第二十七話 Heartless -無情-
海斗の死から数十分後、結城は指示を待ちながらも今日一日価値無し達には自主練と作戦内容の再確認を伝え、スーツの整備を朝から行い来るべき最後の作戦を待ち続けていた。
しかしいくら待っていても作戦指示はなく、空はとっくに暗闇に包まれており今日一日整備に使って黒ずんだウエスを洗濯しようと洗面所に入ると、洗面所ではナナが洗濯をしており、一生懸命に洗濯物をロープに掛けている。
「あ、洗濯してくれてたんだ……ありがとう」
「はい! ……あ、それと一応シャワー室の掃除も終わらせておきました」
「何から何までありがとう、俺も手伝うよ」
洗濯籠いっぱいの洗濯物を広げ、部屋の端から端に繋がっているロープに引っ掛ける。
その後換気扇を回しながらヒーターをつけ、洗濯物を乾かしていると、いつの間にか就寝時間間際になっており結城はナナに声をかけた。
「ナナは先に部屋で眠ってていいよ、俺は洗濯物畳んでおくから」
「そうですね……お言葉に甘えます」
あくびをしながらドアに歩いていくナナ。
だがナナがドアの取っ手に手を掛けた瞬間ドアが勢いよく開き、急に開いたドアにナナはビックリした声を上げたが、ドア前に居た小夜の顔を見てすぐに静かになる。
そこには泣きはらした跡がある小夜が、呼吸を荒げながらドアの前に立っていた。
「小夜さん? ……戻って来たって事はもしかして作戦決行ですか?」
「海斗様が……アンダー様が……死にました……避難の準備をしてください……」
「何だって!」
小夜がアンダーと海斗の死を口にした瞬間、結城は動揺しながら小夜の肩を掴み大きな声を出す。
「もう一回言ってくれ! 本当なのか! それに避難って……どこに避難するんだ!」
「お、落ち着いてください! 結城さん!」
小夜を乱暴に揺する結城を止めようとするナナ。
その声が届いたのか、結城は小夜の両肩から手を放す。
「皆を……集めてください……話したいことがあります……」
「……分かった……」
結城とナナは顔を見合わせ、お互いに部屋を出てく。
ナナは医務室に居るピーチャに伝え、結城は各部屋にいる者たちを全員会議室に集める。
最初は皆あまりに突然な招集にざわついていたが、小夜が到着すると皆一斉に静かになり不安そうな視線が飛び交っていた。
「……皆さんに報告があります……」
震える声で、小夜はマイクに向かって喋り出す為更に不安は高まっていく。
「先ほど、工業地区で海斗様とアンダー様が殺害されました……」
「なんだって!」
「わぁ……」
皆驚きの声を上げ一夜にしてレジスタンスを創設し、引っ張り続けていたリーダーが立て続けに死んだことに不安げな表情をしながらも真剣に小夜の声に耳を傾けていた。
「その際、録音された遺言を渡されました……これをお聞きください……」
海斗のものと思わしきスマホの音量を最大にし、皆に聞こえるようマイクを近づける。
再生ボタンを小夜が押すと海斗の声がスピーカーから流れだす。
「皆にこれが聞こえていると嬉しいが……まず、これが遺言であるのと同時に俺の罪を暴露した証拠音声でもあるという事を先に言っておく……まず先に俺の罪の話をしよう……俺の罪は、今戦争で使われている技術の生みの親は俺であるという事だ……神経プラグも即時培養のクローン技術もアーマー技術も全て俺が作った……だがこれらは全て戦争に利用する為に作ったわけではなく、すべて医療用に作った技術だという事を知ってほしい……神経プラグやアーマーは体の動かない人たちのために……そして即時培養のクローン技術は不治の病をもつ患者の体を調べ、特効薬を作るために研究を重ねて作った物だ……だが全て人を長生きさせるために作った技術なのに、それを今戦争に使われてしまい、俺は非常に悔しく思う……だから皆にお願いがある……もし戦争を終わらせることが出来たなら、この技術を医療現場で使える様にお願いしてほしい……そして最後に俺から皆にもう一言……もし、全滅してしまいそうならイヴァンディア連合国に亡命してくれ……俺の名前を出せば匿ってくれるはずだ……これが皆に届いていないことを願う」
