大文字伝子が行く57

クライングフリーマン

大文字伝子が行く57

午後2時。池上病院。南原の病室。南原の持っているスマホでビデオ会議をしている。

服部と山城が覗き込んでいる。スマホの画面には、高遠の画面と池上医師の画面がマルチに出ている。Linenの機能である。「と、いうわけです。先生は病気だと思いますか?」と高遠が言った。

「病気とは限らないわよ。でも、その異常さに伝子さんは偏頭痛が止まらなくなったのね。私が往診するわ。午後診を調整して。それでいい?高遠君。」「はい。ありがとうございます。南原君は、今日指の先が曲がるようになったわ。愛情の力って凄いわね。それから、物部さんには、胃痛が続くようなら、本庄病院に臨時に行きなさい、と伝えて。こちらからも連絡しておきます。」

池上医師の画面は消えた。「きっと、子供の頃、頭を強く打ったんだわ。」と、南原京子が言った。「打ち所が悪かったんですね、お義母さん。」と文子が調子を合わせた。「そういう話は聞いてないの?高遠さん。」「頭を打った話は聞いてませんが、子供の頃、ご両親は交通事故で亡くなったそうですよ。」「じゃあ、PTAよ。」「PTA?何、お母さん。」と南原が尋ねた。」

「あ。PTSDじゃないんですか?」と山城が言った。「そうよ。PT・・SD。」

「取り敢えず、常識人には強烈よね。副総監、気絶したんでしょ。」と、蘭が覗き込んで言った。「僕も平静保つ自信ないなあ。」と服部が言った。

伝子のマンション。「シリアルって、やっぱりあんまりたっぷり食えないなあ。あつこは、よくこんなのバクバク食えるな。」「じゃ、おにぎり握ろうか?」「いや、いい。南原順調だって?」「指曲がるようになったって。」「そうか、よしよし。あ。往診は大袈裟だなあ。」「いいじゃないですか。ビタミン剤でも処方して貰いましょう。」

チャイムが鳴った。藤井だった。「ごめんなさい。おにぎりでも、と思ったら、お米切らしちゃって。今、二人?昨日ね。何かお邪魔かな、と思って引き上げたんだけど、あれは何かの『お稽古』してたの?交通安全教室でやるとか。」

「いやあ・・・後で、池上先生が往診してくれるって・・・あ。」

「押しかけ往診でーす。藤井さん、立ち会ってくれてもいいわよ。」藤井と池上葉子は入って来た。

「で、その踊りの出現率は?聞いた所によると、再会で嬉しくなって、ところかな?」

「そうですね。」「頻繁に出てくるようなら、対処考えた方がいいかも。副総監もビックリしただけよ。実は、ご本人から問い合わせがあったけど、大丈夫って応えておいた。そうね。解熱剤とビタミン剤を頓服で出しておきましょう。ちょくちょく出入りしているそうだから、南原蘭ちゃんに預けるわ。じゃ、お大事に。」池上葉子は帰っていった。

「学。取り敢えず、カップラーメン。」「はいはい。」

「藤井さん。段ボール作戦ってなんだと思います?」「段ボール作戦?」「今度起こるかも知れない事件のキーワード。」「いいの、そんなの、私に話して。段ボールって言って真っ先に思いつくのは依田君がやっている宅配便。それと引っ越しかな。単純に、家の荷物を整理するときに使うわね。」「同じだな、私ろ。」とラーメンを食べながら、伝子は言った。「僕は『作戦』』が気にかかるなあ。段ボールだけでもよさそうだけどなあ。」

「私も高遠君の意見と同じだ。」藤井が近くを通ってしまったので、EITO用のPCが起動したのだ。理事官が画面に現れた。「あ、お邪魔しました。」と帰ろうとする藤井を伝子は止めた。「いいよ、お仲間なんだから。」

