東北に現れた。メッセンジャー

正歴・2032年6月11日・金曜日


場所は秋田県・某神社近くの森の中で起きていた。




「主よ、我らに仇なす異端の者達を倒す為に力を貸したまえ」


暗闇の夜空に一線の光が射した。




男が地面に倒れ、薄れゆく意識の中、なにかを手に取ったが命の残りが少なくなった。


その手には力が入らないが、顔の前に何かが見えている様な、そして、その見えない何かに触れようとした男の目には涙が溢れていた。




「花梨、動物園にはパパ抜きで行ってくれ、ごめんな」


手から零れた一枚の写真が男の顔の横に寄り添う様に静かに舞って下りて来た。


その写真には家族三人が写っていた。


はたから見たら平凡で何も特別な家族でも無いが、最愛の妻に出会い、娘が生まれて来てくれた事に感謝する、それだけで、男の人生は幸せであり、他の何物にも代えがたい「愛」が詰まっていた。


男の名は船場健介・36歳、死亡




男が息を引き取った直後、戦った相手が寄って来た。




「どうでした?今回の敵は「アレ」の場所は知っていました?」




「えっとね!えっとね!アタシも気になる!」




「アンナ雑魚が知っている訳も無いだろけど」




「知って様が関係ないぜ、敵を全員ぶっ殺しちまえば良いんだろ?」




「アンタ達、私にだけ戦わせて終わった途端、いきなり五月蠅いのよ!」


5人は誰かとの戦闘をしていたが、造作もなく倒し、会話をしている。




「こうやって5人揃うのは久しぶりだったから、どんな相手かと楽しみに思ったのに、まさか、こんなに弱いとは思いませんでしたわね?本部は調査の仕事をサボり過ぎですわ!


あとグラウス、私の敵を先に倒さないで下さい」


リーダー的存在の「ヴァ二―・ボナンザ」




「そんな事言ってもしょうがないから、「アレ」があるか探しましょう?それにここ虫が多くて嫌なので、早くホテルに帰りたい、それに明日から観光で忙しいし」


見た目は真面目な「イノーマス・ターナー」




「えっとね、えっとね、ここ暗くて怖いから早く帰りたい、かも、でも怒られるのも怖い、かも」


最年少で妹の様な「ルネス・グリフィン」




「ルネス、それならイノーマスと一緒に帰れば?別に貴女が居なくても問題無いし、ヴァ二―の攻撃は強いけど攻撃まで時間が掛かり過ぎ。」


淡泊な性格をした「グラウス・ミラー」




「ルネス、司祭なんか気にすんなよ、あのジジイなんか簡単に殺せるし、それに今、怖い奴が出て来たら、私がぶっ殺してやるから安心しろよ?こんな暗闇で襲われたら、最高に楽しめそうだしな!気配を感じられなかったら死んじまう、あぁコイツの仲間でも良いから襲って来ないかな!」


好戦的な戦闘狂 「クエルノ・ガルシア」




5人はイギリス協会から日本に送られて来た。


ある物を探しているが、簡単に見つからず、時間だけが過ぎていた。


暫くは森の中と倒した相手の周辺を探すが、目的の物が見つからなかった。


ヴァ二―は月明かりに照らされた相手を見る、自分達の目的の為に殺された相手に対しての悲哀、少し心が痛む様なそんな感情が出そうになる、自分達が信じる神を信仰しなかった、この者が悪い。




我々と同じ神をもとより信仰していれば魂は救われた。


異教徒に向ける感情は憐れみに満ちる。




「本部の主任司祭に連絡を入れておきますか?」


ヴァ二―が皆に声を掛ける、周囲を探していたメンバーは手を止め、ヴァ二―の下に集まった。




「私、あの眼鏡主任苦手なんだよね」


イノーマスが言うと、皆静かになった。


彼女達は主任司祭の男を嫌っており、規律に厳しいだけなら良いのだが、本人たちが気にしている事まで口に出して言って来る姿勢に、避けられがちの人物。




「私は嫌だぞ!アイツと殺し合いなら喜んでやるが、連絡は却下だ」


クエルノは顔を横に反らし少し離れた。




「私も無理」


グラウスは主任司祭に興味など初めから無く、怒られる事にも動じないが、興味の無い人に怒られる時間が勿体ないと思う為、基本、主任司祭にはシカとを決めている。




「ヴァ二―貴女が連絡するの!」


イノーマスが言う。




「なんで私が言わないといけないのですか!」


ヴァ二―が焦った表情で答えた。




「残るはヴァ二―とルネスだけ?ルネスにアンナ眼鏡の怒鳴り声何て聞かせられないし、何より可哀そう、こんなにも可愛い妹をアンナ眼鏡に汚されたくないし」




ヴァ二―が不意に下を見ると、困った顔をしてどうしたら良いのか分からないでいる、ルネスが居た。


イノーマスに言われ、確かにこの子を主任司祭の盾にするのは心が引け、空を見上げ自分が皆を守る!敵からも主任からも!と決意した。




「分かりました。私が連絡しますから皆はここで休んでいて下さい」




そう言うと、1人森の中に入って行った。


5分ほど経ち、ヴァ二―が戻って来た、落ち込んだ表情の彼女は肩を落とし、重たい足を一歩また一歩と歩いて来た。


ルネスはクエルノと悪魔退治ごっこをしていた、帰って来るヴァ二―をルネスが見ると無邪気に駆け寄った。




足に抱き着くと、ヴァ二―を見上げながら


「あのね、あのね、クエルノと遊んで待っていたよ!でもね、イノーマスとグラウスは帰っちゃったの!」


膝を地面に着け、ルネスの頭を優しく撫でながら、その楽しそうな表情に癒された。




「そうなんですね?それは良かったわね!」




「ヴァ二―なんで、泣いているの?ルネス悪い事した?」




「してないですよ?目にゴミが入っただけですわ?」


ルネスの後ろからクエルノが近付いて来た。




「で、どうだった?」




「酷く怒られましたわ、それに新たな情報と任務が言われましたわ。そろそろ休暇でも頂きたいのですがね?」




ルネスの頭を撫でていた手を止め立ち上がる、二人に背を向け空を見上げながら大きく深呼吸をして振り向いた。




「夜も遅いですし、ホテルに帰りましょうか?」


本当は疲れているが、ルネス、クエルノに心配をさせない為に切り替えた。




森には車で来ていたが、イノーマスとグラウスの2人が先に帰ってしまい、その時に車に乗って行ってしまっていた。


途中までは3人で歩いていたが、ルネスが眠くなりクエルノがおぶって来たが、夜中の人里離れた場所に車が通る事も無く、何キロもの道のりを歩くハメになった。


街頭が無い道を歩いているだけ、ただそれだけ、それだけの事。




「ヴァ二―ホテルまでどれぐらいだ?」




「10キロはあったと思うのよね?」




「アイツら絶対許さねぇ」




「そんな事言わないで許してあげましょう!」




「いや、アイツら帰ってる途中でルネスの携帯に連絡入れたのが許せないんだよ、それなら私とルネスも連れて行けって問題だろ!」




「私は置いて行っても良いんですか!酷いじゃありませんか!」




「シッ!ルネスが寝てんだから静かにしろよ!」




「ヴァ二―、そういえば、次の仕事はどんな内容なんだ?」




「えぇ、少し厄介な話でして・・・」


ヴァ二―は表情を曇らせた、口が重くなり、黙るヴァ二―にクエルノは目線を向け、すぐに前を見て歩く。




「お前が私らの盾になってくれているのは分かっている、だから、不安になるのは分かる。


だらか、私はお前たちの矛であり続ける、心配するな。」




不器用に言う姿にヴァ二―は心の中で感謝した「ありがとう」ただそれだけだが、彼女たちには周りからは見えない糸が繋がっており、その糸は互いが強く、強固な糸にしていた。




「まぁ?クエルノがそんな事を言うなんて珍しいじゃありませんの?」


ヴァ二―は嬉しい気持ちを抑え、答えた。けど、その表情は夜空にも負けない、満天の素敵な笑顔だった。




「バーカ!素敵な事ってなんだよ?街頭も無い夜道を歩かされる事かよ?」


クエルノは明るく元気でお姉さんぶる、いつものヴァ二―に戻った事に安心した。




「そうだったわね・・・あとどれぐらい歩くのかしらね?」




「明かりも見えないからまだまだ掛かるよな?ルネス起こすか?コイツの」




「ダメですよ!疲れて寝ているのですから、それに、こんな事に使ったら、神に失望されてしまいます。」




「ヴァ二―、お前は真面目だな?神様か、私は普通になりたかったよ」




クエルノは少し悲しそうな事を口にした。


人は年齢を重ねると、心にある、本心を隠してしまう、伝えなければ伝わらない思いも口に出さなくなる。


自分の弱さを人に知られたくない、そんな安いプライドなんていう物なのか?心配を掛けたくない、なんていう、自己保身の言い訳なのか?




誰にも分からない、親しい親友でも心の距離を保つ、心の弱さは人間が生物である最後の証明なのかもしれない、だから、神に縋り、祈る事で自分を守る。


クエルノが黙ってしまい、二人は静かに歩いていた、特別仲が悪い訳では無いが話す話題が無ければ、自然と沈黙が生まれる。




沈黙が長くなれば話す事も諦め、ただホテルを目指すだけ。


ホテルに着くと先に帰った二人が、気持ち良さそうにベットに眠るのを見つけクエルノは襲いそうになる。


ヴァ二―に止められる、怒りが収まらず自分の部屋に戻る時に扉を強く締めた。


何も知らずに眠る2人を見て小さく溜息をつき、椅子に座ると背もたれに持たれた




「はぁーなんで皆勝手に動くのよ」






視点変更・「ヴァ二―・ボナンザ」




~時間は少し戻り、森の中~




「主任司祭様、ヴァ二―です。」




「やぁ、久しぶりだね?もう見つけたのかい?」




「いいえ、今回の者も何も知りませんでした、一応周辺に何か無いか探しましたが何も出ませんでした」




「そうですか?お前たちは何をしに日本に行っている?観光か?」




「違います、ただ、情報が少なすぎて」




「言い訳はいい。結果も出せない無能な人達の良い訳なんて聞いても時間の無駄だ、あと


お前たちに、新たな任務を命ずる。」




「もうですか!まだ今回の件は続いていますが」




「今回の任務は急を要する事なんだ?それに私に歯向かうのか?お前たち全員をまた、元の生活に戻す事なんて私には簡単だぞ?」




「いえ、申し訳ありません」




「だろ?あの生活に戻れば、地獄が待っているからな?」






「はい」




「では、新しい任務は、日本のとある孤児院で殺人が起きた、被害者は管区を任されていた司祭だ、孤児院に居た子供たちは無事だが、その孤児院を運営していた、司祭だけが殉教された。」




「殉教!そんな!」




「異教徒に攻撃された様だ、その者を捕まえて欲しい、最悪、抹殺しろ!」




「相手の情報は何かあるのですか?」




「情報は無い、お前たちの誰か一人でも生き残って私に報告出来ればそれで良い」




「そんな無謀な事!」




「お前たちは仲間の事など気にするな?神の刃となり盾となれ、神は魂を救済して下さる。


それに無謀だと?お前たちゴミの様な存在に服を用意し、食事を与え、寝どこまで整えた協会に歯向かうのか?忘れた様だから思い出させてやる、お前たちは教徒が明日も安心して神に祈り、平穏な日常を送れる、その事だけを考えろ。