音声は途切れ、遺言の内容に皆があっけにとられた表情を見せた。
「海斗さんが……今使われているクローン技術を作っていたなんて……」
「はい……私達クローンは皆……生まれて来られたのは海斗様のお陰なのです……」
「え……小夜さんもクローンなの?」
結城は小夜の一言に疑問を持ち聞き返すと小夜は頷く。
「私は海斗様が医療用に作ったクローン技術で作られた最初のクローンです……」
「そうだったんだ……」
海斗がクローンの解放や戦争に対する反対意見を持ち続けていたのは海斗自身の罪悪感から来るものであるという事は遺言を聞いた結城には痛い程理解できた。
かつての結城も同じくクローンの処理を担当しており、その罪悪感から海斗と同じくクローンを守りたい気持ちと同時に芽生え、今この場所に立っている。
だからこそ海斗やアンダーの死は奥歯を噛み締めるほどに辛く、受け入れがたい物であり、結城は海斗のスマホを見ながらも国に対する怒りを募らせていた。
「小夜さん、これからどうする?」
「…………分かりません……私には……きゃ⁉」
「なんだ⁉」
部屋が揺れるほどの衝撃と轟音が部屋を襲い、皆が何かにつかまりながら衝撃を耐え続け、やがて揺れが収まった後に部屋を飛び出し窓から外を見上げると、目の前に広がる光景に戦慄してしまう。
「来た……来てしまった……来てしまったんだ!」
空には大きな輸送機が滞空しており、そこから降りるアーマーを着た者たちに飛行船の周りを飛んでいるヘリコプターがおり、中でロケットランチャーを構えた兵士がレジスタンスを探しながらすぐに打てるよう準備を整えているようだ。
「皆今すぐ着替えろ!」
結城の叫びで皆現状を理解したのか敵がこちらを補足する前に倉庫に走り込み、一斉に着替える。
未だサンやピーチャ、そしてカトルのスーツは継ぎ接ぎの跡があり完璧とは言えぬ状態であり、サンのスーツは特徴的は背部のアームが二本まで減らされており火力は大幅に下がってしまっていた。
揺れる建物の中スーツを着た8人と結城、そして小夜はこの後どう動くか話し合い始める。
「皆、時間が無い中だがよく考えて答えてくれ……一つはFギアーズに向けて動き出す……若しくはさっき海斗さんの遺言の中にあったイヴァンディア連合国への亡命……どちらがいい?」
二つに一つの選択肢。
一つ目は敵の本拠地に向かい、この少人数で敵に囲まれながら海斗が立てていた作戦を遂行し、この戦いに終止符を打つべきか。
もう一つは遺言の通り敵国に亡命し、安全な場所に避難するか。
元々海斗やアンダーが手引きして潜入する予定であったため、ただでさえ成功率が低い作戦を手引きなしで行うのはリスクの高い行動であり、亡命以外の選択肢は選びにくいはずであった。
しかし誰一人としてあきらめの表情はなく、立ち向かうと言わんばかりに勇ましい表情を見せている。
「僕はFギアーズに向かう……イバンさん、セイ……それだけじゃない、海斗さんやアンダーさんも手に掛けたんだ、絶対に許さない」
「俺も向かう、これ以上奴らの好きにはさせたくないからな」
カトルとノインが一歩前に出るとそれに続き他の皆も一歩前に出る。
他の誰もこの考えに異論はないように見えた結城は最後の確認を行った。
「……後悔は無いんだな?」
「そんなの誰だってないよ!アタシ達は一心同体! 後悔しないよ!」
ハチが必死に伝える。
それを聞いた結城は倉庫の扉を開けた。
「ならみんな貨物機に急いで乗り込め! 走るんだ!」
「セツコは?」
「セツコは……どうしよう……」
ピーチャにセツコの事を聞かれ、結城は少し考えてしまう。
いくら容態が安定してきたとは言え、無理に連れ出すのは危なくかと言えば連れて行かずに置いていくのも同じく危険である。
だがどうするべきか結城が考えているとピーチャが声を上げる。
「アタシが連れてくる!」
