第三話 ハナは揺れる。

「花は聞きたくないの?  今日の放課後のあの言葉の事」


 部屋が静まり返る。


 私がいるじゃん。


 頭にあの時の景色が映った。


「………………知りたい。私知りたい」


「いいよ」

 

 彼女は体を起こして、


「こっちおいで」

 

 ベッドのふちに座り、彼女の右側をぽんぽんと叩いた。

 言われた通り私は立ち上がり隣に座ろうとするが、正座してたせいで足がしびれ…。


「おっと……隣に座ってって言ったのにもたれかかってくるなんて」


 華の方へ倒れ込んだ。


「う、うるさい!あとにまにまするなぁ!!」


 隣に座るはずだったが、彼女の膝の上に座ることになってしまった。

 彼女の腕が腰に回されて少し、いやだいぶ恥ずかしい。


「……で、あの言葉の意味は?」


 私が問う。


「花もうわかってるんじゃないの?」


 まぁ…。


「……うん。   …でも」


「でも何?」


「私たち女同士だし…」


「うん」


「………」


 沈黙が部屋を満たす。

 数分後、華がそれを破った。


「花のお察しのとおりだよ。私はあなたのことが好き。もちろん幼馴染としてじゃなくて……」


 彼女は腰から腕を離し、右手で私の首当たりの髪を分けた。

 刹那、首に柔らかな感触が走る。


「こーゆーキスとか……Hしたいのほうの意味で」


「…………」


 驚いた。

 今までずっと隣にいた幼馴染が私のことを恋愛的な意味で好きだったなんて。


「…………」


「…………」


 じゃ、じゃあ…。


「あ、あははは…ごめんね。私おかしいよね。さ、今のは聞かなかったことにして課題を進めよっか」


「は、華は…いつから私のことが好きだったの?」


 疑問に思ったことを緊張でとぎれとぎれ言う。

 頬が暑い。五月の気温のせいじゃない。


「小6の時から、あの時から」


 今は高2だからもう一年以上前から私のこと好きだったんだ。


「あの時?」


「やっぱり覚えてないかぁ…」

 

「ごめん」


 彼女の言葉に胸が苦しくなる。


「ううん、大丈夫。……小6の時さ、遊んでるときキスってどんな感じなのかなーって花が言い出して、キスしたんだよ?そこから…」


 キス…小6…。

 あ、思い出した。

 見ていたドラマでキスするシーンがあって興味持ったんだっけ。

 あ、


「さっきキスしたことないんでしょって言ってごめん!」


「いいよいいよ…それよりも…私苦しかったんだよ?ずっと…ずっと花といるときドキドキしてて」


「………」


「好きな人に彼氏が出来て…しかも何回も!それで毎日毎日惚気られるし!!」


「す、すいません…」


「ずっと嫉妬してた………あと女の子を幼馴染を好きになって、私は普通じゃなくて……」


「…うん。気づけなくてごめん」


「で、」


「で?」


 で、なんだろう?

 まさか……


「花は私の事どう思ってるの?」


 ですよねー。

 ………。

 ……よし。華は全部話してくれたんだ。

 私は思っていることを正直に話すことにした。


「華はとってもかわいくて頭良くて優しくていつも私の事助けてくれる……幼馴染だよ」


「……うんじゃあ」


「私はずっと華と一緒にいたから華のことなんでも知ってると思ってた」


「え?」


「でもそんなことなかった。私への気持ちも知らなかったし」


「うん」


「だから……」


 心臓の音がいままで一番大きい。


「………」

 

 私の心音交じりに彼女の唾をの音が聞こえてきた。


「華のこともっと知りたい教えてほしい」


「それって……」


「私と幼馴染以上の…………恋人の関係になってくれませんか?」


「うん……!うん…!!!!」


「ぎゃっ」


 彼女はうなづいたと同時に力強く抱き着いてきた。


「くるしいくるしいくるしい華くるしいギブギブギブ!!」


「あ、ごめんごめん」


 あははは。

 彼女は笑った。


「花、立って」


「う、うん」


 言われた通り立つ。足のしびれはいつの間にか無くなっていた。

 華は私の前に立って、


「好きだよ花」


 抱きしめてきた。

 私も胸の中の彼女を抱きしめ返す。

 甘い香りが鼻をかすめた。


 長い時間お互い抱きしめて、華がゆっくりと腕を離した。

 そして彼女は私のことを見上げ、見つめて、


「キスしよ。あの時の興味本位のキスじゃなくて、恋人のキス」


「うん、いいよ」


 彼女は背伸びをして、両腕を私の首に回した。お互いの唇の距離が0になった。

 背伸びをして私の身長に合わせる彼女が今まで以上に愛おしく、宙をさまよっていた右手は彼女の頭の方へ、左手は背中へ移った。

 長い時間こうしていた。

 ふいに花が私の唇を割って彼女の舌を私の口腔内に入れ、私の舌と絡ませた。変な気分になってしまう音を立てながら。

 お互い息が続かなくなり唇を離す。

 静かな部屋には二人の呼吸音が広がっていた。


「よし!」

 

 ぱんっと軽く彼女は手を叩いて、


「数学の課題をやっちゃおうか!」


「ええ…このタイミングで?」


「課題終わったら…続きまたしよ?」


 華が頬を赤らめながら私の顔を覗き込んで言う。


「………うん」


 花は揺れた。

 そよ風に吹かれて。


 


 



 







 


 

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ハナは揺れる。 前髪ちゃん @nenenene216

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