第15話 - カエル






2日目の朝。


無事に夜を超えることができた。

走るわけにはいかず、朝まで少しずつ森の中を歩いていた。


「ふぁぁ~」


(流石に限界だあ)


偶にはスライムや闇カラスと遭遇したが、幸い、それ以外の魔物に合っていない。

暗くてよく見えなかったが、魔物の音を聞いた時は盾に付与されているライトの

魔術を使って闘った。


(他の魔物を呼ぶかもしれないから、戦闘の時だけに使ったがなあ)


そのせいで進んだ距離は大したことないが、止まるよりはマシだ。


(今日はこんな無茶はできないがな)


無理をしたか、体全体が痛い。だけど、それよりも眠くて、眠くて仕方ない。


(チート野郎なら1か月は走れるだろうなあっと思うが、まともに運動もしない

コンビニ店員の俺が一日中知らない森の中を走り続けたから、文句は

言えないがなあ)


空を見上げると太陽が結構高い位置っと思って、30センチもありそうな壁時計を

収納袋から取り出し、時間を確認した。


(もう8時かあ)


「っていうか、壁時計って……はははっ、シュールすぎて笑える」


腕時計は持っていないから、城の部屋にあった壁時計を盗んだ。


(はははっ、漫画の主人公らしくないなあ、そりゃ美少女のヒロインも登場しない

わけだ)


「なんつって……」


っとフラグを立ってみた俺の前で突然……… 1人の美少女も現れなかった。


「だろうな」


そんな冗談を言っている状況じゃないので、周りに休むための場所を探した。


(安全に眠れる場所が欲しいなあ)


眠れなくても、数時間くらい足を止めたい。疲れすぎて、Fランクはともかく、

Eランクの群れに遭遇したら危ない。


(本当にSPを過信したな)


比較的に安全に眠れる場所は大きな木の上と思っているが、あの凶悪スライムと

カラスが怖くてそれは出来ない。


危険察知というスキルを持っていたら、寝ているときに襲われたら起きることが

できるが、残念ながら取得していない。


(ん?…見つけた)


歩いていると、少し開けた場所を見つけた。

ここで一休みをすると決めた俺は早速、収納袋からベッドシーツを取り出した。


それから地面に落ちていた幾つの枝を集めて、上半身を隠れるくらいのテントを

作った。そしてシーツの白はこの森では目立つので、その上を土と葉っぱで

汚れてみた。


(うむ、これでいいか)


寝所の確保が出来た俺はパンを食べてから寝ることにした。小さなテントに

入り、念のために盾を体の上に、そして剣を右手の隣に置いた。


(重いけど、仕方ない)


眠らなくても、横になっただけで体からだけじゃなく、精神的な疲れも

取れていく。それでも眠るのは本当に不安だったが、森の音を聞きながら俺は

静かに目を閉じた。


(何も起こらないように…)



………

……



「ぅんんん~~~ ふうぅ…」


(無事に寝ることができたな)


テントから出て、背伸びしながら周りを確認した。


(特に変わったことはないな、魔物もいないみたい)


時計を見ると午後の15時半で、6時間以上も寝た。


(こんなに寝るつもりはなかったが、疲れすぎたな)


体力全回復ってわけじゃないが、俺は早速にシーツを収納袋に入れてから、また

走り出した。


(この森の夜は早い。そうなったら走ることが出来ないから今のうちに走らないと

な)


寝たおかげか、緊張が少しほぐれて、これからのことを考える余裕が出てきた。


俺の目的地はエルフ族の国だ。


この世界、アトラリアには幾つかの大陸があり、そして俺が居るこの「セラタ」

と言う大陸には十二の国がある。その南にはこの「エルンダ王国」、そして西には

隣国で、エルフ族の国、「エメルデイオ王国」がある。


城で教えてもらったが、そのエメルデイオ王国はもう一つの名前を持っている。


始まりの森。


エメルデイオがそう呼ばれているのは国全土が巨大な森の中にいるからだ。

元の世界の一番大きな国よりも大きなエメルデイオをその中に納めるくらいの森

で、この世界で初めてのエルフが生まれたとされている場所だ。


そしてその森はエメルデイオだけじゃなく、このエルンダ王国にも広がている。


そう、俺が今いるこの森だ。


エルンダとエメルデイオを繋ぐ国境には幾つかの街があるけど、俺を捕まえるため

に指名手配みたいなもんが出回っていてもおかしくないから、そこへ行くわけには

いかない。


だからこの森の中で国境を超えるつもりだ。


(っと言っても、言うほど簡単なものじゃないがなぁ)


