第二十二話 Torture -拷問-

 場所は変わり前線基地の中でノイン達は動けずにいた。

 誰も居ないと踏んで救護施設から入ったものの、セイが居ると思われる基地の中心部に向かうためには玄関を通らざるを得ず、玄関には多くの兵が見張りをしており一筋縄ではいかない。

 かといって他の道から入り直そうにも、窓の外には兵がうろついており迂闊に外に出る事も叶わず三人はそれぞれ様子を伺っているが、焦りが徐々に表情に出始めていた。


「くっ……まるで来るのが分かって居たと言わんばかりの数だ……」


「マズいよ、このままじゃ……」


 ノインとハチが悔しそうにあたりを見回す。

 だがその時カトルがとあるものを見つけ、指をさした。


「なぁ、この基地……イヴァンディア連合の物を再利用しているようだが……」


「……ああそうだな、この落書きもアイツらの言語だが……」


「通りで前線基地の癖に立派な建物なわけだ……しかしこれは利用できるかもな」


「どういう事だ?」


「まぁ見ててくれ」


 カトルは薬品棚から麻酔薬を一瓶取り出し、廊下側の壁の上の方を剣で切り抜きダクトに穴をあけ薬品を開けた後、中身をダクトにぶちまけた。


「今何をした?」


「ここは海沿いだからな、塩害対策で海と逆側のこっち側に換気用ダクトが密集してるんだ……これだけ立派な建物だしな、麻酔を巻けば結構いろんなところに被害が出そうだ」


「あ、それなんか教本での潜入の一例にあった気がする!」


 ハチが思い出したかのようにそう言ったが、カトルの言う通り海沿いからの潮風を内部に運ばない為にダクトは三人のいる陸地側に付けられており、そのダクトに吸い込まれた麻酔薬は内部で霧状になり、玄関の兵士の体を徐々に蝕んでいたようだ。

 それから数分後にノインが廊下から玄関を見ると、見張りの兵士が地面に膝をつき立って居られない程までに麻酔が回っている様子であり、ノインは二人に現状を伝える。


「兵士に麻酔が回ってきたようだが、行くか?」


「ああ、だがこれを口元に巻いていった方が良い」


 カトルはベッドのシーツを引きちぎり、二人に渡す。


「では行くぞ!」


 ノインはステルスで姿を消しながら先行し、膝をつき倒れる兵士にナイフでとどめを刺していく。

 やがて全滅を確認した後続の二人はノインに追いつき、ハチは近くの監視カメラにアクセスしハッキングを試み、カトルはその間に一人外を見ていた。

 外ではハジメが戦闘している様子が見え、その鬼神の如き戦いっぷりに違和感を感じている。

 普段のハジメは大人しいイメージがあるが、今戦場を駆けているハジメは狂犬のような笑顔を見せながら敵をいたぶりつくし、効率的に敵を排除していた。


「……あれが僕達の正しい姿なのか」


 効率と技と容赦のなさと、国が求めるクローンと言う名の兵器に求められている物が今のハジメにあるように見えたが、そんな姿を見たカトルは自らが躊躇いなく剣を振る姿が想像できず、未熟さを感じため息を吐く。


「カトル、どうかしたか?」


「いや、僕もまだ未熟だなと……」


「……何があったかは分からないが、とりあえずハッキングが終わったから次に向かうぞ」


「ああ、今行くよ」


 カトルは窓から離れ、ノインについていく。


「待ってろよセイ、必ず助け出してやる」


 カトルはそう呟きながら、一階をくまなく探し始めた。




 少し時間は遡り、レジスタンスが潜入を開始する数分前。

 二階にある防音室では上裸で椅子に縛られたセイに、クローン兵士が焼きごてを持ち群がっており、今まさに拷問が行われていた。

 切り傷とあざに塗れ、その上手足の末端にはやけどの跡が無数にあり痛々しい姿でありながら、目の前の椅子にふんぞり返ってにやけている安部雅人を睨んでいる。


「さあ、吐いてしまった方が楽じゃないのか? レジスタンス君?」


「ごふっ……馬鹿言えよ、吐かせたいならもっと……持ってきな……」


 セイは血反吐を吐きながら悪態を付くが、その様子を見た安部雅人の口角は先ほどよりつり上がった。


「なるほど……痛みでは物足りないと? ではこういうのはどうかね?」


 安部雅人が指を鳴らすと奥から台車によって何本かの注射器が運ばれ、それを安部雅人が一本掴みセイの腕に刺し薬品を流し込む。


「な、なにを……」


「なに? ちょっとした自白剤さ……あははぁ……さ、では続けようか……君達のリーダー格は安部海斗で間違いないね? 他には結城涼真かなぁ?」


 にやにやと資料をめくりながら質問する安部雅人。

 だがセイは変わらず睨みながら口を開けることは無く、それを見た安部雅人はクローン兵士に視線を送るとクローン兵士は焼き鏝をセイの肩に押し付ける。


「っ⁉ ……くっ!」


 痛みに目を瞑りながら奥歯を噛み締めるが、そんなセイに少しずつ変化が訪れていた。

 先ほどまで鋭い目で見ていたセイの目つきは少し柔らかくなり、全体的に眠たげな表情を見せている。


「もう一度聞こう、君たちのリーダーは安部海斗か? もしくは結城涼真か?」


「…………あ……ち、違う」


「ん? どうしたのかね? 少し余裕が無さそうに見えるが?」


 まるで口が滑ったと言わんばかりにハッとした表情を見せるセイに口元を歪め話しかける安部雅人。

 彼の言う通りセイは今自白剤のせいで余裕がなくなりつつあり、酒に酔ったかのように失いつつある平衡感覚と纏まらない考えをどうにか纏めようかと必死になり、睨むことすらままならない。

 そうなる事を分かって居た安部雅人は笑いながら二本目の注射器を握り、セイに見せつけた。


「ああ、そういえばこの薬だがね……あまり量を入れすぎると依存症になるようでねぇ……長らく苦しむそうだが、君の仲間は君が壊れる前に助けに来るだろうかね? 私が思うにレジスタンスは少数精鋭で作られているように感じられてな、ここに君が居る事に気づいたとして人員が果たして割けるかね?」


「……そんな……こと……ない…………かならず……」


 小さな声で呟くセイだが、安部雅人は気にせず二本目を注入し注射器を捨てる。


「さぁもう一度聞こうか……ん?」


 急遽防音室の扉が開けられ、安部雅人はそちらを向くと一人のクローン兵士が敬礼をしていた。


「申し訳ありません、ただいま報告がありまして参りました……これをどうぞ」


 クローン兵士は一枚の報告書を手渡し、安部雅人はそれを見た後報告書を返しセイに背中を見せる。


「ふむ? なるほどな……私は用事が出来た、他の者を呼ぶまで適当にいたぶれ……ただし、薬は入れすぎるなよ? あはははぁ!」


 それだけを伝え安部雅人は部屋を後にし、他のクローン兵士は安部雅人が部屋に出ていった後それぞれ焼き鏝を握り問答無用でセイの体に押し付けた。


「がぁぁぁ! やめろ! やめてくれ!」


 先ほどまで耐えていたセイだったが、自白剤のせいで自制を失っており焼き鏝の熱から逃げる様に体を動かすが、痛みに耐えきれずに騒ぎ立てる。

 クローン兵士は命令に従い、ある程度の加減を考えながら休み休み焼き鏝を当てていたが、再び当てられそうになった焼き鏝がセイの皮膚を焼く前に止められた。


「何をする」


「他の者にも報告がある、受け取れ」


 先ほど部屋に入って来たクローンが他の兵にも報告書を渡すと他のクローン兵士は焼き鏝を台に戻し、部屋を後にしていく。


「……これで邪魔者は居ない」


「……誰だお前は! やめろ! 俺に近づくな!」


「騒ぐな、お前は助かる」


 そう言うとクローン兵士はセイの拘束を外し、解き放つ。


「立てるか?」


「触るな!」


 薬のせいか気性が荒くなっているセイだが、逃げる様に椅子から立ち上がろうとするが平衡感覚を失っているせいか立ち上がる事すらできず、床に這いつくばっている。

 だがクローン兵士はセイに肩を貸し立ち上がらせた。


「暴れるな、今お前の仲間が救出に来ている……合流させてやる」


「誰なんだお前は!」


「……覚えてなくても良いが、教えておいてやる……N132……お前に救われた男だ」

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