第14話 - 逃げ先






「ふぅ」


朝の9時辺り。


体を休むために走る速度を落としながら、森の中を今も進んでいる。


数えた限り、あれから7時間も過ぎている。スキルとSPで強化されているとは

言え、流石にそんな長い時間を走り続けるなんてできない。


(足を止まり、休憩をしたいところだが、普通に怖い)


城では毎朝の6時に起きているから、俺が逃げたことは既にバレている。


仮に6時、3時間前に俺が居なくなったことに気づいていたら、俺のステータスを

上回っている騎士たちなら直ぐに追いついてくるだろう。


問題は俺の向かった方向が分かるかどうかだ。


この森は城の南に位置している。普通なら俺が森に入っているのは分かるだろう。

けど、それを悟らないために手を打っているつもりだ。


この世界の国々には少なくとも一つのダンジョン都市が存在する。

ダンジョン都市とは複数のダンジョンが現れたところに巨大な要塞都市が作られた

場所だ。ダンジョンが暴走しないように管理をするのが一番の目的。


そしてこの国、エルンダの北方にもダンジョン都市の一つがある。

城でそのダンジョン都市の存在を知って、これは使えるっと思った。


騎士たちと話していた時にわざとその都市のに関する質問をして、興味ありっと

振舞った。そこに行きたいっと思わせることができたかもしれないが、それだけ

じゃ足りないと思った。


そこで騎士たちを混乱するために部屋で手紙を置いていた。

だけど、その手紙にはその真逆のことが書かれている。


‘‘王様、皆さん、すまない!

俺には勇者なんて無理だ!ましてや世界を救うだなんて!

元の世界では俺は危険と無縁な生活をお送っていた。先生もそれを

知っているんだ。この1ヶ月でヒーゼルと騎士たちには世話になったけど、俺は

その期待に応えられない。この世界で静かに暮らしたい! 魔物のいない所に

いきます!だから、どうか!探さないでください!”


っとな。


さて、これを見た王達は何を思う?

この状況に怯え、平和に暮らせるために逃げた人に見えるだろう。


だけど、そこには一つの違和感がある。それは…


平和に生きたい人は積極的に戦闘の訓練に参加するのか?

平和に生きたい人は他の転移者の中で最初に魔物と闘いたいっと願うのか?

平和に生きたい人はダンジョンが複数ある場合に行きたいっと言うのか?


そんな訳ないっと、王達は思うだろう。森の中じゃなく、俺は北にあるダンジョン

都市へ逃げたっと思うはずだ。


それが成功しているなら、まだ俺を捕まえていないことに説明がつく。


(騙すことができたかは知らないが、まあ、最初から全部博打みたいになものだ。

逃げる可能性を高めただけでいい)


位置的に南へ逃げた。惑わすために北へ逃げたっと思わせたかもしれない。


だけど……


(さて、休憩は終わりだ)


考え事を止めて、身体強化のスキルを使った俺は走るペースを上げながら、少し

ずつ方向を南から西へ変えた。


そう、北でも、南でもない。


(西。西にあるエルフ族の国へ向かっている)



………

……



午後の17時。



「フッ!」


スライムに止めを刺して、その魔石とドロップを拾った。


(経験値を貰えるのは嬉しいが、ここから更に危険になるな)


休憩を挟みながら森を進んでいく内に魔物と遭遇するようになった。

城の周りの森は定期的に魔物退治されているため、魔物は一切なかったが、

ここからは違う。


森の中には明かりも何もないので、17時でも夜も同然。その暗闇の中で魔物の

ことを警戒しないといけないという状況は想像以上にキツかった。


(さて、ヒーゼルたちに教えられたことを使うときだな)


既に15時間も逃げ続けているが、まだ長い時間は足を止まるつもりはない。

ここでの休憩は短時間にして、夜でも歩き続ける。


「ふうぅ、マジで疲れたあ」


声は出来るだけ出さないようにしているが、流石に精神的にも疲れていた。

木の上を確認してから、休むために幹に背中を預けった。収納袋から毎日の食事で

盗んできたパンを取り出し、水と一緒に食べ始めた。


「はあぁ」


(本当に、何が起きているんだろうなあ)


少し硬いパンを食べるのに苦労しながら考えた。


(1ヶ月以上も過ぎているけど、今でも違う世界に来ていることへの実感が

湧かないぜ)


毎日ダラダラと幸せそうに漫画や小説を読んで、ゲームをして、そのためだけに

コンビニで働いていたのが昨日のように感じる。


(それが今、誰もいない、いや、魔物だらけの森の中にいるとはなあ~。しかも

スキルだの、魔術だのを使う騎士達から逃げているとか、本当になんじゃあ

そりゃ)


「っプフフフ、いやあ、マジでおかしいって。ふはははっ」


(まあ、いいけどな。魔物は人殺しのクズばかり、チートが怖い、召喚した人達は

信じない、女神も気に入らないが、うむ、異世界だなんて最高だ!)


一日中も走り続けたからか、少しキモイテンションになっているのは自分でも

分かる。


(そのテンションで歩く気力が湧いたから、それでいこうか)


そう納得しつつ、食べ終わった俺はまた歩き始めた。





つづく


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