追われていることはもちろんとして、その次の問題は距離だ。

城で調べたが、ここからエメルデイオの国境までは馬車で一週間もかかるそうだ。


それが徒歩で、しかも森の中となると、どれくらいかかるかは上手く想像が

出来ない。収納袋にある食料は我慢すれべ一週間くらい持つだが、それ以降は

狩りをしないといけない。


(この森で荒らしウサギみたいに食べられる魔物もいるのが救いだな)


(って、あれは……)


考え事をしながら走っていたら、少し先にある魔物を見つけた。


そいつはなんと、二足歩行のカエルだった。

緑色で、身長は1メートルくらい。そしてその手には棍棒が握られている。


(魔物鑑定)


―――――――――――――――――――――


【ステータス】

【名前】: 棍棒フロッグ

【種族】: 魔物

【ランク】: E

【レベル】: 12


HP: 979 / 979

MP: 78 / 78

攻撃: 258 防御: 194

魔攻: 73 魔耐性: 67


筋力: 24 [24]

魔力: 7 [7]

知力: 11 [11]

速さ: 27 [27]

器用: 15 [15]

運: 10


【スキル】

- ???


―――――――――――――――――――――


(結構強いな、それにこいつの持っているエアージャンプというスキルも厄介だ)


ステータスは俺の方が高いが、このエアージャンプというのはゲームでよく

あるあの二段ジャンプみたいで、空中を蹴ってもう一回ジャンプが出来る

スキルだ。


だけど、こっちの方は上だけじゃなく、どの方向でも飛べるから戦闘には

めちゃくちゃ強い。


(まあ、Lv.1ではジャンプは一回だけだそうだ。一匹だけの今を狙うべきだろう)


強いスキルだが、こいつはEランク。魔物図鑑の情報では戦闘時の知能は怯える

ほどじゃない。


(逃げることが最優先だが、SP稼ぎも大事だ)


闘うことを決めた俺は少しずつ棍棒フロッグの背後へ近づいた。そいつは獲物でも

探しているのか、周りを見ながら、前へ歩いていた。


…ゲゲ? ゲゲェっ!!


背後から近づいたが、流石に音を立てずにこんな森を歩くのは出来なくて、

気づかれた。


(それでも5メートル以内に来た。上出来だ)


獲物を探したが人間を見つけたのが想定外だったのか、棍棒フロッグは俺を

警戒しているようだ。それでもの魔物は魔物か、睨み合いに耐えられず、俺の方へ

飛んできた。


(すげえ脚力だな)


両手で握ていた棍棒を頭上で構えながら、真っ直ぐに飛んできたので、自分の

目の邪魔にならないように左手の盾を構えた。


バンッ!!


(うおっ、体の大きさは俺の半くらいだけど、力はSPを使った前の俺以上だな)


「フッ!」


無事に攻撃を防いだ俺は先日の荒らしウサギと同じく、盾で棍棒フロッグの体を

空中へ投げつけた。


ゲッ!


少しだけ空中で浮かんだそいつへすかさずに剣を振り下ろそうとしたが、

予想通りにスキルを使ってきた。剣が当たる前に棍棒フロッグはすごい力で空中を

蹴りつけて、俺の左側へ逃げた。


「ッ!」


体を横にして、俺の横腹に棍棒で攻撃を入れようとしたが、またしてもそいつを

盾で地面に叩き付けて、今度こそ真っ二つにする勢いで剣を振り下ろした。


ッゲッガァ!


腹に剣を深々に刺さっているが、まだ死んでいないそいつは泣き声を上げながら

俺の顔を見てきた。


「ぅっ」


今更ではあるが、変な同情が浮き上がってきて、剣を引き抜いた。


ゲッ…


傷口から血まみれの腸が出てきて、吐き気がして来たが、何とか抑えてそいつの

行動を観察した。


「お前、話せるか?」


王城で習ったのは低ランクの魔物に言葉を話せるくらいの知性は無いっとのこと

だが。自分で確かめないと気が済まない。


闘う前にしなかったのは同じランクの石食いネズミは野生動物そのものだったの

と、こいつも俺に襲い掛かったからだ。


っと、聞いてみたが、棍棒フロッグは狂犬のように俺を睨み付けるだけだった。


(ただの野生動物っと思ったが、これは違うな…)


漫画とかで出てくる魔物の大体は人を苦しめるためだけに生きているような

ものだ。地球の話なら悪魔か何かみたいなものだ。


(こいつからそういう敵意を感じている…)


諦めた俺はそいつに止めを刺した。


「ふうぅ」


(マジでいねえのかな、いい魔物って…)


こうして、ドロップの銅貨3枚を拾った俺はまた走り出した。





つづく

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