第二十話 selfishness -我儘-

 早速海斗は会議室に皆を集め、画面に地図を映し出す。

 地図には前線基地の経路が映し出されており、皆がその地図をのぞき込んでいるがその中にピーチャとセツコは居ないが、サンとカトルは包帯を巻きながらも出席している。


「さて、皆に集まってもらったのは他でもない……これから次の作戦の概要を話す」


 タブレットを動かし地図上に経路が表示された。

 二本の経路を現す線は基地の近くまで一緒に伸びているが、途中から二つに分かれ一つは基地の真正面に向かいそこで止まっており、もう一つは内部まで続いているようだが、救出をこなすのに二チームを出撃させる意図が結城はすぐに理解できず、海斗に質問をする。


「あの、海斗さん……今回は二チームで行くんですか?」


「ああ、今回は攻め込む場所が攻め込む場所だからな」


 海斗はそういうとタブレットにチームメンバーを映し出した。

 真正面から向かっていくチームメンバーはハジメとティオのようで、もう一つの内部に入るチームはノインとハチの様だ。


「まずは今回の作戦の目標を伝える……少し驚く内容だと思うが、よく聞いてくれ……目標は二つ、一つは前線基地の破壊による前線の後退だ……前線が後退すれば少しはイヴァンディア連合も動きやすくなるだろう、そしてもう一つは……」


 海斗が少し口を噤むが、すぐに決心をしたのか口を開いた。


「……捕虜になっているであろうセイの救出だ!」


「何だって!」


 咄嗟にカトルが声を上げ立ち上がるが、すぐに痛みからか椅子に座り込んでしまう。


「……ついに覚悟を決めたって事か、海斗」


「アンダー……俺は迷うことなくこの選択は出来なかった、だけどお前や結城の言葉に心打たれたんだ……覚悟を決められたのはお前らのお陰だ」


「……本当に、お前は素直な奴だよ」


 アンダーが少し照れながらアンダーは返答する。


「さて、さっき言った通りこの場所からセイのバイタルデータが送信された事が確認された! 間違いなくこの場所から! だから俺たちは動くなら早めに動かねばセイを失うかもしれない! その為にこの作戦説明後すぐに準備をする、二度は説明しないからよく聞け!」


『了解!』


 皆が声を合わせ返事をする。

 その声を聞いた海斗が作戦概要を説明し、皆に伝えた。

 まず初めに攻め込む基地のカルボニア基地はユーラシア大陸の中腹にあり、前線であるが故大陸を渡らないといけない為貨物機を使い接近するが、対空兵器に引っ掛からない様その少し前から訓練用ドローンを改造して作られた降下用ドローンを使い降下する。

 降下後二チームは基地近くまで近づいた後二手に分かれハジメとティオのチームは真正面から切り込み敵の陽動を引き受け、ノインとハチはその隙に裏から進入しセイを探し見つけ次第救助、その後二チーム合流し近くのバングリラ湾にて結城がボートで回収に向かう予定の様だ。


「さて、ここまでが作戦概要だ……理解できたか?」


 海斗が理解できたかを確認する質問を皆にすると、カトル一人が手を上げた。


「……カトル、どうした?」


「……言わなくても分かるでしょう、僕もその作戦に入れてください!」


 頬に絆創膏や包帯に包まれたカトルが鋭い眼光で海斗に視線を送るが海斗はそう来ることが予想できていたのか海斗は静かに首を横に振り、静かに諭した。


「少し前に結城に向かって出撃させろと迫ったらしいじゃないか……そして今も……無茶と分かってでも感情が先に出ている、そんな君に今武器を握らせることも出撃を許可することも出来ない」


「……でも……」


 海斗に改めてその事を指摘されカトルは押し黙ってしまうが、どこかやりきれない表情を見せるカトルにアンダーが声を掛ける。


「カトル、お前とセイが仲が良いのは俺も海斗も結城も……皆分かってる、だから無茶をしてでもって考えは捨てろ……セイが助かってもお前が助からなかったらセイが悲しむ、な?」


「……わかりました」


 やはりどこか不満げな表情を見せるカトルだが、一応は理解できたのかそれ以上何か言い出すことは無かった。


「では続きを話す、今回前線の後退はハチのハッキングにより基地内部の自爆装置を作動させる予定だ、その為二チーム合流したらハチがハッキングをしノインがセイを抱え、他の二人が護衛をしてくれ」


「了解した」


「わかった!」


「承知しました」


「りょ~かい」


 四人バラバラだが、返事を確認した海斗は次に話を進める。


「次にこの場に残る人だが、俺とアンダーと結城が出払う以上ここは小夜に任せる事になる、しかし今はピーチャやセツコの世話や基地内部の清掃など流石に小夜一人で回す事は出来ない、そのため皆で小夜を支えてやってくれ! 今回の作戦は往復でも二日かかる予定だ、すぐには帰ってこれない……いいか?」


