第十四話 J4000,L120 -従順な者達-
一方そのころFギアーズ社長室にて、安部正人がスマホを取り出し電話を掛ける。
「もしもし? 私だ安部正人だ」
ニッコリと笑みを浮かべ挨拶する安部正人だが、その前には茶髪で褐色の少年と色白で金髪の少女がおり、そのどちらもが首の後ろに神経プラグの挿入口が付いていた。
「ああ、君の一押し二人……こっちに無事届いているよ、それで例の極秘武装は一式あっちに送れたのか?」
コーヒーを啜りながら電話の向こうに居る人物に話しかける。
「ん? なんでそんな所に送るのかって? あはぁ、君は分かっていないなぁ……レジスタンスが軍港を襲ってから早一週間、その間に私はある餌を撒いた……そしてその数日後見事にその餌にかかった奴がいる、そしてその餌のあるその場所がそこなのさ!」
興奮気味に語る安部正人はコーヒーカップをソーサーに叩きつけソーサーにヒビを入れるが、全く気にすることは無く話を続ける。
「何? 昨日一昨日と現れなかったって? ……あははは、君は少し頭を使った方がいい、それと今日現れないのと何の関係があると? それに今日は丁度一週間……準備を整えるにはちょうどいい時間だ、だから私は警備の増強を指示しただけだよ……分かってくれたかい? では引き続き”厳重に”警備にあたりたまえ、がっかりさせてくれるなよ?」
それだけ伝えると安部正人は通話を終わり、目の前にいる二人の男女を見つめた。
「さて、J4000とL120だったか……君らにはすぐに行ってもらいところがある、そこで恐らく現れるであろうレジスタンスを生け捕りにしてもらう、いいかい?」
『はい! 承知いたしました!』
二人は敬礼し、声を合わせる。
「よし、いい返事だ……では頑張りたまえ、特にL120番……君は再評価組なのだからな」
「っ!」
L120番と呼ばれた少年は少し緊張した表情で敬礼の体制をさらに整える。
「か、必ず成し遂げて見せます!」
「よし、ではすぐに飛行場に行き現地に向かいたまえ」
「はっ!」
少年は再び大きな返事をし、部屋を後にしていくが少女は一人そこに残り安部正人に小さな声で話しかける。
「あ、あの……指揮官から私の……私の事情の方はお聞きでしょうか?」
「ん? あああれか……まぁ君の頑張り次第だ、精々あがきたまえ」
「……かしこまりました、失礼いたします」
少女は深々と頭を下げ、部屋を後にしていく。
だが部屋から少女が居なくなったとたん安部正人の顔から笑顔が消え去り、震える手でコーヒーカップを持ち上げコーヒーを飲み干す。
「何が事情だ、腑抜けが……死ぬために作られた命の癖に……しかしあれが前線で活躍する隊長を担っていたとは、なんとも……」
怒りからか震える手からコーヒーカップが滑り落ち、床に当たって砕け散る。
「腹立たしい……あははぁ、あはははっはあぁ……」
翌朝午前四時、作戦に参加する者たちは貨物機に搭乗し出発前の最終確認を行っていた。
「皆作戦の事で聞きたいことは無いな? 聞くなら今の内だぞ」
「自分は大丈夫です」
「おれもー!」
「アタシも!」
「大丈夫です」
「問題なし」
海斗はそれぞれ返答を聞き、アンダーに離陸の合図を出す。
貨物機は前回と同じく高度10000メートルに達した所で最後の作戦説明を始めたが、そこでサンがピーチャを指さして海斗に質問する。
「今更なんだけどさー、なんでこいつ乗ってるの?」
不満げにピーチャの方を見るサン。
それに苛立ちを覚えたのかピーチャが食って掛かる。
「なによ、アタシが乗ってたら不満な訳?」
「だってお前弱いじゃん、それにすぐ泣くし」
「なんだと!」
サンに襲い掛かるピーチャ。
その間に結城が割って入る。
「ちょっと二人とも? 作戦前なんだから落ち着いて!」
何とか二人を引きはがすも、一触即発の状態なのか目も合わせていない。
だがそんな状態にしびれを切らしたのは海斗でも結城でもなく、セイだった。
「お前らいい加減にしろ! これから作戦が始まるっていうのに煽ったり、すぐに手を出したり……お前らは協調性って物が無いのか!」
急にセイが怒号を開けたことにびっくりしたのか二人とも静かになるが、カトルが不思議そうな顔でセイの方を見る。
