第五話 small conversation -小さな会話-
そんな二人の少し奥の方で、4番チームであるカトルとセイがドローンに追い詰められていた。
「いやー、スケアクロウのホロトラップ全部突破されちゃったなぁ」
セイのスーツの背中には何本かのポールのようなものがあり、その一つ一つが別々のトラップとして機能するが、AI作動のドローンはそのトラップを掻い潜り近づいてくる。
「お前、トラップ以外に武器は無いのか?」
ドローンから逃げるように走るセイに通信を送るカトル。
「あるよぉ! ほら、ナイフとハンドガン」
刃渡り30cmのナイフとストック付きのバーストハンドガンを腰から取り出し、カトルが潜んでいる草むらに見せつけるように振るセイ。
「ならばそれで撃ち落とせ」
「そう簡単に言いなさんなって、あいつ避けちゃうんだから」
全速力で走りながら後ろから飛んでくるドローンのペイントガンを避け続けるので手一杯なのか、セイは全速力で木をうまく使って逃げているが当たるのは時間の問題だろう。
「全く、最初に話した挟撃作戦は失敗だな」
セイを追い続けるドローンの横の草むらからカトルが飛び出し、ビームで形成された剣を振るう。
完璧なタイミングの奇襲だったためドローンは不意を突かれたが、その場で一回転することでペイントガンの銃口が少し短くなるだけのダメージに留まった。
「ちっ! なんてすばしっこい」
カトルから距離を取った後、ドローンは水平に姿勢制御し銃口をカトルに向ける。
息をつく暇もなく打ち出されるペイントガンをビーム刃で蒸発させながら防ぐが、それほどの高出力を維持し続けていたためか、エネルギーが20%以内のアラートがすぐに鳴り響く。
〈警告、ビームソードのエネルギーが残り20%〉
「なんて燃費の悪い……」
ビーム兵器は装甲の溶断が簡単だが燃費の持ちが悪く、また人体の切断が苦手なため使う場所を選ぶ武器である。
そしてペイントガンを蒸発させ続けていたエネルギーの刃がついに消えてしまう。
万事休すかと思ったその瞬間、木陰から一本のナイフが飛んできた。
刃渡り30cmのそのナイフはドローンを掠め、カトルの横の木に刺さる。
ナイフの飛んできた方向をよく見るとかなり遠くにセイが居り、距離はなんと20メートル程もあり、かなり精密な投擲を繰り出したと見える。
ドローンはカトルに一発打ち込み、次の標的であるセイに向かって真っすぐ飛んでいく。
ペイントガンを撃ち込まれたカトルは、その場でセイがどんな行動に出るかをじっくり観察していた。
セイに接近するドローン、その場から微動だにしないセイ。
「あいつ……自分のトラップが避けられているのを忘れているのか?」
セイが仕掛けたトラップは人除けや拘束などがメインだが、今のところそれが決定打に至ってはいない。
それなのにも関わらず、その場から動かずにじっと待ち続けるセイはまるでトラップの発動を待っているようにも見える。
セイまでの距離が10メートル近くになったドローン……しかしトラップが発動する気配はない。
「何をやってるんだあいつは!」
10メートル以下になればドローンのペイントガンの射程に入ってしまうはずなのだが、避ける素振りもなくただ突っ立っているだけのセイ。
「そう焦るなって」
無線からセイの声が聞こえる。
それと同時にドローンの横の木からハンドガンを持った腕が伸びる。
奥のセイに向かって動くドローンの横腹に銃口を密着させ、その腕は引き金を引く。
横腹に穴の開いたドローンは吹き飛んでいき、機能を停止する。
それと同時に奥のセイが消え、木陰からにやりと笑いながらハンドガンを持ったセイが現れる。
「焦らずじっくり待たないと、負けちゃうよん?」
「……ホログラムか」
セイが持つトラップの一種、ホログラムを投影しデコイの代わりにしたり周りの風景と同化して身を隠すことが出来る、人除けのできる万能トラップである。
「そうそう、カトル君がうまく引き付けてくれたからしっかり用意できたのよぉ」
カトルの肩をバシバシと叩きながら話すセイ。
そんなセイにため息を吐きつつカトルは手を払いのける。
「考えがあるなら先に言え、心配するだろうが」
「お? 心配してくれるん? 優しいねぇ」
「うるさい! ……とりあえず倉庫に行くぞ」
横腹を打ち抜かれたドローンを抱え、4番チームは森の出口に向かう。
