第二十九話 end of war -自由の代償-
燃え盛るアジトの中、サンとナナとピーチャの三人は戦い続けていた。
無限とも思えるほど敵が多く、溜まる疲労の中諦める事無く戦い続け三人は煙に巻かれながらも何とか生存しており、弾の尽きた武器の代わりにクローン兵士のアサルトライフルを使い何とかしのぎ続けている。
火に炙られ流れる汗も乾く中、食堂を防衛しながら戦い一人は中で休憩する事で長期戦を可能にし、耐え続けていた三人だが遂に終わりが見えていた。
「やばい! 水が出なくなった!」
休憩していたピーチャが水分補給の為蛇口を捻るが、水道管が壊れたのか幾ら捻っても水が出ることは無く、入り口で戦っていたサンとナナは敵をあらかた始末し食堂に入る。
「どうするよ、水が出なくなったらここ守る理由がなくなっちゃうよ」
サンが焦りながら蛇口を捻るも何も出ず、サンは頭を悩ませた。
「移動する?」
「でも火の手が上がってないのはもうここぐらいしか……」
基地の大半は既に焼け落ちており、爆撃と火災の影響で徐々に建物の崩落が始まっている為、出口は食堂の窓しかなくその窓の外も多数の兵士が待ち構えており出る事はかなわない。
もし外に逃げる場合外に居る無数のヘリや輸送機が滞空している為、外に出た場合無数の弾丸が降り注ぐ事は間違いなく、強行突破も困難を極める。
「とにかく、今は耐える事だけ考えましょう……敵は待ってくれなさそうですし……」
燃え盛る炎をかき分け廊下を歩いてくるクローン兵士に向けてナナは引き金を引き応戦し、サンも続こうと廊下に近づこうとすると逆側の窓の付近が吹き飛び、ピーチャとサンが爆発のあった方向を見るとグレネードランチャーを構え、背中に四角い箱を背負った重装備のクローン兵士が堂々と立っており、三人は一斉にその場から離れた。
「サーチ……アンド…………デストロイ……」
「まずい! 逃げろ!」
重装備のクローン兵士は三人に照準を合わせ引き金を引き、爆発がキッチンのコンロに引火し誘爆し、爆風に押し出されるように三人は飛び出す。
「このッ!」
サンはサブアームのレーザーで装甲を切断しようと足を止め、アームの照準を絞ろうとするが重装兵は燃える上がる炎の中照準をサンに合わせており、ピーチャは慌ててサンのアームを引っ張り引き込む。
「うわぁ⁉」
突然後ろに引っ張られたサンは驚きながらピーチャの上に覆いかぶさるが、直後サンの居た場所が吹き飛び、二人は冷や汗を流す。
「せんきゅ、ピーチャ……危うく死ぬところだった」
「とりあえず逃げるよ! ナナ! そっちはどう?」
「敵影はありません!」
先頭に立っていたナナは曲がり角のクリアリングを行い、後続の二人に指示を送る。
「急ぐよサン!」
「おう!」
ピーチャの手を取りサンは立ち上がると、燃え盛る部屋から出てきた重装兵に背を向け走り、後ろから降り注ぐ榴弾を掻い潜り廊下の角を曲がる瞬間榴弾は天井に当たり天井が崩れ落ち、サンの足にぶつかる。
「くそっ!」
「サン!」
瓦礫に挟まれた足を抜こうとサンはアームを動かそうとするが、一本はピーチャが引っ張ったことにより損傷しており、もう一本は同じく瓦礫に挟まれており抜けなくなっており、ピーチャは手を貸そうとサンに近づこうとするがサンが挟まる瓦礫の上に重装兵が立っており、ピーチャは足がすくんでしまう。
「サーチ………アンド……」
重装兵は瓦礫の上に立っているせいかサンに気づかず、ピーチャに照準を合わ引き金に指を掛けるが、一本のレーザーが重装兵の装甲を貫き前腕部に風穴を開ける。
「させっかよ!」
瓦礫に挟まれながらサンは損傷したアームを自分で持ち、照準を合わせ重装兵を見上げていたが前腕部に穴をあけられても重装兵は怯むこともなく、銃口を下げ照準をサンの頭に合わせて引き金を引く。
「デストロォォォォォイ!」
「サン!」
爆風と共にサンの上半身が吹き飛び、ピーチャの伸ばした手のひらには肉片と血液がこびりつき、今一度手のひらを見たピーチャの膝が震える。
「ピーチャさん!」
異変に気付きナナは他のクローン兵士を片付けピーチャの元に駆け寄り、ピーチャの手を取り引っ張りながら片手で重装兵に向かって弾を撃ち付けた。
「サーチ……」
重装兵はアサルトライフルの弾に目もくれず再び照準を合わせ引き金を引くが弾は出ず、重装兵は弾倉を外し、背中のボックスを叩くと予備の弾倉が腰元のレールを伝い左手の付近に運ばれ、それを手に取り再び弾倉を装着する。
その隙に二人は遠くに離れ近くの部屋に隠れ身を潜めていた。
「はぁ……はぁ……」
「…………とりあえず追っ手は来てないようです……」
真っ青な顔色のピーチャに寄り添いながらナナはピーチャの頭を撫で落ち着かせようとするも、ピーチャは自らの右手が視界に入り先ほどの光景を思い出し耐えきれず嘔吐してしまう。
「おえええええ……ゴフッ…………」
「…………大丈夫です………大丈夫ですから……」
ナナは掛ける言葉が見つからず、優しくそういいながらピーチャを抱き頭を撫でているとピーチャは泣きながらナナの胸の中で泣き始めた。
「二人も……二人も救えなかった……アタシ…………サンもセツコも急げば間に合ったはずなのに! アタシは……二人を殺したも同然だ……」