「お前が言うのか?」
真剣な表情でカトルが突っ込みを入れるとセイはおどけた様子でカトルの方を向いた。
「あっれぇ? 俺協調性ないっけ?」
「いや、協調性というか正論を言ったからな……少しびっくりした」
「ああ、そっちね……びっくりした、俺協調性無いのかと思った」
先ほどの怒鳴ったのがウソのように、いつもの調子に戻るセイ。
だがセイの言ったことが図星だったのか、サンとピーチャは口をつぐんだままである。
「まぁセイの言う通り少し周りを見た方が良い、二人とも」
海斗が二人に諭すように話しかけると、二人ともうなだれてしまった。
少し気まずい空気が流れて数分、目的地が目前に迫ってきた一行は再び作戦概要を話し、最後の準備を整え直接下水を放流している放流口に向かって皆で降下する。
今回はハチの様に飛べるものは誰も居ないので海上に貨物機は着水し、ボートを下ろした後結城が運転し川を上っていき、そのまま下水の放流口と思われるトンネルの前に着いた六人はカトルのビームソードで鉄格子を切り伏せ中に入る準備を整える。
「じゃあ作戦が終わったら連絡を頂戴、すぐに迎えに行けるように待機してるから」
「はい、必ず僕たちは帰ってきます」
「任せてください!」
「わかった、くれぐれも気を抜かない様にね」
カトルとセツコの返答を聞いた結城は親指を立てた後ボートのエンジンを掛け川を下っていく。
結城を見送った五人は鉄臭さと腐敗臭が混ざった下水道を歩いていき、最初の目的地であるボイラー室を目指す。
「下水は全く浄水されずに放流されているようだな」
「匂いがきついです……」
悪臭にまみれながら、カトルとセツコはうんざりしている。
しかし皆スーツ型の装備の為顔にはバイザーがある以外特にないので、異臭がじかに伝わってくるが故致し方ない。
「おっと……そろそろか……皆近寄れ」
セイは背中から一本のトラップを取り出す。
それはホログラムにより自身の姿を消す目くらましのトラップである。
範囲は約半径5メートル、トラップを手に持ちながら皆で固まり前進し歩いていく。
道中には下水道内にもかかわらずいくつもの監視カメラやタレットのようなものが置かれているが、ホログラムでカメラに映らない五人はその一切を無視し、進んでいった。
すると明かりが漏れる階段が見え始め、その前には二人の警備兵が立っていた。
「ここの警備ってくせぇし暇だし……いるのかね? ここに来るまで一応監視カメラがあるんだろ?」
「今の世の中監視カメラなんてどうにでもなっちまうんだよ、前だってガチガチの警備だったバッキ―の軍港が襲われただろ?」
「でもなぁ……ソレ無効化できるなら正面から堂々と入ってこられるだろ」
うんざりした表情で壁によりかかる警備兵。
だが背中のあたりにいた大きい蜘蛛を背中で押しつぶしてしまい、大声でその場から離れる。
「最悪だマジで! 俺休憩入るわ」
「ねぇよ休憩なんて、それ着てあと12時間勤務じゃぼけ」
「はぁ……制服交換しない?」
「そんなに嫌なら下水で洗っとけ」
「どっちもいやだぁぁぁぁ」
なにやら騒いでいる警備兵の後ろをホログラムを使い静かに通り過ぎていく。
無事にボイラー室の中に入ることが出来た五人は、そこから二手に分かれる。
カトル、セイのチームはそのまま刑務所内をホログラムを展開しながら進んでいき、サン、セツコ、ピーチャはボイラー室から出てすぐの非常口から隣の銀行に行くため刑務所の出入り口を目指して進んでいた。
「なんで銀行は下水道でつながってねーんだよ」
声を殺しながら塀に沿って進むサンが愚痴を漏らす。
「多分刑務所は死体を捨てるから直接繋がっているんだと思います……少し下水道内は血の匂いもしていましたし……」
セツコがサンの疑問に答える。
異臭を放っていた下水道内の鉄臭さと腐敗臭の元は海斗が持ってきた事前情報を聞く限りにはセツコの言う通り、死体の遺棄場所になっていたのかもしれない。
塀をずりずりと移動しながら、出口付近に差し掛かると入り口にはクローン兵士と思われる者が二人で警備をしていた。
「あれどうすんの?」
「俺がぶち壊す!」
「あの……静かに行きましょう?」
臨戦態勢に入った二人を嗜めるセツコ。
