迎えてくれた職員に頭を下げ、さわやかな笑顔を見せ自室へと戻っていき、四人一部屋の扉を開ける。
「ただいま」
「お帰り、がり勉」
同室の一人、茶髪で髪を長く伸ばしたスフルが冗談交じりにそんな事をいうと雅人はため息交じりに愛想笑いをした。
「あははぁ、そう言うのはあまり良くないぞ」
「だってそうだろ? 他の奴が遊びに誘っても机にばっかり向かってさ……正直、勉強と結婚してるんじゃないかって位だよ」
「仕方がないじゃないか、そうしないと私の夢も叶わんのでな」
学生カバンを机にかけ、一人一つ与えられている小さな金庫に貴重品類を入れ鍵を掛けると雅人は早速カバンから参考書を取り出しペンを握るが、スフルはやれやれと言わんばかりの表情を見せる。
「いったそばから……」
「君も机に向かってるんだから同じだろう?」
「馬鹿言え、俺が読んでるのはとっておきの……ヌードだ……お前も見るか? 何とか持ち込めた一級品だぜ?」
施設の中と言う事もあり過激な物は持ち込めない中、スフルはどうにか持ち込んだことを誇らしげに言うが雅人はため息を吐きながら参考書から目を離さずに返答をした。
「馬鹿言え、女の裸など今目の前にある参考書の中にある知識に比べればゴキブリと同じだ」
「うわひっでぇ、それでも男かよ……つうか男の方が好きなのかお前? 公王推しだしさ」
スフルは茶化すようにそう言うと雅人は振り返りざまに刃の出たカッターを投げつけ、スフルはそれを避けるも雑誌の中の女性がカッターの刃で串刺しにされた。
「うわあっぶな!」
驚きの表情を見せながらそっと雅人の方を見るスフルだが、雅人は椅子に足を組んで座っており冷たい眼差しでスフルを見下している。
「いいか、あの御方は神にも等しいお方だ! そのお方を穢れた思考で汚すのならば私は容赦しないさ、あははぁ……あははははぁ……」
「わ、悪かったって! な? だからその不気味な笑い方やめてくれよ……」
「不気味かね? ふむ、どうもこういう笑い方がしっくり来てしまってな……」
「不気味も不気味だよ……いやまぁ、個性だし俺は否定しないけどさ……」
冷や汗を掻きながらも、スフルは普段のお茶らけた感じを取り戻しそう言うと騒ぎを聞いたのか職員が部屋に入ってきた。
「何の音だ⁉」
「げ……」
「ん? おいスフル! その机のは!」
「うえ⁉ えっと……」
職員に言い寄られあっけなく雑誌を取り上げられ、スフルは目を泳がせながら何かを考えるが職員は呆れた表情でスフルの首根っこを掴む。
「取り敢えず没収だ! 後お前しばらくトイレ掃除な!」
「うえぇぇ……またぁ?」
「再発防止に努めろ!」
職員はそう言って雑誌を取り上げどこかに行くとスフルは泣きつくように雅人の方を見る。
「……なぁお前職員と仲良しだろ? あれ何とか回収できないかな? な?」
「…………」
雅人はスフルの泣き言を聞くことなく再び机に向かいスフルは項垂れた様に床に大の字になった。
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