第5話 - 魔物





「それでは、まずはレベルとスキルの説明だな」


翌日。朝まで騎士たちと話をした後、俺と他の転移者はこの世界の服に着替え、

訓練場へ案内された。そこで昨日の騎士団長と数名の騎士が魔物の事を説明して

くれた。


「数百年前にこの世界にダンジョンというものが現れた。そのダンジョンの中から

は様々な魔物が出てきて、人々を襲ってきた。その魔物たちを倒す為に女神様

たちは俺たちに特別な力をくれた。それは主にスキルとレベルだ。魔物を倒す

ことでレベルが上がり、SPを貰える。修行と勉強をすれば、スキルも取得

できる」


団長がそう言って、少し後ろへ下がった。


「説明より、実際に見せよう」


そして、少し横へ動いたっと思ったら、その姿が突然に消えた。


「ここだ」


「うおっ!」

「マジかよ!」


声のした方向を見ると、俺たちの後ろに居た。他の人もびっくりして、

誰も気付かなかったようだ。


(まるでテレポートじゃねえか)


団長は前へ戻り、説明を再開した。


「今のは身体強化。身体能力を飛躍的に上げるスキル。基本的には自分だけに

使えるスキルだが、支援魔術のパッシブスキルを取得している者は他者にも

使える」


(強いな、支援魔術)


団長は次はっと言って、左腕を横へ向けった。


「ウオーターボール!」


手のひらの前で十数センチの水の塊が現れて、凄い速度で訓練場の壁へ放たれた。


「すげえ!!」

「魔法だ!」


今まで静かだった人も、憧れの攻撃魔術を見たら声を上げた。


「これからは君たちに自分の持っているスキルの使い方を教える」


それから団長はスキルについて色々と教えてくれた。

スキルは普段、長い時間を掛けて、手に入れるものだ。生まれた時にスキルを

持っている子供はその道の天才になるっと言われている。俺たちが最初からスキル

を持っているのは女神が俺たちにその道を歩いて欲しいっと思われている。


(だけど、それには少し違和感があるな)


それは、誰も授かったスキルに文句を言っていないことだ。

むしろ団長と騎士たちに教えながら、楽しそうにスキルを使っている。もちろん、

俺もだ。


(もしかしたら、みんなが欲しかったスキルを女神が与えったのかな?

俺も異世界に行ったら、バフ系とか、治癒系は欲しかったからな)


問題はそれを上手く使えるのかなっと心配したが、団長たちの様子からは特に

問題ないように見える。



こうして考えていると、数名の騎士たちが俺たちのところに大きな檻を連れて

来た。


「それでは、君たちに魔物っというものを見せよう」


団長の言葉で、騎士たちは檻を俺たちの目の前まで運んだ。

そして、檻の中には本当に魔物が居た。


その魔物は1メートル以上の丸いネズミだった。それだけなら大きいネズミで

片付けるだが…


そのサイズ以上に驚かされたのはそいつの歯だった。鉄か何かで出来ている

ようで、ネズミどころか、まるで狼のような歯並びだった。


キーッ!キーッ!


ネズミは檻の中で暴れて、俺たちを威嚇し始めた。檻は丈夫そうだが、始めて

こんな化け物を見た俺たちは無意識に距離を取った。


「これが魔物か⁉」

「怖えっ」

「出ないよね⁉」


(あんなもんに噛まれたら、腕ごと持っていかれそうだ…)


ビビった俺たちを見て、団長が話しかけた。


「こいつは魔物の石食いネズミだ。この個体のランクはE。普段はこの歯で作った

洞窟に住む魔物で、大数で居ることが多い。同じ群れ以外の者が縄張りに入ったら怒り出して、大勢で襲い掛かる」


団長によれば、この世界の問題はダンジョンの中の魔物だけじゃない。例えば森に

あったダンジョンから魔物が出って、その森を住処にすることもある。その森に

人が入らなくなり、そこにも魔物が生まれ始める。


最初のダンジョンが現れてから長い時間が過ぎたことで、今では魔物たちは世界中

の色んな場所に住み着いているようだ。


(ダンジョンの中だけじゃないなら、この世界は思った以上に危険かもな)


「それじゃ、こいつのステータスを見てくれ」


(魔物にだけ使えるアレか)


俺たちが持っていた魔物鑑定はこの世界の住人も生まれた時から持っていて、

魔物にだけ使用できるスキルだ。


石食いネズミを見て、鑑定スキルを試したら、目の前にステータス画面が

現れた。


―――――――――――――――――――――


【ステータス】

【名前】: 石食いネズミ

【種族】: 魔物

【ランク】: E

【レベル】: 9


HP: 738/738

MP: 42/42

攻撃: 155 防御: 134

魔攻: 52 魔耐性: 48


筋力: 22 [22]

魔力: 6 [6]

知力: 9 [9]

速さ: 17 [17]

器用: 11 [11]

運: 10


【スキル】

- ? ? ?