豪快で大雑把な性格のサンとキッチリした性格のピーチャが静かに倒すか、どうせ正面突破で行くので豪快に振舞うかで言い争いを始めてしまった。
「アンタ馬鹿なの? 作戦内容理解してないの?」
「はぁ? お前よりは理解してるっつうの、銀行ぶち壊せばいいんだろ?」
「ちょっと落ち着きましょう? ……ね?」
少し騒ぎすぎな二人に言い聞かせる。
だがそんな喧騒の奥で見張りのクローン兵士は既に倒れていた。
「ちょちょ、ちょっとまって……なんか倒れてない?」
奥で倒れているクローン兵士を指さして驚くピーチャ。
今の一瞬で何があったか分からないがクローン兵士はピクリとも動かなくなっている。
「あの……パルスダーツを刺して無力化したんです……」
セツコの手に小さなリボルバーが握られており、銃口から煙が出ていた。
「何も音してなかったのに……すげー」
「これ、高圧ガスで撃ち出してるので……」
照れながら銃を見せるセツコ。
ガス銃なので消音されており、サンとピーチャが争っている間に静かに仕留めることが出来たのである。
「流石スノーホワイトって名前のスーツなだけあるわ……」
セツコの着ているスーツの名前はスノーホワイト。
無力化目的の武器が多く、主に電子機器関係を一撃でショートさせるほどの高電圧の電力を持つ武器が多い。
その為ドローンやアーマーを着たクローン兵士などを静かに仕留めることが出来る、言わば機械に特化したステルススーツである。
「スノーホワイトの童話で眠ってしまうのは相手ではなく自身なんですけどね……」
「まぁ何でもいいじゃん、ナイス!」
無事出入り口は無力化できたので、そのまま銀行まで走り同じく入り口に居た兵士を無力化しそのまま内部に侵入する。
表向き銀行として動いているためか、中にはカウンターがあり営業時間外の為シャッターは降りている。
まずはセツコが監視カメラをすべてショートさせ、次にシャッターに電力を送っている配電盤をショートさせる。
全てのシャッターが一斉に持ちあがり、ついでと言わんばかりに警報が鳴り響く。
「警報鳴らして大丈夫だったっけ……?」
「いいんじゃね? どうせぶっ壊すんだし」
「あわわ……本当に大丈夫なんでしょうか?」
急に鳴った警報にびっくりしつつも開いたシャッターから中に入っていく。
階段を下に降りていき、分厚い扉の前に着く。
階段の所に大金庫と書かれている通りパッと見は唯の大きい金庫にしか見えないが、内情を知っている今この金庫はパンドラの箱の様に感じてしまう。
「さて……いっちょやりますか!」
サンが背中の六本のアームから高圧のレーザーを撃ち込む。
直後、地下の薄暗い部屋は直射日光が差したかのような明るさで光る。
「よし、切断完了!」
分厚く堅牢な金庫はいとも簡単に中まで切断されてしまい、床に大きな音を立てて転がってしまう。
そして真っ赤に染まる切り口から金庫の中身が見える。
「こりゃすげぇ……」
中にはクローン兵士のアーマーと思わしきものがいくつかあり、他には自立可動式の兵器と思わしきものや一見普通に見える銃器。
果てには神経プラグのついた戦車程の大きさの対物兵器などもあった。
だがそれよりも目を引いたのは奥に並ぶ試験管やカプセルに入ったいくつもの肉片だったり薬液だったりが異彩を放っていた。
「細菌兵器ですかね?」
「昔は生物兵器禁止条約があったって歴史では習ってたけど……今は無いもんね」
「しかもここに有るってことは刑務所で試してたって事だろ? 胸糞悪いぜ」
どんな効果があり、どんな危険があるかわからないがサンの言う通りここに有る物ほとんどは検証用、もしくは検証済みの兵器である為使われた可能性は高い。
「じゃあ時間もないしぶっ壊すか、下がってな」
セツコとピーチャを外に出し、サンは高圧のレーザーを部屋中の兵器に向かって打ち込む。
レーザーは兵器の装甲を溶断し、中の機械や燃料に引火し爆発を起こし、金庫の中身はあっと言う間に火の海になり、サンがその中から飛び出す。
「いやあっちぃ」
「そりゃ部屋の中でやったらそうなるでしょ」
「大丈夫ですか?」
メラメラと燃える炎をバックに煤だらけになったサンは、全身をアームを使ってほろっている。
