鬼の王・茨木童子
「酒呑童子様、何を見ていられるのですか?」
「おぉ!茨木か!人間で遊んでいてな?どうなるか見ている所だ!」
「えっ!これってツクヨミ様の所の目連じゃないですか!なんでアイツが上世に!」
「まぁ見ようよ、俺からの贈り物をどうするか楽しみだな!」
地獄の閻魔殿、十王殿から最も離れた最下層、阿鼻地獄・無間。
鬼の王・酒吞童子の支配下の者達はここに送られてきている。そして鬼の王は無限とも言える時間をここで過ごしていた。
静かに過ごす事に飽き、人間で遊ぶ事が近頃の暇つぶしになっている。
そして、今回はたまたま鬼柳になっていた。
人間界・岩手県盛岡市山中
統太は目の前で苦しんでいる鬼柳を見つめていた、瞬きもせず集中している。
うめき声を上げ苦しんでいる鬼柳の体に浮かび上がっている模様が太くなり、紅い色が徐々に赤さを増してきている、脈を打つ様に模様が変色していたが、徐々に安定して来た。
空を見上げ、うめき声が止まる事は無かったが突然止んだ。口からは唾液を垂らし、白目は黒く染まり、瞳孔は紅い。
元が人とは思えない程に変わり果て、異様な雰囲気を放っている。空を見ていた眼が突然統太に向けられた!その瞬間鬼柳の姿が統太の眼前から消えた。
「まっ!」
統太は瞬時に右に飛んだ、消える瞬間に見えた方向と逆に反射的に飛んだ。
「マジか!ちょっと速すぎでしょ!見えたのが残像って先生みたいな事するなよ!」
とりあえず一旦距離を取る!明らかに速さが増してる!
意表を突かれた統太だが、リアクションとは逆に精神的には余裕があった。
「あぁーー」
統太の背後から耳に届いた声?人の声というよりも動物の鳴き声に分類される声が入って来た。動物が威嚇をする声でも無ければ、餌を欲する声でもない。
ただ出している音でしかない、だがそれは統太の背後から聞こえ、統太自身は意表を突かれ顔を横に向け目を見開き、驚いているが口は笑ている。
「マジかよ?」
呟いた瞬間、背後から地面に向かって鬼柳の渾身の力で殴られ、そのまま地面に叩き付けられた!
倒れ込む統太は口から血を吐き、動けずに苦しんでいる。
鬼柳は空中に浮遊している、統太に目向きもせず目連に向かって突っ込んで行った。
その速さは更に増し、速過ぎる事で衝撃波が発生した。
「あぁぁ」
鬼柳が移動を開始して最初に目にしたのは、夕焼けの様に美しく輝く黄金に染まった拳だった。
鬼柳の体は吹き飛んだ、木々を倒しながら目を開けると鬼柳の目に次に入って来たのは無数に見える拳の残像だった。
「ヴゥゥ」
人としての思考が無くなり、自分に何が起きたのか理解も、分析する事も出来なくなった鬼柳は鬼の力で驚異的に回復した体を起こし、周囲を見渡す。そして見つけた。
「先生には全力で良いって言われているからね?今度はさっきより速く動けよ?」
統太が歩いて来る、だがその姿は金色に輝き、目連とは別の圧力、オーラを出している。
鬼はそのオーラに足を半歩引いた、本能が危険を察し、生存行動を取ろうとしたが、鬼柳の意志、肉体が引く事を許さなかった。
「もう話も出来ないみたいだね?僕の言葉も理解出来ない?ならこの力の事を教えなくても良いか?」
「ナ・・・・二・・・モ・・・ノ・・ダ」
鬼の口からは意思のある言葉が出て来た、それは鬼に飲まれた鬼柳がまだ死んでいない事を表している、だが、心を支配された鬼柳は一瞬で消え、統太の目の前には鬼が息を荒くし、構えている。
統太の目には心も体も鬼に犯され苦しむ鬼柳の姿が見えた。そんな気がした。