泣きながらそんな事をいうピーチャは突如肩を掴まれ、顔を上げるとナナは真剣な表情で声をかける。
「…………泣き言は後にして、今は逃げ延びましょう? 二人ともピーチャさんには生き延びてほしいって願ってるはずですから………」
「…………うん………」
ピーチャは涙をぬぐい、首を縦に振り再び銃を握る。
しかし耳を澄ませると廊下から先程の重装兵の声が聞こえ、二人はすぐに身構え何時でも飛び出せる準備をした。
「サーチ…………サーチ………サーチ………」
呟きながら近づいてくる重装兵の音を聞き、二人は遠ざかるのを待っていたが重装兵が隣の部屋の扉を榴弾で吹き飛ばした音が聞こえてきた事で二人は即座に部屋を飛び出す。
「今なら!」
ナナは食堂を防衛している時に射程外である事からあまり使っていなかったショットガンを抜き部屋から出てきた重装兵の胸部装甲にショットガンを放ち、ほぼ至近距離から放たれるショットガンの衝撃を受け、重装兵は後ろに一歩下がる。
隣の部屋を確認していた重装兵は完全に虚を突かれる形となりグレネードランチャーを構えることなく計八発もの散弾を体に受け膝をつく。
「これなら……きゃッ⁉」
「サーチ…………」
顔に照準を合わせていたナナだったが、突如重装兵は拳でショットガンを薙ぎ払いショットガンを叩き落とされたナナが動揺しているとその首を掴み口にグレネードランチャーの銃口を押し込む。
「サーチ……アンド……」
「やめろ!」
ピーチャはナナが落としたショットガンを拾い重装兵の顎下を撃ち抜く。
すると重装兵はナナを離し、力なく後ろに倒れていき榴弾は天井を粉砕し瓦礫が降り注ぐ。
「ナナ!」
ピーチャはナナの手を取り、ナナは間一髪瓦礫に巻き込まれることなく重装兵だけが瓦礫の下敷きになる。
「ピーチャさん……ありがとうございます」
「いいって、アタシ達だけでも生き延びよう……あいつらの分までさ」
「…………そうですね、とりあえず他の敵を警戒しながら森まで逃げきれれば……撒くことはなんとか……」
「……どちらにせよ、出口を目指さないとね……」
未だ窓の外からはヘリのローター音や生き残りがいないか探す兵士の足音が聞こえ、迂闊に外に出れない状態が続いており、二人は出口を求めて動き始めた。
一方そのころ、兵器保管庫の地下に広がるクローン精製工場に入ったハジメは眼前に広がる無数の培養液の入った筒が広がる施設を上階から見下ろしており、自らがここから生まれた事実にため息を吐きながら目の前にあるガラスに銃口を向け引き金を引く。
しかしガラスは防弾性なのか口径の大きいハジメのハンドガンを耐え、衝撃を感知したのか警報が鳴り響き機械音声のアナウンスが流れる。
「研究所内での発砲を検知しました、防衛装置を起動させます! 職員は直ちにセーフティエリアに退避してください」
「セーフティエリア? 防衛装置の及ばない場所でもあんのか?」
鳴り響く警報の中、ハジメは剣を抜き上手く動かない右足を引きずりながら下の階に降りる階段を探し歩き出すが、廊下に四足歩行の虎のような獣が闊歩しており、体にはアーマーの様なものを身に着け背中には二門の銃口がついている。
そして首元には神経プラグの様な物がついており、その先にアンテナがついているのが見え、獣とは思えない律儀な巡回にラジコンの様に遠隔で操作していることに気づいたハジメは息をひそめ頭の中で策を練りはじめた。
「どうするか……あんなのは流石に想定してねぇな」
地上で運用されているところを見たことのない兵器であり、今だ実験施設の中で使われている為、試作機である可能性の高い兵器である事から自らの経験はあまり役に立たないであろうとハジメは思い、四足歩行相手にどう立ち回るかが問われており、また全体像すら把握していない施設の中をどう動き回るかも合わせ十二分に頭を悩ませる。
暫く考え、ハジメは剣を構え角から飛び出し首を切り飛ばし床を転がりアンテナを撃ち抜く。
咄嗟の事からか獣は一切反応する事無く地面に倒れるが、背部にある銃口だけが動きハジメに照準を合わせ二発の弾丸が発射される。
「うぐッ!」
ハジメは上体を仰け反らせイナバウアーのような状態で弾を交わすも、一発の弾丸が左頬から左瞼まで通る一筋の傷跡を作り、ハジメは左目を抑えながら銃口を剣で切り飛ばす。
「今……絶命したはずじゃ……」
傷跡から流れる血を拭い先ほどの銃口の謎を解き明かそうと考え始めるが、今の銃口を聞いてか他の獣が走ってくる音を聞きハジメは左目を瞑りながら近くの部屋に入り、ロッカーに掛かっていた白い白衣を切り眼帯の様にして縛る。
「さあ来い……」
人感センサーで開閉する扉の前で待ち、だんだんと近づいてくる足音に感覚を研ぎ澄まし、開く瞬間抜刀しそのままの勢いで剣を切り上げた。
獣は二匹居り、一匹は地面を走り近づきもう一匹は扉が開きそうそうハジメに飛びかかるが飛びかかった一匹はハジメの振った剣により頭が縦に割れ、下に居た一匹はハジメの弾丸を脳天に受け絶命する。
しかし先ほどの様に絶命した二体の背部にある銃口が動き、ハジメは剣を構えながら少しでも当たる面積を減らすため扉側に飛び込む。
放たれた弾丸の内一発はハジメの脇腹に当たり、もう一発は剣に当たり跳弾し部屋の中にあった監視カメラに当たり、監視カメラは機能を停止した。
「くっ! …………あ?」
ハジメは地面に足をつけると、即座に銃を構え背部の銃口を潰そうとしたが銃口は目の前にいるハジメを見失ったかのように明後日の方向を向いており、ハジメは納得の表情を見せる。
「なるほどな……遠隔操作ってのはその通りっぽいが、監視カメラで管理してやがったのか……となると……」
ハジメはドアを開けてすぐに廊下にある監視カメラを撃ち抜くと、廊下に居た獣たちは標的を失ったかのように辺りを散策し始め、ハジメはその横を歩いて通り抜けていく。
「仕組みがわかりゃどうって事ないな、人形如き」
ハジメは自慢げにそう呟くと一気に銃口がハジメの方に向けられ、ハジメは焦りの表情を見せながら息を潜め見失うまでやり過ごす。
「……まさか音にも反応するとはな、焦らされた」
冷や汗を拭い、ハジメは何もなかったかのように取り繕いながら工場の奥へと侵入していく。
同刻、クローン精製工場の上ではティオが銃声と爆炎によって目を覚ました。
「一体……今は……」
「起きたかレジスタンスさん! ならちょいと手を貸してくれ!」
「……その前に君は?」
「詳しい事は後だ! ほら武器! お前の相方からだ」
「……まあいいか、敵じゃ無さそうだし」
ティオは目の前にいる男が誰か分からないながらも銃を取り、倒れた装甲車をバリケード代わりにしながらクローン兵士に狙いを定め引き金を引く。
バリケードから顔を出したティオはバリケードの外に広がる光景を目にし、少しずつ事情を把握する。
バリケードの外にはアーマーを着ていないが神経プラグのある死体がいくつも転がっており、隣に立っている男もその死体と同じくアーマーを着ていないが神経プラグをつけているのを見て、ティオと同じくレジスタンスの様な組織であると推測しティオはリボルビングライフルを畳み、シリンダーをむき出しにしリロードをしながら男に話しかけた。
「戦ってからどれ位経ってるんだい?」
「おおよそ三十分位だな、どうかしたか?」
「いや、寝てた分ぐらいは頑張ろうかなぁって」
リロードを終えたティオは再び正確な狙いでクローン兵士の頭を撃ち抜いていく。
「流石レジスタンス! 俺も負けてらんねぇなぁ」
機関銃を握っているA2はバリケードから顔を出し弾丸をばら撒き、他の仲間も銃を握りクローン兵士を相手にするが突如バリケードから顔を出していた仲間の頭を弾丸が貫通する。
「スナイパーが居るぞ!」
A2の仲間が周りに声を掛け、A2はバリケードに掛けながら他の仲間に指示を出す。
「スナイパー! 位置を見つけ次第教えろ!」
「位置は特定できました! ですが……ビルの上です! 距離が離れていて当たりません!」
「あらら、どうしようかね」
A2はビルの上目掛けて機関銃を乱射するも、すぐにカウンタースナイプを受けバリケードに身を潜める。
「ダメだありゃ」
バリケードとして使っていた装甲車を貫通し、手元すれすれに弾痕が出来上がったA2は冷や汗を流しながら苦悶の表情を浮かべるが、それを見ていたティオはA2の肩を叩き声を掛けた。
「スコープ持ってない? それさえありゃ撃ち抜けると思うけど」
「スコープ? ほらよ」
A2はマグナムについていたスコープを外しティオに手渡すと、ティオはすぐにスコープの倍率を確認した後リボルビングライフルに付いているスコープと交換し始める。
「僕のライフルより高い倍率のスコープだけど、スナイパー代わりにでもしてたのかい?」
「いや、持てるだけの装備しか用意できないからな……使う事があるかもしれねぇって事でつけてただけだ」
「ふぅん、というかこれだけの武装どうやって用意したんだい? 君達クローン兵士だろ?」
「前線から呼び戻されたからな、その際の武装をコンテナに積み込むときに色々細工したんだよ……どうせ積み込むのは俺らだし、国もまさか前線の兵士の中に反旗を翻す奴が居るとは思ってなかったのさ」
「なるほど、僕らを追い詰めるために急ピッチで動いてただろうし……ザルなのも仕方ないか」
ティオはスコープを覗きビルの上でアーマーを着て対物ライフルを構えるクローン兵士と目が合い、引き金に指をかけ肌で感じる風の流れを読み引き金を引く。
「ぐえっ……」
ティオが引き金を引いたのと同タイミングで相手も引き金を引いたようで、ティオの肩から真っ赤な鮮血が飛び出し、ティオは後ろに倒れ込むがすぐに状態を起き上がらせ再びスコープを覗き照準を合わせる。
一方ティオの弾丸は対物ライフルのバイポッドを乗せている縁に当たり、スナイパーに命中はしていなかった。
「そんな状態で大丈夫か?」
「ははは、全然大丈夫じゃないね……死ぬほど痛いし、死にそうだ……でも今僕凄くやる気に満ちてるんだ、邪魔しないでくれ」
真面目なトーンで喋るティオは集中しながらスコープを覗き再び引き金に指をかけ、先ほどの弾丸の着弾点との差を計算し少し照準を上げ、引き金を引く。
再び弾丸が撃ち出された弾丸は空中で敵の弾とぶつかり空中で火花が散り、ティオの弾丸は対物ライフルの弾丸に勝てずに明後日の方向に逸れ、対物ライフルの弾丸は再びティオを襲う。
「カハッ!」
ティオの左胸を弾丸が貫通し、肺に穴が開いたティオは苦悶の表情を見せながらバリケードにもたれ掛かる様に座り、口から血を噴き出す。
