孤児院に隠された真実

2032年6月3日木曜日




「今日から皆と一緒に暮らす事になったお友達を紹介します」




ここは神奈川県横須賀市うみかぜ公園からほんの少し離れた、孤児院。


国、地方自治体、財団法人の児童養護施設とは違い、この孤児院はイギリス協会によって運営されている。


全国に多く居る、身寄りのない子供たちを協会は、神の祝福の名の下に受け入れている。


表向きは・・・・・。




「僕の名前は三田統太です!よろしくお願いします!」


これでいい、子供は元気な挨拶が出来れば基本、良い奴感は出る。


この孤児院になぜ、俺、いや僕が来る事になったかと言うと、この孤児院で何やら怪しい事をしている、そんなフワッとし不確かな真実ことを調べる為に来た。








~~数時間前の高天原~~




ツクヨミが普段過ごしている建物、その一室に坊は目連に呼ばれて来た。




「坊、話があります」




「先生、どうしました?あの糞神はまた、主宰神さまの所ですよね?」


桜の木の下で再会してから、ツクヨミは何年かに一度、天照大神の所に連れ去られている。




「えぇそうですよ?ここ数日平和で助かります」




ツクヨミが居ない事で平穏な日常が過ぎていた。目連は山積みの書類に目を通し、その様子を坊はソファーに座り、お菓子を食べながら見ていた。




「帰って来た時には少しは丸くなっていれば良いけど・・・」




「無理ですね?たぶん坊はパワハラを越える、奴隷の様に扱われるでしょうからね」




「先生その時は助けてよ?」




「嫌ですよ?私は私なりの仕返しをしているので、坊も自分の尻は自分で拭いて下さい」




「でも!あの時は先生も話に乗って来たじゃないですか!」




「私は既に許されています。坊はいつも喧嘩ばかりしているから、ダメなんだすよ。そんな事より、伝言です」




「伝言?誰からです?」




「分かるでしょ?」




「まさか!」


目連は一枚の紙を坊の前にある机に、シュッと優しく投げた。フワフワと宙を舞い、机にゆっくりと落ちて来た。




「そうですよ!で、伝えますと、そろそろ下界に下りて働け、ただ飯を食ってんなニート。


だそうです」




書類を処理しながら、淡々と神からの伝言を言う目連。坊は紙を手に取り、目を通しながらオレンジジュースを飲んいる。




「あと10年はここでダラダラして、ゆっくりして居られると思っていたのに!」




ジュースを机に置くと、坊はソファーに置いてあるクッションに顔を沈め、足をジタバタと動かす。現実というモノは、いつも目を背けたくなるもので、それが働くとなれば尚更。


目連はチラリと目線を一瞬だけ坊に向けた。




「大丈夫ですよ?坊も強くなりました。私に左腕を使わせる程に強くなりましたから」




感情のこもっていない言葉を言うと、目連はまた処理に戻る。うつ伏せに顔を沈めていたが、坊は顔を目連の方に向けた。目を細めながら訴える。




「いやいや、左腕だけしか使わせられない現状ですよ!」




毎日、稽古をしているにも関わらず、未だに目連の力の片鱗が見れていない。その事が不満で少し不貞腐れた表情を見せた。




「思い出して下さい?初めなんて、左手の小指だけで十分だったのですから、進歩しましたよ?」




坊は机のオレンジジュースを見つめる、コップの中の氷が溶け、カランと音を立てた。コップの回りには結露が多くでき、水滴はゆっくりと垂れていく。




「先生に全力で相手をして貰うのは、あと何年必要なんだよ」


坊はいつ叶うか分からない。その日を待ち遠しく思う。




「全力?ですか?・・・千年もあれば坊なら大丈夫じゃないですか?毎日12時間鍛えてあげますよ。下界に行くのは止めますか?稽古をしたいなら」




可愛い愛弟子が、下界に下りてしまう。何処か寂しい感情が目連の心の中を過った。


だが、目連から稽古を12時間もさせられる。そんな地獄を告げられた坊は、ソファーでくつろいでいたが、両腕を伸ばして、上半身を起こして、即答した。




「いいえ!下界に行かせて頂きます」




「そうですか?可愛い弟子が離れるのは寂しいですが、坊がそこまで働く気なら」




「いや、先生の相手をするより、下界の人間の方が楽できそうなんで」




「ハハハ、確かに人間相手なら簡単に倒せますね!その時は余った時間に稽古しましょうね?」




「あっはっはっは・・・・」




「では、坊、アナタに名を授けます。」




「えっ名前ですか?」




「そうですよ、名前が無いと不便ですから」




「本当ですか!ありがとう先生」




「三田統太。これより坊は三田統太を名乗り、生きなさい」




「はい!で?先生、下界で働いて来いって言われても、子供に労働をさせてくれる会社なんてありませんよ?子役でも無ければ仕事なんて、高校生になってからバイトをする。常識ですよ?知らないんですか?」


