第二十八話 liberation front line -解放戦線-

 一方そのころ火の海に包まれたアジトの中、サンとピーチャは敵の大軍を迎え撃ちながら着々と医務室に近づいていく。


「こんな所まで来てるなんて、軍の連中めかなり本気で来てやがる!」


「セツコ……生きて待ってて……」


 アジト内はクローン兵士がうろうろしており、顔の隠れたアーマータイプを使用しているクローン兵士と違い、顔の隠れていないスーツタイプの二人は火災の熱気と煙に悪戦苦闘しながらも決して歩みを止めることなく銃を構え、続け追っ手や伏兵を確実に仕留めながらセツコの待つ医務室に到着した。


「あった! 行くぞ!」


 サンは医務室のドアを握ると火災の影響で熱された影響か温かさが装甲越しでも伝わってくるが、躊躇うことなくドアを開け部屋の中を確認する。

 その瞬間何かが崩れるような音がし、サンとピーチャは急いでセツコに駆け寄ると崩れ落ちた屋根がセツコが横たわっていたベッドをペシャンコに押しつぶしており、細い腕だけが瓦礫の隙間から顔を覗かせていた。


「……おい……おい!」


 サンはセツコの手を握るもその手が握り返すことは無く、余りに無情なその状況にピーチャは拳を壁に打ち付ける。


「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」


 ピーチャの怒りの拳は壁にひびを入れ、そんなピーチャを見てサンは言葉を失いその場で立ち尽くしていた。


「どうして……どうしてアタシ達がこんな目に……」


「……クソ共が……」


 怒りのあまり奥歯を砕けんばかりに噛み締めるが、そうこうしている内に廊下から銃声が聞こえ、サンは今まだ戦闘の最中である事を思い出し顔を上げた。


「ピーチャ、ここに居たら俺らも死んじまう……逃げよう」


「……やだ、セツコを置いていきたくない……」


 ピーチャはセツコのと思われる腕を握ったまま離さず、泣き声でそう訴えるがサンはそんなピーチャの肩を掴み目を見て話す。


「言ってる場合か! ……俺らだけでも生き延びよう……セツコもきっとここで共倒れする事なんか望んじゃいない……」


「……」


 サンの一言に押され涙を流しながらピーチャは頷く。

 二人は最後にセツコに黙祷を捧げ、部屋を後にし扉を開けると廊下には数多くのクローン兵士の死体が壁に寄りかかりながら並んでいた。

 そのほとんどは頭を吹き飛ばされており、痛ましい姿になっており何があったのかと辺りを見渡すと廊下の先に二丁のショットガンを持ったナナの姿があり、今までほとんど戦ってこなかったナナがこの人数を全て撃ち殺した事は誰が見ても明らかであり、どこかいつもと違う雰囲気に緊張しながらサンは恐る恐るナナに近づき声をかける。


「ナナ? ナナなのか?」


「あ、サンさん……ピーチャさんも、無事でしたか……」


「うん……でもセツコはダメだった……」


「そうですか……そうだ、二人に伝えたいことがあります」


「何かあったの?」


「結城さんと小夜さん……他五人はFギアーズ本社に向かいました……私達は私達で何とか逃げ延びなくてはなりません」


 先程あったことをナナは二人に伝える。


「置いて行かれたって事か?」


「そう取るか、任されたと取るかはお任せします……」


「……ならアタシはここに残って、皆の帰りを待つ……全てが終わったらみんなきっとここに帰ってくるはずだから……」


「……俺も残る……あいつらに俺らの居場所を好きにされてたまるか!」


 ピーチャとナナは武器を構え、廊下の奥から現れたクローン兵士を臨む。

 そしてナナも二丁のショットガンのコッキングを行い、次の戦闘に向けて準備を始め二人に指示を出した。


「では二人は一組で動いてください……私は一人で大丈夫なので」


「なんで? ナナも一緒に居た方が良いだろ?」


「いえ……私は……誤射してしまうので……」


「誤射?」


 サンが尋ねるとナナは少し目を伏せながら喋る。


「……私とピーチャさんのドローン訓練で、私はピーチャさんに誤射をしてしまいました……そこから生まれた隙で訓練を失敗してしまったんです……以降ずっと私は戦うのを怖がっていました……」