もし神が居なければ、世界は規律、秩序が乱れ人が私欲の為に殺しに盗み、我々が悪としてきた事が日常的に起きる世界が待っていると思え!」




「わかりました、また後日連絡します」




ヴァ二―は電話を切る、鬱積し余憤の余り携帯を少し強く握った、怒りが膨れ上がるのを感じ、唇を噛み抑えるが、世界は理不尽であり、教会が自分たちを使い捨ても物としてしか見ていない現状にやるせなかった。




仲間も思えば、常に結果を出し続けなければ居場所を無くし、捨てられるだけなら良いが、命の保証が無い、そんな危険な状況に誰も歓喜はしない。


もっと平和で、そう、今とは違う非日常的な生活を本当は願っていた。


ヴァ二―は今の仲間と一緒に田舎に住み、野菜を作り、ゆっくりとした時間を過ごしたい。


そんな夢があった。




だが、自分の手を見れば数多の人の命を奪い、血に染まり、絶望した。


世界は歪んでいる、彼女はそれを見て感じて来た。


自分だけが幸せになりたい、そんな願いが叶わない。




心が溺れる、神が嘗て起こした、水害、選ばれし生き物と人間だけが乗る事を許された船に乗れず、自分が起こした悪行を忘れ、乗っている人を恨み、憎悪に心が支配された悪魔。


自分がそんな人間に落ちて行く様な、計り知れぬ恐怖に心は溺れ、助けも呼べない。


誰か、誰でも良い、お願い。




死者を迎えに来る神は彼女の心が弱り、ほんの少しの風で最後の一枚になった葉は枝から離れるのを待っている。


さぁ、あと少しだ。その白く細い首に鋭い刃が触れる。


黒く邪悪なソレは今や遅しと、彼女の魂が弱るさまを見て、歓喜の声を上げ、目を赤く光らせ高笑いと共に待っていた。




「ガハハハッ貴様を倒してやる」




「あ、現れたな悪魔め、この正義の味方、ルネスが天使の力でやっつけてやる」




「なっ!貴様があの!」




「い、今更、気が付いたのね!でも倒しちゃうからね!」




「止めてくれー」




「ダメ!今のところはもっと嫌がる様にやるの!」




「あぁ、悪かった、もう一回な?」




「止めてくれぇぇぇぇ」




「悪魔の言う事なんて聞かない、えっと、えっと、えぇっと、必殺、パンチ!」




「ぎゃあぁぁぁ、貴様があの伝説の天使なら・・・なんだっけ?」




「もうクエルノの忘れたの?えっとね?・・・じゃあね?お花畑に行くと良いって言って?」




「なんでだよ?」




「良いの!お花さんと話をしたり、歌ったりするんだよ?そうしたら皆が楽しいの!」




「何だそれ?ん?オッ、帰って来た!」




「え?あっ!ヴァ二―!あのね、あのね、クエルノと遊んで待っていたよ!でもね、イノーマスとグラウスは帰っちゃったの!」




ヴァ二―は溺れそうになっていた、いや、溺れていた。


だが、そんな彼女を救ったのは神でも無ければ、主任司祭でも無い、「仲間」それだった。




無邪気に楽しそうに遊ぶ姿、守る物はここにあった。


ヴァ二―は地面に膝をつき、そっとルネスの頭を撫でる。


心が軽くなった、1人じゃない、自分には大切な仲間が居る、そう、彼女には心を許せる


仲間が常に側にいた。


久しぶりに再会し、溺れかけていた心を救ってくれた仲間に自然と涙が流れた。




「ヴァ二―なんで、泣いているの?ルネス悪い事した?」




「してないですよ?目にゴミが入っただけですわ?」


ありがとう、大丈夫!そんな事を思ったのか、彼女の表情に笑顔が戻った。

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