「かしこまりました」


 小夜が礼儀正しいお辞儀を見せ、他の皆も頷く。


「では以上だ! 作戦参加組は一時間で支度してくれ! 結城とアンダーは物資の積み込みと燃料補充だ!」


『了解!』


 海斗の鶴の一声で皆は一斉に動き出し、会議室を後にするが出撃組と反対方向に向かうはずだったカトルは足を止め、別の方向に歩き出す。




 一時間後、出撃組は皆貨物機内部に揃いそれぞれスーツの点検をしていた。


「海斗、フライト準備完了だ!」


「よし、今からまる一日飛ぶことになる……出撃前の最後の時間だ、リラックスしてくれ」


 外は既に夕焼けが沈みそうな時間帯であり、基地内部から明かりが漏れているのがみえる。


「それじゃあ発進するぞ!」


 貨物機は離陸し、徐々に体にフライト特有の重力が掛かり気圧の変化から耳に違和感を感じ始めた頃、通信機に何か反応があったのかアンダーがマイクを手に取った。


「こちらアンダー、どうぞ」


「小夜です! 大変です、カトルさんが何処にも見当たりません!」


「なんだって⁉」


「どうしたアンダー、何かあったっか?」


 アンダーの声を聞きつけ海斗が近づくとアンダーは事情を手短に伝える。

 すると海斗はすぐにマイクをアンダーから借り、小夜と通信を続けた。


「小夜、話は聞いた! 今どういう状況だ!」


「えっと、先ほどまで皆で二日間分の役割を決めていたんですがその時にカトルさんが腕が痛むとおっしゃってまして……それで一旦医務室に連れて行って待機してもらって……」


「その間に行方をくらましたと……」


 海斗は苦虫を噛み潰したような表情を見せるが、すぐに小夜に指示を出す。


「とにかく皆には探すよう伝えておいてくれ、もう離陸してしまった以上俺たちは戻れない」


「その必要は無いですよ」


 指示を出していた海斗の後ろからカトルの声がしたため、アンダーと海斗の二人が振り返るとそこには半壊し動ける程度にリペアされたジャッジを着たカトルがスケアクロウのホロトラップの予備を持ち立っていた。


「カトル!」


「……やっぱり、僕にはセイを待つなんて出来ない……アイツは僕を生かすために嘘までついて単身乗り込んだんだ! なら僕はぬくぬく待つだけなんてしちゃいけない!」


「だからってそんなボロボロのスーツを着て勝手についてきていいと思ってるのか! 今から行くのは前線基地なんだ! 前回のような隠れて兵力を持つ場所では無く多くの兵士が武器を持って居るんだ!」


 海斗がカトルの胸倉をつかみ睨みつけるがそれでもカトルは譲らない。


「僕は死にに来たんじゃない! 親友を助けに行くだけです!」


「それは詭弁だ!」


「それでも、それでも僕はアイツを……」


「もうやめときな、海斗」


 アンダーが操縦桿を握りながらそういうと海斗は掴んでいた手を放す。


「ついてきちまったもんはしょうがねぇ、今から下ろす訳にも行かねぇしな……」


「……それでも、何も言わず許容する訳にはいけないって事は分かるだろ?」


「ああ、こいつは軍なら立派な軍規違反……懲罰房は免れねぇだろうさ、その位の事したってのは分かってんだろ? カトル」


「……はい、罰を受ける覚悟もできてます」


 カトルは真剣な眼差しと言葉でその事を訴えるとアンダーはため息を吐いた。


「じゃあ罰は追って伝えるって事で、今はとにかく作戦に集中させた方が良いんじゃないか? 今ここでいざこざを作ったってロクな結果にゃなりゃしねぇ」


「……はぁ、とにかく今はそういう事にしておくか……という訳でカトル、お前はハチとノインと一緒に潜入組に入ってもらう……だが無茶だけはするな、ミイラ取りがミイラになっては元も子もない……分かったな?」


「了解しました」


「それともう一つ、戻ったら心配させた皆に謝れ」


「……はい」


 やはり罪悪感を感じていたのか、二回目の返事は何処か沈んだ声をしていた。

 その後作戦にカトルが参加することを皆に伝え、作戦に若干の手直しを加えた後各自到着までの時間を過ごし、約二十時間のフライトの後前線基地が目の前に迫り皆が効果の準備を始める。


「各自気を引き締めて行ってこい、そして必ず帰ってこい! セイも連れて、必ず!」


『了解!』


 貨物機の後部が開き皆が降下していくのを見送り、結城がハッチを閉めると海斗は何処か複雑な表情で座っていた。


「……カトル君が心配ですか?」


「ああ、一応他の連中には何かあった場合の事は伝えているが……」


「……それでもって所ですかね、その顔は……」


 少し貧乏ゆすりをしながら座る海斗など初めて見た結城は何処まで踏み込むべきが分からず、躊躇いながらも話を続ける。


「でもカトル君の気持ちも分からない訳では無かったんですよね、参加させたって事は……」


「……だから今こんなに心が落ち着かないんだ……分かってるんだ、俺にも……それでもあの感情が戦場で暴走しないとは言い切れない……もう仲間を失いたくない、兵力と言う面だけではなく皆の為にも……」


 少し震える海斗の声に結城は何も言えなかった。

 ここまで怯えと怒りを見せた海斗を見たことがない結城にはこれ以上踏み込む勇気がなく、ただ静かに隣に座り皆の安全を祈って窓の外を見る。


(前回上手くいかなかった事を引きずっているようにも見える……多分、今海斗さんもカトル君も似た様に自分の感情に振り回されてるんだな……)


 そんな事を想いながら、結城は星空を眺めていた。

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