それだけ伝えるとピーチャは医務室の方に掛けていき、そしてそれをサンが追いかける。
「俺も行く!」
「わかった! だがすぐに戻ってきてくれ!」
結城は二人と分かれて他の皆と貨物機に向かい、皆をハッチ前に待機させ操縦席のドアを開ける。
ゆっくりと開くドアに苛立ちながら待っていると、急に貨物機が爆発し皆後ろに吹き飛び、一番近くに居た結城は爆発の衝撃を近くで受け地面を転がりながら苦悶の表情を見せた。
全身に広がる痛みを何とか堪えながら顔を上げると、貨物機は赤々と燃えており見るも無残な状態になっている。
「ちっくしょう……なんて事だ……」
上空を飛ぶヘリコプターからのぞき込む太い銃口。
このアジトからの脱出手段を奪われてしまい、それだけでなく結城は今の衝撃で左肩を骨折してしまい左肩を抑えながら、立ち上がりどうするべきかと辺りを見渡すも、考えがまとまらない。
「どうすればいい……どうすればいいんだ……」
最後に残された選択肢は陸路を当初の予定で使うはずだったトラックで走り抜けるほか無いだろう。
しかしこれだけ囲まれた状態で道路を悠長に進んでいても脱出は不可能な事は明白だがここで立ち止まってはどうにもならないと思った結城は、ゆっくり歩きだし皆に近づく。
「結城さん!」
左肩を抑えながら血を流す結城に近づく小夜。
「ここから出れなくなっちまった……どうしよう……」
「……方法はもう一つあります……」
「もう一つ……」
滑走路ではなく倉庫内を指さす小夜。
「私が乗ってきたセスナがあります……ただし一つ欠点があります……」
「欠点?」
「乗れる人数が、私が操縦して結城さんが作戦を立てる……とするなら他の乗れるのは五人……四人は此処に残る事になります……」
その一言にハッと周りを見渡す。
気づけばアジトは火の海に包まれており、結城は時間が無いことを察っしすぐにでも選出しなくては、そのセスナも破壊されてしまうかもしれないという事に気づくのと同時にこの中誰かを置いていかなくてはならないという事に躊躇をする。
「私、残ります!」
「ナナ?」
「私、怖いからって戦ってこなかったけど……でも今はそんな事言ってられないから……結城さんが覚悟を決めたように……私も戦います!」
最初のドローン訓練以来着ていなかったスーツ、ブレイカーのライティングが本人の意思を汲み取ったのか強めに光る。
それを見た結城は、ナナの頭をなでて笑顔を見せる。
「……頼んだ……必ずセツコとサンとピーチャを連れて逃げ延びてくれ」
「はい!」
結城の思いに答えるようにナナはアジトに走っていき、丁度セスナに乗れる人数になったのを確認した結城は皆の先頭に立ち倉庫に向かって走った。
「……皆、行こう……これが最後の戦いだ!」
『おー!』
急いで倉庫に戻り、セスナに全員で乗り込み発進し、攻撃を覚悟しながら空に上がり本国の最奥にあるFギアーズを目指す。
しかしいつまで経っても攻撃が飛んでくることは無く、代わりにセスナの無線機に通信が入り、助手席に座った結城は恐る恐る通信を開き応答すると通信機からやさしい男の声が聞こえてきた。
「やあ、初めまして……君が……えっと……結城涼真かな? 初めまして」
「貴方は?」
「現FギアーズCEO、安部雅人さ……名前ぐらいは知っているだろう?」
セスナの中の空気が凍る。
何人かは怒りの表情で声を聴き、また何人かは不安の表情でその声を聴いていた。
「君達は私がなぜこんな事をしているのか分かっているかい?」
「知るか! ……俺はお前を許す気はない!」
「許さないと? ……私の何を許さない気かね? 私は何も悪いことなどしていない」
悪びれる様子もなく、落ち着いた声で安部雅人は喋る。
「待ってろよ……今そっちに行ってその首を切り飛ばしてやる」
「待って居よう、首を洗ってな」
結城は乱暴に通信を切り、後ろを向く。
「皆、最後の作戦を話す……よく聞いてくれ!」
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