「来いよ?鬼さん!」
もうあの人は助からないだろうな?もし体から鬼が消えても肉体の限界を越えているから、既に臓器は破壊されているだろうし、激痛に悶え、死にたくなるだろうな?流石に生き地獄まで与える必要は無いな!倒す時は一瞬で絶命させる!すぐに楽にさせてやるよ。
統太と鬼が同時に動いた、木々は揺れ、2人の姿は普通の人間には捉える事が出来ないが、周囲から聞こえてくる打音が響き渡る。
統太は鬼の攻撃をギリギリの所で避け、カウンターで攻撃を返す、体格的に鬼の方がパワーで勝るが、統太は小柄ゆえに的としては捉えにくく、一方的に攻撃を貰う鬼。
だが、鬼の回復も異常な程に早く一向に勝負がつかない。
「あの鬼柳という人間は「最強の皮膚」の鍵を使った様ですね?そこに赤鬼と黒鬼の力が加わった事で鬼の中でも強靭な肉体を実現した訳ですか?坊、その盾は固いですよ。」
あの方が人間で遊んでいる噂は耳にしていましたが、まさか、私達が来ている時に狙って来るとは思いたくありませんが、酒呑童子。あの方なら平気でやりますね。
ですが、今の坊なら問題ないですね。
「ダァァァァ」
鬼の咆哮が響く。統太の攻撃を受け見失い、見つけると威嚇する様に構える姿は獣そのものだ。
鬼柳の体に異変が起き始めた。ダメージの回復が追いついていないのか動きが鈍くなってきている。反応が遅れ、殴打を貰う数が増えてきていた。
統太もそれに気が付いたのか、更に力を加え始めた。
「元が人間の肉体だったから回復にも限界が来たかな?」
統太は蹴り技も出しながら、一方的に攻防戦を制し相手の体力を確実に削っていった。
「グゥゥゥゥ」
鬼が威嚇するが、その体は限界を迎えていた。鬼柳の肉体は回復する事も出来なくなり肉体は欠損して来た。
肉体から溢れる血液は止まらず、立っている事もやっとの状態だった。
「・・・」
統太は何処か悲しそうに鬼の眼前から消えた。
鬼に見えた最後の光景は消えた瞬間に地面に埃が舞った光景だった。
統太は鬼の前から消えた瞬間に間合いを詰め、鬼の足元に来ていた。視界に入らず腹部に強烈な一撃を入れ、肉体を吹き飛ばした。
回収も出来ない程に細かく破壊された肉体は血液と共に大きく拡散していった。
「さぁてと先生のとこに行くか?」
金色に輝いていた体は元に戻り、統太が鬼に背を向け歩き出すと、突然、倒れている鬼柳の肉体が青い炎で燃え始めた。
突然の事に統太が振り返ると、炎の中に1人の姿が見えた。それと同時に空気が乾燥し喉は乾き、唇がザラつく、炎から見える者の威圧感をヒシヒシと体に感じる。
統太が驚いていると目連が駆け付けて来た。
「先生!あれは!」
「鬼は死んだ時、赤黒い地獄の業火の炎に焼かれ消えます。ですが今回は違います、あの炎は呪縛の呪いから出る炎です。
契約者の魂を自分達から逃げられない様にしているのですよ。それに・・・・」
目連が炎を鋭い眼で見ていると、炎の中から声がした。
「目連、久しぶりだな?千年ぶりか?」
「久しぶりですが私は話したくありません!」
「そんな冷たい事言うなよ?俺はここから動けなくて退屈なんだよ!それに、本当に聞かなくて良いのか?」
「やっぱり貴方の仕業ですか!酒呑童子!」
「そう怒るな?今回の人間がまさか「鍵」を使用しているとは思わなかった、それは事実だ。
それに、お前らと俺らが争っても何も得る物が無い?だろ」
確かに、守護する人間が鍵を使う事は私も予想していませんでした。ですがコイツは信用できない!意図的に仕掛けて来る事はあり得る。それが何も得られなくても。
