教会のメッセンジャー

日本の東北3県である事件が多発していた。


テレビや新聞、ましてやネットニュースにも載らない、


この事件に警察も介入していない、存在自体を知っている者が限られる。




十八宗(18宗派を十八宗と呼ぶ)の関係者が何者かにより4件の殺害が起きていた。


十八宗は「ある物」を1つずつ、各宗派で管理、守護してきた。


そのある物を狙う者が次々と襲っていると、噂が流れていた。


噂を確認する為に統太は岩手県の平泉を訪れていた。




「ここって他の地域と明らかに世界が違うよな?」




統太が感じていた感覚はこの地の持つ特殊な歴史が関係していた。


遥か昔、都と同等の力を持っていた辺境の地。


外界から喜んでくる人間も少なかった時代に、来るものを拒まず、誰でも人としての幸福を与えていた奥州の都。




一時代を築き上げたが、人の思いはいつの時代も傲慢で身勝手な物だ。


権力を握れば人は狂い、親しい身うちでも敵対する。


そんな人間に神々は愛想をつかし、人間の暴走を加速させていった。




2032年6月17日


統太は横須賀の孤児院での一戦後、高天原に戻った後に目連に連れられ、東北の岩手県に来ていた。


目的は観光と言われ、タダで遊べれるならとついて来た。




「坊、少し観光でもしましょう」




「えっ!良いんですか?僕見たい場所があるんですよ!」


今回、統太は目連と共に来ていた、幼い容姿の統太1人で確認に行かせると、「子供」の見た目から不都合が多く、下界に行きたがっていた目連が同行する事になった。




「で、坊は何処に行きたいのですか?」




「夏油高原でカヌーをやりたいのと、浄土ヶ浜にある青の洞窟にも行きたいし、龍泉洞も見ておきたいですね!後は本場の冷麺が食べたいです!名物でもあるグルメは外せないですよ!」




統太は目を輝かせながら目連に観光スポットの本を開きながら見せていた。


普段見せない姿に目連は若干引き気味になり少し仰け反った。




「じゃ、じゃあ坊がそこまで言うなら行きましょう」




夏油高原、浄土ヶ浜、龍泉洞と巡り2人はかなり楽しんだ。


傍から見れば仲の良い親子に見える。




そんな2人は次の日は食べ歩きをしようと、盛岡市に移動して初めに冷麺を食べようと散策をしていた。


目連は本来の目的は置いておいて観光を楽しむ、慰安旅行を思わせる程に羽目を外している。


当然、統太はただの旅行と聞いている為、楽しむつもりでいる。




「先生、早く決めて下さいよ!」




「いや!でも坊!ここのご飯もおいしそうだよ!」




「だから、今日は一日食べ歩くって、決めたじゃないですか?悩まないでどんどん入りましょうよ?」




なんで仕事は早いのに、こういう時だけ優柔不断になるの?なんでも良いからお腹減ったし早く決めてよ。




「でも、駅の反対口にも沢山お店あるみたいだし、余力は残したいカナ?」


目連は観光本を見ながら、行きたい店が多く、頭の中は食べ物で溢れている。




「カナ?じゃないですよ!そんなのいい大人が言ったらキツイから止めて下さいよ!先生何千歳ですか!」




こっちを見ながらその顔止めて!良い歳の親がキャッキャッしているのを見ている子供の気分だ、精神衛生上これ以上に悪い物も少ないだろうな?




「歳は関係無いでしょ!私だってカナ?って言いたい時ぐらいある!カナ?」




「なんでこんな人が先生なのカナ?」




「あっ!坊も今言ったね?」




目連は手で口を隠しながら笑いを堪えようとしているが、統太はその姿に苛立ち歩き出した、目連は後ろから笑いながら謝るが、統太は頬を膨らませながら無視して歩く。




「坊、ごめんってもう許してよ」




「・・・・・」




「もうこの子は直ぐに癇癪起こすのですから?しょうがないですね」




目連が後ろから前屈みなりながら語り掛ける、すると統太が突然足を止めた。


目連は気が付くのが遅れ、統太の腰に膝蹴りを入れた。


良い角度で入ったのか、統太はその場に倒れ込み、悶絶してのた打ち回っている。




「だ、大丈夫?坊?」




苦笑いしながら心配する目連は屈みこんで謝っている。




「ひ、酷いですよ先生」




涙目になりながら鈍痛に耐えつつ訴える統太、そこに声を掛けて来る少女がいた。


統太が突然止まり、膝を貰う一部始終を見ていて心配したのか、ユニコーンのぬいぐるみを少し強めに抱きしめ、近寄って来た。




「あっ、あのね?あのね?ドミンゴが痛い所を治してくれるって」


少女は抱えているユニコーンのぬいぐるみの前足を統太が痛がっている箇所に当て摩っていると、統太の痛みが引いて行った。




「あれ?痛くない!おぉ凄いな!」




痛みが無くなり立ち上がると、涙目になっていたのが嘘の様に元気になった。


体力まで回復した様な不思議な感覚を統太自身が感じていた。




「コラ!お礼が先でしょ!」




目連に頭を叩かれ、また涙目になり頭を押さえつつ目連を睨むが、目連の目が統太のその反抗心を許さない程に鋭かった。


目で相手を殺す眼光、目は口程に物を言う。と言うがこの時、統太は身に染みた。


直ぐに姿勢を正し、深々と頭を下げお礼を伝えた。




「ありがとうございました、貴女様が居なければ愚性は公衆の面前で痴態を晒し、あろう事か、一緒に居る先生の面目まで潰す所でした」




統太が突然少女相手に意味を理解出来ない事を言い、更に目連に頭を叩かれた。




「アナタは普通にお礼も言えないのですか?」




目連は統太の前に行き、膝をついて少女と同じぐらいの目線で改めてお礼を言った。




「先程はありがとうございました。お嬢さんはどうしたのですか?」




「あっ、ルネスは皆と離れたの、怖いから隠れて居たけど、楽しそうな声が聞えたから出て来たの」




「そうですか?では親御さんを一緒に探しますか?」




目連は少女の手を取り、一緒に歩いて行った、それを見た統太が急いで追い掛ける。


統太は後ろを静かに歩き始めた。




少女がはぐれたという場所まで来たが、それらしき人も居なく、少女は今にも泣きだしそうになっていた。


目連は日差しの強い中歩き回ったので、少し休もうと少女に言うと、近くにあった飲食店に入った。


目連はコーヒーを頼み、統太はガッツリとした物を頼み、少女はパフェを頼んだ。




目連は少女の名前や何処に住んで居るのか?もう少し探して見つからない時は、警察に行って頼むしかない事を言うと少女は不安からまた悲しい顔をしていた。




「そんな心配しなくても平気だよ?いざとなれば先生が神通りっ!」


統太は頭を叩かれた。




「コラ!坊、ここを何処だと思っているのですか?下界ですよ?確かに力を使えば簡単に見つけられますが、簡単に居場所まで行ったら不自然でしょ!」




「少し遠回りすればバレませんよ」




「あっ、確かに?」




「先生は真面目だからダメなんですよ」


2人が小声で話していると、少女は自分が邪魔なのかと不安になり声を出した。




「あっ、る、ルネス邪魔?大丈夫、1人でも探せるから」




下を向き、今にも風に奪われ消えてしまいそうな声を出し、迷惑を掛けまいと2人に申し出るが、統太はそんな思いを感じ取ったのか。




「僕と先生に任せれば大丈夫だから、これ食べなよ?」




統太は自分の前に置いてあった、ポテトのお皿を少女の方に少し動かし笑ってみせた。


少女は左手でユニコーンを握りながら小さな声で恥ずかしそうに。




「ありがとう」




統太は照れ臭いのか、自分も恥ずかしくなったのか、店内の方に目線をそらし誤魔化した、目連は統太の成長が感じられ表情が柔らかくなった。




「アナタもルネスさんの様にちゃんと感謝を述べる事が出来れば、私はどれだけ嬉しいか?」


目連はコーヒーを飲みながら恥ずかしがっている統太に横やりを入れた。




「え?感謝ですか?簡単ですよ?先生は僕の様な者にタダ飯を与えてくれ、迷子になっていたルネスまで救う御心、それは、大地を見守る蒼穹の様な美しさを持ち、万物全てに敬を持ち慈しむ、心弛び、見て頂ける日を迎えられる様に大地に根を張り、蒼穹に思いを寄せながら在世して参ります」




目連は頭を抱えながらため息をつき、そっと机にカップを置いた。




「坊、私はアナタには穢れの無い眼で世界を見て欲しいのです、アナタ自身が偏ってはいけません。世界は」




目連は話を続けようとしたが、統太と目連の会話が理解出来なかったルネスが不思議そうな顔で居るのを見ると話を止めた。




「さて、そろそろ行きましょうか?」




目連はルネスの目を見ながら笑みを浮かべた、ルネスは食べた事で元気になったのか、ヤル気に満ちていた。




「ルネス、頑張る!ドミンゴも頑張るって!」




目連に見える様にユニコーンのぬいぐるみを出して見せて来た、ルネスはぬいぐるみを見つめながら自分を奮い立てるように。




「ルネス頑張る!」




「では、坊、行きますよ」




目連は外に出ると、天耳通を使いルネスを探している、声を見つける為に目を閉じた。


本来は自分の助けを求める人の声を聞く為に使うが、応用が利かない程不便な力でも無く。


天上ではツクヨミを懲らしめる為に使う事も屡々。


目連は直ぐにルネスを呼ぶ声が聞えた。




「ルネス!」




「アンタどこ行っていたのよ!」




「心配かけるなよ?まぁー見つかって良かったぜ」




「私はルネスなら心配はいらないって思ってたけど」




ほぉ?案外直ぐに見つかりましたね?後は何処にこの方々が居るのかですね?


あれ?見つかって良かった?私は天眼通を使ってしまったのですか?でも未来が「見えている」訳でも無い?




目を瞑ったままの目連は今、起きている事に少し困惑していた、自分が使っているのは天耳通の筈だよな?間違えたか?そんな思いが表情にも表れ、目を瞑りながら苦い表情に徐々に変わって来た。




「先生?何時までやっているのですか?」




あぁ、恥ずかしいなぁ。先生もきっと目を開けたら死にたくなるだろうな?僕なら顔から火が出るぐらいなんてレベルじゃ済まないからな?




統太の声に目を開けると、目の前にはルネスの他に4人の女性が立っていた。


状況が理解出来ない目連は統太の方を見ながら




「え?」


??見られていた?!本当ですか?そんな!恥ずかしい姿見られたのですか?




目連が首を傾げながら居ると。


「あのね!あのね!ルネスと一緒にヴァ二―達を探してくれたんだよ?」


ルネスが再会できた事が嬉しくて話し出した。




「ル、ルネスね、泣かなかったよ!後ね、パフェも食べたんだよ!」




楽しそうにルネスが話していると1人の女性が目連と統太を鋭い眼光で睨みならがルネスの横まで来た、屈みこむとルネスの頭を撫でながら優しい口調で声を出した。




「ルネスは偉いね?1人で怖かったのに偉いよ」




女性が向ける表情は本来の、穏やかで温和な所から来る表情なのだろう、安心したルネスはその女性に抱き着くと泣き出した。


女性はルネスを抱きかかえその場を離れ、先に消えて行った。




「あの、ありがとうございました!助かりました」




ルネスが最初にヴァ二―と呼んでいた女性が感謝を言って来た。


その女性は若く、だが大人の女性の様な魅力を持ち妖艶な雰囲気を放っていた。


ラテン系の色が出ているのか、髪はダークブラウン、瞳も大きく、鼻筋も整っている。


統太は見た事のない美貌に感動をしていた。




「大丈夫ですよ?私達も楽しい時間を過ごす事が出来ました」




目連は笑顔で対応をしている、目を奪われている統太には到底出来ない対応であり、大人の余裕という物を感じさせる。




「本当にありがとうございました!あと、あの子がパフェも食べたと言っていましたが、もしかして出して頂いたのですか?もしそうならお返ししますので」




女性は自分の持っているバックから財布を取りだそうとする、が、目連が取り出そうとしている手に手を当て、目を瞑り2,3回首を横に振った。




「いえいえ、そんな大した金額ではありませんから、気に掛けないで下さい」




「そんな訳には行きません!ご迷惑をお掛けしたのに」




手をそっと離し、前屈みになった体を戻した目連に女性が言うが、目連は顎に手を当て。




「なら、そのお金で美味しい物を食べて下さい」


ワザとらしい、横目で見ていた統太にはそう見えた。




「ありがとうございます、アナタの様に優しい方に出会えた事に私達も感謝します」




バックに財布を戻した女性は軽く笑みを見せた、統太はその顔にまた見惚れた。




「そんな恐縮です」


目連は右手を自分の胸に当て、少し頭を下げた。




「では、私達はこれで失礼します」




「えぇ、お気を付けください」




「何からなにまでありがとうございます。アナタ達に神のご加護がありますように。では失礼します」


彼女は自分の手を握ると目を瞑りながら、神に祈り、目連と統太の前から彼女たちは消えて行った。




「先生」


呆然としている統太が口を開いた。




「どうしました?」


目連は統太を見下ろす様に聞いて来た。




「異国の女性は綺麗だね?」


統太が素直な感想を述べた、言い回す事も無く、自分で感じた事を簡潔に簡単な言葉にした。


いや、語彙力を奪われ言葉にならない。という表現が正しい。




「坊はまだ青いですね」




「えっ!先生興味無いの!」




「そうですね?彼女達には少々興味はありますが?」




「結局先生も同じじゃん!」




「坊もその時は恥ずかしくない格好で出歩いて下さいね?」




「えっ!僕の格好って変なの!」




「いえいえ、今は大丈夫ですよ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る