―――――――――――――――――――――


(うお、本当に見える。レベル9で、能力値は低いようだが、HPは高いな。

そして、スキルが見えないのはレベルが低いから、だったな)


他の人も少し怯えながらも檻の周りを歩いて、石食いネズミを鑑定した。

鑑定が終わり、闘うっと思ったが、今日は観察することが目的で、魔物はまた

運ばれた。


その後、俺たちは教室みたいなところへ向かい、そこでこの世界の勉強をした。


地形と歴史を少し学べたが、授業の内容は主に魔物とダンジョンのことだった。


訓練を始める前に俺たちへの歓迎会かなにかをするかっと思ったが、一刻も早く

俺たちに魔物の倒し方を教えたいようだ。


(まあ、当たり前か…)


それも終わり、部屋へ戻った俺はベッドで今日はのことを考えた。

俺の記憶力はそんなに高くないが、内容はゲームみたいなものだったから結構

覚えている。


まずはスキル。

この世界のスキルは大体2つに分かれている。魔術と気術。

魔術は攻撃魔術、治癒魔術、支援魔術など、主にMPを消費して使うスキルだ。


そして気術っと呼ばれているスキル。それらは身体強化みたいにMPを少量に

使うが、術者の気力や体力を使うスキルのことだ。


それからは魔物の種類の授業だった。俺たち全員に魔物図鑑みたいな本が

配れて。それを授業の時だけじゃなく、時間が湧いたら目を通すようにと

言われた。


(これはめちゃくちゃ助かるなあ)


その図鑑には何百も魔物の描写付きの情報ページがあった。スライム種、

ウォルフ種、鳥種、果には竜種も載せていた。


(それだけじゃないけどね…)


この図鑑にはもう一つの意味で助かれている。それは、この世界での強さの

意味だ。


異世界もので一番の問題は敵よりも、その世界の強さの規模だ。


ある物語では、主人公の敵は強力な魔術で一つの町を破壊出来る悪党。

他の物語では、主人公の敵は一つのブレスで国をも滅ぼすドラゴン。

その上の物語では、主人公の敵は邪悪な力で世界征服を狙う魔王。

またその上を行く物語では、主人公の敵は一つの世界をも容易く破壊できる

邪神。

更に上、ある物語では、主人公は何億年も修行しないと倒せない、

訳の分からない敵。


マジで訳が分からん!っと読んでいる間にそう思うだろう。


だけど、だけどよ?


自分がもし、そんな最悪の世界に居るとしよう…


世界を救う!って言い続けるのか?コンビニ店員の俺が?


今日のあのネズミを見たら少し冷静さが戻ってきた。檻の中でも俺たちを威嚇し、

殺気を見せた。EランクだろうとSランクだろうと、俺たちを殺しに来てる化け物

と闘うことになる。


(怖くなってきたっといた方がいいだろう)


やっぱり、ファンタジーの主人公たちは強い。強くなるためにどんな修練も

乗り越える。自分の腕、足、目、ましては全身を失えおうとも、闘い続ける。

それを何年も続けるだなんて、主人公補正だの、協力者がいただので片付ける

ものじゃない。


主人公は強い。


(やっぱり、俺はこの国のために力を貸せない…)


「寝よう…」


本の全部に目を通したところで、俺は無理矢理に考えを変えて、少し休むことに

した。


(っと言っても、ベッドはまだ使わないがな)


正直に城の人達は俺たちに良くしている。特に危険な感じもしないが。

それでも俺は漫画で読んだ嫌な展開が怖い。


これで足りないくらいだが、ドアの前に椅子を置いて、俺はベッドの下で寝る

ことにした。流石に2日も寝ずに過ごしたら、明日から始まる訓練に

耐えられない。


それから靴を首の周りにゆる目に縛って、暗殺の可能性を少しでも防ぐ努力を

した。


(傍から見たら変だろうが、どうでもいい。怖いものは怖い)



こうして


図鑑に載ていた、身長100メートルもあるSランク魔物に怯えながら、


俺は異世界で初めて休んだ。





つづく

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