「はは。まあ、敵にヒントをいちいちおねだりする訳にも行かないし、その内大文字君や高遠君が謎を解いてくれるさ。」「おだてないでくださいよ。」

「そうだ。副総監だが、警視総監が心配して同じ病院に緊急入院させた。と言っても、健康診断だな。新町あかりは、白藤みちるの後輩だが、実は白藤は卒業試験に寝坊して落第。半年後の2度目の卒業試験で警察官拝命となった。一方渡辺警視は、所謂『飛び級』的に白藤より先んじて卒業している。だから、新町のことは知らなかった。知ってたら、叔父に頼んで卒業させなかった、と怒っている。友達だと思っていたのに、と怒っている。アンバサダー、済まないが、抗争を平定してくれ。お仕置き部屋を使っても構わんよ。」

「理事官も冗談が上手くなりましたね。」と、伝子は苦笑して、カップラーメンを食べ終えた。画面が消えると、「とやかく言ってもしょうがないさ。学、薬・・・は、いいや。取り敢えず。」

「じゃ、今度こそ、お暇するわ。あ。編集長。今日の夕方、出直すって言ってたわ。」

「分かりました。」

藤井は出ていった。「そこの二人、出てこいよ。」奥の部屋から、当人のみちるとあかりが出てきた。

「ウチの奥さんは千里眼だからね。なんせ犬笛みたいな長波ホイッスルを聞き分けられるんだからね。」

二人は深く土下座した。「みちるは減点1、あかりは無免許。取り敢えず、二人でいる時だけの『お楽しみ』にしておけ。あつこには『執行猶予』を勧めておく。」

二人は更に深くお辞儀をした。そして、高遠が出した煎餅を黙々と食べ始めた。

伝子は二人が眼中にないみたいに、高遠とディスカッションを始めた。

「学。ちょっと、推敲しよう。いや、整理しよう。『段ボール作戦』がキーワードって、誰が言い出した?」「伝子さん、ですね。」「それが間違っていたら?」

「伝子さんが間違い?」「誰にだって間違いはある。その間違いを認めてこそ、前に進める。この二人を見ていて、そう想った。それで、重要な間違いに気づいた。」

「というと?」「大原が次のキーワードを教えるほどのお人好しだったか?」「違うでしょうね。」「あの紙片は、ブーメランで壊れた時計の中にあった。詰まり、封じてあった訳だ。何故、新庄に畠山から回収しようとしたのか?時計は回収する意味のある時計だった。畠山はそれに気づいてちょろまかしていた。そして、それに気づいた大原は新庄に命じて回収に行かせた。二人は揉み合いになった。その時計の争奪で。畠山はどこかで頭を打った。新庄は必死で考えた。そして、捜査を攪乱させる為にわざとTシャツを後ろ前に着せた。一旦脱がせてから、また着せたんだ。恐らく、畠山はまだ死んでいなかった。新庄は、台所にあった、果物ナイフを水に濡らせて手首を薄く切った。果物ナイフは、盲点になると思って、排水パイプに押し込んだ。警察に捕まった新庄は、自分の罪が軽くなると信じて、あっさりと大原の場所を教えた。時計は何を意味するか?みちる。テストだ。明日は何日だ。」

「9月11日であります。」「あかり。9月11日は何の日だ?」「色々・・・あ、きゅうてんいちいち。」「そう、アメリカ人には屈辱の日だ。そこで、管理官に頼んで確認だ。」

伝子は、久保田管理官用のPCに一礼して、起動させた。今、高遠達の前で披露した推理を管理官に報告をした。

「やはり、鋭い。日本のスパコン富士山より、ある意味優れている。あ。褒めているんだからね。実は、鑑識の井関さんからの報告で、失血の前に脳挫傷を起こしているとある。それで、質問は?」

「あの時計のメーカーは?」「鍵屋時計店。東京丸の内ビルと、大阪マルビルに店がある。」「あの時計。日付らしき表示があったんですが。11と。」「お察しの通り、あの時計は、『月』は出ないが、リューズの弄り具合で、『日』は出る。詰まり、9月11日を示して止まっている。いや、正確に言うと、あの紙片を挟み込む前に11日にしておき、動かなくなるのを承知で紙片を挟んでいる。きゅうてんいちいちと言えば、アメリカの同時多発テロの日だ。」

「で、日本の同時多発テロですが、やはり、『きゅうてんいちいち』に因んだ犯罪でしょう。きゅうてんいちいちは今回の決行日です。時間や詳しい事はまだわかりませんが。」

「つまり・・・東京と大阪の同時多発テロか。」「鍵屋時計店って言いました?鍵屋と言えば?」「かーぎ・・・。」みちるとあかりが、つい言い出しそうになったが、すぐに口を閉じた。

「管理官。」と伝子が尋ねようとしたが、「皆まで言うな。花火大会だな。調べさせよう。」

1時間。伝子は黙々と煎餅を食べている。高遠もみちるもあかりも、ただ煎餅を食べている。

管理官用のPCが起動した。「お待たせした。東京は顎川の花火大会が明日、詰まり、9月11日の午後7時開催。一方、大阪は、淀川の花火大会が同日時で行われる。大阪の方は、淀川の船で鑑賞出来るのだが、打ち上げる場所は江坂のテニスコートエリアだ。理事官には、こちらから報せる。南部さんには、大文字君から頼む。」

「了解しました。」管理官用のPCは自動的にシャットダウンした。

「学。赤木君とひかる君に、花火大会に近づくな、とLinenで報せてくれ。今回は前回の避難誘導どころじゃないかも知れない。」伝子は、家電で、南部に応援要請をした。そして、中津興信所の中津健二にも。「私は何をすればいいですか?」「と中津が言うので、「反社の動きがあったら、教えて欲しい。拳銃所持なら、装備が違ってくる。」「了解。」

「ヨーダや副部長にもLinenで報せておきました。うん。みちる。EITOに向かえ。あかりは家に帰れ!」「私も・・・。」「黙れ、未熟者!遊びで出来ることか!!」「はい。」

瞬く間に昼食時間になった。藤井が焼きそばを作って持ってきた。

「いつも、すみません。」「あなたのことだから、午後にはまた、台所から出撃するんでしょ。」「藤井さん、出発ですよ。」と高遠が窘めた。

高遠がテレビを点けた。ニュースで、『阿倍野元総理の国葬儀』反対デモや集会のことを報じていた。

「何も分かってないんだよな、『コンナヒトタチ』は。那珂国がバックにいて、煽動されているだけなのに。」

「そうなの?」と言う藤井に、「実は今まで闘っていた相手の多くはバックに那珂国がいる。那珂国の幹部は、日本人を家畜にしたがっているんだ。恐ろしい国だよ。」と、高遠は言った。

「生きて帰るって、信じているから、お守りはあげないわよ。」

「ありがとう。」暫くして、食べ終わると、伝子は台所から『出撃』した。

 午後5時。編集長は伝子が出発したことを聞くと、長居せず、帰った。

翌日。午前9時。EITO会議室。

理事官が説明をしている。「大文字君の推理によると、敵はアメリカの『9.11事件』になぞらえて、本日『同時多発テロ』を行おうとしている。但し、この時間ではない。本日の東京・大阪の花火大会に何かやらかす積もりらしい。」

「理事官。あれから考えたのですが、花火大会の客を襲ったりするより効果的な方法があります。」「何だね?飛ばすのが、花火でなく、ミサイルの場合です。」

「Aparco事件の再来か。」「通信妨害システムのアップグレードは出来ているのでしょうか?」「うむ。ただ、あっちの自動発信システムもアップグレードをしているかも知れんな。」「私は、花火の準備を妨害する傍ら、通信誘導システムみたいなのを設置することを想定しました。設置する前に、先手を打って攻撃しないと、大惨事が待っている、かも知れません。」

「一つ確認だが、通信誘導システムがなくても、こっちに飛んで来るのでは?」と陸将が伝子に尋ねた。「その通りです、陸将。」と、伝子は応えた。

「では、陸自の短SAMで迎撃するのは、どうだろう。妨害しても、Aparcoのようにならないとは限らないが、この際バックアップ体制として連携しては。」と陸将は、今度は理事官に尋ねた。

「ありがたいお話です。花火大会は午後7時開始。連中が行動するのは、準備に入る午後6時と仮定して、ワンダーウーマン軍団は午後5時にはスタンバイ。連中が準備する前に叩く。陸自の短SAMチームは同時進行で迎撃準備を進める。これで、いいかね、アンバサダー。」

「了解です。では、メンバーを発表する。なぎさとあつこ、それと早乙女と金森、馬越、右門は大阪に向かえ。なぎさはコンダクターとして、また、襲撃チームリーダーとして、指揮を執れ。あつこは、現地の大阪府警と共に、見物客が集まりそうな所の避難誘導に当たれ。総子は好きに使っていい。」

「好きに、って、おねえさま。どうすれば?」「たこ焼きの作り方を教えてくれ、って言えば、何でも言うことを聞く、お前ならな。」「はあ。」

「えーっと、私のチームは、みちる、増田、大町、田坂が襲撃チームだ。避難誘導チームだが・・・。」

その時、結城警部と、あかりが入って来た。「私たちの出番ね。警視。じゃじゃ馬は乗りこなして見せるわ。」「頼もしい。丸髷署の青山警部補や愛宕も逮捕チームで参加する。」と伝子が言うと、増田が「先輩。逮捕チームとは?」と尋ねた。

「私は、見物客に紛れて、煽動する人間がいると想定した。自分が死んでもいい。それがテロリストだ。通信誘導システムに関係する人間だって、死ぬ危険性がある。」と言った伝子に増田は、「つまり、その人間を逮捕し、野放しにしない、ということですね。」と返した。「よく出来た。その通りだ。」

「アンバサダーが今言ったように、テロリストは理想や命令が常識を越えている。」と、理事官は言った。

「大阪府警には、私から連絡をしておこう。がんばれ、あつこ。」と副総監は言った。

あつこは、人前で、下の名前を呼ばれたので顔を赤らめた。「はい。」

「避難誘導チームと逮捕チームは、コンダクター、つまり、なぎさや私が襲撃の合図をした瞬間から行動を起こす。合図は長波ホイッスルだ。」

「よし、かかれ!!」と理事官は皆に命令した。

大阪に向かう人員は、直ちにオスプレイに乗り込んだ。

午後5時。大阪。江坂。花火大会の花火の職人達が縛られ、花火台の近くに座らされていた。花火台の近くで通信誘導装置を設置していた者達は、予期せぬ光景に戦慄した。陸自のジープやトレーラー、ワゴン車がやって来たからだ。1台目のジープから、ワンダーウーマン姿のなぎさが降り、通信誘導装置の周りの者にこしょう弾を撃ち、シューターを投げた。彼らは忽ち動けなくなった。

「第一班、前へ。」なぎさの号令で、装置の解体作業が始まった。少し離れた所にいた一団が、自衛隊に向かって来た。早乙女と金森、馬越、右門は一団と戦闘態勢に入った。伝子は長波ホイッスルを吹いた。

「第二班、前へ。」なぎさの号令で、EITOの通信妨害装置の設置が始まった。

「第三班!」なぎさは花火職人達に駆け寄り、「事情は後で説明します。避難して下さい。」と言ったが、「花火を置いて行けません。」と花火職人は言った。

「大丈夫です。花火も持って行きます。貴方たちは、用意したワゴン車に乗って下さい。花火はトレーラーで運びます。班長。後はお願いします。」と、なぎさは第三班班長に託して、早乙女達の応援に入った。

午後5時。江坂。仮称第2ポイント。陸自の短SAMチームが短SAMの設置にかかっていた。

午後5時。道頓堀近く。警察のヘリが上空でホバリングして、メガホンで、あつこが怒鳴っていた。「水道管の破裂事故が起こりました。花火大会は中止になりました。警察官、警備員、自衛官の指示に従って避難をお願いします。」

戎橋交番付近。警備員に扮した総子が、同じく警備員に扮した興信所所員に尋ねている。「どや。怪しい奴見付けたか?」「怪しい奴だらけや。」「アホ。頭使え。人の流れに逆らう奴を見付けて尾行するんや。」と南部が言った。

総子が、興信所所員にLinenで指示を送った。警備員の格好をした東栄のエキストラ軍団がやって来て、南部に指示を求めた。

「遅れてすみません。我々も避難誘導ですか。」「いや、避難誘導は警察と自衛隊に任せて、我々は、流れに逆らって動く不審者を追いかける。」

午後5時。東京。顎川沿いの観覧席ゾーン。見物客がパラパラと集まって来ていた。

久保田管理官が久保田警部補、青山警部補を従えている。チームを前に短く指示を与えていた。

「今、大阪と同時進行の作戦だ。同様のやり方を実行する。もうすぐ結城警部がヘリで避難指示を促す。理由は上流で決壊があった為。久保田警部補のチームは警備員達と共に避難誘導に当たれ。青山警部補のチームは、人の流れに逆らう人物を追うんだ。職質して、怪しいと感じたら、確保せよ。以上だ。散開!」

上空にヘリが現れ、打ち合わせ通り、結城たまき警部が顎川沿いに集まった人達に下流方向に避難するよう、呼びかけた。花火大会が中止になったことも伝えて。

午後5時。花火打ち上げ地点。ワンダーウーマン姿の伝子達が到着すると、花火台に花火職人達が縛られていた。通信誘導装置を設置している者達を見付けた伝子はブーメランを投げた。継いで、シューターを投げて、みちる、増田、大町、田坂は、近くにたむろしていた者達にバトル体勢で向かった。伝子は長波ホイッスルを吹いた。

伝子は後から到着した自衛官の小隊長に、スマホの画面を見せた。

「よし。敵の通信誘導装置の解体、EITOの通信妨害装置の設置、花火職人達の避難と花火の搬送を手分けして行え!短SAMチームからは、設営完了の知らせが入った。良い知らせを待っているぞ。かかれ!」

陸将直々の命令に緊張しながらも、速やかに作戦は実行に移された。伝子はバトルチームの加勢に入った。

午後6時半。大阪。長波ホイッスルが吹かれたと、上空で待機していたオスプレイから、あつこに連絡が入った。あつこが向かうと、ヤンキーらしい若者が二人、南部興信所所員に取り囲まれていた。ホイッスルを吹いたのは、勿論総子だった。

「警視。こいつら毛エ染めて、日本の若者らしき風を装っているけど、多分ちゃいまっせ。」と南部が言った。

あつこは警察手帳を取り出して、「これ何だか分かる?」と言った。

「警察の身分証明証?」「警察手帳とも言うわ。」と笑いながら、メモ帳を取り出し、漢字を幾つか書いて見せた。「読んで。」若者は無言だった。漢字は外国人には難読だった。

総子が、所持品からメモを取り出した。「これを。」日本語でない漢字で、『集合場所』が書いてあった。あつこは、いきなり若者の頬を平手打ちした。

その後、連絡を受けた大阪府警の警察官達がやって来た。「お巡りさん、この婦警さんが・・・。」あつこは、すかさず警察手帳を見せた。警察官は、警察手帳と肩の星を見て、最敬礼をした。そして、「確保!」と言って手錠をかけた。

