ハナは揺れる。

前髪ちゃん

第一話 ハナは揺れる。

 西日が射す放課後の教室。野球部やらサッカー部やらの声や、吹奏楽部や軽音楽部の楽器の音がカーテンを揺らしながら風と共に教室を満たしていく。

 私、花は同じクラスで幼馴染の華と二人で残って雑談にふけっていた。


「でさーこの前まで付き合ってた男がホントにゴミクズでさー」


「うんうん」


「ソッコーで別れたわ!自分のことばっかで…少しは私のことも見ろっての!!!」


「ほんとその男の人だめだね………でも、でも私なら…」


「あ、そういえば先週の数Bの課題やった? 終わってたら…ってなんか華言った?」


「ううん、何でもないよ。 課題はちゃんとやったよ。でも今持ってないからあとで家帰ったら花の家に届けるね」


「ありがとー!!大好きだよ!!」


 机を挟んで向かい側にいる華に抱き着く。甘い彼女の香り花をかすめた。


「っ…! ………うん、私も好きだよ」


 私と華は幼馴染だ。家も近く、名前の読み方も同じで保育園から今までずっと一緒だ。ずっと一緒だったから私は彼女のことを誰よりも知っている自信がある。


「そういえば、華は恋愛とかしないの?気になってる男子はいないの?」


「いないよ」


 私の右手をいじりながらそう答える彼女。


「えーつまんないのー!じゃあキスとかしたことないんでしょ?」


「…………うん、まあ、ね」


 なんか落ち込んでるように見える。


「なんか、私地雷踏んだ?なんかごめんね…」


「え!?あ、いや全然そんなことないよ!?」


 触っていた手をぱっと離し、両手をぶんぶん振って否定をする。


「あ、あっ、えっと……そう髪色! 花また新しい色にしたんだね」


「もう!気づくの遅いよう!!で、ピンク色の花ちゃんはどうよ?」


「かわいいよ!とってもかわいい」


 満面の笑みでそう答える彼女。

 急に愛おしくなって抱き着いた。


「ちょっ花!あはは…びっくりしたなーもう」


 そういいながら彼女は私の背中をぽんぽん、と優しく叩いてきた。

 そうされたからかどうかわからないが、せき止めていた本当に言いたかった言葉があふれ出た。


「さっき愚痴った、この前まで付き合ってた男いるじゃん」


「うん」


「ほんとに自分勝手だしラインすぐ返さないし、いつも電話してくれないし」


「うん」


「でも…かっこよかったし運動してるところとか頭いい所とか」


「面食い…」


「うるさい!!…あははは」


 思わず笑みがこぼれてしまう。


「……私がいるじゃん」


「え?」


「あ、いや何でもないよ?」


 私がいる?どういうこと?

 チャイムが鳴った。 

 彼女は席を立って私に背を向けて言った。


「かえろっか花」


「う、うん」


 強い風が教室に吹いた。

 カーテンが翻り、日に照らされきらきらと輝く彼女の黒髪が大きく揺れた。

 部活動の音はいつの間にか消えていて、教室が静まり返っていた。








  


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