「おい! 本当に大丈夫か!」
「うるさい……今僕は…………やらなきゃならない事があるんだ」
肺から空気が漏れ出し掠れた声を出しながらバリケードに手をかけ立ち上がろうとするティオだが、A2は心配になり肩を貸す。
「お前が何を思ってるか知らねぇけど、その傷は流石に死ぬぞ?」
「……死ぬね…………でも、死んでも成し遂げたいこと…………あるんだよね…………僕らは平和と…………自由を目指して…………戦い続けてきたからさ……」
スコープを覗き、三回目の狙撃を始め照準を調整し始める。
二回目の狙撃の際相手の弾丸に押しのけられたことを思い出し、射線が被らないように調整し痛みと息苦しさを気合で無視し引き金を引く。
放たれた弾丸は対物ライフルとぶつかり合うことなくすれ違い、弾丸は次こそ敵の額目掛けて飛んでいきアーマーのカメラ部分を撃ち抜き、装甲の無いカメラ部から頭を撃ち抜かれクローンは絶命する。
反対にクローンから撃ち出された弾丸はティオの髪を掠めどこかに飛んでいき、ティオは仕留め切れた安心感から再び血を吐き大の字になって倒れ込む。
「おい! しっかりしろ!」
A2は機関銃を乱射しながら声を掛けるがティオは何処か満足そうな表情で語り始める。
「はは…………最初はやる気なんてこれっぽちも無かったくせに…………あの記憶が脳裏に焼き付いて…………生きる気力なんて尽きてたはずなのに…………アイツにいい様に言われて……僕は僕のやるべき事が……分かった…………この戦いはもうすぐ終わる…………その時まで僕は生きてないけど…………それでいいんだ…………最後に……僕は僕らしくなれたから…………死んでもやりたいことができたから…………僕は…………」
最後に満面の笑みを見せて小さく呟く。
「生きててよかった…………」
「…………その言葉確かに聞いたぞ…………」
A2はもう動かないティオを見ることも無くそう言うと、大きな声を上げる。
「お前らぁ! 何としてもこの戦いを生き残るぞぉ! レジスタンス共に伝えなきゃいけない事が出来た!」
『おう!』
A2達は疲れ果た神経と体に鞭を打ち、引き金を引く。
一方その頃結城とカトルは社長室のある45階に到達していた。
しかし最後の抵抗と言わんばかりに、大勢の兵士が扉の前に固まっており突破は困難を極めており、二人だけでは切り開くことが出来ない軍勢に足止めをくらっている。
「多すぎる……」
敵は二人を通さないために横に並び銃を構え、カトルと結城は拾ったアサルトライフルで応戦しながら、カトルは手に持って居るビーム刃を持つ投擲武器で少しずつ決定打を与えている。
しかしその投擲武器も底をつく寸前であり、二人は焦りを感じていた。
「結城さん……僕が囮になります……その間に突っ切ってください」
「カトル君? いくら君でも流石にこの数は……」
未だ突破不可能に見える敵の軍勢にしびれを切らしたのか、カトルは剣を握り突撃を提案する。
そんなカトルに結城は自制するように言い聞かせるが、カトルは剣を構え結城に言い聞かせるように言う。
「大丈夫です……僕はあんな連中に負けません……絶対に…………それに結城さんだけでもたどり着けば世界は変わる筈です……」
力強い視線で伝えるカトルに結城は押され、結城は手を握り真剣な眼差しで口を開けた。
「……分かった、君の思う通りにやってみてくれ……」
「ありがとうございます……では僕が扉まで敵を切りながら進むので後に付いてきてください!」
そう言うとカトルと結城は一斉に飛び出し、廊下の真ん中を駆け抜ける。
敵も銃を構え臨戦態勢を取るものの、カトルの投げる数少ない円盤状の投擲物で首を切断しながら確実に頭数を減らし、近くの兵の銃を切り裂き抵抗力を削ぎ反撃を封じながら切り開き、やがて社長室の扉にたどり着き結城は扉を開け中に飛び込む。
カトルは扉の前に残り扉の前を守る様に立ちふさがり、一歩も進ませまいとクローン兵士に切りかかる。
強引だった突破作戦も上手くいき、結城はかすり傷のみで何とか社長室にたどり着くことが出来、結城は銃を抜き構えながらゆっくりと背を向けて座る安部雅人の机の前に立ち、銃を構えると安部雅人は気付いたかのように椅子を回し振り返った。
そして拍手をしながら立ち上がり、突拍子もない行動に結城は一歩後ろに下がる。
「おめでとうおめでとう……いやはや、ここまでたどり着くとは…………流石我が子が作った組織だよ」
「ふざけてるのか!」
今すぐにでも頭を撃ちぬけるよう頭に照準を合わ凄むも、安部雅人には銃が見えていないかのようににやけ顔を見せた。
「あははははぁ……君はやはり私の行動を理解していないようだな……」
「通信の時も言ったはずだ、お前の狂った頭の中なんて知らないと」
「そうかそうか……なら教えてやろうか? 聞けば君も私を理解できるはずだ……もし君が理解できて私の元で働くなら特別な席を用意してやろう」
「寝言は寝て言え!」
「まあまあ聞きたまえ……そうだな、まず私の生い立ちから話そうじゃないか」
銃を向けられている筈だが、安部雅人は呑気に湯気が立っているコーヒーポットからコーヒーを注ぐ。
「君も飲むかい? 旨いブルーマウンテンだぞ?」
「いかれてるのか?」
