孤児院に隠された真実~過去からの呪い~

2032年6月8日深夜2時18分




「みんな静かに寝てますか?っと」




静かにベットを出る統太、二段ベットを音を立てない様に静かに下りていく。


忍び足で進んでいく、妙な緊張感が心に張り詰める。


悪い事をしている訳でも無いのに、ドキドキし、他の子が寝返りをするだけで驚き、


うずくまって身を隠した。


やっとの思いで扉に着くとドアノブをゆっくりと回した。


ドアノブは動きが悪く、ギッギッと音が出てしまい、焦った統太は意味も無いのに空いていた左手で、ドアノブを覆い隠した。


覆い隠したぐらいで音が消せる訳が無いのにも関わらず、その瞬間後ろから声がした。




「先生ぇ~」




誰かが寝言を言った、恐怖を統太は感じた・・・いや死を感じる程に恐ろしかった。


鼓動が異常なまでに早くなる、ドアノブを握った手は離す事も出来ず、握ったまま後ろをチラリと見てみた。


誰も起きていない。安心した統太は肩で息を吹き出した。




部屋を出たが薄暗い廊下、月明かりがあれば良く見えるのだろうが曇り空。


夜中に一人で調べる。


何処かリアルから離れ、冒険ごっこ。をしている気分になっていた。緊張感が緩んだ気持ち、そのままの状態で礼拝堂に着いた。




「地下に行く扉なんて本当にあるのか?」




ここ数日、礼拝堂には祈りの時間などに来ていた・・・はずなのに。


礼拝堂内は肌寒く、何処か不気味な雰囲気が首筋を撫でる様に、不安を煽る。


地下に進む扉を探すが、ソレらしきものは見つからない。


壁なども触って確認するが、扉らしき物が全く見当たらない。




「なんだよ結局、噂話かよ?深夜の労働は未成年禁止されている中、頑張って成果無しかよ。


もう良いや、ふぁーあ。戻って寝よう」




特に怪しい形跡も無かった為か、急に眠気が襲って来た。


統太は大きなあくびをしながら、部屋に戻って寝ようと決めた。


すると突然、背後から声を掛けられた。




「何してんだよ!見つかったら怒られるぞ!」




「嵩一かよ!驚かせるなよ」




内心かなり驚いた、心臓の音が礼拝堂内に響き渡るのでは?と心配したくなる程に自分でも鼓動が早いのが分かった。




「統太、何してんだよ?」




「いや、噂の扉が気になって」




いやいや!いきなり話し掛けるなよ!マジでビビったわ!ここまで来るの怖くなかったの?何その勇敢な男の姿、止めて。




「俺知ってる。寧々を怖がらせるのが嫌だったから黙ってた・・・・」




なるほどね?コイツもしかして寧々の事が?




「あの聖卓の上にある、左右の燭台を右の燭台は右回り、左の燭台は左回りに一回転させると聖卓の下に、地下に繋がる階段が出て来るんだよ」




「お前知っていたのかよ、でもそれはどうやって知ったんだ」




「前に掃除をしていたら右の燭台が回る事に気が付いて、もしかしたら左も回るのかな?って思って回したら本当に回ったから・・・」




「で、見つけたと?」




となるといよいよ?こんな場所さっさと逃げ出したい。


けど、ここから逃げても状況は変わらないし、行くしかないのか?本当に勘弁してよ。




余裕があるのか、落ち着いた表情の統太、下を向き目を瞑りながら諦めたのか、面倒臭いのか溜息をついた。




「はぁ~、行くしかないのか・・・」




「行くって本当に言ってるのか!噂が本当ならヤバいって」




「大丈夫だって」




「そんな訳あるか!行くな!」




階段を降りると目を疑った。


LED照明に、コンクリート剝き出しの壁が続いている廊下。


左右には部屋があり、ガラス越しに中の様子が見れた。


室内には人が居るが、外で見ている統太の存在には気が付いていない。


パソコンに向かい、機械にセットした液体のデータを見ている。


そして、次の液体をまた機械にセットする。


流れ作業の様に淡々とこなす姿に、特に思う事も無く歩き始めた。




「ここは何だろうな?」




「わっ!またお前か!なんでついて来た!」




「いや、お前1人行かせるなんて出来ない、そう思ったからだよ」




「なんだ?でも僕は平気だから戻った方が良いよ?」




「良いから、何しているのか気になるしな?」




そう言い、嵩一は一番奥の部屋にたどり着いた、その部屋はガラスが無く中の様子が窺えない状態だった。




「統太、このドア鍵が開いているぜ?少し中見てみよぜ」




「バカ!むやみに開けるな!」




嵩一の眼前には異様な光景が広がっていた、今まで一緒に過ごして来た友達がベットで横になり、血液を抜かれている。


そこには昇も寝ていた・・・・・。




嵩一は走って昇の眠るベットに向かった、そこには人工呼吸器を付けられ、無理やり生かされている昇、一緒に遊んでいた時との違いに、嵩一は立っている事も出来ず、崩れこんだ。


寝ている昇を起こそうと、力を振り絞り立ち上がる。


嵩一は震える手で昇の体を揺さぶり始めた。




「おい!昇!何してんだよ、起きろ!起きてくれ」




嵩一は叫んだ、大きな声で叫んだ。


だが、昇は目を覚まさない。涙を流しながらその場に再び崩れた。


大きな声を出した事で喉は潰れ、声にならない音を口から出していた。


悔しさ、不甲斐なさ、無念、無力、怒り、悔恨の情、慚愧の念、様々な思いが、感情が、その音に込められていた。


友達を救えなかった自分が悔しい、何も知らずに居た自分が不甲斐ない、そして。


何も出来ない自分への怒り、床を叩き、叩き、叩く。皮が剥け血が出ようとも、ベットで横になっている友達を見たら痛みなど消えた。




「嵩一・・・大丈夫か?一旦この部屋出よう」




ここは何をしている場所なんだ?研究ならあそこまで血液は抜かないよな?


子供たちに死なれたら大変だし?


もし子供たちの血液が材料なら何かを作っているのか?でも研究みたいな事はしていたよな?まだ完成していないのか?でも血液を使うなんていつの時代だ?




「君達、ここで何をしているのかね?」




統太が嵩一の様子を気に掛けている隙に、男は統太の背後に立っていた。


優しい笑顔に丸い眼鏡をかけ、少し小太りな体系の男は、そっとそこに立っていた。




一瞬の危機察知で嵩一を抱え、距離を取った統太。


2メートルか?3メートル程、ジャンプして男から離れた。額からは汗がスーッと流れた。


統太は男を睨む様に見つめた。




「ほう?君は普通の子じゃないな?何者だ」




「ただの小学生だよ、オッサン」




「そうかそうか、今の子は年配者に対しての口の利き方がなっていないな!」




男は一気に距離を縮め殴りかかって来た。


嵩一を抱え直すと男から一番離れた場所に嵩一を座らせた、少し前から気を失っていた嵩一に傷が無いのを確認した瞬間。


男の前に移動した。




「貴様、何者だ!」




再度、大振りでパンチを出して来た男を軽く避ける「目にも留まらぬ」と言うが統太はそれではない。


目にも留まらぬ・・・・・それは見えてはいる。


だが、統太の動きは目に映らない。見えないのだ。


人の目に映る限界は秒速幾つなの、物の見え方が大事になるが、角速度が違えば物は早くも遅くもなる。


光は今考えられる「最速」だ。目の前を光の速さで物体が移動した時、周辺の建物、植物、人間に動物は全てが衝撃波で死ぬ。確実に死ぬ。


だが、遠く離れた場所から・・・そう宇宙を何かが、光速で移動していでも地球から見ればソレは遅く退屈な物だ。サイズが小さければ人の目にも映らないが・・・


統太の移動スピードは速い。人間の限界を越えた領域に存在する。


秒速/30メートル・時速に換算すると、時速/108キロメートルになる。




殴ろうとした拳は統太に避けられたが、その拳は止まる事無く床を破壊した。


凄まじい轟音。その残響はいつまでも室内を走り回った。




「オッサンも凄いね?普通の人間がコンクリート20か30センチある厚みを壊せないでしょ?ビックリ人間でテレビに出た方が儲かるよ?」




男は統太が避けた。


それには、自分の拳が床に着く前に気が付いていた。


目に見えない。だが拳に伝わる人間の肉の感覚、骨が砕ける感覚。


拳と骨に挟まれた血液が逃げ場を失い、水風船の様に破裂する感触。それらが無かったからだ。




「小僧が生意気な事を言うじゃないか?ビックリ人間?違うな、これは神に与えられた力なのだから」




嬉しそうに笑みを浮かべながら両手を前に出す。男は上から何かが落ちて来る。


いや降りて来るナニかを落とさない様に、手でお皿を作っていた。




手に何かを感じた男は、そっと手を重ねソレを包んだ。


包んだ手を頭の上に運び、今度はそっと手を開いた。まるで手ですくった水を浴びる様に開いたのだ、統太の目に男が奇行を始めた。




そんな風に見えたが、それと同時に男の体の変化にも気が付いた。




男は拳を振りかざし、何度も攻撃を繰り返し、その度に床は壊れ、天井のライトは点いたり、消えたりと点滅している。




「神とやらもこんな脳筋野郎が誕生するとは思わなかっただろうね?」




男の体が変化した事で攻撃が単調になり、統太は身軽に攻撃を交わし、打撃を貰わない様に上手く立ち回っている。


すると男は立ち止まり統太に聞いて来た。




「貴様も神に力を与えられたのであろう?なぜ使わない?」


頭を掻きながら、統太は呆れた顔をして答えた。




「え?それはオッサンに使う程の事も無さそうじゃん?」




「ふっ!そうか?では、これではどうだぁぁぁ」




男は物凄いスピードで気を失っている嵩一に向かって行った。それに気が付いた統太は自分の汗が床に落ちまでの一瞬。そう・・・刹那。




男は嵩一に向かって、移動速度をそのままに殴打を放った。重量エネルギーが加わった事で、通常の殴打よりも破壊力は凄まじく、直撃した瞬間、周囲には爆風が発生した。




「おい、オッサン。それは反則だろ?」




怒りに満ちた声を出す。


嵩一に攻撃が当たる前に、統太が盾になって守っていた。


どんな攻撃をされても感情的にはならなかった。この瞬間までは・・・・。




「何を言う?戦いにおいて反則など存在しない!貴様の様に甘い奴が死ぬのだ!」




男は話をしながら殴打、蹴り技、交互に攻撃を繰り出す。


守り続ける統太を見た男は、更に速度を上げ攻撃を続けた。




「そうか?じゃあ恨みっこなしだぜ?」




果たし眼で見ている統太は雰囲気が違った。口調は変わらず、むしろ静かな位に声を出していた。


そんな統太から男は目が離せない、体を動かそうにも動かない。


自分に何が起きているのか、理解すら出来ない。




男の脳は拒絶していた。統太の眼を見た時から怖れ、入って来る情報の全てを遮断していた。


見えているが理解は出来ない。これから自分に何が起きるか、普通なら予測が出来るが今は出来ない。男に見えている統太は眼勢鋭く見ている、一枚の写真の状態だった。


動いて出る音、服が擦れる音も男には全てがノイズに聞こえ理解出来なかった。


統太は攻撃を放った、攻撃の影響か室内の照明が消えた。




「なん・・だ・こ・・・れは」




上半身の右半分が吹き飛んだ男は微かに声を出した。


食道を血液が逆流して口から吐血している。


床に垂れる赤い液体は男が、まだ生き物で人間である事を証明した。




男からは溢れ出す様に血が噴き出している。


6ℓを越える男の血液は、蛇口を全開にした水の様に止まる事を知らずに、辺りを血の海に染めた。




身体を支えていた足の力も抜け、ゆらゆらと前後に体がフラつく、そして前に崩れる様に


倒れ込む男、統太は見向きもしないで、嵩一を連れて戻ろうと準備を始めた。




「ピチャ」・・・




「だから、ついて来るなって言ったんだよな?まぁ今回は許してやるか?」




あれ?そう言えば、結局ここは何をしていたんだ?あぁヤバい、殺す前に吐かせれば良かった、先生に絶対小言言われるよ。


はぁー、深夜の労働で疲れてんのに、報告した時のリアクションを考えたら、はぁー・・


このまま児童相談所に乗り込もうかな?




「言ったはずだ!貴様の様に甘い奴が死ぬ!」




部屋の入口に居た統太、男が意表を突くように声を出した、統太は嵩一を通路の反対側まで瞬時に移動して置いて、部屋に戻って来た。




「オッサン?人間辞めたのか?」




男の姿は「人」の形を成していなかった。


鬼、悪魔、妖怪、様々な国に伝わるそれらは等しく、「人ならざる者」


そして、統太の目の前に立つ男も、その類に分類される姿をしていた。




「人間などとうの昔に止めた、アイツを殺すと決めたあの日からな!」


男の目は赤く燃える様な、業火の炎を思わせる程のエネルギーが統太の骨にまで伝わって来た。




「その姿はオッサンが、この地下でやっていた事の成果なのか?」




「そうだ!完璧とは程遠いが、神の領域!この研究は本国の大主教に異端だの言われて、国に居られなくなったが、この力さえあれば本国も私を無視できなくなる!そして、私は世界中から優れた信徒達を集め、共に神に選ばれし新たな「使徒」になるのだ!」




男の右半身が再生している、だがその肉体は赤黒く、初めは細かった腕も話をしている間に徐々に変化した。


腕の太さは男の体と同じ、いやそれ以上に太くなり、今にも床に着きそうな程に長く巨大化していた。




「オッサン、それは人の命を代償にしているだろ?どんなトリックなんだ?」




「トリック?これは手品では無いのだよ?これは黒魔術だ!正確には禁忌の魔術だがね?


我々の協会は遥か昔から魔術を研究してきた、信徒を悪魔から守る為に適性のある者を世界中から集め、魔術を教えるが、使いこなせるようになる者は1割にも満たない、ほとんどの者が魔術の力をコントロール出来ず、術の暴走により命を落とす!


そんな無意味な事が繰り返されてたまるか!


私の娘は適性があったが為に術の暴走で死んだ!何の為に死んだ!あの笑顔は何の為に失われた!何の為だ!」




男は怒りで体が見る見るうちに変わり果て、顔以外、バケモノ、そう呼ぶのが相応しい見た目に変貌した。




「そんなの知らねーよ?知りたかったらオッサンの協会のトップにでも聞くか、「神」って奴に直接聞いてみれば良いじゃねーか?でもオッサンはその「神」のパシリになりたいんだろ?ならそんな疑問抱いたら終わりだろ?」




「知ったような口をきくな、小僧がぁぁぁ!」






2022年10月10日・月曜日




その日もいつもと変わらない日常が送られるはずだった。




男の名は「ジョージ・テイラー」


イギリス協会所属の聖職者、神に仕える事以外は何処にでもいる、良き父であり、良き夫であった。


3人家族のジョージは妻のエミリアを愛し、愛娘のエマを世界で一番愛しい。


周囲の知り合いにはいつも自慢していた。




「おはよう、エミリア」




「あら?今日は午後からじゃなかったかしら?」




「そうなんだけど、エマが一緒に買い物に行こうって昨日の夜に言われてね」




「あの子ったらアナタを執事と間違えているんじゃないの!」




「まぁまぁ、俺も行きたかったし良いんだよ」




「アナタも甘やかし過ぎよ!少しは厳しくしないと」




「分かった分かった、ごめんよエミリア」




「おはよう、朝から夫婦喧嘩なんて、二人は本当に仲が良いね」




「エマ!今それを言うと!」




「エマァァァァ」




「きゃぁぁぁママ許して」




「エミリア落ち着いて!」




「ジョージアナタもお仕置きよ!」




「ママごめんなさい×2」


男は騒がしいが、愛に溢れる自分の家族を愛していた・・・・・。




ジョージとエマは買い物を楽しんでいた。流行のファッションを見に行き、エマは気に入った服があれば、ジョージに甘える。


愛娘に甘えられてはジョージに勝ち目がない。




「ママにまた怒られちゃうな」




そんなセリフを言いながら、財布の紐が緩んでしまう。


二人は買い物を終わらせ、昼食をしようとお店に向かった。


入店した二人は席に着いた。




「ねぇパパ、今日の訓練も大変なのかな?」




「なんだ、もう弱音か?」




「だって上手く行かないんだもん・・・」




「初めは誰だってそうだよ」




「でも私より後に来た子達は、もう使いこなしているよ」




「あぁ、あの二人は特別だから焦らなくて大丈夫だよ」




「私より8歳年下なのに、あんなの見せられたら、もう自信無くなったよ・・・」




「エマは自分のペースで頑張れば良いんだよ」




「うん・・・そうだね!」




「さぁー沢山食べよう!」






イギリス協会・特別開発センターはロンドンから車で3時間のクロマ―、ここには世界中から協会が探し出した魔術適性者が集められ、日々訓練に明け暮れている。




「ヴァ二―、今日はもう終わりにしましょう」




センターの敷地内にある模擬戦闘訓練棟A―11、そこで一人の少女の訓練が終わった。


A―11は市街地戦闘を想定した作りになっており、実弾こそ使われないが、その代わりにゴム弾が訓練をしている者達を常に狙っている。


戦闘訓練にあたって、射撃ポイントはその都度変えている。ビルの屋上、通り沿いの店内、路肩に止まっている車の中、あらゆる場所から狙っている。


にも関わらず少女は無傷で訓練を終了した。




「ジョージ見たか・・・」




「はい」




「今日の訓練をあの子には当然言っていないんだよな?」




「言ってませんよ!」




「だとしたら、あの子はバケモノだ」




「同感です。あの数の一斉射撃を無傷だなんて」




「今日も私の負けだな・・・あの子を殺すつもりで仕掛けていたんだがな」




ジョージはモニタールームで見ていたが、モニターに映るのは市街地が見えなくなっていた。映るのは少女が1人出口に向かって歩いている姿と、不自然に存在している手すりと、広告の看板。ジョージは何かを思い出した様に、横に居る人物に話し掛けた。




「そういえばレイラセンター長、あの少女と一緒に連れて来られていた子が居ましたよね?その子はどうしたんですか?」




三週間前、少女はスペインのビオドで協会の人間に保護された。


その時、もう一人少女が一緒に保護されていた。


その少女は病気なのか、額に角らしき物があった。協会の人間は正直悩んだ。自分達の目的である適性者保護、それ以外は自分達では決められないからだった。


だが、同行していたレイラがその子を一瞬に連れて行く事を決めた。


少女を見た瞬間に、今回の目的だった適性者の少女に興味を無くした。


レイラは連れて行くと決めた子の手を取り歩き始めた。そして連れて来た・・・・。




「あの子か?フフ、お前に言う必要があるのか?」




「いえ・・・ただ気になったもので」




「お前はこの子と自分の子を娘の心配でもしたらどうだ?」




「大丈夫ですよ、エマは自慢の子ですから」




「ジョージ。才能が有ろうが、適合できる人間は一部だ、お前も見て来ただろ?逸脱者達を・・・そいつらがどうなったかも?」




「止めて下さい!エマは大丈夫ですよ・・」




逸脱者・元々は適正者だった者達だ。


そんな神を信じ、神から愛され、神の使徒に選ばれた適性者は魔術を扱える才能を持っている。魔術は適性者という存在に依存する。魔術を道端に落ちている石だとした時、端に落ちている石に人が命の危険を感じる事はまずない。




だが、落ちている石を人が手に取り、他者に向け投げた場合は話が変わって来る。


怪我で済めばいいが、最悪の場合は命に関わる。


魔術という石は簡単に人を殺す武器になってしまう。




そして、魔術には毒がある。


適性者に依存するというのは、適性者の精神を犯し、支配しようとして来るからだ。


適性者は常に紙一重の状態をキープしている、そこにほんの少しでもズレが起きれば、術の自体の威力が落ち、体の反応がコンマ何秒か遅れだす。




完全に術とシンクロ出来なかった時は、心が犯され人間ではいられなくなる。


逸脱者は神を最後まで信じる事が出来ず、悪魔に命乞いをし、神を裏切る。


道を外れてしまった者達を指している。


そんな者達が神に許される事は無い、最後は術に魂が取り込まれ、解放される事は無い。




ジョージは信じていた、エマなら大丈夫。エマは才能がある。自分の子は大丈夫。


そう信じたくなる親としての気持ちが心を支配していた。


あの日・・・・あの瞬間までは・・・・・。




「パパ!助けて!痛いよ、パパ死にたくないよ、パパァァァァァァ」




「エマァァァ」


エマは逸脱してしまった。些細な事から彼女の心には黒い物が住み着いてしまった、それは小さな嫉妬から始まった。次第に大きくなり、そして彼女は飲み込まれ、黒く染まった・・・・。

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