第13話 - 夜の企み






(これが限界か…)


(ステータスオープン)



―――――――――――――――――――――


レベル: 9 - 経験値【5549/7500】← レベルアップ!

SP: 10 + 80 ← 80ポイントゲット!


―――――――――――――――――――――


(レベル10が目的だったがな)


最終日、23時。

緑風の森でのレベルアップが終わり、今は王城に到着したところだ。


この5日間にF~Eランクの魔物を合計100匹以上も倒したが、レベル9が限界

だった。


それでもいい方だった。

転移者の中で一番高いレベルになったのはレベル11のスーツ男で、他の人は

6~8までだった。どうやってそのレベルになったのは気になるが、今はそれ以上

に大事なことが起きている。


3日後に開かれる祭りの準備のために、今日の朝に帰る予定だったが、ヒーゼル

たちに無理を言って、森でのレベルアップを続けた。その結果、城に着いたのは

23時で、今は王ヘの報告を済ませ、部屋に帰っている途中だ。


だけど、それは意図的にやったことだ。レベルアップを長引かせたことには

他の目的がある。それはもちろん、この城から逃げることだ。


俺の部屋の外にはいつもあの騎士と使用人がいる。そのせいで自由に動けない。

だが、それ以上に厄介なのはヒーゼルだ。どうやら夜でも俺の様子を自分で

確認している。数回、逃げ道を探すために、夜で騎士に言い訳をして、城の廊下や

庭を歩いていたが、いつも‘‘偶然”にヒーゼルと会っている。


その時は気分転換しているとか、眠れないとかで誤魔化していたが、そろそろ

限界だ。ヒーゼルは外の騎士と比べ物にならないくらい強いから、俺が逃げても

直ぐに気付くだろう。


だから、この1ヶ月で俺はとある条件を満たす夜を狙ってきた。

それはヒーゼルが城の外にいる時、もしくは疲れて、寝ている時だ。


(当たり前なことに見えるが、その条件が満たさないとまるで逃げる気が

しなかった)



だから、この森でのレベルアップを狙った……



「それでは、良平殿。俺はこれで」


「ふわあー… ああ、また明日」


(演技は得意じゃないな。でも上手く行っている)


王の間を出て、部屋に向かっている途中でヒーゼルと別れた。


森で遅くまで魔物狩りをしたので、騎士たちは疲れるているようだった、そして、

俺もだ。


「勇者様、いい夜を」


「ふわあ~、うむ、いい夜を」


部屋に着き、大きなあくびをしながら、使用人に眠たそうに答えて、自分の部屋へ

入った。何気なく窓を開けて、枕とブランケットを取り、当たり前のように、

ベッドの下で横になった。


(もう少しだ)


この奇妙な行為も騎士達にバレているので、もうただの変人だっと思われて

いる。枕を抱き枕として使い、顔を隠しているから、ベッドの下を見ても俺の頭は

見えない。


(さて、ここからは2時までの我慢だ)


そう、この計画とやらの狙いは結局、俺の監視をしている人達の気を緩むこと

だった。


初めて城の外に出た俺は疲れている、

10時間以上も馬車で旅をした俺は疲れている、

初めて魔物と闘った俺は疲れている、

5日間も森で寝た俺は疲れている、

数日で国全体への祭りに参加する俺は疲れている、


目的のレベルに届かないから、無理を言って、時間が過ぎるまで必死で魔物狩りを

した俺は、


疲れているに決まっているだろう?


そう、ヒーゼルたちの頭に少しでもそう思われるように動いてきた。


確実じゃない。だが、奴らの頭では俺は今、寝ている。



…………

………

……



深夜、2時。



(やべえ、上手く息できないっ)


魔物と闘った以上の胸の鼓動を無理矢理に我慢して、俺は音を立てないように

ベッドの下から出ていた。


(外に聞こえたら終わりのは分かるが、こんなに緊張するかよ⁉)


そんな考えを追い払い、枕を元の位置に戻し、ドアを見た後で俺は窓際へ

近づいた。


(入る時にわざと開いて置いたからな)


もう一度ドアを見た後、窓の下を見た。


(よ、よっし、誰もいない、第一門クリア)


自分でも何を言っているのが分からないくらいに緊張して来た。

色々考えているが、やっぱりチキンだ。


更にもう一度ドアを見て、床に置いていた収納袋を取り上げた。


(ステータスオープン)


そして最後に、頭の中でステータスを開き、森で稼いだSPの35を器用さに使った。


(それじゃあ、行くか)


最後のドアへの確認をして、俺は窓から城の壁を降りた。

10メートル以上の高さだが、筋力と器用さのお陰で壁のブロックを掴むことは

それほど難しくなかった。


高い場所は得意じゃないが、それよりも音を立てることの方が何倍も怖い。

そして地面に降りて、身を低くした俺は素早く前方、森がある方へ向かった。


この森は国にとって特別な場所らしく、この後ろの方は庭みたいに繋がっている。

お陰で1分もしない内に森へ入ることができた。


(よっし、3分だっ!)


ここからが本当の問題だ。

森へ入ることができたが、ヒーゼルたちに気づかれたら逃げ切ることが

できない。このまま音を立てず、森の木に隠れながら距離を取るつもりだ。

そこで2分が経った後で誰も追ってこなかったら、SPを早さに使い、全力で

走る。


(緊張しすぎて、走ることができるかどうか怪しい)


それでも少しずつ、慎重に木の陰に潜みながら進んでく。そして……


(180!今だっ!)


「ッ!」


城から少し離れて、3分が経った瞬間にSPを早さに振り、俺は全力疾走を

始めた。


(… 57、58、59、60!1分!)


(… 58、59、60!2分!)


(… 59、60!3分!)


走りながら時間を数えた。


(60!5分!)


(60!10分!)


「はぁっはぁっ」


10分も逃げているが、追っている気配がない。


(60!20分!)


(60!30分!)


………

……


「はあっはあっはあっ」


SPのお陰で1時間くらいも走り続けていたが、流石に心臓がやばい。

自分を落ち着かせ、呼吸を整えながら、収納袋から水を取り出した。


この収納袋は25センチくらいの革袋だが、魔術が付与されていて、中には

2m×2m×2mの空間がある。


(1時間も逃げているが、油断はできない)


水を飲んだ俺はまた走り出した。

今は夜の3時あたり。城では朝の6時で使用人が起こしてくるので、気づかれてい

ないなら、俺を探してくるまで少なくともまだ3時間がある。


それを無駄にしないため、俺は力を絞り、ひたすらに走った。





つづく

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