第468話~暗黒海竜を討伐せよ その1 暗黒海竜を探し出せ!~

 アリババ砂漠に到着した。


「うわー、本当に何もないところだね」


 潜水艇の窓から外の様子をうかがっていたリネットがそんな感想を漏らす。


 実際リネットの言う通りで、噂通りアリババ砂漠は不毛の大地そのものだった。

 トリトンの町の周辺と異なりサンゴ礁なんてものは存在していなかった。


 それどころか海藻一本たりとも生えていなかった。

 ゆえにサンゴ礁や海藻を住処とする魚をはじめとする海の生き物たちの気配も全く感じられなかった。


 その上この辺りは深い海域なので、ここまで届く太陽の光も弱く、昼間なのに薄暗く不気味さを感じるような場所だった。


 死の大地。


 まさにその言葉がふさわしいような場所だったのだ。


 こんな場所で強敵と戦わなければならないのか。

 そう思うと、俺としては陰鬱な気分になるのであった。


★★★


 とはいえ、俺たちの気分がどうであれ、『王家の徽章』を手に入れるためには暗黒海竜を討伐しなければならなかった。

 なので、早速暗黒海竜の捜索を開始することにする。


 トリトンの町で聞いてきた話によると、暗黒海竜に襲われた商人たちはアリババ砂漠を移動している最中、どこからともなく現れた暗黒海竜に襲われ、酷い目に遭ったという事であった。


 ということで、俺たちもその状況を再現して暗黒海竜をおびき出そうと思う。


 まずは潜水艇を岩陰に隠すような形で着底させる。

 そして、準備をする。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 トリトンの町で買ってきた機械魚と荷物箱を出す。


 機械魚というのは地上でいうところの馬のようなものだ。

 魔石を内蔵した魔力で動く機械の魚で、海底世界では輸送の際に馬代わりに使われている。


 もう一つの荷物箱というのは地上世界での馬車に該当するものだ。

 流線型の丸っこい形の箱で、この中に大量の荷物を載せて運ぶことができる。


 海底世界ではこの荷物箱を機械魚に引かせて物資を輸送するのが一般的な輸送スタイルになっている。

 これらを用意して何をしたいのかと言えば。


「旦那様、その商人風のスタイルとても似合っていますよ」

「ネイアさんも商人姿中々素敵ですよ」


 俺とネイアの二人で海底王国の商人の姿に偽装して、わざと暗黒海竜が襲ってくるように仕向けるのだった。

 要は暗黒海竜が商人を襲ってくるという状況を利用して、商人に成りすました俺たちを襲ってくるであろう暗黒海竜を返り討ちにしてやろうという算段なのだった。


 さて、機械魚の準備もできたし、俺とネイアの準備もできたし、早速作戦に取り掛かろう。


★★★


「『空間操作』」


 準備ができた俺はネイアを連れて外へ出る。

 トリトンの町を出る際にすでに『神獣召喚』の魔法で海の主を呼び出し『海竜の加護』を使用してもらっているので、このままでも問題ないのだが、ここで偽装のためにもう一工夫することにする。


「『神獣召喚 ミー 『ネコを被る』発動」


 神獣召喚で白猫のミーを召喚して『ネコを被る』を発動し、俺とネイアの姿を変えてもらう。

 たちまち俺は魚人、ネイアは人魚の姿に変わる。

 この姿なら暗黒海竜が俺とネイアに近づいて来ても、万が一にも正体がバレるようなことはないと思う。


 さて、それではアリババ砂漠を移動することにしよう。


★★★


 俺はネイアと一緒に機械魚を使ってアリババ砂漠の横断を開始した。

 荷物箱には馬車の御者台に相当する座席が設けられており、そこに座りながら機械魚を操って移動することができるのだった。


 ということで、ネイアと二人その座席に座って機械魚を操作しながら進むことにする。


 機械魚の操縦は割と楽しかった。

 機械魚は魚の姿をしているので、左右にくねくねと体をフリフリしながら進んで行くのだが、この機械魚の振りの振動が適度に荷物箱にまで伝わって来て、これが何とも言えぬ楽しいのだ。


 上手くは言えないが、この振動はある種、馬に乗っている時に感じる振動に似ているので、何となく楽しい乗り物に乗っているという感覚を人間に与えて、人間の気持ちを昂ぶらせてくれているのだと思う。


 実際、俺の横にいるネイアも。


「何と言いますか。このロープ一本でうまい具合に機械魚を操るのも楽しいですし、この機械魚の独特の振動もなんとも言えないですしね」


 と、上機嫌で機械魚の操縦をしているしね。


 そんな風にネイアが上機嫌なのを見て、俺は調子に乗ることにする。

 機械魚を操っているネイアの手にそっと俺の手を添え、ギュッと握りしめてやる。


「ホルストさん……」


 俺に手を握られて驚いたのか、途端にネイアの顔が赤くなる。

 ただ顔こそ赤くなったものの、ネイアは別に俺の行動に対して嫌がったりせず、逆に俺の手をギュッと握り返したりして来た。


 この辺ネイアは意外にちゃっかりしたところがると思う。


 それはともかくネイアに手を握り返されて俺も上機嫌になり、ネイアの手を握る手にさらに力を込め、ネイアへの愛情を示してやる。

 本当ならもうちょっとネイアとラブラブしたかったのだが、暗黒海竜が近くにいる可能背も高くこれ以上のことをするのは危険ないのでこの位にしておくことにする。


 それでもネイアはキラキラとした顔で俺のことをじっと見続け、俺への愛を示してくれ、俺は大変満足したのだった。


★★★


 そうやってネイアと楽しげにアリババ砂漠を機械魚で移動していた俺だったが、ある地点まで行くと違和感に気がついた。


「うん、何か暗いな」


 突然、機械魚の周囲に影が差し、暗くなったことに気がついたのだ。


 俺とネイアは慌てて上を確認する。

 すると。


「ホルストさん。どうやら暗黒海竜のお出ましのようです」

「ああ、しかも二匹もいるじゃないか。これは向こうも俺たちを大歓迎してくれているようだな」


 そこには二匹の暗黒海竜がいたのだった。

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