安部雅人は机に二つコーヒーカップを置き、椅子に座る。
「気が向いたら飲みたまえ……できれば熱いうちにな……」
コーヒーを一杯すすり、安部雅人は語り出す。
「まあ生い立ちと言っても幼少期は一言で表せてしまうんだがね……物心ついた時から私は白人奴隷だったのさ……貰えるのは残飯、着る物なんて何もなかった……生まれた場所さえ分からなかった……それもそうさ、世界は核戦争の後で国境も司法も死んでいた時代だった…………だが物心がついてから冬を8回越したあたりで私はある御方に助けられた……それはこの国の前公王だった……前公王は素敵な御方だった……私に住む場所、亡き友人の名前、教育、資金、そして家族もくれた……嬉しかった……そして私はあの御方がトップであるこの国を愛した……だからこの国の為になることは何でもやった! 全ての業種を扱えるほどの大企業も立てた! この国にある全ての企業を買収してブランドを統合し、価格を操作し続け技術も育て経済を回した!」
コーヒーを飲み干し、カップを机に叩きつける様に置く。
そして興奮した安部雅人は椅子から立ち上がり、両手を広げて熱演を続ける。
「そして私の財産も国に多く寄付をした! だが! だがそれでも国が豊かになるには限界があった……元々国土の小さく地理に恵まれないフォルン公国は他国程豊かにはなれなかった……それに他国の伝統芸能や観光スポットの様に優れたものも元々持ち合わせていない……だから私はもっと国を豊かにするため戦争をする他ないと思っていた……しかし前公王は争いを好まない方……私はその考えをグッとこらえて五年の月日が経った……そんなある日前公王が病気で急死し、代わりにその息子が後を継ぐことになった……だが現公王は前公王の席は継げど、意志は全くもって継いでいなかった! まず奴が先に行ったことはこのFギアーズの独占を終わらせるために新企業を支援し始めた!」
安部雅人は声を荒げ机の上の物を全て投げ捨てる。
「そして奴は私に頭を下げて寄付はもういいから市場の独占をやめてほしいと言いに来たのだ! ふざけるな! 誰のおかげで国が豊かになった! 誰よりも国の事を考えている私を侮辱しやがって! ……そう思った私は、とことん奴の意思と反した行動をとった……まずは新企業が建つ度に買収を繰り広げた、国の連中が介入することもあったが個人個人脅しを掛ければ簡単に買収を進められた……そして奴の部下も買収し、徐々に奴を孤立させていった……あはははははは! ざまあ見やがれ!」
机をたたき割らんばかりに、何度もたたき大声で笑う雅人を見て結城はポソリと呟いた。
「狂ってる……」
だがそれを聞いた雅人は笑いながら結城を睨んだ。
「狂っている? 狂ってなどいない! 私は愛しているんだ! この国を! ただそれだけだ! だから私は奴が私の傀儡になる様に執拗に追い詰め、この国の実権を握り戦争を起こした! その結果どうだ! 国土は見違えるほど広くなり、それでいて国民の殆どは死なずに豊かさを享受している! 伝統芸能も観光地も半分手に入れた! もう少しでこの星自体がフォルン公国になる! そうすれば誰もがフォルン国民で、誰もがその豊かさを享受できる! 何故ソレが分からない! クローン兵士の解放などと謳いやがって! あいつ等は作られた命で国民じゃない! どうなろうと関係ないではないか!」
安部雅人のその一言結城は怒り、引き金に指を強くかけ声を荒げる。
「ふざけるな! 関係ないだと! 確かにつくられた命で、アンタの言う通り国民では無かったとしても、あいつ等は人間だ! 喜怒哀楽を持って自分で考えて! 俺らと何の違いも持たない!」
結城は此処に来るまでに失った仲間の事を思い出し涙を流しながら安部雅人の頭を撃ち抜く。
ハンドガンの弾は無慈悲に安部雅人の脳天を撃ち抜き、椅子に腰かけた状態で安部雅人は絶命するが、それと同時に脇腹から血を流した結城は膝をつき呆気に取られていた。
「な……なんで……」
激痛に膝をついた結城は机の下に穴が開いていることに気づき顔を上げ机の上を見ると死んだはずの安部雅人がそこには立っており、その後ろを見ると先ほど額を打ち抜いた安部雅人の死体が椅子に座っている。
何が何だか一瞬分からない結城だったが、同じ顔が二つ並んでいる違和感に気づき絶望した顔を見せた。
「クローン……」
「あはぁ、正解さ……だが喋っていたことは本当、私はこの国を愛して止まない……ただそれだけさ」
「がっ⁉」
つま先に鉄の入った鋭い靴で、結城の顔面は蹴り上げられる。
「残念だよ、実に……もっと理解してくれてもいいと思うんだけどね……」
仰向けになった結城の足と肩に二発弾丸が撃ち込まれ結城は激痛に涙を流しながら、反撃しようと銃を持ち上げようとするが即座に銃を蹴り飛ばされ、銃は結城の手を離れてしまう。
「安心してくれ、君も海斗もアンダー君も……全員歴史書に名前を遺してやるよう手配してやろう……国に逆らったテロリストとしてな……そして私は英雄として同じ歴史書に載ってやる……あははははぁ、あはははははぁ……ああ、愉快愉快」
次は結城の頭に照準を合わせ、結城は覚悟を決めて目を瞑るしかなかった。
「さようなら、身勝手なレジスタンスよ……」