 レジスタンスとして最初の訓練であるドローン訓練で唯一成功しなかったナナとピーチャの事をサンは思い出す。

 ナナはその時に有った事を素直に二人に話し始める。

 二人はドローンをギリギリまで追い詰める事に成功し、ピーチャがドローンに対し最後の一撃を与える際にナナはドローンの背後に回っており、同じく最後の一撃を狙いショットガンを構え飛び出した時に二人は互いに向かい合ってしまい一瞬の隙が生まれてしまった。

 その隙を逃さないかのようにドローンは二人の間から逃げようと動くが、ナナはドローンのその行動を何とか止めようと引き金を引くがドローンは既に逃げの体制に入っており、散弾はすべてピーチャの装甲が受け止め、二人は大きな隙を晒しドローンのペイントガンを受ける。

 偶然顔など露出している部分に当たる事は無く、距離も離れていた為か装甲を撃ち抜く事も無かったが、引き金一つで仲間を殺していたかもしれないという恐怖がドローン訓練以降ナナを戦場から遠ざけていた。

 しかしピーチャは淡々と話すナナの手を握り声をかける。


「大丈夫、アタシもサンも気にしないから……だから一緒に戦おう?」


「……良いんですか? ……私と一緒で」


「良いも何も、最初に同じチームだったんだから! アタシは全然問題ないよ!」


「俺も!」


 一人許されないと思っていた誤射だったが、二人の許しを得たナナはついに泣き出してしまう。


「二人とも、ありがとうございます……」


 涙を拭い、ナナも同じくショットガンを構える。


「では行きましょう、一人残らず私たちの場所から追い出しましょう!」


 向こうの廊下から歩いてくるクローン兵士に向けて三人は銃を構え、真正面から突撃していき燃え盛るアジトの中で最後の戦いが始まった。




 数十分後、Fギアーズ本社に結城達七人を乗せたセスナが近づく。

 既にセスナ内では作戦を立て終わり後は降下を待つだけだったが、このセスナには降下用のドローンなどは積まれていないので直接本社の屋上に降りる作戦になっている。


「準備は良いですか?タイミングは一瞬です!」


「ああ、分かってる!」


 セスナの扉を開け、タイミングを伺う。

 徐々に本社ビルに近づくセスナだが、そのセスナの翼を何かが撃ち落とす。


「きゃあ!」


 小夜が悲鳴を上げながら、操縦桿を握りしめる。

 屋上に対空兵器を持ったクローン兵士が居り、真っ直ぐ本社に向かうセスナに照準を合わせ二発目の準備を始めていた。


「これも予想済みって事か……」


 結城が悪態をつくが、そうこうしている間にも翼を失った機体はぐらつき、制御が不安定になるが小夜の操縦技術のおかげか未だ機体を水平に保つことが出来ており、本社の屋上が徐々に近づいてくる。


「皆さん、今です飛んでください!」


「小夜さんはどうするんだ!」


「私は後で機を見て脱出します! さあ早く!」


「どうかご無事で!」


 皆一斉に本社の屋上に飛び降りる。

 スーツを着ていない結城はハチの手を借りながらゆっくり降下し、地に足が付くとすぐさまハジメが屋上に居た対空兵器持ちのクローン兵士を切り伏せた。


「よし! 各自作戦に当たってくれ! ハジメとティオは兵器保管庫とクローン施設の破壊、ノインとハチはFギアーズのシステムをダウンさせて和平交渉の妨害をさせない様に、僕とカトルはCEOを殺しに行く!」


