第四話 combat training -戦闘訓練-

 皆更衣室で着替えた後に、アジトの裏側にある広い平地に皆で集まり体力測定の為の準備を始めた。

 初めに準備運動を行い、二人一組を作りコミュニケーションを兼ねた運動を行う。

 基礎的な柔軟運動から始め、声掛けを行うように言い聞かせその後十分間の休憩時間を設けると、価値無し達に少しずつだが他愛のない会話が生まれていた。


「おいセイ、お前柔軟で力入れすぎだろ!」


 カトルがセイに近づき話しかけると、セイは笑って答える。


「あ、まじで? 言ってくれりゃあ良かったのに」


「言っただろ!」


「あー言ってたわ、なんだてっきりそれぐらいが丁度いいのかと」


 笑いながらバシバシとカトルの肩を叩くセイを鬱陶しそうにみるカトル。

 その後ろでナナにピーチャが肩を組み、楽しそうに笑っている。


「ナナ、お前身体柔らかいな!」


「え、うん……ありがとう」


「いいなぁ、アタシ体硬いのかなぁ……」


 体を捻ったり、伸びをしながらピーチャは自分の体の硬さを確認する。

 先ほどの二人一組の取り組みが上手く行ったのか、ペアになった者同士の会話がちらほら聞こえてきた為、海斗とアンダーそして結城は少しほっとした表情を浮かべた。


「よし、お前らの体力測定を始める! 握力、筋力、持久力、柔軟性、瞬発力を見ていくぞ! 全員ついてこい!」


 まず先に走り込みを始め、120m四方の平地を十周ほど走り込みそのまま握力テストや腕立て、腹筋やスクワットを十分間行い十分の休憩を入れたのち立ち幅跳び等の基礎データを取り、体力測定を終える。

 時刻は1時20分。

 皆でシャワーを浴びたのちに昼食を取り、アンダーが食器を片付けている間に、皆で倉庫に集まり海斗が開発したという武器を皆で取りに行った。


「よし、みんな揃ったな! 今から君たちには武器を割り当てる、一人ずつ装着してみてくれ」


 小さなコンテナがいくつか並べられており、中を開けるとスーツ式の装備とそれに適した銃や剣等が一緒に入れられており、武骨な見た目だが機能性を重視した印象を受ける。

 十個ある内の一つに海斗が電源コードを差し込むと、スーツの隙間から光が漏れ出し排熱用のファンが唸りを上げる。


「今回はアーマー型ではなくスーツ型だけしか用意できなかったが、今用意できる中では最新の技術を詰め込んだ! 戦況判断の出来るAI を導入し、バッテリーも小型軽量な物を用意し機動性確保に力を入れた」


 海斗が用意できなかったアーマー型とは、全身を装甲で囲う重装備であり、スーツ型は全身を軽量な骨格で包み頭部はバイザー等だけで済ませるため、防御力にはあまり寄与しないが、軽量で機動力が高く比較的コスパも良いため前線では重宝されている。


「おい海斗、神経プラグも無いのに動くのか?」


 アンダーが海斗に耳打ちする。


「大丈夫だアンダー、中にはセンサーが入っていて中の動きを認識して同じ様に動く様になっている、流石に零コンマの誤差や遅延はあるがな」


 アンダーの言う神経プラグは今や実戦配備されたクローン全てに装備されている、伝達装置であり神経内部にセンサー回路と入出力ポートを装備し、アーマー等に接続することで思い通りに動かせる装備である。

 しかし実戦配備前の価値無し達には神経プラグ設置手術を施されておらず、専用のセンサーを内蔵することになっている様だ。


「さぁ、皆の体力測定のデータを元に配置をする!」


 海斗が指揮を執り、価値無し達をそれぞれスーツの前に立たせ装備させる。

 スーツ型の腹部に生体認証機が付いており、それぞれの生体認証を完了させ起動させると、全面が開口し中に入れるようになっていた。


「結城、コレを持って映像を記録してくれ」


「あ、はい」


 タブレットを手渡された結城は、早速試着を始めたハジメを画角に収める。

 細身の黒い鎧に剣とマグナムを持った装備を着たハジメは、スタイリッシュなバイザーを付けると鎧の胸のあたりのライティングが赤く光り、排気口から空気が噴き出ると同時に、機械音声がバイザーから小さく聞こえる。


 〈初めまして、私はE-1001 the knightと申します〉


 どうやら中に搭載された人工知能の挨拶の様だ。


「あ、初めまして」


 ハジメがバイザーから聞こえた声に挨拶を返す。


 〈はい、初めまして〉


「ちょっと音が大きいかな」


 〈%単位で音量調整をするようお声がけください〉


「じゃあ20%で」


 〈かしこまりました〉


 バイザーから音は聞こえなくなり、恐らくハジメにしか聞こえない程度の音量に調整されたのだろう。


「今のが人工知能だ、戦況を判断したり現在の状況を聞けば教えてくれる……まぁぜひとも使ってくれ」


「これだけの物をよく用意できましたね」


 幾ら彼がCEOの息子とはいえここまで出来るのだろうか?