そのころ1番チームのハジメとティオは草むらの中で自分たち以外の戦闘を見ながら作戦を練っていた。
「あのドローンは銃口を向けられたのを認識すると銃口から逸れるように動くんだ……だから僕が銃口を向けて牽制し続けるからその間にティオ君は狙撃銃で狙撃してほしい」
ザ・ナイトに身を包んだハジメが、土の上に作戦内容の図絵を描く。
「ええ……そんな本気の作戦立てなくてもこう……フィーリングで行けないのかなぁ……」
リボルビングライフルに、フリントロックピストルを携えたバロックという古風な見た目をしたスーツに身を纏ったティオは、図を見ながらやる気が無さそうに呟いた。
「無理だと思うよ」
「だよなぁ……」
真面目に作戦に取り込むハジメと、やる気が無さそうに木にもたれ掛かるティオは正反対の性格の様だ。
「どうしてそんなにやる気が無いんだい?」
少し怒りの籠った声でハジメはティオに質問を投げつける。
「やる気が無いんじゃなくて、本気を出したくないの……必死ってなんかカッコ悪いじゃん」
「そんな事無いよ……さぁ、行こう?」
「へいへーい」
ハジメたちが狙うべき赤いドローンは、少し日が傾いてきた今の時間でも目立つ色をしているので探すのは容易だった。
ドローンはハジメの頭程度の高度を維持しながら周囲を索敵しており、こちらにはまだ気づいていない様子である。
「狙撃の用意をしておいて、僕がひきつける」
「いってらっしゃーい」
腰に付いている剣を引き抜き瞬間、ドローンに切りかかるも即座にハジメの方に向いたペイントガンの銃口が向くのを見て、身をよじる。
ペイントガンはギリギリハジメに当たらず難を逃れるが、着地の硬直を取りに来るかのように即座に銃口をこちらに向けてくる。
次々と打ち出されるペイントガンを避けつつ、ハンドガンで応戦するもドローンは銃口の角度から一歩先に動き、最小行動で避けてしまう。
「ティオ君、援護射撃が欲しい!」
「しょうがないなぁ」
弾を装填し、照準を合わせる。
するとドローンは遠くの狙撃も感知してハジメのハンドガンの射線とティオの狙撃銃の両方の射線を切るように動くが、ドローンの動きを読み切ったティオは引き金を引くと見事にドローンの片翼を打ち抜いて見せた。
四枚のプロペラの内一枚を破壊し、姿勢制御できなくなったドローンは地面に墜落するが、最後の抵抗と言わんばかりに銃口を地面に当て仰向けになり、機体下部に付いているペイントガンを乱射する。
「させるか!」
ハンドガンの引き金を引きとどめを刺す。
動きを止めたドローンは銃口がぐったりと垂れ、動かなくなった。
「ティオ君、よく当てれたね……」
剣を鞘に納め、後ろを振り返る。
「射線を切る様に動くってだけなら予想しやすいしね……ふあぁ……本気出したから疲れちった……」
「おつかれさま、じゃあ戻ろうか」
ドローンを抱えて倉庫に戻る。
現在時刻は4時半頃、倉庫の扉は閉まっているが倉庫の前に皆揃っている。
そんな中ピーチャとナナだけはペイントガンだらけであり、皆が壊れたドローンを持っている中黄色いドローンだけはピンピンとしていた。
「ナナとピーチャだけドローン壊せてねーじゃん!」
「ごめんねぇ……」
サンが大きな声で馬鹿にすると、ナナは震えながらかすれた声で謝っていた。
「サン! お前は言っていい事とわりぃ事が分からんのか!」
セイがサンの頭を叩き叱咤する。
「しかしこのチームだけがドローンを落とせなかったのは事実、猛省するといい」
ノインが厳しい言葉をピーチャとナナに掛けると、怒ったピーチャがノインの胸倉をつかみ大声で反論する。
「仕方ないでしょ! それにみんなもギリギリだったんじゃない! ノインだって一撃受けてるし!」
「おいおいどうしたどうした!」
騒ぎを聞きつけたのか、扉を開けて海斗と結城が近づいてくる。
ペイントガンだらけで泣きそうなナナとノインの胸倉をつかむピーチャ、それに割って間に入るハジメとセイ。
その横で一つ壊れずに滞空しているドローンを見て、二人は大方の状況を把握できた。
「大方の事情は分かった……次頑張ればいいさ、二人とも」
海斗はピーチャとナナの頭をなでる。
「頭なでられてんのいーなー」
羨ましそうに叫ぶハチ。
「というかなんで倉庫の扉開いてなかったんだよ」
「ごめんごめん、君たちのスーツを格納できる設備を貨物の中から引っ張って調整してたんだよ」