 結城は即座に皆に指示を出し、結城自身もレジスタンスとして初めて動いた日に海斗から借りたハンドガンを握り準備をする。


「了解!」


「はいよー」


「ああ」


「うん!」


「わかりました」


全員返事をしたのを確認して、結城は屋上から本社に繋がる扉を開け皆に道を譲った。


「作戦スタートだ!」


 先にFギアーズの近くにある兵器保管庫を目指すハジメとティオが本社に入り、その後ノインとハチが続き後ろに結城とカトルが続く。

 本社は普通のサラリーマンらしき人も多くおり、資料や上司に出すお茶を持ちながら廊下を歩いていたがその横を武装したレジスタンスが通ると叫び声があちらこちらから聞こえてくるが、結城達は気にすることなく走り抜ける。

 結城達は一般人には手を上げずに進むが、その途中下の階から上がって来たクローン兵士が他のサラリーマンなどお構いなしに銃を乱射し始め兵士と一般人が入り乱れる混戦状態になってしまい、結城達は足止めを食らう。

 そこで結城達は威嚇射撃を行い銃声から逃げようとする一般人の流れを調整し、少しずつ混戦状態を収めながらクローン兵士を相手にする。


「くそ! これが狙いか!」


 結城たちは戦争を止めるために動いているという肩書がある以上むやみに一般人に手を出せない事を理解してか、安部雅人はわざとこの状況を作り出したと踏んだ結城は苛立ちながらも障害物に隠れながらうまくやり過ごす。


「僕が先頭に立つ! 援護を頼みたい!」


「了解!」


 カトルは剣を抜き敵兵に突っ込んでいくと敵兵は迷わずカトルに照準を合わせるが、すぐさまカトルは照準から逃れるように横に飛び、その後ろで援護の準備をしていたティオがクローン兵士の頭を撃ち抜いた。

 クローン兵士を片付けた結城達は床に伏せ怯えている一般人を避けながらそれぞれの目的地を目指して歩き出す。

 現在地は地上51階であり、結城は地上45階の社長室を目指し、ノインのチームは地下10階にあるメインシステムを目指していた。

 その為部屋が近い結城はそのまま下がっていくのが最短距離だが、ノインとハジメのチームは作戦前に消耗してしまうのは下策だと思った結城は外にある非常階段を使うよう提案し、四人は廊下の先にある非常階段から二手に分かれる。


「カトル君、エネルギーは大丈夫かい?」


「問題ないです、残り92%あります」


「わかった、ありがとう」


 増援を結城とカトルは敵を刻みながら押し返す。

 鬼神の如き進軍に敵も負けじと武器を握るが、仲間の死を背負った二人を止められずどんどん死体の山が積み上げられていき、そんな死体の山を見て結城は一人心の中で処理場の出来事を思い出し、足を止めた。


「結城さん?」


「え? ああ、大丈夫何でもないよ」


「…………考え事は後にしましょう、僕も結城さんも今足を止める訳にはいかないんです」


「…………そうだね、行こう」


 二人は再び歩みを始め階段を下りていく。




 一方非常階段に向かった四人は非常階段にでると上下から足音が聞こえ挟み撃ちを受けているが、四人は手を取り合い非常階段から飛び降り落下していく中ハチがプロペラを回し三人を引っ張るが、三人を持ち上げるほどの浮力はなく落下が少々遅くなるだけにとどまる。

 地上十階程に達した辺りでノインはグラップルを射出し、非常階段に引っ掛けた。

 グラップルは非常階段の柵に引っ掛かり振り子の要領で四人は揺られるがハチはプロペラを回しその勢いを殺し、四人は非常階段に乗り移る。

 挟撃をうまく回避した四人は一階に降りていき、そこで二手に分かれていく。

 一階に降りたノインとハチは再び本社に入っていき、地下にあるサーバールームを目指して潜入工作を始める。

 そしてハジメとティオは兵器保管庫を目指して市街地を走り抜けていたが、厳戒態勢の敷かれた町では兵器が闊歩しており、戦車や装甲車など通常兵器では太刀打ちできない兵器が巡回していた。