「無駄にでかい工場の施設を一部借りてコツコツ作っていたのさ」


 何時いつからコツコツと作っていたのかは分からないが、かなり前から用意していたのだろう。

 それでもここまで出来るのは執念の成せる業なのだろうか。


「さて、皆試着してみるか」


 皆の分を試着していき、全員スーツを装着すると皆楽しそうに体を動かしていた。

 スーツのライティングが皆違い、パッと見で分かりやすくなっている。


「全員が装備を完了した所で、今からチームを分ける! そのチームメンバーでこのドローンを破壊してみてくれ」


 コンテナの中からタイヤほどのサイズの五台のドローンが現れる。

 ドローンにはそれぞれ色が塗られており、下には銃口のようなものがついておりインクが入ったマガジンが横に付いていた。


「このドローンは特殊なペイントガンを装着している、これに撃たれたものは即座にリタイア扱いになり、スーツが一時的に機能を停止する」


 五つのドローンはその場にホバリングしながら海斗の横に整列しているが、背面に付いているブースターや肉抜きされた装甲から、スピードを重視した物だと一目で理解できる。


「ではチーム分けを行う! まず1番はハジメとティオ、次に2番ハチとノイン、3番ピーチャとナナ、4番カトルとセイ、5番セツコとサンのチームで1番は赤、2番は青、3番は黄色で4番はピンク。5番は緑を追ってくれ」


 海斗が手を上げるとドローンは倉庫の入り口から出て行ってしまう。


「範囲はアジト近くに流れている川より内側の森の中までだ! あとアジトには撃つなよ! それでは訓練スタートだ!」


 価値無し達は皆一斉に倉庫から出ていく。


「凄い速さだ……」


「神経プラグはないがレスポンスは内部AIで最適に処理されるし、出力も神経プラグと遜色ない出来のはずだ」


 武装の入っていたコンテナの扉を閉じながら説明する。


「体の負荷とか大丈夫なんですかね?」


「問題ない、クッション材が中には入っているし体に極端な負荷が入る動きはしないようになっている……後、入力も出来る神経プラグを取り付けるよりは何倍も安全だしな」


 あの速度で移動しても体にかかる負荷はどうやら大丈夫なようだ。

 そこまで考えて作られているのは、彼らの事が大事だからだろう。


「さて、2番チームはドローンを追い詰めてるみたいだな」


 タブレットを見ると全員の位置とドローンの位置が示されており、全員ドローンを追いかけているがその中で2番チームが一番近くまで追い詰めていた。


 場面は変わって森の中。

 黒いスーツにナイフとハンドガンを携え、青いライティングの入った“アサシン”を着るノインと、背中にドローンの様なプロペラのついており、黄色いライティングの入った8-B(エイトビー)を装着しているハチは目の前のドローンに苦戦していた。


「ステルスを使っても少しの物音からコチラを把握してくるのか……厄介だな」


 アサシンの機能であるステルス迷彩を使い忍び寄るも、草木の掠れる音から位置を割り出し、ドローンは正確にノインを捉える。

 ノインはドローンから撃ち出されるペイント弾をうまくよけながら距離を取り、木の陰に隠れドローンの追跡から逃れるため息をひそめる。

 そんなノインの上をハチが飛んでおり、サブマシンガンの銃口をドローンに向けるも、それを感知するのかタイミングよく木の下に隠れられてしまい、上空からの援護射撃がうまくいかない状況にハチがプリプリと怒り始める。


「逃げるのずっちいぞー!」


 上空から文句を垂れるハチ。

 先程から追い詰めているものの、決定打を与えられずヤキモキしてしまう。

 そしてその事に焦り、ノインは二の腕に付いているグラップルをドローンに当て引き寄せようと木の陰から体を出すとそこにドローンは居らず、代わりに後ろからモーター音が聞こえ、自分の迂闊さを思い知りながらも目を瞑りこの状況を打開する策を考える。


「……」


 咄嗟に腕を上にあげ、ノインはグラップルを発射する……と同時に、ペイントガンの発射音が聞こえ、ノインはその場に座り込む。


「あとは任せたぞ、ハチ」


 打ち上げられたグラップルが巻き戻り、地面に到達したその瞬間。

 上空から数発の弾丸が降り注ぎ、見事ドローンを貫く。

 風穴を開けられ機能を停止したドローンはその場に落ち、やがてモーターの回転音もしなくなる。


「ノイン!」


 上空を飛んでいたハチが地上に戻ってくる。


「よくあの合図が分かったな」


「凄いでしょ! ぶい!」


 Vマークを作りニッコリと笑うハチ。

 上空に打ち上げたグラップルは木の下に隠れたドローンの位置を教えるための合図であり、それを見たハチはグラップル発射地点の周りを打ち抜いたのだ。


「では報告に行くか」


 青いドローンを抱え倉庫へと足取りを進めると、森の出口で緑色のドローンを持った5番チームと出会った。


「お前らもちょうど終わったところか?」


「おう、今ちょうどな」


 背中から六本ほどの自由自在なアームを生やしたスーツであるデストロイヤーを着たサンは、大物を取ったかのようにドローンを見せびらかす。

 だがノインはそんな事よりも、サンの近くにチームメンバーであるセツコが居ないことが気になり、質問をする。


「お前、チームメンバーはどうした?」


「ん? セツコなら俺の後ろに……」


「どう見ても見当たらないが?」


「……あっれぇ?」


 おかしいなーと言いながら頭を掻くサンに、ため息の出るノイン。


「チームメンバーを置いていく馬鹿が何処に居る?」


「あ? 誰が馬鹿だって! 大体お前だってチームメンバーいねぇじゃねぇか!」


「そんな筈があるわけ……」


 サンに指摘され、後ろを振り向くとそこにはハチの姿がなかった。


「……馬鹿は二人いたようだな……」


 ドローンを撃破できた喜びからか、気の抜けていた二人はチームメンバーを置き去りにして戻ってきていたようだ。

 二人は再び森の中に戻っていき、チームメンバーを探しに行った。

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