「信用できませんね?貴方があの人間に鬼を2体も憑依させた事も事実ですから」
「相変わらず固いねぇ、じゃあ一つ面白い事を教えてやるよ?鍵を守護している連中が異国の協会の使いに殺されているのは知っている。だが何処から情報が漏れた?何百年もの間、知られる事の無かった鍵の存在が?外部の人間が調べた?あり得るだろうが、そんな奴ら今まで何百何千と居たが、全員知る前に消された。そうやって各宗派の人間は自分達を守って来た。となると地獄の俺らが裏で糸を引いているか?お前ら天上の連中の中に裏切り者が潜んでいる!かも知れないな?」
「そんなバカな話がある訳が無い!神々の中に裏切り者など居るはずがない!」
「フフフ、おい目連?人も神も信用はするな?それが俺からの助言だ」
酒呑童子は言いたい事を言うと姿を消した。
「先生、今のは一体?」
統太は乾いた喉からかすれそうな声を出した、燃えていた木々は次々と鎮火したが、倒れた木々の中には炭になっている物もあれば、燻り白煙を未だに出している物もあった。
焦げた匂いで鼻が曲がる、統太は手で鼻を隠した。
「酒呑童子、坊も聞いた事はあると思いますが、奴は地獄の最下層・無間に幽閉されています。その強力な力は神々にも匹敵し、その配下には腹心の茨木童子、酒呑童子四天王、他に名の知れた鬼が居ます。奴は「鬼の王」そう呼ばれています」
消失した鬼の跡を見ながら話をしていた目連は目を閉じた、口に手を当て何かを考えている。静かに考えている目連の雰囲気に周囲からは音が消えた。
統太もヒリつく緊張感に唾をのみ、声を出せずに目連を見ていると、炭になり重なる様に倒れていた木が崩れた。
緊張感に張り詰めていた空気が解け、目連が統太を見た。
見下ろす目連に太陽の強い光が掛かり、陰影を落とした。
「坊!逃げないと私達放火犯で逮捕されます!逃げますよ!」
「真剣な顔で考えて、出た答えがそれは先生らしいや!」
「それに私はまだ行きたい場所があるんです」
「僕はもう疲れたから帰りたいですよ!」
「ダメですよ?問題解決したんですから行きましょう?」
まぁ問題解決は出来ていないですね?主宰神様にそろそろツクヨミ様を返して貰いますか?話をしないと少し面倒な事になりそうですね。
2人が歩いて森を抜けようとしていると、遠方の方からサイレンの音が微かに聞こえて来た、その音にビビった統太は全力で走りだした。
「先生が悪いんですよ!結局、観光になっていないし、言った通り道場破りみたいな事したじゃないですか!」
「坊!私は観光出来ましたよ?それに道場破りしたのは坊ですよ?忘れましたか?」
「クソォォォォォォ騙されたぁぁぁ」
阿鼻地獄・無間
「茨木」
「はい?」
「十王鬼それにアイツら4人も呼べ」
「分かりました!酒吞童子様、その手に持っている物は何でしょうか?」
「これか?綺麗だろ?これが「鍵」だ」
「そんな物が!私はてっきり鍵はもっとゴツゴツした物を想像していました」
「そうだろうな?こんな小さな玉が鍵とは誰も思うまい」
「ソレはお持ちになっていて大丈夫なのですか?」
「あぁ、問題ない。俺ら鬼と神は手に持っても平気だが、人間が手に取ればこの玉が持つ呪力で心が奪われるらしい、手にした人間の叶えたい夢、欲望が玉の中に見え、惑わし、飢えた心は止められなくなる、まさに呪いだな!本当に面白い宝玉だよ。」
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