 二人は見つかった際に一緒に発見されるリスクを回避するために二手に分かれ、敵の視線を掻い潜りながら兵器保管庫を目指して進んでいたが、数キロ前まで近づいた辺りでハジメは回線を開き、ティオに通信を送る。


「おい、ティオ……この前聞けなかったこと聞いていいか?」


「うーん、断る……めんどいし」


「……めんどくさがるんじゃねえよ……いちいちウゼェ奴だな」


 少々イラついた態度を取りながらハジメは物陰に隠れ戦車をやり過ごす。


「うざくて結構、僕の過去なんて君には関係ないさ……なにより、思い出したくないしね」


「関係とかしらねぇよ、ただその……なんだ、純粋な質問だとでも思ってくれ」


「……まぁ多くは語らないけどさ、君と一悶着あった後に実戦配備前のテストがあってさ……結果待ちの時に言われたんだ、僕はお偉いさんのお眼鏡に叶ったから慰安所に行けってさ……質の悪い冗談だよな、僕は何のために頑張ったんだよって……本当に……」


 ティオは珍しく怒りの籠った声で過去を語り始め、ハジメはその話を黙って聞き入っていた。


「だからね、僕イラついて慰安所に運ばれた後そいつのブツ噛みちぎってやったんだよ……そしたら同じく地獄行き、つまらない人生だと思ったよ」


「そりゃ……災難だったな」


 想像以上に重たい過去を聞かされたハジメは何処か同情するような声でそう言うが、ティオは何時もの調子で気だるげな愛想笑いを言い、二人はそれ以上何も言う事なく目的地を目指し黙々と歩いていく。

 だが目的地が目前に近づいた時、次はティオがハジメに通信を寄越す。


「ねぇ、君は何のために戦うんだい?」


「あ? なんだよ急に」


「純粋な質問、僕も答えたんだから君も答えろよ」


「チッ……まぁ、なんでだろうな……俺自身戦えればそれでいい……兵器である以上な」


「でもこの戦いはもうすぐ終わるよ、きっと……なら何のために戦うんだい?」


「…………」


 ハジメはティオの一言に黙り込んでしまう。

 ティオが言う通りレジスタンスの目的が達成された場合、フォルンとイヴァンディアの戦争は幕を閉じ兵器であるクローンは必要とされない時代が到来する。

 それはハジメが自身に求める兵器として戦い抜く人生とは程遠い平和が訪れる事になり、今のハジメの行動とは矛盾していた。


「……まぁ、拾われた恩返しって所だな」


「そこはあくまでも平和の為とかって言わないんだね」


「…………もし平和になったとして、そこに俺らの居場所があるとは限らないだろ……だから恩を返し終わったら俺は好きにする……誰にも指図されずに俺の在り方を探すよ」


「…………ふぅん」


 二人は話しながら歩いていると路地で出会い、目前に迫った兵器保管庫を望む。

 保管庫周りには多くの兵士が巡回しており、兵器も同じく待機しているだけでなく固定砲台のような物が常に警戒しており真正面から突破することは無謀に等しく、二人は頭を悩ませていた。


「兵器か……アレ相手に打つ手が無さすぎるな……」


「流石にあの数は僕も自信もって買って出ないな……どうする?」


「……まぁ、細かい事は切りながら考えればいいか……どちらにせよ」


 朝焼けの空を飛んでいたヘリコプターのサーチライトが照らされ、ハジメとティオを捉える。


「時間はないみたいだ」


「だね」


 ティオは即座にライフルを構え、即座に操縦席を撃ち抜き制御を失ったヘリコプターは回転しながらビルに突き刺さり、悲鳴と窓ガラスの砕ける音が辺りに響く。

 そして目の前でヘリコプターが墜落したことにより、保管庫の入り口から三十は越える程のクローン兵士が銃を持ち隊列を組む。


「さて、どうしたモンかな」


「僕はとりあえず狙撃ポイントを探すよ、先に楽しんできな」


「んじゃ、行ってくる」


 ハジメは剣を抜くと電柱に向かって飛び、足場のボルトを掴みすぐに振り子の要領で道路を飛び越え反対の電柱に飛び移るが、ハジメに気づいたクローン兵士達は一斉に引き金を引く。

 ハジメはすぐに隊列の後ろに飛び降り剣を薙ぎ三人の首を切り飛ばすが、他の兵士がすぐに銃を構える為、やむなく保管庫の敷地内に入って行き射線を切る。

 敷地内に入ってすぐに銃弾がハジメ目掛けて飛び交い、物陰に飛び込み弾丸をやり過ごす。


「この数は流石にキツイな……」


 戦車の砲塔がハジメのいた場所を向いたのを確認し、すぐにハジメはその場を離れ再び物陰を探し走り回る。

 しかし隠れ続けて居る内にハジメは右ひざのサーボモーターに弾丸が命中し、右ひざの動きが止まってしまう。


「っ⁉ こんな所で!」


 通常スーツタイプの重さは数十キロであり、片足の機能が停止しただけならば走る事は叶わずとも歩くことは可能であるはずだが、元々右足の不自由なハジメはそうはいかず地面に倒れ込んでしまい、無防備な状態を晒してしまった。


「ハジメ!」


「ああくそ、こんな無様晒すためにここに来たんじゃねぇのによ!」


 腕の力だけで物陰に移動したハジメは即座に剣を捨て、ハンドガンを構え迫りくるクローン兵士の頭を次々吹き飛ばすが、処理する数よりも圧倒的に多いクローン兵士に段々と押され焦りの表情が見え始めた頃、ティオから通信が入る。


「ハジメ! 受け取れ!」


 ティオが保管庫の上から現れ、ライフルをハジメに渡し地面に刺さった剣を抜き敵に向かって突っ込んでいく。

 ティオが装備しているスーツバロックは整備性と耐久性に優れたスーツであり近接戦闘特化ではないが、クローン兵士を次々になぎ倒していきその後ろでハジメはライフルを構え援護射撃をするが、ティオは慣れない近接戦闘のせいか細かい被弾が重なりついには弾丸が腹に当たり膝をついてしまう。


「ウッ……流石に、僕も悪運尽きたかな……」


「悪運か……違いねぇな……だけど生きる気力まで尽きた訳じゃねぇよな?」


「…………まぁ、君の目の前で死ぬのは癪だからね……もうちょっとだけ、悪あがきしようかな」


 装甲の隙間から流れる血を抑えながら、立ち上がろうとするも二発目の弾丸がティオの足を撃ち抜き再び膝をついてしまう。


「うう……」


 行動不能に陥ってしまった二人は絶体絶命の状況の中抗おうとするも、動かない的を相手にしているクローン兵士は余裕の表情で二人を囲み、投降するように呼び掛ける。


「貴様ら、武器を捨ててうつ伏せになれ」


「……断るって言ったら?」


「その場合は射殺もやむなしだ」


 数十人に囲まれ勝ち目はないと踏んだ二人はクローン兵士の言う通り武器を捨てうつ伏せになると、突如爆発音が響き辺りが吹き飛びクローン兵士の大半が地面に倒れたまま動かなくなった。


「ひゅ~、こりゃ大変そうだな! 手を貸すぜ、レジスタンス!」


 ハジメは何事かと思い辺りを見渡すと背中に神経プラグのついた男女四十人程がアーマーも着ずに武器を持ち、ぞろぞろと物陰から現れその中の一人がハジメに手を貸し、ハジメもその手を取り起き上がる。


「よしよし、怪我は無さそうだな……じゃあいっちょ始めますか! お前ら! 手ぇ貸してやれ!」


『うす!』


 ハジメに手を貸したクローン兵士と思わしき人物は他の兵士に指示を出すと、指示を聞いた兵士が一斉に銃を構えクローン兵士と同士討ちを始めた。

 指示を出していたクローン兵士も手にガムテープで束ねられたグレネードに取っ手をつけたものを持っており、ピンを抜いて戦車に投げると凄まじい爆発で戦車は機能を停止させる。


「アンタらは? クローン兵士だろ? なんで俺らに手を貸す?」


「俺らは十年近く戦ってる鬱憤溜まりまくりのエリートでな、アンタらが来るって聞いたから楽しみにパーティーの飾りつけしてたんだぜ?」


 クローン兵士は手に持ったリモコンのスイッチを押すと戦車やヘリが次々に爆発していき、保管庫からも爆発と炎が屋根を突き抜け衝撃と音が鼓膜を揺らす。


「……随分派手に飾り付けたな」


「喜んでもらったようで何よりだ……んじゃ、アンタらはアンタらのやるべき事をやって来いよ、兄弟」


「兄弟?」


「ああ、俺はA2……試作品除きゃ最古のクローン……つまりお前らの兄貴に当たる訳だ」


 A2はニヤリと笑うと仲間のクローン兵士が乗っている装甲車が近づき、中から一つのケースをA2の横に置き走り去ていく。


「アンタらの次の目的は?」


「……クローンの精製工場の破壊だ」


「なら地下だな、保管庫の中に地下に続くハッチがある筈だ! 煙に巻かれない様気をつけて行ってこい」


 ケースを開けA2は中から機関銃を取り出し、弾倉を背中に背負いこみ立ち上がる。


「ああ、それとあそこに寝っ転がってる奴……アイツをどっかに退けといてくれ」


 ハジメは気を失っているティオを指さすと、A2は了解とだけ言い歩いていきハジメはティオの横にライフルを置き、代わりに剣を拾い燃え盛る保管庫の中に入って行く。




 同時刻、ノインとハチは地下を目指してステルスを使いながら降りていた。

 地下にあるメインシステムを狙われると考えてか地下にも兵士はうろうろしており、またバイザーの赤外線探知をオンにすると一見何もない通路に見える場所にもびっしりとセンサーが敷き詰められていた。