だがそうこうして居る内にクローン兵隊は集まり、いつの間にか階段からコチラに向けて銃口を構えていた。
「侵入者に告ぐ、今すぐ武器を捨て投降しろ! さもなくば命は無い!」
放送機器から女の声が響く。
だがサンたちはそんな言葉を気にもせずパッと見十数人の兵士を眺めながら、武器を手に取る。
「このまま刑務所に逃げ込んでいいのかな?」
「全部ぶっ壊せばいいんじゃね?」
ピーチャはアサルトライフルのコッキングレバーを引き、サンはアームをすべて兵士に向け腰に付けていたサブマシンガンを取り出す。
「投降する意思は無さそうだな……全員構え!」
会いぞを聞いたクローン兵士達は一斉に引き金に指がかかる音がした後、即座に6回の銃声が鳴る。
階段上のクローン兵士が額から血を噴き出しながら床に向かってぼとぼとと落ちていく。
誰もが唖然とし、サンとピーチャの後ろを見ていた。
そこにはガンマンさながらのファニングショットを決めたセツコが静かに立っていた。
どうやらマグナムの中身は先ほどの非殺傷のパルスダーツではなく実弾に入れ替えていたようだ。
「チョー派手でいいじゃん!」
「先手必勝です」
不意を突かれたクローン兵士達は一瞬固まってしまい、隙が生まれたのを見逃さずサンとピーチャも次々とクローン兵士に銃口を合わせ引き金を引く。
クローン兵士も少し遅れて銃を構えるが時すでに遅し。
次々と成すすべなく倒れていく兵士達。
その中を割って三人は出口を目指し走っていく。
「真正面は任せな! こちとら六本も武器があるんだぜ!」
「後ろはアタシとセツコに任せて!」
「おうよ!」
三人は海を割り進んでいくモーセの奇跡の様に三人は兵士の死体の海を割り、出口へと走っていく。
順調に階段を上り、廊下を曲がり出口は目前になった時……一つの人影が入り口の前に立っていた。
入り口の向こう側から強い光が差し込みよく見えないが、仲間ではなさそうだ。
「何者だ? お前らは……イヴァンディア連合の連中か? もしくは……」
相手は一歩進み、反射光の中から抜け出る。
頭まで隠れるアーマーではなくサンたちと同じくスーツを着ており、見た目は他のアーマーより凝った造形をしている。
敵は長い髪と整った顔、疑いなど知らなさそうなまっすぐな瞳の金髪の少女だった。
間違いなくリーダー格の兵士はゆっくり近づき、サンたちはその瞳に気おされてゆっくりと後退する。
「まぁなんだっていいさ、ここで死ぬんだから」
銃とナイフがくっついたガンブレードを抜き、サンたちに飛び掛かる。
サンはすぐにアームを動かし狙いを定めるもアームの挙動に気づいた敵は六本のアームの内三本を銃弾で切断する。
「やっば⁉」
まさかアームを撃ち落とされるとは思っていなかったサンは、敵を目の前にして固まってしまいガンブレードの刃が届く範囲に入ってしまう。
「残念だが、サヨナラだ!」
呆然と立ち尽くすサンの首を切り落とさんと近づく刃。
しかしその刃を銃弾が弾き飛ばす。
「サン! 動け!」
ピーチャの射撃により難を逃れたサンは残ったアームを収納しながらその場を離れる。
「わりぃ、ありがとう」
「どういたしまして」
「さて……どうしましょう?」
敵は相当の手練れである。
サンやピーチャに劣らないぐらい早く動き、ガンブレードという取り回しの良い武器を使い的確に射程を詰めてくる。
それにアームを即座に撃ち落とすほどの射撃精度を持っており、長期戦になれば練度の差で全滅するだろう。
「どうやらただの雑魚という訳では無いらしいな」
敵は銃のマガジンを床に抜き落とすと、腰のアームが自動でマガジンを詰め替えた。
そしてコッキングも他のアームが行う。
自動給弾と自動リロードを備えた取り回しの良いスーツはこの多対一においてネックとなる隙を減らしている。
「さあ、まだ終わりじゃないだろ? 私が死ぬまで他の連中は突っ込んでこないように言ってある……では生け捕りにさせてもらう、全力でかかってこい!」
三対一でも気圧されるほどの圧力、かつてない程の強敵を前に三人は冷や汗を流した。
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