銃声が鳴り響き、結城は死を覚悟したが直後聞こえてきたのは安部雅人の叫び声である。
「が……があああ……腕……腕が……腕があああ……」
結城は何が起こったのか分からず、目を開けるとそこには切断された腕を抱える雅人の姿があり、その視線の先には装甲にいくつもの穴をあけられ、その穴から血を流しながら立ち尽くすカトルの姿があった。
カトルは重症を負い、今にも事切れそうな足取りで安部雅人に近づき腹に剣を突き刺し睨むと、安部雅人は怒りの表情で口を開く。
「き……きさま……私が貴様を作ったんだぞ……何故躊躇いもなく剣を刺せる……」
「……それは貴様が僕たちの大切なものを奪い続けたからだ!」
「大切な物? ……はははぁ……お前みたいなクローンが戦い以外に大切なものなどあるのかね?」
「ああ……僕の仲間だ!」
その言葉に苛立ちを感じたカトルは、刺しこんだ剣を横に薙ぎ雅人の腹を割り口から血を流し、腹から臓物がずり落ちた状態で仰向けに倒れる。
しかし上半身だけの状態の筈だが、執念なのかまだ息のある雅人は最後に口を動かす。
「わ、私を殺しても……世の中は……私の意思を……継ぐ者が……居るはずだ……戦争が終わらない……限り……Fギアーズは……不……滅な……の…………だ……」
カトルは執念を見せる安部雅人の首を切り落とし、瀕死の結城に近づく。
「……結城さん……待たせてしまってすいませんでした」
「……これで全部終わるのかな……」
「終わる筈です……だから手を取ってください……お願いします……」
カトルは結城に手を伸ばすが結城はその手を取るわけでもなく、安らかに笑うだけだった。
「ねぇカトル君…………セイ君の伝言覚えてるかい? …………恨みだけで行動しないでくれって…………言ってたはずなのに、俺……恨みだけで行動してさ…………馬鹿だよな……でも、こんな馬鹿に君は……君らは…………付き合ってくれた…………ありがとう…………」
結城はカトルの頬を伝う涙を拭い、小さい声で呟く。
「ねえ……俺からの最後の言葉…………生き残った皆……長生きして…………この醜い戦いを…………真実を…………後世に伝えて……繰り返さないで……」
結城は最後の言葉を残し事切れ、カトルは冷たくなった結城の手を握り大声で叫ぶ。
「……何寝てるんですか……アンダーさんや海斗さんが死んだ今……貴方だけでも見ないといけない景色があるでしょう! 僕たちの戦いが終わったこの世界を!……なんで寝てしまうんですか……皆待ってますよ……お願いです……目を覚まして……戦いが終わった世界を見てくださいよ……貴方達のお陰で勝ち取った勝利を……見てけよぉぉぉぉぉぉぉ!」
泣きながら懇願するも結城は動かずカトルは散々泣いた後、フラフラと部屋を後にしていった。
時を同じくして、クローン精製工場の最深部に辿り着いたハジメは無数の培養液が並ぶ道を通りその中身を眺めていた。
培養液の中には腕や足などのパーツが入っており、その一つ一つに番号が振られており、クローンの生成方法を思い出したハジメはここに来た時と同じくため息を吐く。
「パーツ単位で作って後でくっ付ける……効率だけを求めた絵面だな……最低だ」
反吐が出そうになる感情を表に出しながらハジメは発電室に入って行き、目の前にあるコンソールと施設内に収められた火力発電所があり、ハジメは問答無用で銃を構えコンソールを撃ち抜くと制御を失った火力発電所は警報を鳴らすが、ハジメは気にせず背を向け歩き出す。
「本当に、最低な一幕だったな……はぁ、俺はどうなるんだろうな」
培養液に浮かぶ赤髪の頭のパーツを見たハジメは過去を思い出し、今日何度目かのため息を吐き奥から聞こえる爆音すら耳には届かず物思いに耽る。
ハジメは昔、2500番台の優等生だった。
誰にでも優しく、右ひざがうまく動かないハンデを背負っていても同番台の中では誰よりも強く優秀であった。
だがそんなハジメには裏の顔があり、それは自分が兵器であるという使命感と義務感から自分に向かってくるもの、自分より強いと思えるものを監視カメラの無い場所に呼び出しサシの勝負を仕掛けるという決闘を行っており、必ず必要以上に叩き潰し医務室に何人も送り続ける日々を送っていたある日。
その日は最後は口封じのために、生爪を一枚はがし口外しないよう脅してから気絶させその場を去った。
勿論この事は問題になり、犯人探しが始まったがその候補の中にハジメの名前は無く優秀なハジメは疑いの目を掛けられることは無く、日々を過ごしていた。
そんな日々を送っていた時、同番台で体の成形が遅かったティオが同じ教育機関に同番台として編入し、最初ティオは誰よりも弱く特に目立った人ではなかったが、一ヵ月もすると徐々に頭角を現し始め、ハジメに次ぐ強さと噂され始めるほどに成長したのだ。
ハジメはこれが気に入らず、溜まった鬱憤を晴らすために決闘を挑むことが多くなった頃、その現場をティオに見られてしまう。
何時もの通り強いと呼ばれる別番台のクローンを呼び出し、馬乗りになりながらもう立ち上がれないほどに叩きのめし、いつもの如く生爪を引っぺがして首根っこを掴みながらハジメは呟く。
「口外したら次は爪じゃ済まねぇからな……それに元々てめぇも乗っかった喧嘩だ、誰かにチクるようなだせぇ真似しねぇよな?」
