星屑の結晶を爆発させる話(星の賢者)

 ぼくは、あの子がキライだ。

 ようちえんのころから同じクラスの。一ねん生になっても同じクラスの。スピカっていうなまえの女の子。

 

 学校がおわってベルがなる。ぼくはとちゅうまで友だちといっしょにかえってたけど、舟つき場で友だちと別れた。

 うしろの方で、キライなあの子の声がする。あの子も友だちと別れのあいさつをしてた。


「アヴィ、いっしょにかえりましょ」


 ぼくは声をかけられた。ぼくはメンドくさくて、何も言わずに歩く。


「ひどーい。なんでムシするのー」


 すこしムッとして、スピカをふり返った。スピカは早歩きでぼくに近づいてきた。


「いっしょの道だから、いっしょにかえりなさいって、先生もそう言ってたじゃない」


「えー……なんで?」


「こっちの道をかえる友だち、ほかにいないの」


「ぼくは一人でいいもん」


 先生の言うことをよく聞くイイコちゃん。そんなスピカがどうも気になるようで、気になりたくない。だいいち、ぼくは一人でかえりたいんだけど。


「このまえ、フシンシャが出たって、先生言ってたじゃない。アヴィは一人でこわくないの?」


「こわくないよ。そんなやつ」


「わたしはこわいわ。だから、いっしょにかえりましょ」


 そんなの知らないよ。だからぼくは返事をしなかった。


「なんでアヴィは、わたしをムシするの?」


「なんでって……」


 やたらおしゃべりだし、おせっかいだし、先生のごきげんうかがいが上手だし。かみがキレイで、目がおっきくて、笑ったかおが、なんかムカつく。


「しらない」


「なにそれー」


 ぼくが冷たいこと言っても、ヘラヘラ笑って流しちゃうんだ。気にしてないみたいに。だから「すこしは気にしろよ」って思って、フイッてしちゃうんだけど。


「またそっぽ向くー」


「はあー……」


 わざとため息ついたら、それがおもしろかったみたい。また笑ってる。


「キミはどうしてぼくに声かけるの?」


 スピカのたくらみが知りたくて、そうきいた。そしたら、スピカは首をかしげて考えた。


「なかよくなりたいから、じゃ、ダメかしら?」


 ぼくとなかよくだって? なにそれ。ぼくはキミのことがキライですよーだ。


「いつもキミにイジワルしてるのに?」


「イジワルなんて、されたかしら?」


 あれ? 気づいてない?


「じゅぎょう中、先生にあてられてた時に、ぼくがこたえ言ってジャマしたじゃん」


「あれ、わたしこたえ知らなかったの。だから、たすけてくれたのかと」


「え? ドッジボールの時、キミをずっとねらってたのも気づかなかった?」


「あれは作戦でしょ? レベッカの方がにげるの上手だったから、ヘタなわたしをねらってたんじゃないの?」


 ぼくのイジワルに気づいてない?

 あーもう! なんなんだよそれー!


「てっきり、アヴィは友だちになってくれるとおもってたのに……」


 ああ、シュンとしてる。そういうかお、やめてよね。なんか、心がぎゅっとなるんだよ。


「なかよくはなれないよ」


「えー」


 スピカは口をとがらせる。

 ほんとにしつこい。ぼくは、スピカとなかよくなりたいワケじゃない。今はまだクラスメイトでいいんだよ。ちょっと気にいらないだけの、タダのクラスメイトでさ。


「だって、ぼくは男子とあそびたいもん。スピカは女子とあそんでたらいいじゃん」


「セイベツで友だちをえらぶなんて、わたしはいやよ?」


「女子と友だちなんて、からかわれるもん」


 ……これがホントのりゆう。男子の友だちにからかわれるのがイヤなだけだ。

 だからキライなフリしてるだけ。


 ……いや、フリじゃない。ほんとにキライ。


「そうだ。イイモノ見せてあげようか?」


 イイコトをおもいついて、ぼくはスピカにそうきいた。スピカはキゲンがよくなったみたいだ。ぼくに早足で近づいた。


「イイモノってなあに?」


 ぼくはポケットから石をとり出す。

 黄色くキラキラ光る、星くずの結晶。ツメの先くらいの小さい結晶だけど、とってもキレイなヤツ。


「星くずの結晶じゃない。これ、どうしたの?」


「それはいいの。

 これね、火をつけたらおもしろいんだよ」


 かおがニヤけちゃう。きっとスピカ、びっくりするな。


 ぼくはスピカに結晶をもたせて、マッチをこすった。火がついたそれを、スピカの手の中にほうりこんだ。


 ぼくはにげる。ダットのごとくってやつ。そしたら、うしろの方で、バチバチって音がした。


 やったぞ。スピカをおどかしてやった! これで「いっしょにかえろう」なんて言われない!


「ぎゃーー!」


 びっくりするような声がきこえて、ぼくはふり返った。

 スピカがへたりこんで泣いてる。かおをりょう手でかくして、大声で泣いてる。

 え、やめてよ。ぼくがヒドいことしたみたいじゃん。


「大げさだなー。びっくりさせただけじゃん」


 スピカのうでを引っぱると、かおから手がはなれた。

 ぎょっとした。


「え、なんで……」


 スピカのかおが真っ赤にただれてた。ヤケドだ。

 星くずの結晶は、火をつけると花火みたいにバチバチばくはつする。ツメの先くらいの結晶なら、大したことないとおもったんだ。


「いたい、いたいイタイイタイぃぃ!」


 スピカがさけんでる。ヤケドが痛くて泣いてる。泣いたらなみだがしみて、泣き声が大きくなる。

 

 どうしようどうしようどうしよう。

 やってしまった。泣かせてしまった。

 ケガさせたかったワケじゃないのに。


「家どこ?」


 スピカのうでを引っぱって、ムリヤリ立たせる。スピカはまえが見えてないみたいで、足がふらふらしてる。

 とにかく大人に、スピカの父さんにたすけてもらわなきゃ。

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