警察官達が行くと、「総子ちゃん、お手柄よ。奴らの仲間に間違いない。」と、あつこは言った。「このメモの住所、分かる?」「勿論。」と総子は胸を張った。

「そんなら、総子は警視を案内せい。俺たちは、もう一度パトロールや。」と、南部は部下を連れて去った。「よっしゃ、行くで。」総子に続いてあつこは走った。

午後6時半。東京。顎川沿いの観覧席ゾーン。

「忘れ物ですか?捜し物?一緒に探しましょう。グズグズしていると、洪水に飲まれてしまいますからね。」青山警部補は、必死に戻ろうと早歩きする男に話しかけた。

「うるせえ。」男が拳銃を抜こうした瞬間、ブーメランが拳銃を落とした。花火打ち上げ地点からオスプレイで移動してきた伝子は、ぶら下がったままの縄梯子から投げたのだ。

青山警部補と男が上空を見上げている隙に、愛宕は男に手錠をかけた。

「君は、安全圏に逃げられる自信があったのかね?」と、青山警部補は、穏やかに尋ねた。男は那珂国語で何か言った。

青山警部補は懐からスマホを採りだし、その言葉を翻訳アプリで翻訳発生させた。

『何を言っているのか知らないが、もう30分もすれば、俺を逮捕したことを後悔するぜ』。

「面白いことを言うね。じゃ、30分待とうか。決壊はしていないから、水浸しにはならない。嘘だからね。洪水の安全圏だけでなく、ミサイルの安全圏にも逃げられる自信があったかな?」と青山警部補が言った。

「お前が『死の商人』か。他にもミサイルが飛んで来るのか?」と伝子は男に迫った。「何を言っているのか、さっぱりだね。お巡りさん、この偉そうなコスプレ女は誰だ?」

「正義の味方さ。テロリスト気取り君。」と、伝子はクールに言った。

上空の方で破裂音がした。青山が時計を見ると、午後6時45分だった。

その頃。大阪。船場地区で、2人組の待ち合わせていた相手を、あつこと総子は取り押さえた。上空の方で破裂音がした。「短SAMが命中したようね。」と言ったあつこの言葉に女はフリーズした。あつこが時計を見ると、午後6時45分だった。

仙石諸島近く。長い間、巡洋艦と那珂国の船が睨み合っていたが、突然、巡洋艦から人が出てきて、シーツで覆われていた物をさらけ出した。そして、その人はワンダーウーマンの格好をしていて、手旗信号を始めた。『おかわり、欲しいか?』那珂国の船は離れていった。

函館港近く。機体をゆっくりと旋回させる、2機の零戦風空自の戦闘機。機体には何故か『花火』が描かれていた。ニアミスをした那珂国の戦闘機は、その『花火』を見て去って行った。

翌日。午前9時。理事官が記者会見を行っている。「昨夜、テレビ西東京主催の花火大会が中止になりました。警察のヘリを飛ばして、中止になった旨と、上流で決壊があったと報せ、避難活動をしました。実は、那珂国が、ピンポイントでこの花火大会を狙っているという情報があった為です。」

「どこからの情報ですか?」「それは、申し上げられません。」

「決壊は嘘だったのですか?」「嘘も方便、です。まずは市民の安全確保です。Aparcoの事件を覚えておられる方も少なくない、と思います。ミサイルが迫っているから逃げよ、ではパニックになってしまいます。」

「3件目は考えなかったのですか?」「今の発言は、どなたかな?」と理事官は尋ねた。すると、「西東京新聞の持田伊都子です。」と立って言った記者がいた。

「ああ。宝くじ事件の、3件目は宝くじ売り場の襲撃でしょ?と繰り返して言っておられた?」「そうです。」「その女を逮捕せよ!!」

警察官が現れ、彼女を引きずり出し、連行した。

「何故、彼女を逮捕したか分かる人はいるかな?・・・黙っていた方が無難か。私はまだ東京の方の話しかしていない。既に2件目の事件が大阪で起きたことに感づいた記者の方もおられるかも知れないが、いきなり3件目、というのは、思惑あっての発言としか思えない。スクープを書きたまえ、諸君。彼女は那珂国のスパイだ。」

午前10時。伝子のマンション。高遠がニュースを放送していたTVを消した。

「理事官も相当頭に来たんだな。」と依田が言うと、「実はなあ、ヨーダ。以前から理事官に相談を受けていたんだ。」と伝子が言った。

「先輩が?」「いや、久保田管理官が。あの女がスパイかどうかは分からないが、EITOに関することで、理事官の自宅にまで押しかけたそうだ、勿論、理事官は1年中留守だが。」