「……ルートを完全に潰しているな……」


 何時もの如くノインが先行しハチがそれに続く方法で敵を回避しながら進んでいる者の、見張りの数も多く前進は困難になっており一進一退を繰り返している。

 しかしそんな中ハチはとあるものを見つけ、それをノインに伝えるために声を掛けた。


「ねえねえ、あのエレベーター使えないかな?」


 ノインはハチが指さす方を見る。

 するとそこには貨物用のエレベーターがあり、エレベーターは上階からの荷物を各階に送る使用上目的の地下十階にもつながっている為敵の目に怯える必要は無くなる。

 しかしエレベーターの降りる先の予想が付か無い為、リターン以上のリスクが潜む場合があり、ノインは考え込む。


「……使えないことも無いと思うが……リスクが高いな……」


「そっかぁ……」


「……だがリスクを恐れていては時間ばかり掛かってしまうな……ハチ、俺が先にエレベーターまで移動するから、合図を送ったら付いてきてくれ」


「了解!」


 ノインが先行し、エレベーター前の通路を監視するが近くに人影は無くエレベーターのボタンを押し、扉が開くまで待機する。

 やがてエレベーターが到着し、扉が開いたのを確認した後ハチに合図を送り乗り込む。

 エレベーターは貨物用でありながら稼働音は小さく、ほぼ無音の空間の中二人は警戒を解かずにここまで来たせいか、この場所で一時の休息を得ることが出来ていた。

 張り詰めた空気から解放されたノインが深呼吸をしていると、ハチは急にノインに寄りかかり、ノインは不思議そうにハチに声を掛ける。


「どうした? 気分でも悪いのか?」


「ううん……そうじゃなくて……突然の質問だけど、アタシ達この戦いが終わったらどうなっちゃうのかって思ってさ……」


 ハチは少し不安そうな声でそう言うと、ノインは少し考え答えを出す。


「……戦いが終わったら好きにしたらいい、もう俺たちを縛るものは何もなくなる」


「……好きにって言ったって……アタシは何も思い浮かばないな……ノインは何するの?」


「俺は……旅をしたいな……サンとこつこつ作っていたパズルの絵が綺麗な景色だったんだ……だから、旅をして俺のこの目で見てみたい」


 目を輝かせながら夢を語るノインを見たハチは頬を赤らめながら、小さな声で呟く。


「いいなぁ……アタシもノインと見に行きたい……」


「お前も景色が気になるのか?」


「ううん……景色というか……気になるのはノインかな……」


「……そうか……なら全てが終わったら二人で見に行こう……」


 その後目的地に着くまで互いに無言であった。

 やがてエレベーターは目的地に着き、ノインはすぐにステルスを起動し周囲の確認にあたるが、目的のサーバールームのすぐ近くであるはず地下十階の警備は厳重ではなく、どこか閑散としている。

 ノインはハチに後を付いてくるよう言い、目的地のサーバールームの扉の前まで着いた二人はゆっくりと扉を開け中を伺おうとすると部屋の中から一斉に弾丸が放たれ扉が穴だらけになり、二人は扉から離れた。


「なるほど、目的地周辺に警備を固めたか!」


 部屋から十人近くのクローン兵士が現れ、ノインとハチは廊下の曲がり角まで下がり壁を背にして隠れながら引き金を引き応戦する。

 しかしノインのハンドガンとハチのサブマシンガンではクローン兵士の装甲を撃ち抜くことは出来ず、ノインはナイフを握りステルスを発動し敵軍に突っ込んでいく。

 ステルスで気付かれることなくクローン兵士に近づいたノインはナイフを装甲の薄い関節部や首元に突き刺し、ステルスの存在に気づいたクローン兵士はノインを探すべくハチが隠れる曲がり角に向けていた銃口を、ノインが居ると思わしき場所に向ける。

 その隙を逃さずハチは後ろから狙い撃ち、首元の神経センサーを撃ち抜く。

 次々と倒れていくクローン兵士にノインはハンドガンでとどめを刺していき、十人近くいたクローン兵士の殲滅を完了するが、ノインは此処まで常にステルスを使っていた弊害かスーツのバッテリーが切れ、ライトが消える。


「バッテリー切れか……ハチ、サーバーを壊したらバッテリー交換をお願いしたい」


「了解!」


 ハチはサーバールームに入るとサブマシンガンを乱射し、次々にサーバーを破壊していく。


「さて、バッテリーを交換したらすぐにでもここを離れるぞ!」


「うん」


 ハチはサーバールームを後にする前に倒れているクローン兵士のバッテリーボックスを開け、取り出そうとロックを解除した時。

 一人のクローン兵士が地面に伏せたままアサルトライフルを握り、ハチの頭に照準を合わせ、それを見ていたノインは咄嗟に声を上げた。


「危ない!」


「え?」


 ノインはハチを突き飛ばすが、クローン兵士は容赦なく引き金を引き無数の弾丸がノインを貫くが、ノインは大の字になりハチを守る様に立ちふさがる。


「フォ……フォルン公国に……栄…………光…………」


 クローン兵士は何かをつぶやきながら血を吐き再び倒れ込み、二度と起き上がる事は無かったが、それはノインも同じだった。


「ハチ…………すまない…………逃げろ…………」


「……ノイン? …………なんで…………」


 向こう側が見える血だらけの穴を見てハチは震えた声でノインに声を掛けるも返答はなく、ノインは膝から崩れ落ちハチはそれを受け止める。

 そしてノインを受け止めたハチは青ざめた表情をし、涙を流す。


「ねぇ……なんで…………ねぇ…………」


 呼吸もしていなければ温かさすらなくなったノインを抱えながらハチは泣きじゃくり、その場に座り込むばかりであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る