顔がボコボコに腫れた相手は泣きながら首を縦に振り、それを見たハジメは最後の一撃を顔面に叩き込み相手は気絶する。
ハジメはすっきりした表情で立ち上がり、立ち去ろうとすると後ろに人影がある事に気づき足を止めた。
「やあ、初めまして」
「……」
赤髪の少年ことティオがこちらに向かって挨拶をするが、ハジメは問答無用で拳を振りかぶる。
しかしティオはその拳を受け止め足を掛け、ハジメは背中を地面に打ち付け肺の空気が押し出され吐き出された。
「……困ったなぁ、君に挨拶しようと思ったら急に殴られそうになるなんて……」
「白々しい嘘つきやがって……」
「あは、そうだね……まあ一応これは正当防衛だし怒らないでね」
その言葉にイラっと来たハジメは、立ち上がりざまに渾身のボディーブローを打つもティオは簡単にそれを避け、ハジメの鼻っ柱に拳をたたき込みついでのローキックを決める。
ハジメは膝をつきながら鼻を抑え、もう片方の手でローキックが決まった足をさすりながらティオを睨む。
「てめぇ……」
止まらない鼻血を抑えながら、ティオを睨むがティオは興味を失ったかのように立ち去りハジメは捨て台詞を吐く。
「覚えてろよ……次会ったときは必ず殺してやるからな……」
「……いいよ、もし次会う事があったらその時は本気で潰してあげる……まぁ、もし次会う事があったらね」
それだけ言ってティオは去っていく。
翌日、ハジメは尋問部屋に無理やり連れてこられ、とある質問を受けていた。
それは最近起きている闇討ちの主犯ではないかという質問であり、焼けた棒を片手に常に高圧的な態度で質問を続けられ、最初は優等生の仮面を被っていたハジメも二時間後には化けの皮が剥がれ内容を認め、ハジメは一ヵ月ほど拷問部屋に入れられた後、処理待機室にて処理を待つ身となった。
それがハジメの隠したい過去であり、ティオとの因縁である。
ハジメはハッチのある場所まで行き、階段を上りハッチを上げると上に立っていた兵器保管庫は倒壊しており、力いっぱいハッチを開けると瓦礫を押しのけ新鮮な空気が流れ込み、日差しが差し込み目を細めた。
ハッチを開け地上に出たハジメは町にあるスピーカーから聞えてくる声に耳を傾ける。
「繰り返します、クローン兵士およびフォルン公国国軍に告ぎます! イヴァンディア連合との戦争は終結しました! 全ての戦闘行為を直ちに終了し武器を捨てその場で待機してください! 繰り返します!」
「この放送は?」
「終戦だとさ、ほらよ」
後ろに立っていたA2はハジメに近寄るとティオの持って居たライフルを手渡し、ハジメは何が何だか分からない表情を見せた。
「ティオは?」
「…………伝言だ、最後に死んでもやりたいことが見つかったから……生きててよかったってさ」
「……案内してくれ、俺からも伝えたいことがある」
「こっちだ」
ハジメはA2の後ろをついていき、倒れた装甲車の後ろで大の字で満足そうな顔で死んでいるティオの近くにしゃがみ、ハジメは声を掛ける。
「……お前が最後に生きててよかったと言えた意味、俺には分からないな…………死んでもやりたいことが出来た? ふんっ……死んでもやりたいことなんて、生きてりゃいくらでもあるっつうの……だがまあ、死体に語り掛けた所で無意味か……じゃあな、こいつは貰ってく」
それだけ言うとハジメはその場を立ち去り、朝日を見上げた。
同時刻、レジスタンスのアジトの玄関前まで迫ったナナとピーチャは迫りくるクローン兵士に足止めを食らっており、煙に巻かれながらも戦い続けていた。
二人は仲間を失った悲しみをバネにし、相手の数を減らし最後の一体を倒した二人は玄関に走り出口に近づいた時、壁が吹き飛び瓦礫の下敷きになったはずの重装兵が現れ目の前に立ちふさがる。
「こいつ、まだ立つのか!」
「サーチ……アンド……デストロイ!」
重装兵はグレネードランチャーの引き金を引き、ピーチャとナナは互い互いの方向に飛び弾を回避し、銃を構え撃ち込むが装甲に阻まれ決定打を与えられない。
再び目の前に立ちふさがった重装兵に疲れ切った二人は短期決戦を仕掛けるためにナナは自分が持って居る二丁のショットガンの内一丁を投げ渡し、二人は互い互いの方向から近づきショットガンの射程まで詰め寄る。
「サーチ!」
「くたばれ! 化け物!」
ピーチャは足でグレネードランチャーを蹴り上げ、ショットガンを構えるが引き金に指を掛けるが、重装兵は腰部からもう一丁のグレネードランチャーを取り出しもう一丁をピーチャに向け引き金に指を掛けた。
「させません!」
ナナのショットガンがグレネードランチャーを撃ち抜き、シリンダーが爆発し重装兵はうめき声をあげ右手を抑え、千切れ飛んだ指先から流れる血を眺める。
「サーチ……」
「こっち向け!」
ピーチャは項垂れる重装兵にショットガンを向け、胸部装甲を撃ち込むが重装兵は先ほどの様にひるむことなく、指の少ない右手でピーチャを殴り仰向けに倒れたピーチャの体を踏み、グレネードランチャーを突きつけ呟く。
「サーチ……アンド……」
引き金に指を掛けた重装兵は背後に迫る気配を感じ振り返るとピーチャのスーツの標準装備である索敵ドローンが飛んでおり、その隙をついてピーチャは重装兵の背部に付いている弾倉の入っている箱に散弾を撃ち込み、重装兵の背中で爆発が起き重装兵は前のめりに飛んでいき、うつ伏せに倒れた。