ソファーに座る様に姿勢を戻し、目連に対して少し小馬鹿にする様に聞いて来た。




「大丈夫ですよ!坊には調べ事をして貰うだけですから?」




「なんだ?それなら簡単!ネットを使えば良いんですね?」




「いえ?侵入です。内情は中に入らないと分かりませんから?」




「えっ!肉体労働とかダル」




「何ですか?私と稽古したいのですか?」




「喜んで行ってきます!」




「それはそれで悲しいです」




「そう言えば先生?なんでまだ、坊と呼んで?」




「あぁ、もう10年も坊と呼んでいれば、坊と呼んだ方がしっくりくるんですよ!」




「確かに!」




「さて坊、君に行って貰う場所は孤児院です。その孤児院は怪しい噂があるみたいなので確認して来て下さい」




「はぁ、分かりました」




渡された紙には「一部」を除いて、変わった所は無かった。一部を除いて。


目連はおもむろに立ち上がると、歩きながら話し出した。




「私、夢だったんですよ!誰かに特命を出して、行って来い!って言うの!」


身振り手振りで、自分の熱い思いを語り、キラキラとした目で訴える。




「へぇー、先生にそんな願望があったとは知りませんでした」


興味の無い坊はソファーに仰向けで寝っ転がり、お菓子を口に運んだ。




「私も下界に下りて、スーツ買ってこようかな?雰囲気は大事って言うじゃないですか?」




姿見の鏡の前で目連はポーズを決め始めた。


見ていて恥ずかしくなる様なモノから、クールなポーズ。様々なポーズをしていた。そんな姿を見た坊は、等々、仕事のし過ぎて可笑しくなった。休みの日も家に居ても暇だから、なんて言って仕事に来ている哀れな男の姿を見て。


あぁやっぱり、こういう人が一番、色々な意味で怖いわ。そう思わされた。




「あぁ、そうですね?勝手に楽しんで下さい」




これ以上一緒に居ると危険だと感じた坊は、スッと立ちそそくさと、部屋を出て行こうと扉に手を掛けた。その時、後ろから目連に声を掛けられた。




「今回の特命はこれだ!」


目連は左手を腰に当て、右手をビシッと伸ばし、人差し指で坊の事を差して来た。




その場の空気は冷房でも入れたのか?そう思える程に冷え、


全ての物から音という物が無くなったのでは無いか、と思えるほどに静まり返った。


沈黙は果てしなく長い時間に感じられ、ほんの数秒の時間が二人には永遠に思えた。


凍り付いた空気の中、坊が声を出した。




「あっ・・・はい」




目を合わせる事も出来ず、握ったままのドアノブに視線を反らした。だが、目連は満足しているのか、笑顔で坊を送り出した。


「坊も侵入楽しんで来てねー」






下界・神奈川県横須賀市




「何だここは!本当に孤児院なのか?普通の家じゃん!」




孤児院「海の星」外観は周辺の住宅から、目立たない様に配慮されている。


玄関を開けると明るく綺麗な屋内、木の温もりを感じられる、デザイン。壁の途中に黒板が埋められている、色々な色のチョークが置いてあり、黒板には様々な絵が描かれていた。




「そんなに怪しい感じしないけどな?」




「さぁ、入って下さい?新しいお友達が待っていますよ?」


孤児院の職員が部屋の扉を開けた。




「おぉぃ男じゃん、誰だよ、新しい子は女子が来るなんて言った奴」




部屋に入って来た途端に大きな声で横に居る、友達に文句を言う男の子がいた。


その男の子は見るからに元気が良い。




「嵩一!そんな酷い事言わないの!」




嵩一。それが元気の良い男の子の名前だった。嵩一に注意したのは横に立っている、女の子だった。長く伸びた黒い髪の毛、男の子に囲まれて生活をしているからなのか、少し負けん気が強い。




「何だよ!寧々だって喜んでただろ!」




「ひっ!酷い!バラさなくても良いじゃん」




「まぁ、落ち着いてよ、一君」


二人が言い争いをしているのを止めようと、男の子が間に割って入った。




「何だよ、昇!お前だって女子の方が良かっただろ!」




「ボクはどっちでも良いよ」




来ていきなりナニコレ?


