第十二.一話 Worry Counseling Room -お悩み相談室 ピーチャ編-

  実戦訓練を終えた翌日、早朝から結城の元にピーチャが相談に来ていた。


「アタシ強くなりたい!」


「えっと……それ自分に言われても……」


 前日ハジメに大敗したことを引きずっているのか強気に結城に相談するが、結城はアンダーの様に鍛えてる訳でも無く海斗の様に戦術の知識がある訳でも無い為返答に困っていた。


「お願い! 周りにバレないように特訓したいの! 少しでも役に立ちたくて!」


「……って言われても、機材や何やらは海斗さんが管理してるし……自分には練習メニューとか組めないから、どうしようか……」


「じゃあ、夜に地下のジムこっそり使いたいんだ!」


「それも海斗さんに聞かないといけないんだけど……」


「じゃあ、夜に使える空き部屋が欲しい! 機材とかは無くても出来る特訓はあるはずだから!」


「えーっと空き部屋……空き部屋ねぇ……」


 結城はここにきてから約五日程度経っており、大方の部屋がどうなっているかは知っている。

 なので目をつぶってどの部屋をどう使っているか思い出していると、一つだけピーチャのお眼鏡に叶う部屋が一つあることを思い出した。


「地下にあるジム以外にもう一つ小さな倉庫があって、今廃材置き場になってるからあそこの部屋片付けたら使えないかな?」


「本当!」


「うん、一応線材とかの置き場にはなってるけど……結局離れの倉庫で作業と保管をしてるから使ってないし、物も殆ど退散してるから広く使えるはずだよ」


 普段皆が使った後のスーツは地上の倉庫で補修や点検を行っているのだが、当初の予定として地上の倉庫は他の資材などの保管を予定していたが、全体共有制の導入により短期決戦になったことにより地上の倉庫から物が溢れる事も無く、地下の倉庫はほぼごみ置き場と化している。


「一応足元に転がってる線材とかは片づけてね、滑って転ぶと危ないから……あと一応海斗さんにもその事は伝えておいてね」


「うん、了解!」


「じゃあ朝食に行こうか、皆待ってるだろうし」


 そう言って結城はピーチャに部屋を出ていくよう指示し、着替えを始めた。




 やがて夜になり皆が就寝する頃、結城は一人地下に行き今朝ピーチャに教えた空き部屋を覗いてみると縄跳びを使い持久力を付けるためかキッチンタイマーと睨めっこしながら速いペースで飛んでいる。

 それを見た結城は頑張っているピーチャに対して何か差し入れでも持って行こうと考え、キッチンに向かった。

 キッチンの前に立ち、冷蔵庫を開けるといつかの余りである米がボウルに入れられ冷蔵されているのを見つけ、何を作ろうかと考える。


「米と言えば……おにぎり?」


 普段結城はキッチンで料理をする事もなければ、米など扱ったこともないので最も簡単そうなおにぎりを思い浮かべ、早速ボウルを取り出し茶碗に移し電子レンジの中に入れスイッチを押す。

 そして温まった茶碗を取り出し米を握ろうとするが、あまりの熱さに結城は声を上げた。


「あっつ⁉」


 炊き立ての様に温まった米を握るのは非常に難しく、冷めるまで待つしかないと悟った結城は静かに米が冷めるのを待っていたが、先程の結城の声を聴いたのか海斗がキッチンの扉を開ける。


「物音がすると思ったら結城か、どうしたこんな時間に? お前も夜食か?」


「まぁ、自分のじゃないんですけどね……」


「ふむ……ピーチャのか?」


「そうですね、おにぎりでも作っていこうと思ったんですが思いのほか熱くて」


「なるほど」


「海斗さんは何を?」


「俺は夜食にチーズでも貰おうと思ってな……」


 海斗は冷蔵庫から個包装されたチーズを数個持ち出す。


「あ、そのままなんですね」


「残念ながら俺は料理が出来ないんだ、いつもは屋敷の使用人が作ってくれるからな」


「使用人? 小夜さんみたいなメイドって事ですか?」


「小夜以外にもメイドは沢山いる、執事もな」


「さ、流石ですね」


 自ら率先して組織の立ち上げから管理までやっていける海斗がCEOの息子であったことなど頭から抜けていた結城だが、今の話で久々にその事を思い出す。


「俺自身は別に世話されることを望んじゃいないんだがな、親父が俺に屋敷を渡した時に一緒についてきたんだ」


「な、なるほど」


「ああそうだ結城、俺もおにぎり作り手伝うよ」


「え?」


 先程料理はしないと言っていた海斗だったが、急遽夜食作りを手伝うと言い結城は驚く。


「戦争が終わったら俺は一人で隠居したいんでな、料理の一つぐらいは作れないとマズいしな」


「なるほど、ではお願いします」


「じゃあ具はどうする?」


「あ~……具は無くてもいいんじゃないですかね? 流石にそこまで食材使うのは」


 米は冷蔵庫の中に余っていたが、それ以外の食材を煮たり焼いたりするのは他の人の睡眠を妨げる可能性もあり、ピーチャの秘密の特訓を公にしたくはない結城は躊躇いの表情を見せる。


「ふむ、じゃあ何か余ってるものが無いか探すか」


 海斗は冷蔵庫を開け、中を確認し始めた。

 そして中から幾つかの食材を取り出し、キッチンに置くがどれもおにぎりの具にするのは少し憚られる物ばかりである。


「チーズにプラムにマッシュルームとジャガイモ……こんな感じか」


「いや流石にこれは……」


「お? これなんてどうだ? あれに似てるだろ……名前が思い出せないが」


 プラムを手に取り使えないか迫ってくる海斗だが、結城は苦笑いを浮かべ首を横に振った。


「流石にどれも合わないんじゃ……」


「そうか……」


 すこししょげた表情をする海斗を見た結城は何とかフォローをしようとジャガイモを取りだす。


「あ、でもジャガイモで簡単に夜食は作れますよ?」


「本当か!」


「はい、まずジャガイモを洗ってラップで包みます」


 海斗は結城に言われるがままにジャガイモを洗い、ラップに包んだ。


「そしたらそのままレンジに入れて四、五分ぐらいたてば完成です」


「そんなに簡単に出来るのか?」


「まぁただ芋が蒸かされるだけですけどね、お金がないときとかよくやってました」


 レンジからジャガイモを取り出すと、ジャガイモの蒸かされた匂いがキッチンに漂い始める。


「後は塩とかバターとかで味付けしながら食べれば完成です、料理と言えるか微妙ですが」


「すごいな結城は……ありがとう、これで俺はもう少し頑張れるよ」


「良かったです、じゃあ自分は夜食持っていくんで」


「ああ、ピーチャにあまり根を詰めすぎるなよと言っておいてくれ」


 そういうと海斗はラップに包まれたジャガイモを持ちながらキッチンを後にした。

 結城も触れる程度には冷めた米を握り、ラップに包んでピーチャが居る地下室に持っていくと、ピーチャは縄跳びではなく足に水入りペットボトルを括り付け腹筋をしており、あまりにも真剣な表情をしていた為結城は少し見とれていたが、三十と数えたあたりでピーチャは脱力し、床に敷いているマットの上で大の字になりながら呼吸をしている。


「やあ、頑張ってるね」


「あ、結城さん……」


「夜食必要かなって思って持って来たんだけど」


「ありがとう、丁度終わる前に何か食べたいなって思ってたんだ」


「よかった、はいこれ」


 ラップに包んだおにぎりを渡しピーチャは早速一口食べると親指を立て笑顔を見せた。


「結城さん美味しいよこれ!」


「あはは、余りもので作ったものだけど喜んでくれたようで何よりだよ」


 数分後、ピーチャはおにぎり二つを平らげ片付けに入り、結城もそれを手伝いマットを片付けペットボトルを捨てに行く。

 全て片付けた後、時計を見ると時刻はすでに十一時であり結城も少し眠たくなりつつある中、片付けの終わった部屋でピーチャと別れる際ピーチャは深々と頭を下げた。


「今日はありがとう結城さん! アタシの為に」


「ありがとう、じゃあお休み」


「おやすみなさい!」


 二人は互いに自分の部屋に戻っていき、布団に入り明日の朝日を目を瞑りながら待った。




 数日後、いつもの通り食堂で朝食を食べているとアンダーが不思議そうな顔をしながら冷蔵庫を覗いていた。


「なぁ、ジャガイモが結構減ってるような気がしてるんだが……なんか知らないか? 結城」


「え? ……いや、分からないですね……あっ……」


 あの日以降夜食を作る際は使っていい食材を事前にアンダーに聞き、使っていた結城は最初こそ何のことか分からなかったが、海斗にジャガイモを蒸かす方法を教えたことを思い出し、アンダーに伝える。


「はぁ……後であいつには言っておくか……つうかチーズもあいつかよ……」


「あはは、すいません」


 この後、ジャガイモは一日一つとアンダーにきつく言われた海斗が渋々了承している姿を見て居た結城は内心申し訳ない気持ちがありながらも、アンダーに怒られる海斗に珍しさを感じ眺めていた。


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