「ストーカーじゃないですか。」と山城が珍しく憤慨した。「そうだ。管理官は厄介だから、受け流す方がいい、とアドバイスしていたらしいが。」

「ところで、ミサイルは?迎撃したんでしょう?」と、福本が尋ねるので、「ああ。その話をこれからする所だから、厄介払いしたんだろう。他の記者の『イジメ』もあるだろうが。残骸調査はこれからだ。嘘ついて避難誘導したことなんて小さいが、重箱の隅を突くのが好きだからな。マスコミは。」と伝子は応えた。

「大文字。『死の商人』は?」と、物部が言った。

「若い那珂国人が待ち合わせていた女も那珂国人だった。初めての、那珂国人の『「死の商人』だ。東京で愛宕達が捕まえた方も『死の商人』だった。どちらも次のキーワードなんか知らない、と白を切っている。」

「ほぼ同じ作戦だったから、『大ボス死の商人』がいそうね。」と栞が言った。

「それが、あの記者なら都合がいいけど、そう簡単にはいかないだろうなあ。」と高遠が言った。

チャイムが鳴った。服部が立っていた。

「盛り上がってます?」と服部が尋ねると、「盛り下がってます。」と依田が応えた。

「おっちょこちょいの言うことだから、気にしないで。」と慶子が言った。

「そういう言い方はないだろ?」「あら、あなたがおっちょこちょいだから結婚したのよ。」「依田さんの負けね。」と祥子がクスクスと笑った。

「依田君はね、いい人なのよ。でも、おっちょこちょいなのよ。」と蘭が揶揄った。

皆が笑った。

伝子のスマホが鳴った。叔母からテレビ電話だ。「伝子ちゃん、良かったの?一佐、あ、なぎさちゃんを泊めたけど。総子がうるさく言うから。」

「いいよ。ちゃんと連絡しておいたから。あつこまで引き留めたら怒ったけどね。あの子もまだ新婚だし。」「おねえさま。私、妹が出来ちゃったみたいで嬉しいです。」と横からなぎさが顔を出して言った。

そして、今度は総子が顔を出した。「伝子ねえちゃん。南部興信所にギャラ出してくれ、って交渉してくれたんやて?ありがとう。」「警備員に金出すのは当たり前でしょ、って言っただけさ。それより、よく捕まえてくれた。こっちこそ、ありがとう。」

「あの女、けったくそ悪いわ。最初日本語知らん振りしてたんやで。警視に教えてもろたアプリで翻訳している内に、日本語になった。『死の商人』のこと聞いたら、黙秘権や。ヘンコな女やで。」

横からなぎさが「偏屈で頑固だから、ヘンコですって。大阪弁って面白い。」と言った。

「帰ったら、感化されて『ナンチャッテ大阪弁』とか止めてくれよ。」「明日、帰りまーっす。」テレビ電話が切れた。

「一佐。明るくなったなあ。」と依田が感心した。「総子といる時はな。」

チャイムが鳴った。高遠が出ると、私服の愛宕と青山が立っていた。

「愛宕。退職したのか?」と伝子が言うと、「先輩。冗談、きついっすよ。」と愛宕がふくれて見せた。青山がニコニコ笑っている。

チャイムが鳴った。藤井と森と綾子がチラシ寿司を運んで来た。「みんな、バケツリレーして!」と綾子が叫ぶと、見事なチームワークのお陰で、たった5分で、ちらし寿司リレーは終わり、食べ始めた。

チャイムが鳴った。「お邪魔かな?」と久保田管理官が言った。「はい!」全員が言って、笑った。「あの記者が落ちた、よ。司法取引をしやがった。キーワードかどうか分からないが、『学生』という情報を持っていた。特ダネになると思ったんだろう。無論、『死の商人』じゃなかった。今日は、その功労者の村越警視正をお連れした。」「初めまして。村越です。」

「では、どうぞ。DDへ。ちらし寿司食べて下さい。EITOから奢りだそうです。」と伝子は招き入れた。

今日の宴はいつお開きかな?と思いながら、すぐには終わりにしたくない、と思う高遠だった。

―完―

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