第19話 - エルフの村






少し離れている場所で俺は村を観察していた。


村そのものは小さくないが、大きな建物はない。あちこちに小さな家があり、

その敷地内に畑が広がれている。その畑で仕事をしている人がいるけど、武器を

持ている人がいないから普通の農家っという感じだ。


そして丸太を組み合わせた防壁はあるが、村の入り口には門番らしきものはいない

みたいだ。


(マジで助かったぁ。少し怖いが、いけるんじゃない?)


門を突破できただけで終わりじゃないが、冒険者ギルドでカードが出来れば

こっちのもんだ。


(それじゃ、準備しようか)


村に入るためには色々とやることがある。


先ずは防具を収納袋に入れて、服を着替えた。

今着ている革鎧にはエルンダ王国の紋章が刻まれているからだ。幸いに、剣と

服は普通の物で、怪しまれることはないと思う。


(問題は王城で貰ったから、全部が高質なものだな。収納袋にある他の服も似たようなものだから仕方ないがな)


できるだけ目立たない服に着替えた俺は水を出して、研いだ短剣で髪の毛を

切ってみた。


一か月くらい森の中で過ごしたので、流石に髪と髭が伸びている。


(むずっ!)


器用さが上がっているから、それなりにできたが、少しだけ不格好だ。

変装のために髭を伸ばすつもりので、整えるだけだったから少しはマシだった。


最後に収納袋から2匹の荒らしウサギを取り出した。

ここへの道すがらに狩ったという言い訳のためだ。


(これでいいかな)


そして、森から出た俺は村へ続く道に入って、歩くこと数十分、村の入り口に

たどり着いた。


そこに目的のものがあった。


(エニッシュ村か)


入口には看板があって、そこに村の名前が書かれていた。このエニッシュ村が地図

に載っていれば、今どこにいるのがわかる。


(あった ! 良かった、国境から結構離れている)


このエニッシュ村は国の北にあるが、更に北の国の国境とも距離がある。


確認出来た俺は村の中へ向かった。

村に入った突端、目にした光景に体が動かなかった。


(うぅほおおおおおお、エルフだあああ!獣人だああ!)


そんなことをしている時間はないと思っても村の中の住民を見た俺の顔は無意識に

キモイことになった。


人数は少ないが、家の窓を掃除しているエルフ、重い荷物を運んでいる馬の獣人や

竜人、お菓子を食べている子供の猫、ウサギと鳥の獣人。畑の方を見たら

2メートル以上の大きなお姉さんもいる。


(すげええ、本当に違う種族だな…)


流石にいつまでもこうして居るわけにいかないので、俺はギルドを探した。


幸い、ギルドは村の真ん中にある広場にあったから、苦労なく見つけった。


外見は2階建てで、大きな扉の上にデカデカと冒険者ギルドの看板が飾っていた。

その扉の向こうから人の声や足音が聞こえてくる。


(さて、約束の絡んでくるヤツが出ないように)


重い扉を開けて、入った冒険者ギルドの中には酒場みたいなのがあって、やっぱり

賑やかだった。 静かに入った俺に、特に不審がる人は居なかったようだ。


それにしても、漫画とかでは敬語を使ったら貴族と思われることがあるけど、他の

人も使っているので、問題ないようだ。


(まあ、俺は敬語が下手だけどな)


酒場の反対側に受付があって、そこへ歩いた。


「ようこそ、エニッシュの冒険者ギルドへ」


(お、エルフじゃなく、受付嬢は人間のお姉さんだった)


「こんにちは、これを売って、冒険者登録をしたいが、いいかな?」


そう言って、俺は荒らしウサギをカウントの上に置いた。解体を済ませているの

で、汚れていない。


「はい、売買には魔物の状態を確認するために時間が必要ですけど、その間に

登録しますか?」


「ああ、それでお願いしたい。登録料はいくらだ?」


「銀貨2枚ですよ」


「わかった」


そう言って、他のギルド員がウサギ達を運んだ。


「それでは、こちらの用紙に名前、クラス、レベル、年齢、性別、種族と

出身地を記入してください。他の箇所は任意でいいですよ」


受付嬢から貰った用紙にはスキル、使用武器、特技の他にも箇所はあったが、

自分の情報をできるだけ隠すためにいくつかを空白にした。


「それでは、さん、ギルドカードを作りますので、少々お待ち下さい」


「うむ」


(ギリェルメか)


どの名前にするかは迷ったが、本名に近いものにした。

俺の名前は月島 ギイだ。先生は名字を知っているが、下の名前は知らない。


城で読んだ本にも、俺と同じ名前の人がいるのは確認済みで、異世界人とは

わからないだろう。


(まあ、正直にこれはあまり当てにしていないがな)


何せ、魔法の世界だ。名前なんて、何かの魔術で知ることもあるだろう。

そうじゃなくても、俺が本当に必要なら、女神が居場所を王たちに教える

だろう。


そんなことを考えていると、先の受付嬢が戻ってきて数個の銅貨を差し出した。


「2匹の荒らしウサギの素材は合計、銅貨6枚ですが、登録料に使いますか?」


「ああ、残りも銅貨で払いたいが、いいか?」


そう言って、俺はポッケトから14枚の銅貨を取り出した。


「はい、問題ないですよ」


ちなみに、この通貨は全世界で同じものを使えている。


銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨っと、順番に価値が上がり、正確な価値は

こうだ。


銅貨10枚 = 銀貨1枚

銀貨10枚 = 金貨1枚

金貨100枚 = 大金貨1枚

大金貨100枚 = 白金貨1枚


白金貨は銅貨1000000枚という馬鹿げている数字ので、金持ち、貴族や

高ランク冒険者以外の人はそうそう使うものじゃない。


「こちらがギリェルメさんのギルドカードです。それでは、冒険者ギルドの

大まかな説明をしますが、どうか聞いてくださいね」


Eランクと書かれている鉄のカードを受けり、お姉さんの話を聞いた。


その説明は漫画などで見るものと同じだった。


冒険者ギルドとは昔の冒険者たちが立ち上げたもので、国とは独立している。


(まあ、協力はしているだろう)


主な仕事はダンジョン探索、地上の魔物退治、護衛、素材集めというものだ。

高ランクになれば指名依頼で変わった仕事をすることもあるだが、大体この

4つに限る。


そして、待ちかねの冒険者ランクだ。

冒険者のランクはF、E、D、C、B、A、Sっと、ダンジョンと同じ方法で

分かれている。


それと同じく、依頼にもランクがあり、自身のランク以上の依頼を受けるには

高ランクの冒険者とパーティーを組まないといけない。


登録をした人はEランクからのスタートで、依頼に失敗したらFランクに落ちる。

更に失敗が続いたら依頼を受けることが禁止される。


「ありがとう、大体のことがわかった」


「それでは、こちらがこの辺りにあるダンジョンの地図、魔物と植物図鑑です。

冒険者登録、おめでとうございます」


説明が終わて、お姉さんから地図と二つの本を貰った。


受付嬢に礼を言って、俺はギルドを出った。


(無事にできたのかな?)


受付嬢の対応は普通みたいだった。他の人も特にこっちを気にしていたように

見えなかった。


(まあ、とにかく、今は寝る場所を探そう)


ギルドにも宿はあったが、まだ完全に信用できないから、自分で探すことに

した。


こうして、俺は村の中を歩き始めた。

田舎だから大きな建物は無いが、魔法の世界なだけあって、武器屋、防具屋、

道具屋、魔導具屋など、あちこちに冒険者御用達の店があった。


それ以外にも酒場や見たことない食べ物を売っている食店もあったが。やっぱり

気になるのは村の住民たちだった。


王城で習ったが、世界中には主に12の種族がある、更にそれぞれのハーフや、

未知の種族も存在するだそうだ。


(種族について色々と勉強したいが、それはまた今度だ)


気持ちを切り替えた俺は村の中心から少し離れた所へ向かった。


(元々騒がしい場所じゃなかったが、この辺りは静かで言いなぁ)


村の西側には川が流れていて、それを超えれば大きな畑や牧場が広がれている。

そのすぐ手前にある最後の建物が小さな二階建ての宿だった。その宿の周りに

綺麗な緑色をした植物の植木鉢が置かれていた。


それに誘われるように、俺は宿に入った。

その中に二つのテーブルが置かれて、奥の方で二人の女性が食事をしていた。

扉を開けた俺に気づいて、一人が話しかけてきた。


「こんにちは、お客さんかい?」


話しかけたのはエルフの綺麗なおばさん?だった。


(30以上に見えるが、どうだろう?)


「はい、失礼だが、泊まりたいが、値段を聞いてもいいですか?」


少し不躾だが、いきなり値段を聞いた。小さな宿屋だけど、結構小綺麗ので、

低ランクの魔物しか狩っていない俺はそれほどのお金を持っていない。


「構わないよ、仕事ですもの。一泊三食付きで金貨1枚と銀貨5枚、各部屋に

お風呂があるよ」


(うむ、少し高いが、払えないってことはない。ドロップの銅貨だけでは厳しい

が、ギルドで魔石を売ればいけるだろう)


「それじゃ一泊をお願いしたいですけど、銅貨で払ってもいいですか」


「いいよ、カウンターにおいで」


「あ、いや、食事を終わってからでいいですよ。俺も他のテーブルで銅貨を

数えたいので」


食事を途中に、俺を案内しようとした女将さんに俺はそう言いて、前のテーブルの

椅子を引いて座った。


女将さんはお礼を言って、他の女性と食事を続けた。


(緊張したあ〜)


テーブルの上で銅貨を数えながら、自分を落ち着かせた。


(なんだあれは !?二人共、とんでもねえ美人だ)


座っていた女性も綺麗なお姉さんで、女将さんと話している時にずっとこっちを

見ていた。


(俺って、もしかして怪しいのかな?)


「お客さん」


緊張をはぐらかすために銅貨を整理していたら、女将さんが俺を呼んだ。


カウンターで手続きをして、俺は女将さんから部屋の鍵を貰った。俺の部屋は

一階の奥にあり、そのなかは俺的には結構広くて、女将さんの言う通りに

お風呂があった。


疲れた俺は部屋に鍵を掛けて、ドアノブに部屋にあった椅子を使って、開けない

ようにした。


(念のためにってな)


久しぶりのお風呂で汗を流した後、流石に疲れた俺はベッドに横になって、

いつものように盾と剣を手元に置いて、警戒をしながらも目を閉じた。






つづく

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