「サ……サーチ……アンド……デスト……ロイ……」
重装兵は顔を上げると目前にナナが立っており、ナナは静かにショットガンを顔に付きつけ口を開く。
「貴方が来なければサン君は死なななかった……貴方達が来なければセツコさんは死ななかった……その全てを、死をもって償ってください」
「サーチ!」
ゼロ距離でショットガンを弾倉を空になるまで撃ち、頭部装甲が粉々になるまで撃ち抜き重装兵は沈黙する。
「……行きましょう」
「そうだね、ゴホッ!」
「煙を吸い過ぎましたね……肩を貸します」
「ありがと……」
ナナはピーチャに肩を貸し、二人はゆっくり玄関に歩いていきあと数歩で外に出られるという所で、天井にひびが入り瓦礫が降り注ぐ。
「ナナ!」
「……え?」
ピーチャはナナを突き飛ばし、瓦礫の下敷きになり左腕と頭だけが瓦礫からはみ出している状態になり、ナナは急いでその手を取り引っ張り出そうと力を入れる。
「ピーチャさん!」
「ナナ……早く逃げて!」
「置いていけません! ここまで一緒に来たんですから! 置いていくわけには!」
ナナは必死に引っ張り、スーツの力もありピーチャは徐々に引っ張り出されていき希望の見えたナナは更に力強く引っ張りピーチャを助けようとするが、ピーチャが動いたことにより上に積まれていた瓦礫がずれ、屋根の瓦礫が滑り落ちピーチャの頭を潰し肩を切断した。
「…………え?」
しりもちをついたナナは右手に握られているピーチャの腕を見て涙があふれ、泣き声を上げる。
「あ……ああ…………あああああ…………」
声にならない声を上げ地面に座り込むナナは膝を震わせ、腕を抱きながら焦燥感に駆られ辺りを見渡すと先ほどまでいたはずの輸送機やヘリはどこかに飛び去っており、この場にナナ一人しかいない事実に気づき、ナナは大声で声を上げた。
「誰か…………誰かピーチャさんを……助けて! お願い! 私が引っ張らなければ! お願い誰か! …………お願いですから…………許して…………」
泣きながらそこには居ない誰かに許しを請いながら涙を流し続け、一人その場から動かず座り込むナナは終戦の報せを知らない為か、そこから長らく動くことは無かった。
長かったイヴァンディア連合とフォルン公国の戦いはレジスタンスとFギアーズの両者もろとも深手の傷を負い失った命は数知れず、残酷な結果を残し幕を閉じた。
全ての戦いが終わってから数ヵ月後。
クローン兵士とレジスタンスは皆、国営の病院に移されていた。
そして病院の五階の病室で包帯を巻かれたカトルは、ベッドに横たわりながら窓の外を眺めていると部屋の扉がノックも無しに開き、ハジメは来訪者の方を見つめる。
「ハジメ?」
「ああ、カトル君……久しぶり」
部屋に入ってきたハジメは複雑そうな笑顔を見せ病室に入ってくるが、カトルと違い病院服ではなくパーカーとジーンズ姿であった。
「ハジメはもう退院か?」
「ああ、これから養子として向かい入れられるまで施設に入るんだってさ」
「そうか……良い親に会えるといいな……」
「お互いね……」
窓の外は大雨が降っており、雨が強く窓を叩く音を聞きながらカトルはハジメに質問する。
「ねえ……ハチはどうだった?」
「……ハチは……ショックで廃人みたいになってる…………時たまノインの事を思い出しては泣いて髪の毛毟ってるってさ」
ハチは好意を抱いていたノインが目の前で戦死したショックからトラウマを植え付けられており、前の様な明るさはどこかに行ってしまい精神病棟に隔離を検討されている状態になっている事を聞き、カトルは悲しげ表情を見せた。
「他に誰が生き残ったのかな?」
カトルはハジメに生存者を問うと、ハジメは少し考え曖昧な答えをカトルに伝える。
「……生き残ったのは僕、ハジメ、ハチ……後小夜さんかな……」
「小夜さん、無事だったのか?」
「ああ……でも不時着したセスナが炎上して、体は火傷の跡だらけだった……」
「会いに行ったのか?」
「会いに行ったけど……まだ昏睡状態みたいで、話は出来なかった」
小夜の現状を聞きカトルは再び悲しげな表情を見せ、窓の外を見ながらため息を吐く。
「僕たち……勝ったんだよな……」
「……勝ったんだよ……でも喜びある勝利じゃ無かった…………」
世界の国が二つまで減った前代未聞の戦争は幕を閉じ、二カ国間で新たな条約が結ばれ束の間の平和が約束されたクローンだが、世論では既にクローンという人型兵器の非人道さと人に似ているが人とは違うという事が取り上げられており、更にそのクローンが世に解き放たれるという事実に世間は恐怖心を煽られていた。
故にクローンの生きる道は茨の道である事は誰が見ても明白であり、ハジメとカトルはその現状に手放しで喜ぶことは出来ずにいる。
「じゃあ僕はもう行くよ、またいつか会えるといいね……カトル……」
「ああ……じゃあね」
ハジメは部屋を後にして、扉を閉める。
一人だけになった部屋の中、雨音だけが響き渡る中カトルは目を瞑って布団を被り外界の音を遮断し明日こそ幸せな世界があると信じ、眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます