第二十一話 weapons -兵器-
場所は変わり、高高度でカルボニア基地に近づきながら降下していく彼らは無線を開き話し合っていた。
「こちらノイン、俺が先行して降りて地上を確認する……それでいいか?」
「こちらハジメ、いいと思うよ」
「了解、ハチ! 高度を一気に下げろ!」
「うん!」
皆がドローンに捕まってる中、ノインだけは最初の作戦と同じようにハチに掴まっている。
一気に高度を下げ他のメンバーを振り切り三十メートル付近でノインは手を放し、ステルスを展開して着地する。
そのままノインはバイザーのナイトモードを起動し辺りを確認するが、特に敵影らしきものは無く上に居る仲間に通信で異常がない事を伝え、皆が居りてくるまで待機するノインはハンドガンとナイフを握り気を抜かずにいた。
やがて皆が降り、合流した後は全員で前線基地の方に向かっていくが慎重かつ丁寧に進めば時間が掛かりすぎる事を考慮し、敷地内に入るまでは全速力で駆け抜け目前まで近付いた後有刺鉄線の柵が見え足を止める。
「ここからは二手に分かれよう、俺たちは裏手に回る……ハジメとティオは攻め込んだら合図をくれ」
「了解、じゃあご武運を祈るよ」
「ああ、そっちも気を付けろ……危ないと思ったらすぐ下がれ」
潜入チームは基地近くの茂みを通り迂回していくようで、腰を低くして離れていくのを見守ったハジメは剣を抜き、ティオの首筋に添える。
「さて、お前はあの時の……L2510でいいんだな?」
「まぁそうだけどさ、今やるかい? どうせ僕ら敵引き付けるだけだしそんなやる事無いから後でいいんじゃない?」
首に剣を添えられているというのにティオは呑気そうに耳をほじりながら適当に呟く。
だがそういうとハジメは剣を鞘に戻し、背を向ける。
「…………まぁいいさ、俺もやっと兵器らしく振舞えるんだ……作戦を後回しにするつもりはない」
普段の好青年の表情ではなく、口角を吊り上げを獲物を見つけた獣の様に前線基地を見つめ歩いていく。
「ティオ、お前は適当に狙撃スポットを見つけとけ……俺は俺で適当に切り込んでくるからよ」
「いってらっしゃい」
ティオの方を向くことも無く歩いて行くハジメにひらひらと手を振るティオだが、その表情にはどこか恐れの様な物が浮かんでいた。
一方裏手に回っていたノイン達は合図を待ちながら茂みに隠れ、外から中の様子を伺っていた。
「流石前線基地だ……それにまるで警戒状態の様だ、全員が武器を持ち歩いてる……」
「こう見ると、僕たちの襲撃はまるで読まれているようだな……」
「……アタシたち、生きて帰れるのかなぁ……」
見れば見るほど不安になるような兵の数に、ハチが弱気な言葉を口にする。
「生きて帰るさ、アイツも連れて」
「……だが今更だが、カトル……その状態で大丈夫なのか?」
付いてくることは事前に知らされていたとは言え、数日前の戦闘の傷が癒えているとは思えないノインは、心配そうにカトルを見ていた。
「……一応、スーツの状態は確認した……装甲はいくつか破損して外してるがエネルギー回路系統は多分交換されたんだろう、問題はない」
「そうじゃなくて、体の方だ」
「……一応鎮痛剤は使った……後は気力の問題だ」
「カトル、無理はしないで? 死んじゃだめだよ?」
ハチが心配そうに言うが、カトルはいつもと変わらない表情で一回頷く。
そうこうして居ると基地内から警報が鳴り響き、通信回線が開きハジメの声が聞こえてくる。
「こっちは突入開始したよ、そっちもどうぞ」
通話の後ろから爆発音に銃声と断末魔が聞こえるが、ハジメは既に接敵して居る様だ。
「了解、俺らも向かうぞ」
三人はステルスを使えるノインを先頭にし鉄柵をカトルのビーム刃で溶断し、侵入口を作り裏から近くの茂みの中に入り、敷地内から基地を確認すると正面側に兵が集中しているのか人影は少なく、基地内に入るには絶好のチャンスだと踏んだノインは皆を連れて一気に外壁に取り付き窓から中の様子を伺うと、そこは救護施設の様で中には人影が見えなかったため、ノインは窓ガラスを割り先行する。
幸いサイレンの音で窓ガラスの割れる音が掻き消されていたのか、兵が寄ってくる様子もなく三人は基地内に潜入成功し、警戒を続けながら進んでいく。
再び場所は基地の入り口ではハジメが一人で幾人もの兵を相手にしていた。
前線の兵と言う事もあり、安価で機動性に優れるスーツ型ではなくアーマー型を装着しており、実体剣とハンドガンしか持っていないハジメでは有効打は少ない筈だが、ハジメは相手が地形を把握しているだろうと踏み、隠れる事はせず果敢に攻め入り標準装備のアサルトライフルの弾を素早い身のこなしで躱しつつ、剣で関節などの装甲の薄い部分を切り飛ばし銃を構えた兵士を見かけたらハンドガンで撃ち落とす戦い方をしている。
「撃て! どんなに強くても奴は一人だ!」
隊長の掛け声で戦慄していた兵が再び銃を構えるが、ハジメは速射で三人のカメラアイを打ち抜き、剣を構え真正面から突撃する。
しかし他の兵がそうはさせまいと引き金を引きハジメに向けて撃つがハジメは飛び上がり射線から一旦逸れた。
だが空中に居るハジメに再び射線を合わせた兵士は空中では避けられないだろうと、勝利を確信し照準を合わせると急に爆音と衝撃が兵士を襲い何が何だか分からないままでいると隊長は頭を思いっきり殴られたかのような衝撃を味わい地面に伏す。
すると地面に手榴弾の破片が転がっていることに気づき、ハジメがジャンプしたときに他の兵が持って居た手榴弾を蹴り飛ばしたことに気づき隊長はハジメの判断力の高さに驚き、薄れゆく意識の中通信を開く。
「敵兵と……接敵……敵は一人、しかし……とても人とは……まるで……」
地面に伏しながらハジメを見ると、先ほど自分の頭に衝撃を与えたであろうハンドガンをよく見ると口径はハンドガンと呼ぶのは憚られるほど大きく、先ほどの衝撃で頭部パーツの装甲は粉々になったか大きくへこんでいるのが容易に想像でき、狭くなる視界の中震える奥歯を噛み締め、言葉を伝える。
「死神……」
その言葉を残して意識を失った隊長に血飛沫が吹きかかった。
すぐ横では兵の喉に剣を突き立て、割れたカメラアイにゼロ距離で弾丸を打ち込むハジメが居り、兵士のアーマーのヒビから血が噴き出ているのを見てハジメは心の底から愉しんでいた。
「これで十三……やっとらしく振舞えて俺は感謝するぜ」
剣を引っこ抜き、血の池に兵士は倒れ込む。
「さて、百人切りでもすりゃ俺も一人前かな……」
まだ銃弾や手榴弾が飛び交う戦場で余裕そうな笑みを浮かべながら、車や木を障害物にしながら縦横無尽に戦場を駆け回っていると、ティオから通信が入る。
「もしもし? お楽しみの所悪いけどこっちは良い狙撃ポイント見つけたから、今から援護に入るよ」
「ああそうかい、じゃあ適当に頼むぜ」
その通信が終わると同時に近くの兵が背中の神経プラグを打ち抜かれ、倒れていく。
「狙撃手だ! 狙撃手が居るぞ!」
どこからか狙撃されていることに気づいた兵が声を上げると、一瞬他の兵が狙撃手を探そうとハジメから視線を逸らした時、その隙を逃さずハジメは近づき首を切り落とし拾った手榴弾を傷口にねじ込み蹴り飛ばす。
そのまま首のない死体は後ろに倒れ、傷口に埋められた手榴弾が破裂し血飛沫をまき散らし近くに居た兵のカメラアイを赤く塗りつぶした。
突然視界を奪われ足を止めた兵の隙を見逃さずハジメはカメラアイごと頭を打ち抜く。
「よそ見したら死ぬぜ、ザコ共」
「ば、化け物が!」
どこから飛んでくるか分からない弾丸と一人で鬼神の如き動きを見せるハジメに気がふれたのか、一人の兵がビーム刃のナイフを持ち出し銃も持たず突っ込んでくるがハジメは手始めにナイフを持つ手首を切り落とし、そのまま右ひざを切り落とし咄嗟に手榴弾を握った左手首をハンドガンで打ち抜き、最後に腹に剣を刺しこむ。
「化け物? おいおい、俺はお前らと同じ兵器だよ……殺せと言われりゃ殺すし、壊せと言われりゃ壊す……何にも違わないさ」
ハジメは腹に刺した剣を抜き、兵士を床に倒した後急いで離れ手榴弾の爆発から逃れる。
「ただ、死ねって命令だけは聞けないな……俺も、もっと兵器としての人生を楽しみたいからな」
周りを見ると頭を打ち抜かれた死体が多く、ティオも的確な狙撃で敵を仕留めているのだろう。
そんな事をハジメは考えていると、ティオから通信が入る。
「流石だね、あの日の経験が生きてるんじゃないかい?」
「……あの日お前に地獄に落とされた日から、俺はお前を許してないって事……忘れたのか?」
「ここからよく見えるからさ、ちょっとからかって見たくなっただけだよ」
「狙撃に集中しろ、俺なんて見てないでよ」
「……そうさせて貰うかな」
少し震えた声でティオは通信を切った。
基地の外に生えている一本の大きな木の上に乗り銃を構えるティオは早まる動悸とトラウマから上がる呼吸から必死に意識を逸らしながらリボルビングライフルに弾を込め、構え直す。
「暗闇を恐れるな……僕だって死ぬならせめて戦ってだ……」
脳裏に焼き付いているトラウマを想起させない様に、スコープを覗くティオの視線は少しばかり震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます