第464話~海底王国を楽しむ その3 海底人たちの民謡~

 俺たちが聞いた最初の音楽は、やたら派手な恰好をした若者たちの演奏だった。

 金色や赤などの派手な服を着て、自分たちの楽器にも派手な色をつけたり飾りをつけているような若者たちだった。

 一体こいつらどんな音楽をするのだろうと思っていたのだが。


「お、こいつら意外にいいじゃないか」


 実際に聞いてみると中々いい歌だった。

 物凄くノリが良い歌で、聞いていると思わずウキウキしてくるような音楽だった。


 あまりにも気分が良くなって、思わず手拍子を叩いて応援してしまったくらいだ。

 見ると、俺以外にも若い海底人たちが同じようなことをしているので、この行動が正解なんだと思った。


 これは他の音楽も期待できそうだ。

 若い海底人たちの音楽が思ったよりも良かったので、俺は期待に胸を膨らませて次の音楽も聞くことにした。


★★★


 音楽祭ではその後も良い音楽を聞き続けることができた。

 今日の参加グループはどこも質の良いグループらしく俺たちは十分に音楽を楽しむことができた。


 特に嫁やセイレーンたちは途中で出てきた元海底王国舞踏団出身の音楽家が主催している本格的な管弦楽団が気に入ったようだ。


「これなら王国の楽団に元も張り合えるくらいの素晴らしい音楽でした」

「まさか民間の楽団でここまでの演奏ができるだ何て。海底王国、侮れないですね」


 音楽に造詣の深いエリカとネイアはそうやってべた褒めだったし。


「聞いていてとても気持ちが良かったですね」

「うん、とっても上手だったね」

「さすがは私を崇拝する海底王国の子たちね。とても良かったわよ」


 他のメンバーもとても満足そうだった。

 そうやって音楽祭を楽しむうちに夕方になり、本日最後の演目、海底王国の民謡が始まった。


★★★


 海底人同士で集まる音楽祭の場合、最後の締めは海底王国の民謡を歌うことが通例らしく今回も最後にそれが催された。

 白髪の老人歌手がステージに立つと民謡を歌い始める。


「ソーレー、ハイヤー、ソーレー、ハイヤー」


 そんな調子のよい歌声で民謡を歌い始める。

 それが気持ち良くて聞きほれていると、老人歌手が興味の沸くような一節を歌い始めた。


「ソーレー、ハイヤー。セイレーン様の導きで~、勇者御一行様が立ち向かうは~船幽霊~。そこの船長倒した後は~、金銀財宝ザックザク~」


 どうやら海底人の勇者が幽霊船に挑んだ時の話を歌にしたものらしかった。


 幽霊船か。そういう所を探ってみるのもダンジョンを探検するみたいで楽しいかもな。

 そう思った俺は、機会があれば幽霊船の探索したいな、なんて考えたのだった。


 後日、実際に行くことになった時には、この時こんなことを考えていた自分は能天気だったなと、思う羽目になったのであった。

 あの幽霊船には結構苦労させられたし。


 それはそれとして、こんな感じでて俺たちは音楽祭を楽しく過ごすことができ、大満足だったのであった。


★★★


 さて、音楽祭が終了したので皆で買い物に行くことにする。

 商業区へ行き、小組合のレオナルドさんにお勧めされた店へ行ってみることにする。


「あ、ホルストさん、ここじゃないですか」


 商業区へ着くなりヴィクトリアがお目当ての店を発見する。

 お目当てのお店は『マーメイドプリンセス』というかわいらしい名前のお店だった。


 マーメイドプリンセスの外観はその名前の通り女性向けのかわいらしい感じの看板や装飾品で飾られていた。

 男の俺としては入るのがちょっと恥ずかしく感じるようなお店なのだが、レオナルドさんはうちに女性が多いのを見てここを紹介してくれたのだと思う。


 実際嫁やセイレーン、銀たちは。


「ここなら、かわいらしいものが売ってそうですね」


 と、喜んでいるしね。

 まあ、いいや。いつまでもお店を眺めてもしょうがないので、お店の中へ入って行こうと思う。


★★★


 マーメイドプリンセスの中は多くの客でごった返していた。

 どうやらこの店はトリトンの町でもかなり有名らしくやってくる客も多いようだった。


 こういう店だから女性客ばかりなのかと思っていたが、意外に男性も多かった。

 どうやらカップルで来て、一緒に買い物をしているらしかった。


「ねえ、マー君。この服似合うかな?」

「うん、いいと思うよ」


 そんな熱々カップルの会話がそこら中から聞こえてきた。

 それを聞いて何だか羨ましくなった俺は嫁たちにこう言うのだった。


「なあ、お前たちも欲しいものがあるんだったら遠慮なく選べ。それで俺に見せに来いよ」

