第465話~王家の徽章と海竜の徽章~

 海底王国に来て日も大分経ち、十分休養が取れたのでそろそろ海底の遺跡の封印を本格的に行おうと思う。


 ということで、俺たちの案内人であるセイレーンに相談に行く。


「グー、スピー」


 俺がセイレーンの所に行くと、セイレーンはちょうどテラスに椅子を置いてその上で昼寝をしていた。


 子供のようにとてもかわいらしい笑顔で寝ていて、物凄く昼寝を満喫していた。

 ヴィクトリアも昼寝を楽しんでいる時はこんな感じで寝ているので、本当似た者同士だと思った。


 それはそれとして、話はしなきゃな。

 そう思った俺はセイレーンに声をかける。


「セイレーン様、セイレーン様、起きてください」


 そうやって結構大きな声で呼びかけるが全く返事はない。

 相変わらずスピー、スピーと寝ているだけで、起きる気配すら感じられなかった。

 これがヴィクトリア相手なら無理矢理体を揺り動かして起こすのだが、セイレーン相手にそれをするのははばかられた。


 というのも、前にヴィクトリアがこんな話をしていたからだ。


「前に愚かにも昼寝をしていたセイレーン叔母様に手を出そうとした命知らずがいたのです。その者の末路を聞きたくないですか?」


 よりにもよってセイレーンのような爆発物に手を出すアホがいたのかよと思いつつ、興味が沸いた俺がどうなったのか聞き返してみた。


「どうなったんだ?」

「セイレーン叔母様に触れた途端、思い切り股間にキックされて病院送りにされた挙句、おじい様の手によって牢屋にぶち込まれたそうですよ」


 その話を思い出した俺は非常に恐ろしいことだと思った。


 別に俺にはセイレーンをどうこうする気は毛頭ないが、起こそうとしたら何かを勘違いしたセイレーンに反撃される可能性がある。

 それで間違ってその男のような目に遭ってしまったら……想像するだけで恐ろしい。

 そんな目に遭うのはご免だった。


 だが、何とかセイレーンには相談したい。

 悩んだ俺は色々と考え、あることを思いつき作戦を実行することにする。


★★★


「うん?焦げ臭いにおいがするわ。だけど、なんだかとても楽しそうな感じもするわね」


 ようやくセイレーンが起きた。

 起きたセイレーンはテラスから出て庭の方へ進出してくると俺たちの方へ近寄って来る。

 そして、子供のような笑顔で。


「ねえ。花火しているの?だったら私も混ぜてよ」


 と、自分も遊びに加えろと要求してくる。


 そう俺が考えた作戦。それは嫁や子供たち、ついでにヴィクトリアのおじいさんを誘って庭で花火をすることだった。

 こうすれば勘の良いセイレーンなら絶対に起きてきて、俺たちに合流すると思ったからだ。

 その作戦は見事に成功し、灯火に惹かれる夏の虫の様にセイレーンが寄ってきたのだった。


 え?昼間から花火?

 そう思われるかもしれないが、そういう種類の花火もあるのだ。

 夜に花火をするときほどではないが、これはこれで派手で目立つので情緒があって良いと思う。


 さて、こうしてうまい具合にセイレーンを起こすことに成功したので、もう少し花火を楽しんだ後で海底の遺跡について聞いてみようと思う。


★★★


「火山の遺跡に行くには、まず海底王から『王家の徽章』というアイテムを受け取らなければね」


 花火を楽しんだ後、テラスに並べられたデザートを食べながらセイレーンに海底の遺跡に行くにはどうすればよいか相談したところ、そんな返事が返ってきた。


「『王家の徽章』ですか?」

「ええ、そうよ。昔私が海底王にあげた物でね。今では王家の権威を現す象徴の品となっているわね」

「それで、その『王家の徽章』を海底王から借りないと、海底火山にあるという遺跡には行けないと?」

「行けないわ。だから頑張って借りて来てね」


 王家の徽章か。

 まあ海底王は俺たちに友好的なので頼めば貸してくれるとは思うのだが、セイレーンのこの口ぶりだと絶対に簡単には借りられないんだろうなと想像できた。


 とはいえ、頑張って借りる以外に道はなさそうなのでやってみることにする。


「わかりました。頑張って借りてきます」

「うん。その意気よ。ホルスト君なら大丈夫だと思うから期待しているわ」


 こんな感じで海底の遺跡へ入る方法を教えてもらうことができたので、明日にでも海底王と会う算段を建てようかなと思案していると、ここでヴィクトリアのおじいさんが口を挟んできた。


「そうじゃないだろ。セイレーン。海底の遺跡へ入るために必要な物がもう一つあるだろうが」


 海底の遺跡へ行くために必要な物がまだある?

 それを聞いた俺はマジかよ、と思った。


★★★


「え?おじいさん、それは海底の遺跡へ侵入するためには二つの物がいるということですか?」

「その通りだ」


 俺の問いかけにヴィクトリアのおじいさんはそう答えるのだった。

 やはりかと思った俺はもう一度おじいさんに聞く。


「それで、その品は何で、どこで手に入るのでしょうか?」

「その品は『海竜の徽章』といって、海底王国では『王家の徽章』と同じくらいに神聖視されるものだな。それがある場所は……まあ、海底王に聞くがよい」

「おじいさんは教えてくれないのですか?」

「『海竜の徽章』の場所は『王家の徽章』を手に入れることができた者に海底王が教えるようにとかつてセイレーンが初代海底王に神命として申し付けておるのだよ。無論我々は場所を知っておるが、我々が話してしまっては折角海底王に与えておいた神命が果たせなくなって海底王がかわいそうだからな。そういう手順でやってくれ。まあ、少しだけヒントを与えておくと海底のどこかのダンジョンにあるな」

「ダンジョンですか?って、ここでは遺跡の封印をするために二つもダンジョンをクリアしなければならないのですか?」


 その俺の問いかけに対して、おじいさんはさも当然だというように大きく頷く。


「当たり前であろう。何せここは私のくそオヤジの復活を阻止するための最後の砦だからな。色々と仕掛けを施して簡単には封印をいじられないようにしているのだ」

「そうなんですか?」

「そうなのだ。何せ私のオヤジは息子の私から見ても執念深い男だからな。その上、私の前に天界を支配していたとても力のある神なのだ。なるべく用心するのは当たり前であろう」


 確かにおじいさんに言う通りだった。

 邪神プラトゥーンの配下の神聖同盟の今まで行動を見れば、プラトゥーンの復活への執念深さはよくわかる。


 それにプラトゥーンの能力がピカ一なのも間違いないのだろう。

 ヴィクトリアのお父さんやジャスティス、セイレーン、誰も彼も神としては物凄い力を持っているからな。

 彼らの先祖、と言うほど血が遠い訳でもないが、であるプラトゥーンが弱いとは俺も思えなかった。


 え?ヴィクトリアはどうなのかって?

 それは言わないでおいてやってくれ。

 一人だけ落ちこぼれに生まれてしまって本人も気にしているからな。

 そっとしておいてやってくれ。


 それはそれとして、セイレーンとおじいさんの話を聞いた俺は二人にこう言うのだった。


「わかりました。それではとりあえず『王家の徽章』を手に入れるということで。その為にも海底王に面会を求めましょう」


 ということで、方針が決まったので、早速俺たちは海底王に面会することにしたのだった。

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