倉庫の中には十人分のアーマーをしまう簡易ドックのようなものがあり、それぞれに対応したライティングが施され分かりやすくなっていた。
「みんな着替えて自室で待機していてくれ、整備と洗浄をしておく……夕食は6時半からだ」
『はーい』
皆はアーマーを外しそれぞれ自室に戻っていく。
海斗と結城はペイントガンや泥で汚れたスーツ達を高圧洗浄機で綺麗にしていく。
ペイントは水性塗料なのか簡単に落とすことができ、三十分もあればすべてを綺麗にすることができた。
「よし、一息付けるな……タバコ吸うか?」
「あ、いただきます」
昨日今日と忙しかった二人につかの間の一服。
二人は手ごろな缶に腰を下ろし深々とタバコをふかす。
「彼らは凄いな……軍内部で使われてる軍事用AIを改良して乗せたドローンを初戦で殆ど落とせてしまうとは……」
「そんなに凄いドローンだったんですね……」
簡易ドックを出す前に遠巻きに彼らの戦闘を見させてもらったが圧巻の一言だった。
彼らは考え、最適解を導き出しドローンを打倒していた。
そんな彼らを価値無しと捉えた国のトップに結城は実に惜しいことをしたのだろうと心の中で静かに思った。
「ああ、素晴らしいよ……一組だけ落とせていなかったがそれが普通なんだ……彼らは一度も実戦経験もないのに、感と才能だけでやり切ったんだ」
「それは確かに……凄いですね……」
「彼らは価値無しなんかじゃないな、価値ありだ」
携帯灰皿に吸い切ったタバコを入れる。
「俺らも飯を食いに行くか」
着ていた作業着を脱ぎ、着替えた後に倉庫を後にして食堂に行く。
食堂では既に何人かが食べ始めており、魚介類の芳香な匂いと玉ねぎのスープが香り、空腹を刺激される
そして朝にはなかった価値無し達のコミュニケーションが少しあった。
「相変わらずアンダーさんの飯はうめぇなぁ」
パエリアとオニオンスープを食しながらセイが堪らなさそうに呟く。
「少し黙って食えないのかお前は?」
「いいじゃねぇか、無礼講だ」
まだ賑やかとは言い難いほど静かな食事だが、少しずつ打ち解けていると感じ取れた。
食事を済ませ、皆でシャワーを浴びる。
どうやらアンダーが湧水を貯水槽まで繋げたらしく、なんとか水道は通ったようだ。
大浴場のようなものはなく簡易的なシャワールームが幾つかあるのみだが、かなりの数があるので数に困ることはなく、順番待ちを必要とはしなかった。
そんなシャワールームでふと目に入ったのは、価値無し達の背中にある無数の傷のようなものだった。
厳しいしつけで精神を屈服させるやり方を取っているとは聞いたことがあるが、痛々しい傷がその過酷さを物語っている。
「君たち……その……背中痛くないのかい?」
「あ……まぁ少し沁みますけど……でもそこまで酷くないので」
「俺も少し沁みるが問題ない」
「俺は沁みないけど痒いのよ」
「そっか、何かあったら教えてね」
「了解」
それぞれ背中を向かい合わせてシャワーを浴びなおす。
強がっている様子は無いが、傷を負う事が彼らにとって普通の事で無ければ良いと結城は願った。
皆が上がった後は、1時間の自由時間を皆に与え結城と海斗、そしてアンダーは食堂に集まりこの二日の疲れを飛ばすように酒を呷り、乾杯をした。
「海斗! お前明日動くんだから飲み過ぎるなよ?」
「それぐらい分かってるさ、だがアンダーが作ってくれた旨いつまみがあるんだ。飲まないと失礼……だろ?」
「ったくよぉ、んなこと言われたらつまみを作る手が止まんなくなっちまうぞ?」
酒瓶片手にフライパンに油を引き、エビを揚げ始めるアンダー。
「結城、傷は痛むか?」
「え? ええそうですね、鎮痛剤を飲んだので今は痛くないです」
「そうか、まぁそれならよかった……お前も飲むか?」
「おい海斗、患者に酒勧めるなよ」
「少量なら大丈夫だ」
そういって海斗は結城のショットグラスにウイスキーを注ぐ。
「それじゃあ、いただきます」
普段酒をあまり飲まない結城は、チビチビと注がれた酒を飲むが飲みやすさに気づいてからは、ハイペースで飲み進め始めた。
しかし飲みなれていない酒を次々に呷ったためか、結城の記憶は一瓶空けたところで途切れ、翌日の六時に自室のベッドで目を覚ました。
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