「「「「はい!!」」」」


 俺に見せに来い。

 そう言われた嫁たちは喜び勇んで商品を選び始めるのだった。


★★★


 結局、買い物が終わるのに一時間以上かかった。

 その間、嫁たちは俺の側からずっと離れず、商品が似合うかどうかということを質問され続けた。


「旦那様、この大きな粒の真珠が付いたバレッタ。私に似合うと思いますか?」

「ああ、エリカ。その真珠。エリカの黒髪にとても似合っていると思うよ」

「ホルストさん。この七色貝のイヤリング、ワタクシにぴったりだと思いませんか?」

「そうだな。そのきれいな色のイヤリングはヴィクトリアのきれいな顔をより引き立ててくれていると思うよ」

「ホルスト君。アタシはこの赤色サンゴの腕輪を買おうと思うんだけど似合うかな?」

「いいと思うよ。そのサンゴの赤色。リネットの赤髪との相性すごく良さそうだし」

「ホルストさん、私にこの真珠のペンダントは似合うでしょうか?」

「うん。そのペンダントはきっとネイアをより光り輝かせてくれると思うよ」


 こんな風に嫁たちの機嫌を取りながら一緒に買うものを選んで行ったのだった。

 俺としては久しぶりに嫁たちとイチャイチャと夫婦らしいことができたのでとても良かったと思う。

 それで、他のメンバーも充実した買い物ができたようだった。


「お父様。どうですか?このサンゴの指輪。私に似合うと思いますか?」

「ああ、いいんじゃないか?」

「お父様はいいと思うのね?それじゃあ、ヴィクトリアたちにも聞いてくるわ」


 セイレーンも色々と品物を持ってきてはおじいさんに見せているようだが、おじいさんの意見だけでは納得できないようで、うちの嫁たちに聞きに行ったりしている。


 というか、娘に完全に信用されていないおじいさん、かわいそう。


 まあ、かくいう俺も美的センスとかにあまり自信が無いから人のことは言えないけどな。

 嫁たちを褒める時だって、上手く表現する術を知らないから、単純に褒める以上のことはできないしな。


 それに比べ息子のホルスターは小さいのに俺よりも美的センスに優れているようで、銀を褒めたたえるのがすごく上手いと思う。


「ホルスターちゃん。この水晶花のペンダント。銀姉ちゃんに似合うと思う?」

「うん、いいと思うよ。それをつけた銀姉ちゃん。宝石で彩られた花瓶に入れられて輝くバラの花のようでとてもきれいだよ」

「まあ、ホルスターちゃんったら」


 こんな感じでうまい具合に銀の機嫌を取っているみたいだった。

 我が息子ながらやるなあと思う。

 このまま頑張って俺とエリカに早く孫の顔を見せてくれよ。

 期待しているからな。


★★★


 買い物を楽しんだ後は町のレストランで食事を楽しんだ。


 海底王国の食事では魚介類が多く出てくるが、ここにはセイレーンの力で空気があるおかげで畜産もできるので、地上のように肉類を食すこともできる。

 ただそれらは非常に高価らしく滅多に食べられない物らしかった。


 しかし、魚介類ばかりという生活にも飽きてきたのでたまには肉も食べたいなと思って肉類を扱っているレストランにやって来たのだった。


 ということで、頼んだメニューは『海牛のステーキのコース料理』と子供たち用に『海牛のハンバーグのコース料理』であった。

 海牛とは地上の牛を海底で生活するのに適したように改良した品種らしい。


「これは、おいしいな!」


 地上の牛よりも肉が柔らかくそんなに脂っこくなくてとても食べやすくておいしい肉だった。

 他のメンバーも気に入ってくれたようで。


「おいしいですね!」


 と、満足げに食べてくれたのだった。


 料理を食べた後はデザートを食べながら、レストランから見えるトリトンの町の夜景を楽しむ。


 トリトンの町では暗くなると光り出す太陽石という海底王国でしか取れない鉱石を利用した街灯が普及している。

 この光、太陽という名前がついている割にはそこまで明るくなく、その淡い光が照らし出す町の風景は幻想的でとても素敵だった。


 うちの嫁や銀、セイレーンたち女性陣はその光景を見て。


「素敵ですね。できる事ならずっと見ていたい気分ですね」


 そうやって物凄く町の光景に見入っていたのだった。


 俺はそんな嫁さんたちを見て、このレストランに連れて来て正解だったと心から思うのだった。


 その後、俺たちは追加注文を幾度か繰り返して閉店までレストランに居続け、幻想的な光で彩られた町の景色を見物しつつ、迎賓館へ帰ったのだった。

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