第二話 ハナは揺れる。
「かえろっか」
「……あ、あーうん」
華のさっきの発言の意味が分からず反応が遅れてしまった。
「どうしたの花?」
机の横に掛けてある鞄を手に取った彼女は振り返って私を見た。
訝しげで少し寂しげな表情が顔に張り付いていた。
「何でもないよ、ごめんね行こ!」
私も鞄を手に取り、華に近づいた。
並んだところで、私は右手で彼女の左手を握る。
一緒に歩き出す。
いつものように手をつないで歩いているだけなのにいつもとどこか違う。
掲示板のプリントたちが風に吹かれて音を立てている。
いつも歩いている廊下がとても長く感じた。
「花は今日どこか寄ってく?」
「え?あ、いや、今日は…そのまま帰る」
「どうかした?さっきから様子がおかしいよ?」
華が私の顔を覗き込んでくる。
いつもの可愛い華の顔だ。
「なんもないよ!さ、早く帰って華に数Bの課題見せてもらわなきゃ!」
「だ、だめだよ!ちゃんとやらなきゃ」
「とか言って最後は見せてくれるんだよね華は。 もー大s…」
体が固まった
いや、なに動揺してるんだ私。
「大好き!!」
「うんうん私も好きだよ花」
昇降口でローファーに履き替えて外に出る。玄関前には部活終わりの生徒たちがちらほらいた。
階段を下りて校門までの並木道を他愛ない話をしながら並んで歩く。話している間も頭の隅にはさっき聞こえた『私がいるじゃん』という言葉がいた。
あれはどう意味なのか。よくわからない。
隣を歩く彼女のことがどんどん気になっていく。
彼女の事なら何でも知ってると思ったのに。
私の中の彼女がゆらゆら揺らぐ。
ゆらゆらゆらゆら揺れて花びらたちが宙を舞っていく。それらに手を伸ばすがギリギリ届かない。
校門を出て歩くこと十分。こころにもやもやを抱えながら家に着いた。
私が自分の家の方に歩いていくと華が言った。
「あ、課題部屋にあるから部屋来なよ」
「おじゃまします」
「なんで花急にそんなかしこまってるの?昨日も邪魔しに来たじゃん。適当に座っててね。お茶持ってくるから」
「じゃ、邪魔って!せっかく私が遊びに来てるのに!!」
「勉強中に来てクラスメイトの愚痴を一方的に言ってくるのを邪魔と言わずとしてなんと言う」
「でも聞いてくれたじゃーん」
昨日も確かにここに来た。でもなんか今日はすごく緊張する。
いつもは彼女のベッドに座るのに、今は床に正座している。
自分がおかしい、いや可笑しい。
数分後、華は二人分のオレンジジュースを持ってきてくれた。
「ふふ……なんで星座?」
「い、いまはそういう気分なの!!」
「はいはいそうですかい」
「あれ、華のおかあさんたちは?」
「まだ帰ってきてないみたい」
「………そうなんだ」
「…………」
「…………」
「よし、じゃあ課題やろうか」
星座のまま部屋の真ん中にあるテーブルに課題を広げて進めていく…が一向にペンが進まない。壁掛け時計の針がカチカチと時を刻む音だけが部屋に響く。
後ろのベッドに寝っ転がっている華をちらっとみると目を閉じていた。
……寝てる?
私は体をひねり彼女の脇腹を人差し指でつついてやった。
「なんだよー」
目を閉じたまま彼女は反応した。
そのままつんつんし続ける。
「だから何だよー」
思ったことを口にする。
「太った?」
「帰れ」
「ごめんって」
「んでなに?わからないところでもあった?」
いや、ただ興味本位でやっただけなんだけど…。
「あ、数学?」
「ま、まあそんなところ」
「あとは?」
「あとはー……」
ん?あとは?
あとはってなんだ?
つつく手が止まる。目を開けた彼女と目が合った。
彼女の黒い目に吸い込まれていくような感覚。
「花は聞きたくないの? 今日の放課後のあの言葉の事」
部屋が静まり返る。
私がいるじゃん。
頭にあの時の景色が映った。
「………………知りたい」
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