子供は素直で良い子が多いなんて言うけど、本音がダダ洩れなんだけど、浴槽ギリギリまでお湯を入れて、勢いよく入って溢れるお湯ぐらい漏れ出しているけど!


誰だよ、こんな本音をボロボロ出す様な教育した奴は!本音と建前って奴を教えないのか?


どんな教育方針だよ!そっちがその気なら相手になってやる。ガキどもがぁぁ




「今日から皆と一緒に暮らす事になったお友達を紹介します」




「僕の名前は三田統太です!よろしくお願いします。第一印象が最悪なガキが多いので、後で懲らしめたいと思います」




心配だった目連は高天原から見ていた、だが、心配が的中してしまい溜息をつきながら、額に手を当てていた。




「坊は何をしているのですか」


それから暫く、目連は様子を確認するのを止めた。






確かに、僕はさっき懲らしめるって言ったけど、この状況はかなりピンチなんじゃないのか?


今時の子供って怖いんだけど!




「おい、新入り!お前さっきなんて言った?」




「止めなよ一君」




「そうよ、こんなのバレたら怒られるよ!」




「うるせぇ!生意気なコイツが悪いんだよ!」




台所の隅で僕は襲われている、今この状況を見ればどちらが悪いかは明白だが、そんな事で終わらせるのはつまらない。


ガキには恐怖という物を教える必要がある、恐怖は人を支配する。


恐怖で支配した後、自由と平等を与える、自由を!平等を!


恐怖で支配された人間は気が付かない。


自分達で手に入れた物だと思っていた物は、実は与えられていた。


さぁ!恐怖し泣き叫び、当たり構わず漏らすが良い!




「ここだとバレたら大変だから部屋に行こう?」


統太は目の前で威嚇して来る、嵩一に子供部屋に移動しようと提案した。




「なんだ?新入り?助けを呼ぶなら今のうちなのに良いのか?」




「ふふ、大丈夫、僕は大丈夫だよ」




統太は子供たちを連れて部屋に移動して行った。


嵩一、寧々、昇の他に三人程ついて来たが、嵩一以外の子供達は一緒に参戦するというよりも、心配だから付いて来た。


いざっていう時は大人を呼ぶなり、止めに入る事などを統太と嵩一以外の子達は密かに決めていた。心配をする子達と痛い目に合わせたい嵩一、そして懲らしめる気満々の統太は子供部屋に着いた。




さてさて、この嵩一とかいうガキ以外にも何人かついて来たけど、まぁ良いか?


さてと、大人の力を見せてやるかな?まぁ体は子供なんだけどね。




「おい!謝るなら許してやるぞ」




「謝る?なんで僕が?」




「お前が新入りのくせに生意気だからだろ!」




「そうですか?でも僕も悪い事はしていないので謝れません」




「ふざけんなよ」




「じゃあ、こうしましょ?僕の持って来たこれを最後まで観ていられた方の勝ち、負けた方が謝るのはどうです?」




「そんなの余裕だぜ!」




「観るのを止めたら負けですよ?目を瞑っても同じです」




「分かったよ」




統太が持って来たそれは・・・実録!夏の恐怖映像!夏休みスペシャルだった。


3時間もある映像、初めはみんな余裕を見せていたが、徐々に余裕が無くなって来た。




怖い話、それは暗い部屋で見るとさらに怖い、何故か後ろが気になる。


お風呂に一人で入るのも少し怖い、夜のトイレで水を流す音がものすごく怖い。


それが恐怖映像の力!




部屋の電気を消し、カーテンを閉め切り準備が完成した。


全員でテレビの前に座り込んだ。女子は体を寄せ合いながら、見始めた。


男子は弱い所を女子に見せる訳にも行かず、余裕ですけど?的な空気を懸命に出している。




そして、開始から30分もすれば女子は全員居なくなっていた。


1時間、勇敢にも生き残った男子も2人だけ・・・・。




統太は嵩一と二人になった瞬間、部屋の鍵を開かない様に細工した。


中から開けられず、叩いても外には音が漏れず聞こえない。範囲結界のような技を使った。


怖がらせる準備が出来た!統太が仕掛ける。




嵩一が体育座りをしている左足の足首を手で触れられている様な感覚にさせた。


嵩一は統太が自分の右に座っている事で、触れない足に誰かが触れた。


そう認識せざる負えない。




「うわぁ!」




期待通りの反応に笑い声が出そうになるが、我慢をしている統太。


次は首を両手で触れられる様な感覚にさせた。




「うわぁぁぁぁぁぁぁ」




嵩一が扉に走って向かう、部屋から出ようとするが、中からは出られない。


誰かが外から開けるしか出られない、嵩一はパニックになった。




「僕の勝ちだね?嵩一くん?」




統太はゆっくりと振り向いて語り掛ける、嵩一には統太の背後のテレビの画面からお化けが出て来る。そんな幻影が見え、怯えた。




「ママァァァ」


嵩一は足元から声が聞え、目を落とすと、そこには自分の足首を掴む幼い子がいる、余りの恐怖に失禁して、その場で意識を失った。




「パチン」




統太が指を鳴らすと、カーテンが開き、現れたと思ったお化けは姿を消した。




「ガキが大人を舐めるなよ?」




勝ち誇った様に満足げな表情になっていたが・・・・・。




「坊、あとでお仕置きが必要ですね?」




突然、背後から目連の声が聞えた。それは目連が背後に姿を現したわけでは無く、高天原で心配していた目連が、悪ふざけし続ける統太にお灸をすえる様に声を掛けてきた。




「ぎゃあぁぁぁぁ」




統太も目連からすればガキであった。




指を鳴らし、解除したことで外に音が漏れ、叫び声を聴いた子供たちと大人が、


急いで部屋に駆け付けた。


そこには、失禁をしている嵩一の姿と、その漏らして出来た水溜りにあと少しで顔を着けそうになっている統太の姿が発見された。


幸いな事に2人とも気を失っていた事で漏らしていた事、そこに顔を突っ込みそうになっていた事は知らない。




「なぁ?なんで俺は着替えてるんだ?」




「ねぇねぇ?僕の顔から変な臭いするんだけど?」


誰も本当の事は言えず、乾いた笑いしか出来なかった。






「昨日はあの後も大変だったな、何かとイチャモン言いやがって」




「おはよう!統太くん昨日はよく寝れた?」




「おはよう、寧々?」




「名前覚えてくれたの!嬉しい!」




「そんなところに立ってんな!邪魔だぞ」




「あっおはよう、嵩一も起きたの!」




「お前の声がうるさいんだよ」




「酷い!」




朝起きると、顔を洗い、歯磨きをした後に礼拝堂に行き、神に祈りの時間が、


ここの一日の始まりらしい。


祈りの時間も終わり、みんなで朝食を食べた後は学校に行く。


前世でも普通にやっていた事だ、今は少し見える角度が違うだけで、外から見れば何ら問題も無い、普通の光景だろう。普通の孤児院であった。




2日目、3日目は子供達と行きたくもない小学校に行き、嵩一達に変わった様子が無いか、見ていたが特に変わった事は無かった。




「今日も統太くん、すごかったね!分からない授業、無いんじゃないの?」




「お前、勉強だけは出来るんだな?」




「そんな事無いよ?みんなも勉強すれば、あれぐらい出来る様になるよ」




そうさ、僕は前世の記憶がある事で小学生の授業など受けるだけ無駄、このまま小学校でモテはやされるのも悪くないかな?


そうなれば、女子はみんな僕が好きになり、人生最大のモテ期が到来する。


あぁ、モテる男も疲れるぜ。


得意げになっている、統太は妄想だけが先行していた。




「あれ?そういえば、朝から昇の姿が見えないけど、どうしたんだ?」




「昇は・・・」


暗い顔をする寧々、それを見た嵩一が話す。




「引き取ってくれる親が見つかったんだってさ、それで朝から準備で居ないんだよ、もう新しい親の所に行ってるんじゃねえの?」




「そうか?でも良かったじゃん!」


寧々の表情は暗いままだ、嵩一は苛立ちを隠せず声を荒げた。




「多すぎるんだよ!今年に入って28人目だぞ!毎月4人から5人が新しい親の元に行くのは多すぎる。バカな俺でも分かる」




「急に増えたの?」




「そうだよ!新しい司祭様だとかいう奴になってから!」




「私怖いよ、噂が本当なら」




「噂?」




「礼拝堂には地下に行ける扉があって、入ったら最後、生きて出て来られないって」




確かに、怪しいな?嵩一はバカだが、嘘は言わない性格だ。


それに、先生もここは怪しい事をしているって言っていた気がする、お仕事の時間って奴ですか?嫌だな?小学校で夢のハーレム作りたかったな?


でも、嵩一と寧々をこのままにする訳にも行かないから、やるか!






「この子もダメか・・・・あと少しで完成するのに、最後のピースがいつも足りない。何が足りないって言うんだ・・・・・。


三田統太?・・・次はこの子にしよう。」




礼拝堂、地下にある施設の一室で男は赤い液体を前に怪しく微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る